《リメイク》例えばこんな篠ノ之箒   作:々々

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副題「自分より大切な人」




それは無駄な時間でしたね

―6―

 

「はぁっ!」

 

 一振りに魂を籠める。生半可な気持ちで竹刀は振るわない。白夜に見せてもらった()()()()の剣術を思い出しながら、その幻影をなぞる様に丁寧に型を結ぶ。

 

「そこまで」

 

 二度型を繰り返した処で声が掛かる。静とした声で、箒は竹刀を下ろした。ゆっくりと丁寧に行っていたため、身体的疲労は少ない。だが、頭で白夜の姿を思い出すという行為は精神を擦り減らす。

 

「お疲れ様です。段々動きが滑らかになってきましたね。いい調子です」

 

「いえ、まだまだです」

 

「そんなこと無いと思いますが」

 

 今日の鍛錬は終わりとなり、二人揃って母屋へと帰る。幼い頃の過度のトレーニングは後の成長に悪影響となるため、箒には適度な量を課している。

 

 しかし、それでは満足していなかった。

 

 白夜にもその気持ちは分かっていた。今、白夜と箒の間に有るのは【鍛錬】だけである。性急気味に箒に剣を教えると言ったのを、少しばかり反省していた。

 

 そこで白夜は他に関わりを持つ方法を考えた。そしてさっそく実行しようとしている。

 

「箒、一緒に料理をつくりましょう」

 

 料理。それは人間に必要な衣食住の食をより良い物へ昇華させる為のもの。この経験は必ず役に立つと思い、料理を共に行う事にした。

 

「料理を手伝ったことはありますか?」

 

「手伝い程度なら」

 

「分かりました。では、こちらのエプロンを着けてください。一人で着られますよね?」

 

「もちろんです」

 

 赤いエプロンを受け取り身に付ける。サイズもちょうど良く、着心地が良い。

 

 ただ、後ろの紐を上手く結べず白夜に手伝ってもらう時に顔を赤くしてしまった。

 

「ではまず包丁の持ち方ですが……

 

 

 

 

―7―

 

「パスポートは持ってないですよ」

 

「そうですよね。分かりました、こちらで用意しましょう」

 

「なにかあるのですか?」

 

「気にしなくていいですよ」

 

 

 

 そんな会話から一週間後。夏休み半ば。地元の小学校に二学期から転校するため、残り2週間といった頃。白夜にパスポートを手渡される。

 

「これからイギリスに飛びます」

 

「はい?」

 

「ですからイギリスです」

 

「イギリスは知ってますが」

 

「なら大丈夫ですね」

 

 白夜と短い時間だが過ごして分かったことがある。それは白夜が少しズレている事だ。偶に突飛なことを言うため、内容がうまく伝わらなかったりするのだ。

 

「何しに行くのですか?」

 

 その一言であっ、という表情をする。

 

「そういえば、伝え忘れてましたね」

 

 こちらに来てからいつ学校に登校し始めるのか伝えられなく、数週間経ったときは慌てたものだった。

 

「でもまぁ、飛行機の中でいいでしょう」

 

 そしてもう一つわかったことがある。

 

 白夜はかなり強引である。

 

 

 

 

 

―8―

 

「なんですかあの飛行機!」

 

「飛行機とよく呼ばれる旅客機ではなく、プライベートジェットですよ」

 

「そんなこと言ってるのはありません!」

 

 パスポートを渡された次の日には日本を飛び立っていた。あまりにも早すぎるため、状況を認識する事が出来ていない。

 

 そんなぷりぷりと怒る箒を眺め、いつも通り笑顔を見せる白夜。

 

「飛行機に乗った事が無いので分かりませんが、絶対アレは違います! 何なんですかあの速さと体に掛かるGは!」

 

 普通日本からイギリスに行くのには12時間ほど、つまり半日ほど掛かる。だが今回はどうだろうか。たった7時間でイギリスに着いた。

 

 時差の9時間よりも早いため、日本を出た時刻よりも2時間早くイギリスに着いた。

 

「特別性らしいですよ。アレでも昔よりは快適になりました」

 

「アレよりって酷いって」

 

 どんな地獄なのだろうと思った。

 

 

 閑話休題

 

 

「さて、それではお仕事と行きましょう」

 

「私は何をすればいいですか?」

 

「箒は私の側に居てください。そして私から見て聞いて覚えてください」

 

