未確認生物から女の子を守った結果―― 作:対魔忍佐々木小次郎
地球からの反撃。
戦争の開幕を告げる号砲。
当然といえば当然の反応だ。地球側にとってこれは迎撃、つまりは正当防衛なのだから。
……けれど。
けれどそれは、まともな戦いが成立する相手であればの話だ。
「無茶だ……!」
「ええ……正直、この船一隻が相手でも相当厳しいわ」
これまで見てきたレーザーに再生カプセル、何よりこんな宇宙船を開発するほどの技術力は、明らかに地球のそれをぶっちぎっている。
そもそも、生身の相手にすら実弾がほとんど通じなかったのだ。戦争用の大型母艦ともなれば、並大抵の攻撃ではビクともしないだろう。
「でも、今の私達にとっては好都合よ。そっちに意識が向いてくれれば、少しは動きやすくなるかもしれない」
「そうだな……」
本当に被害を食い止めたいのなら、この状況を利用すべきなのだ。
わかっている。だから、せめて無駄にだけはしちゃいけない。
「じゃあ早いとこ方針を固めるぞ。どの案が一番現実的だと思う?」
「……艦長室、かしら」
「具体的には」
「私が最低限戦えるようになるまで回復したら、この部屋の通気口から艦長室の近くに抜けて奇襲を仕掛けるの。マザールームに比べれば敵の数は少ないはずだし、勝算は一番高いと思う」
聞いた限り、俺にもその方策は妥当に思えた。
「よし、じゃあそれでいこう」
「即決ね。別案があるなら遠慮なく言いなさいよ?」
「俺はこの船のこと、ほとんど知らないしな。それにお前はこれが一番だと思ったんだろ? なら信じるさ」
「〜〜〜っ、本っっ当にアンタはもう……!」
またも顔を赤らめる姫様……え、いやいや今のはセーフだろ。セーフだよな?
やべ、意識したら何か急に恥ずかしくなってきた。
「……そ、それにしても!」
「お、おう!」
たっぷり数十秒間いたたまれない空気に浸った頃、ようやく姫様が切り出した。
露骨な転換だが、俺に乗る以外の選択肢はない。
「さっきの揺れ、随分激しかったわね。この船の外装は衝撃吸収性の特殊素材だから、実弾兵器なんてほとんど効かないはずなのに」
「────あ?」
それを聞いて。
頭の中で、猛烈に違和感が膨れ上がった。
「……待て。待て、待てよ」
そうだ、どうして気づかなかったんだ。
そもそも、こんな大袈裟なアラートが出たこと自体おかしいだろうが。
攻撃が効かないのなら、敵として成立しないのなら、わざわざ警告を発する必要なんてないんだから。
ならばそれは。つまり地球側の攻撃は、この船にとって脅威たり得るということに────
『あー、あー。聞こえているかな? こちら地球防衛軍総本部、エヴァルド=ロザン大佐だ』
あらゆる前提条件を覆す一手。
それは唐突に、思いもよらないところから飛び出してきた。
「地球軍からの、通信……⁉︎」
驚きよりも困惑が先行した。
この部屋の通信機能の一切は、マザールームからの干渉によって閉じられているはず。
現に味方の船や母星との通信は切られたままだ。この状況で、わざわざ地球軍からの通信だけを受け取る意味がわからない。
──まさか、地球側がマザールームに干渉してこじ開けたのか?
現代科学からすればオーパーツにも等しいはずの、この船のセキュリティを突破して?
