ナンバーワンの侵略
強風に淡い紫色の髪が何回も吹き飛ばされそうになりそうだな、そんな呑気な事をデリンジャーは思っていた。
彼は今からある銀行を襲おうと、今か今かと待っている。
「カーッ、ハンデの時間を与えるのはちょっと辛かったねぇ」
デリンジャーは顔を手で覆い、呟く。
彼は何時の時からか、ただの銀行強盗というのに飽き飽きし始めていた。自分の才能を使えれば、どんな銀行のセキュリティも楽々と突破できてしまい、スリル感がまったくといって良いほど感じられなくなったためだ。そこで彼は閃いた。
ならば、ここで劇場型殺人ならぬ劇場型強盗をすれば、良いと。彼はその次の日から、わざと銀行に自分が何時に強盗するかを知らせ、その通りにやってのけるようになっていった。彼自身はそれを楽しむ。
あれだけ、自分のために金を割いてまでセキュリティや防御システムを作るのを眺め、時間になると、それらを破壊、もしくはかい潜って行くのを。まるで侵略者のように。まるで破壊者のように。
ぶっ壊して行くのが楽しくなったのだ。
「さーてと、時間は……オーケーぴったし」
デリンジャーは銀行の方に目を向ける。
銀行はいつも通りの何も変わらないような体を彼に見せ付けた。彼はそれを嘲笑う。
嘘をつけ、変わっているだろう、と。
「じゃ、行くとしますか!」
デリンジャーは堂々とスマホを自分の顔に画面を向けて歩いて行った。
まず、銀行の見取り図を見て、何処から攻めるかを決める。一応、デリンジャーは午前中に変装して、この銀行は視察しているとは言え、それでも午前中になくて今になってできた物もある。
そのため、油断は禁物。普通の強盗なら、ここらへんは慎重にいくが、彼ほどの者になると一味どころか百味違う。
デリンジャーはまず正々堂々正面から入るため、扉をなるべく音を立てずに無力化する。扉は何処にでもあるような鍵穴があるもの。デリンジャーはこれをピッキング用の針金でいともたやすく扉を開ける。
次に彼の行く手を阻むのはくもの巣のように幾多にも張り巡らされた赤外線センサー。彼はこれをスマホで見ている視聴者に見せる。コメント欄はにわかに騒がしくなる。彼はそれに喜びの色を顔に出す。
彼がこれをするのには二つ理由がある。一つは自分の犯罪を誰かに見せる、というパフォーマンスをしてそれを見られる側として楽しむ事、もう一つは彼の才能に関している。
彼は才能を二つ所持している。一つは自分が犯罪を行う時、それに関する事に関しての腕がプロレベルにまで上げることが出来る『社会の敵国者』。もう一つは周囲の人々の視線を集める事によってその数に応じて身体強化出来る『偽りの義賊』。
デリンジャーはこれらの才能を駆使して今までの銀行強盗を成功をおさめていった。
そして、それは彼に嘗めたプレイングをする程までに。
「さてさてさ〜て、どうしようかな〜?」
ニヤニヤとセンサーの前でにやけるデリンジャー。銀行側はまさか、これを突破できるとは思っていないことだろう。そして、そんな奴らを次の行動でどんな表情にさせてしまうか、楽しみだ。彼は心の中でそうつぶやく。
デリンジャーは前を歩き始める。何事もないかのように彼は歩いていく。
センサーにはかすりもしないどころか、彼の侵入を受け入れている。
そのおかげか、五分もしないうちに彼はあの何重にもしかけられたくもの巣を突破してしまった。
「さ〜て、視聴者の皆様、ご覧の通り渡ってみせました〜♪」
デリンジャーはスマホに向かって顔を向けてそう言う。コメント欄には『スゲェ』『こいつ人間じゃねぇーー!!』、『死ねばよかったのに』と様々な言葉が書かれている。
デリンジャーはそれを一通り眺めると、再び画面から目をそらす。
しかし、デリンジャーは次の瞬間、首を傾げる。
「おいおい、マジかよ。この銀行不用心過ぎるだろ」
そこには昼間見た銀行の中と全く同じ光景、
一つ、ここで言いたいことがある。デリンジャーは別に田舎の銀行を襲っているのではなく、都会の金が沢山有るところを狙う悪党であるのだ。従って、普通はここでさらに凄い細い赤外線センサーやレーザースコープ、終いには自動機関銃等が出てきても彼の経験上おかしくはなかった。
しかし、目の前にあるのは昼間と同じ監視カメラが三台ばかり。デリンジャーはわざわざ犯行予告状を銀行側に突きつけたのにも関わらずだ。
デリンジャーはため息をつく。それは楽しみを奪われたかのようにも見えるため息であった。
「あ〜、こんな銀行なんてあるんだな〜……まずいな、これじゃあ、ちょっとしょっぱいなぁ。」
頭をぼりぼり掻きながら、そんな感想を呟く。
しかし、今更ここまでやっておいて金を奪わないなんて事はデリンジャーにはありえない事。彼は金庫の方まで行こうとその行く手を阻む受付席を飛び越えようとしたとき。
「ん?」
彼の目の前にあったのは金庫への入口ではなく、顔ぐらいの大きさをした石だった。