 空港のラウンジで飲み物を飲みながら人を待っていた。君主として女王を据えているイギリスでは、今の状況は目を引くものだ。

 

 イギリスでは女尊男卑の思想が強い。その中で少女と若い男性というのはあまり見ない光景である。

 

 箒は白夜から渡された翻訳機を耳と喉に付ける。なんでも勝手に翻訳をしてくれる機械らしい。

 

「お待たせしました雨宮さん」

 

 スーツを着た長身の女性が声を掛ける。

 

「いえ、それほど待っていませんよミセス。そしてミスタ」

 

 席を立ち、女性と隣に立つ男性に挨拶をする。男性は軽く礼をして返す。

 

「そちらの可愛い子は貴方の子供かしら? ちょうど私の子と同じくらいかしら」

 

「この子は私の知り合いの子です。とある事情で私が預かっています」

 

「そうなのね。さて、早速ですがお仕事と行きましょうか」

 

「分かりましたミセス。車はこちらで用意しているのでご案内します」

 

 

 

 

―9―

 

「先ずはユーロトンネルに向かいます」

 

「先程の二人が白夜さんにお仕事をお願いした人ですか?」

 

「そうですね。名前は知りませんが、懇意にしてもらっている方からの紹介なので信頼出来る方ではあると思います」

 

「そしてフランスで護衛ですよね」

 

「えぇ。危険な事は無いので安心ですね」

 

 リムジンカーの運転席と助手席に座り話をする。日本にいた頃は全く運転をしなく、坂の下の駅前まで徒歩で移動していた白夜の運転姿は初めて見た。

 

 なんなら洋服姿を見るのも初めてだ。

 

「初めての欧州はどうですか?」

 

「観光をしていないのでなんとも言えませんが、やはり日本と違う初めて見る風景は面白いです」

 

 レンガ造りの建物。色とりどりの髪色。曇り薄暗い街並み。

 

「初めてと言えば、あの様な夫婦関係は初めて見ました…」

 

 強気でピシッとした妻に弱々しいなよっとした夫。篠ノ之家(普通の家)とは違うその雰囲気に少しばかり驚いてしまった。

 

「あれがISの私の姉のせいなのか」

 

「人の分まで背負うなんて優しいですね」

 

「アレでも私の姉ですから」

 

「それが優しいというのです。そして優しさは間近な人にしか分からないのですよ」

 

 ハンドルに付いている、スピーカー用のボタンを押す。

 

「ミセス、ミスタ。空調の方はよろしいでしょうか?」

 

『……えぇ、よろしくてよ』

 

「かしこまりました。後30分ほどで駅に着きますので、しばらくお待ちください」

 

 箒は白夜の言った【優しさ】について考えていた。優しさは身近な人にしか分からない。では、身近でない人にはどの様に見えるのだろうか。

 

 

 

 

―10―

 

「では箒。ミセスのことは頼みましたよ」

 

「任せてください」

 

 では、と一言残して白夜と男性は1016号室へ入っていく。同じタイミングで箒と女性も1015号室へ入って行く。

 

「はぁ、疲れましたわ!」

 

 女性は部屋に入るとスーツのジャケットを放り投げ布団に飛び込む。それだけで柔らかい雰囲気となる。キャリアウーマンからただの女性へ。

 

「箒さんもゆっくりなさってください」

 

「は、はい!」

 

 言われるように備え付けの椅子に腰掛ける。今日は疲れた。本当に疲れた。あれよあれよと飛行機に乗り、初めての外国。そして何故か仕事に付き合う。

 

 さらに初めて会った女性の人と同じ部屋。どうして箒と白夜、そして夫婦のような部屋分けにしなかったのだろうと考える。

 

「箒さんはお疲れですの?」

 

「疲れました…」

 

「それも仕方の無い事ですわ。見たところ、10歳くらいかしら」

 

「11歳にこの前なりました」

 

「それなら、当然このような事は初めてだと思いますの。ここは一つわたくしに気を使わず、ゆっくりしてください」

 

「それは出来ません。白夜にあなたのことを頼まれたので」

 

 ふむ、と女性は考える。

 

 実はこのような部屋分けをしてくれと頼んだのは女性だった。その理由は一つ、自分の娘と同じくらいの箒と話をしたかったのだ。

 

 自分達のせいであまり一緒にいる事が出来ない娘は、箒と同様どこか世間とズレている。しかしある一部では大きく異なっている。

 

 そこを聞こうと思ったのだが、箒の在り方は娘よりも大きく歪んでいた。

 

(雨宮さんは、箒さんがわたくしとの会話で少し変わる事を期待してともにイギリスへ?)

