ココに呼ばれて俺は久々に家を出ることになった。
個人的に外出は好きだ。
絵の題材にでも慣れそうな人や景色を見れる。傑作も見れる。絵の具の補充もできる。
まさに良いことづくめ。だが、悪い事ももちろんある。
それはここ最近行われている廻り者狩りというやつだ。対象は罪人だけでなく偉人も含まれるとの話。それをやるのは風の噂だと世界のお偉いさんの命令で動く軍隊や金に目が眩んだ奴らだとか。
「いつかは、こうなるかと思ったが……来てしまったか」
人間も偉人もそうだが、必然の出来事を起きる事を知っていても、何処かでそれを起こらないと思って保留してしまう。そして、いざその事態に直面すると、さも起きると思わなかったかのような素振りを見せる。
『誠に滑稽、否、戯作だな。これは』
そんな台詞を俺の知り合いは今ここにいるなら言いそうだ。
「おい」
声が聞こえる。この声は……
「私だ、私」
服をくいっと引っ張られたのでその方向を向くと、そこには赤色のロングをして、西洋人形が着そうな服を着ている小学生ぐらいの少女がいた。少女は水色の瞳をこちらに向け、立っている。
俺も無論、視線を彼女に向け、こう言った。
「やぁ、元気そうじゃないか、ココ」
…
……
優雅な、それでいて滑らかな演奏をするオーケストラ達。彼等の音楽を今時では古いCDレコードで聞くのは中々レトロな感じを出していて良い。
そんな事に思いを馳せながら、俺はココと近くの食堂(本当にこれに近いぐらいのもの)で食事を取っている。彼女はチーズハンバーグを、俺はデミグラスソースをかけたステーキをぞれぞれナイフで分解して食べている。
「どうしたんだ?その格好は。前まではお伽話に出てくるようなドレスを着ていたじゃないか」
「あぁ、あれね。あれは何か私の心に刺さらなかったのよね。こうグッとね」
「服なんて同じように思うけれどなぁ。俺は」
「あんたの場合は派手かそうじゃないかでしょ。私は単純に私が着て良いかどうかっていうことよ」
ふん、と言って彼女は一口サイズに切ったハンバーグを食べる。
流石はココ、いやココ・シャネルなだけはあって服には詳しい。
「まぁ、あんたのファッションセンスは置いておくとして、なんで私があなたに対してわざわざクレオパトラまで使って、呼んだか分かる?」
「なんとなくしか分からない」
「察してくれているなら助かるわ」
彼女はそう言って、最後の一口を頬張った。ついでに俺はもう食い終わっている。
「さてと、じゃあ行くわよ」
席を立ち、荷物を持つと、こっちを振り返る。彼女の水色の瞳が俺の姿を映す。
「あなたにぴったりな仕事が向こうで待っているわ」
…
……
そういわれて、ココに案内されたところはやはり予想通り彼女の家兼仕事場だった。中には彼女が作った服などは何処にもなく、あるのは彼女が買いあさった服の布と服のデザイン案の紙があっちこっちに散らばっていた。
俺もあまり部屋は綺麗な方ではないとはいえ、これはちょっと汚すぎだと思う。
「ひどい散らかりようだな。これじゃあ、画家のアトリエや科学者達の実験室と同レベルと言ったところだ」
「あんたらと一緒にしないでくれる。私はここで客に対して商売をしているの。あんたらみたいな成功するかしないかの大博打、なんて感じでやってないのよ」
あちゃ、これは手酷い評価をもらってしまった。
「それよりも仕事よ、仕事」
そう言って彼女は部屋の中から一切の迷いなく、一枚の書類を取り出す。そして、その一枚の紙を俺に差し出してくる。
……やはりか。
「これが今回の仕事よ」
ココに渡された紙には何もないただ白いだけの服が描かれていた。
やはりいつものやつか……。
「今回はあんたお得意の金ぴかと黒の組み合わせでやって」
「絵は?」
「お好きに」
ほぅ、それは確かに今回は中々良い条件だな。前回は俺が全くそそられない条件のものを出されたから、嫌々描いたものである。
「それと締め切りは今日まで。報酬はいつもの二倍、六万よ。それ以上は出せないわ」
「別にオッケーだぜ。寧ろ報酬二倍に今は心躍っているぐらいだ」
「そ、そう」
面食らった様子のココを放っておいて俺は服のデザインを描くことにした。
…
……
「よし、これで完成だな」
一時間という短い時間(俺にしては)で俺は服の絵を色までつけて完成させた。
出来としては絵にするなら、ちょっと引っかかる作品ではあるが、服用のものならこれぐらいで良いだろう、というもの。まぁ、上々だろう。
後はココに見せれば終わりだ。
「おーい、ココー!終わったぞ!……って」
俺の目に映ったのは散らばった書類の上ですやすや眠っているココだった。恐らく、寝不足だったのだろう。普段のココならしない行動だ。よく考えてみたら、こいつは絵師である俺と違って夜遅くまで自分の店のために頑張っているのだ。寝不足になるのも当然だ。
(さて、どうしたものか)
ココは当分起きないだろう。別に帰ってもいいのだが、そうしたら報酬が貰えない。それは困る。
……仕方ない、待つか。
…
……
「ふぁ〜……よく寝たぁ〜」
眠そうに眼を開けてココは喋る。これだけ見ればただの幼女の昼寝だけかもしれない。しかし、彼女は人によっては化け物として扱う者もいる存在。彼女にとっては、どうでもいい事だろうが。
そんな思考を巡らしていると、彼女はいつの間にか俺のもとに来ていた。その顔からはさっきの幼女らしさは残っておらず、いつものココに戻っていた。
「出来たのよね、絵?」
ずいっとよってくるココ。表情は締め切りを迫る編集者のようだ。
「もちろん終わっている、見るか?」
見る、ココはそう言って描き終わった絵をひったくるように奪って、それを見る。
しかし、彼女は三秒もしないうちに無言で返した。
ココなりのオッケーだ。
「じゃあ、俺はもう帰るわ、眠いし」
「こんな時間に?泊まっていけばいいじゃない」
ちらっと時計を見る。針は七時を指す。
確かにこれはお泊りコース確定だ。
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ。ところで部屋は?」
「あっちよ」
そう言って指を指したところは彼女が普段、服を作る作業部屋だ。
ただ……
「綺麗だよな?部屋」
それを聞いてココは笑いながら、
「安心しなさい、他の部屋よりずっと綺麗よ。」
俺は苦笑いをするしかなかった。
今回は出しました(キャラクター名を)。