 

 そこは後で考えるとしよう。

 

 まずは箒とお話をする為の雰囲気作りをする必要がある。となれば。

 

 

 

 

―11―

 

「やっぱりお風呂は大きい方がいいですわね。この前のホテルは狭くて二人入りませんでしたもの」

 

 場所は少し変わり、お風呂へ。

 

「そんなに恥ずかしがらなくてもよろしいのではなくて?」

 

「恥ずかしいものは恥ずかしいです!」

 

 泡で満たされたバスタブで、女性に後ろから抱き着かれる形で入浴している。母性というか淑女な感じかそこは定かではないが、恥ずかしいが受け入れてしまっている自分がいる。

 

 顔が余計に熱くなっている気がする。

 

「夫のことをどの様に思っていますの?」

 

「ミスタのことですか?」

 

 ミスタと白夜が呼んでいた男性の事を思い返す。空港で初めてあったときからずっとミセスの側にいるというか、影に隠れている印象がある。

 

 フランスでの会議中の事は分からないが、会議室から出てきた時も変わらずだったのでそうだったのだろう。

 

「頼りない感じがします」

 

「やはりそんなふうに思えてしまいますわよね」

 

「私の近くにいる男の人の頼りがいがあったから、というのもありますが」

 

 父親である柳韻は篠ノ之家の当主であり、道場の師範である。頼りになる父、その印象がとても心の中に残っている。

 

 いま共に生活をしている白夜は飄々としているものの、悩みごとには真摯に向き合ってくれる。それに初めてのことで分からないときは優しくさりげ無く教えてくれる。

 

「箒さん?どうかいたしましたか?」

 

「いえ。なんでもありません」

 

 どうして白夜の事を考えると顔が、心が熱くなるのだろうか。

 

「箒さんにそう思われてると言うことは、きっとセシ……わたくしの娘もそんな風に思っているに違いありませんわ」

 

 おそらく家でも今日のようにしているのだろう。ISが世界に進出する前ならいざ知らず、ISによって女尊男卑の印象が強くなっている今ならミスタに対する心象もいいものではないはずだ。

 

「ミセスはどう思ってるんですか?」

 

 だからこそ気になった。

 

 どうして女性がこんなにもミスタの事を考えているのか。頼りない夫が側にいても嫌な顔一つせず、むしろそんな夫の事を進んで話している。

 

 どんなことを思って今一緒にいるのか。

 

「男と女が一緒にいる理由なんて一つしかありませんわ。わたくしは夫のことを心から愛していますの」

 

 その言葉は箒の心にストンと落ちた。

 

「それにわたくしの隣に立つ人が、ただの凡骨なわけがありませんの」

 

 

 

 

―12―

 

『大変お待たせいたしました。予定より30分ほど遅れて、列車が出発します。ご乗客の皆様にはご迷惑をおかけし申し訳ございません』

 

 フランスでの用事も終わり、後はイギリスに戻るのみとなった。来るときに使ったユーロトンネルを再び使う。最後尾の車両に席を取り、四人席に座る。

 

 パリを出発して3時間ほど経った頃、列車はユーロトンネルへ入って行く。最初は海底トンネルだと恐がっていたが、一度体験してしまえばそんなこと思いは何処かへと飛んでいった。

 

 それにそんな事を心配する余裕がない事態が、向こうからやって来た。

 

「お前ら大人しくしろ。この列車は我々が乗っ取った。なに、俺らの指示通りにすれば誰も死にはしねぇよ」

 

 前の車両にとを繋ぐ扉の前に現れた二人の男。その手には黒くて大きい銃が握られている。

 

「白夜!」

 

「しーっ、静かにしててください。大丈夫ですよ。ミセス、ミスタもここは従っておきましょう」

 

 

 

 二人組の男は結束バンドでこの車両の全員を拘束した。後ろ手に固定され、動かすことはままならない。

 

「さてと、おいそこのお前。そうお前だよ」

 

 男達がこちらの方を指差し、近づいてくる。そしてミスタの前に立つ。

 

「お前はこんなのと一緒にいて辛くはないのか? 俺だったら耐えられそうにないけどな」

 

 ケラケラと下卑た笑いをしながらミスタの前にしゃがみこむ。こんなの、というのはおそらくミセスのことであろう。

 

「俺達はよ、今みたいなこの社会つまるところ【女尊男卑】ってのが許せないわけ。だから、お前みたいな奴がいたら仲間にしようかなと思ってたんだけど、どう?」

 

 そんな軽い感じでミスタを勧誘する。

 

 その様子を箒は少し心配そうに見ている。ミスタは女尊男卑の影響を強く受けていると言っていい。もしかしたら、という思いがあった。

 

「貴方はなにを言ってますの? この人を貴方のような下品な男と一緒にしないでください!」

 

「うるさい!」

 

 銃口でミセスの事を(なぐ)ったように見えた。しかし、実際に撲られたのはミセスではなくミスタの方だった。

 

「俺の女に手を挙げんじゃねぇ!」

 

 その声の主は誰だったのか分からなかった。それも当然である。箒は初めて会ってから今までミスタの声を一度も聞いたことが無かったのだ。

 

 なよなよした見た目とは裏腹にドスの聞いた声だった。

 

 あぁ、これがミセスの言っていた事か。

 

「はっ、そんな様のテメェに何が出来る」

 

 男達が銃を構える。

 

 引き金を引くだけでミスタの命は散る。

 

「例えばこんな事が出来ますよ」

 

 命を散らせない為に白夜がいる。

 

 素早く立ち上がり男の一人の顔にに頭突きを放つ。狙いは顎であり、脳震盪を引き起こされた男は倒れた。

 

 相方が倒れたことによって、楽観視できなくなったもう一人の男が白夜に銃を向ける。だが踵落としよって銃口は列車の床にめり込む。

 

「それではおやすみなさい」

 

 サマーソルトでさきほど同様、顎を擦るように攻撃し鎮圧した。倒した男達の装備を漁り、手頃なナイフを見つける。

 

「箒、これで拘束バンドを切るので近寄ってください」

 

 互いに後ろ向きになり、白夜は箒の拘束バンドを切る。そしてナイフを箒に渡し、次は白夜の拘束バンドを切った。

 

「怖くはありませんでしたか?」

 

「白夜がいたので、大丈夫です」

 

「そうですか」

 

 箒の強がったセリフに対して深く追求せず、頭を優しく撫でた。

 

「私はこれから他の車両に行こうと思います。箒はここで皆さんを守っていてください」

 

 

 

 

―13―

 

 男は今の世界が堪らなく嫌いだった。

 

 男には誇れるものが力しかなかった。

 

 だがISの出現によってそれすらなくなった。

 

「俺達の要求はただ一つ。男性の地位の向上だ。それが出来ないならこの列車を爆破する」

 

 俺達を裏切ったイギリスへの報復。空と海と陸、それぞれの交通手段における同時的なテロ。それはイギリスが早急に対応しなければならないように仕向けるため。

 

 特にこのユーロトンネルは真の意味でイギリスを孤島にする。猶予は30分ほど。列車がユーロトンネルから抜けるまでの間だ。

 

「さっさと女王を辞めさせろ。それだけで爆破するのは辞めてやろう」

 

 ユーロトンネルを爆破するのはだけどな、という言葉は言わずクツクツと笑う。せっかく整備に時間をかけて列車に仕掛けたのだ、外に出たあたりで自分は外に出て爆破させよう。

 

 イギリス政府の出方を待つ間、各車両にいる仲間に連絡を取る。この際同じ思想の持ち主を仲間に引き入れようとしていた、その確認だ。

 

「お前ら引き込めそうな奴はいたか?」

 

『………』

 

 通信機からの返事はない。帰ってくるのは無音のみであった。

 

「おいっ! どうした!?」

 

「おやおや、部下がやられただけでその慌てよう。ここまでの計画をやってのけたので随分と立派な方がリーダーなのかと思っていましたが、三下でしたか」

 

 ゆらりと白夜が先頭車両にやって来た。ジャケットに汚れはなく、ここまでの道中の敵すべてをいなして来た様に見えない。

 

「誰か手引したものがいるのですかね。いや、いるに決まってます。計画自体は素晴らしいのに、実行する者の技術が余りにも拙過ぎる」

 

「何だてめぇ!」

 

「しがない逸脱者ですよ」

 

 ナイフを片手に男に近づく。

 

 男はポケットから手のひらサイズの箱を取り出し、突きつける。

 

「近づくなっ! これ以上近づくとこの列車を爆破させる!」

 

 交渉の切り札だったが致し方がない。何もしてないのにこんなところで、計画を止められるわけにもいかなかった。

 

「いいのですか? ここでそんなことしたら貴方も、貴方のお仲間も死んでしまいますよ?」

 

「っ!」

 

 それも嫌だ。男は自分が住みやすい世界にする為にこの話に乗った。それがこんなところで死ぬ?

 

「ですが、まぁそれは全く問題ないでしょう」

 

 ゆらり、ゆらり。歩を進める。

 

「近づくな!」

 

「それは牽制ですか? それとも自己保身ですか? どちらでしょうか」

 

 緩やかな足取りで距離を詰める。

 

 後がない。男は覚悟を決めてスイッチ押した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とまぁ、貴方の中では色々葛藤した結果だと思われますが。それは無駄な時間でしたね」

 

 スイッチを押す前、押した後。何一つとして変わった事は無かった。失禁するほどの覚悟を決めてスイッチを押したが、ただ押しただけ。

 

 爆発は起こらなかった。

 

「な、なんで」

 

「こちらはこういったテロ対策を踏まえてのお仕事ですよ? 何もしないわけないじゃないですか」

 

 特に今回のような無線で爆破するようなタイプの対策はバッチリである。

 

「それでは興醒めな結果でしたが、不肖極東の剣士がこの場を締めさせていただきましょうか」

 

 剣術集より抜粋。虚刀・一閃。

 

 男は自分の首が切られたと思い失神した。

 

「本来ならば斬った方が楽なのですが、政府にとやかく言われるのはもう面倒ですからね。それに今回は私一人ではなく箒もいますから」

 

 男の持っていた携帯の履歴を遡り、記憶する。このいずれかに今回の作戦を指示した奴らがいるはずだ。

 

 といっても、これほどの作戦を考えた奴らだ。すでに連絡先を変えているという可能性はある。

 

「もしもし、私です。白夜です」

 

 男の携帯を使ってイギリス政府に連絡を取る。

 

「良かったですね。この方達が私の大切な人を傷つけなくて、おかげで彼らを殺さずに済みました」 

 

 

 

 

―blank―

 

「怪我をさせてしまい申し訳ございませんでした」

 

 事情聴取後、白夜はミスタに頭を下げて謝る。護衛が仕事だったのに、依頼人に怪我をさせたのは白夜のミスだ。

 

「いいんだよ。これは俺がしたくてしたことだから、それにお嬢さんも俺の事を見直したらしいからな」

 

 空港内の特別室でミスタはウインクをしながら返答した。

 

「普段からそうしていた方がいいと言っているのに。変える気はございませんの?」

 

「俺のこんな口調と性格じゃ、仕事や契約はうまく行かないさ。ここは黙って凡骨を演じて君が仕事を上手くこなす方が事が上手く行く」

 

「それでも娘さんの前ではその姿のほうがいいと思いますよ。昨日の夜も言いましたが」

 

「それはそうだが……」

 

 ミスタはバツが悪そうに頬をかいた。

 

「箒さんを見てわかったでしょう? 素の貴方のほうが魅力的ですのよ」

 

「わかった分かった。考えるさ」

 

「ふん!」

 

 せっかく自分の夫が、自分の好きな姿を晒すようになったのだ。これを気にぜひともこれからとそうなってほしいとミセスは思っている。

 

「それでは此度はありがとうございました」

 

「こちらこそありがとな。おかげでまた娘に会えるよ。箒ちゃんにもよろしく言っといてくれ」

 

「分かりました」

 

 ソファで眠っている箒を抱きかかえ、特別室を出ていく。

 

「そうですわ白夜さん」

 

「何でしょう」

 

「今後わたくしたちが会うことはなくても、わたくしたちの娘が何処かで箒さんと会うかもしれません。いえ、会う気がしています。ですので性は教えられませんが名前をお教えいたしますわ」

 

 セシリア

 

 その名前を日本に着いたら箒に教えよう。

 

 

 

 




次回で原作前終了
しばらくしたら更新します
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