『侵略者たる宇宙人諸兄、第五八二二四番惑星ドラグの民へ告ぐ。この通信が届いているなら、速やかに武装を解除の上降伏されたし』
「な……っ」
それは定型文というより、まるで本当に勝利を確信しているかのような口ぶりだった。
どうして、これほどまでに余裕があるのか。
どうして、既に敵の正体を知っているのか。
考えれば考えるほど、そこかしこに疑問点が湧いて出る。
「受け入れられるはずないわ……だってどう考えたって、戦力差は圧倒的なのに……!」
そう、普通に考えれば勝ち目なんてないはずなのだ。
しかしロザン大佐とやらの声明は、そんな姫様の呟きに異を唱えた。
『
……あり得るのか、そんなことが。
あっていいのか、そんな展開が。
この軍人が、もしただの馬鹿でないのなら。
この宣言が、もし単なる虚勢でないのなら。
惑星ドラグの軍勢をものともしないだけの力がこの星にあると、本当にそう言うのなら。
「まずい……」
「え?」
声が震えるのを抑えられなかった。
何やら思案中だったのか俯いていた姫様が、俺の呻きに疑問符を乗せる。
その答えは、俺じゃなくスピーカーの向こうから返ってきた。
『とは言ったところで、まあ現時点で信じるのは難しいだろうよ。──だから端的に証拠を見せてやる』
やっぱりだ。最悪の予想が的中した。
この船は──今すぐにでも墜とされる‼︎
「急いで脱出するぞ! この戦争が本物の弔い合戦になっちまう前に‼︎」
「ちょ、待って──きゃっ⁉︎」
小さな身体を少しばかり強引に抱え上げる。
通信ルームを出ようとモニターに背を向け、駆けだそうとしたその瞬間。
「……………は?」
踏み出しかけていた足が、虚空を彷徨って不恰好な円を描いた。
舞い上がる髪と全身を打つ冷風が、理解を拒む脳へと俺達の置かれた状況を克明に伝えてしまう。
帰り道には、姫様ご自慢のドラテクは役立たなさそうだった。
「はァァァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ⁉︎」
「きゃぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああ⁉︎」
ひたすら絶叫を響かせる。
そうでもしないと、恐怖と突風で凍えてしまいそうだった。
(あの馬鹿でかい大砲は⁉︎)
下を向くことへの拒絶反応を抑え込んで、ちらりと問題のブツに意識を傾ける。
大型戦車のそれをざっと百倍に拡大したような、現実味のないスケール感。
底冷えするような鈍光を放つ材質は鉛か鋼か、見ただけで判別はつきそうにない。
倒壊したスカイツリー──
「何だよあれ⁉︎」
「知らないわよ! あんなの、調べたデータにはなかった……!」
不幸中の幸いとでも言うべきか。今のところ、中から何かが飛び出してくる気配はない。
船艦へと狙いを定めたまま、微動だにせず沈黙している。
だったら、そっちのことは今はいい。まずは着陸のことだけ考えろ。
「こうなったら飛ぶしかないわ! 翼を作るの!」
そういやそうだ。
身体を変形させられるなら、そのくらいできても不思議じゃない。
彼女の回復はまだ不十分。だったらここは、俺がどうにかするしかない。
何かこう、力強そうな鳥。鷹か鷲あたりの翼をイメージして背中を変形──ダメだ全っ然速度落ちねえ!
「適当にやったって無理よ! 今から流体力学の勉強なんてしてられないから、とりあえず私の言う通りにやって!」
ごもっともとしか言いようがない。
素直に指示に従うべく、頼む、と叫び返そうとしたところで。
《────、 》
頭の中で、何かが疼くような感覚があった。
突き上げる浮遊感で我に返ると、目を丸くした姫様がこっちを見上げていた。
「アンタ、それ……」
呟きは風音にかき消されたが、内容は何となく察しがつく。
俺だって驚いている。身体が勝手に変形したことにも、その途端に落下速度が一気に緩まったことにも。
「どういうこと……? もしかして、ううん、ほぼ間違いなく──」
「考え込むのは後だ! そろそろ地面に着くぞ!」
そもそもが上空五百メートルという、飛び降り自殺には十分すぎてもスカイダイビングには物足りない高度だ。
当然ながら地面が迫るのも早い。翼を作れたのも割とギリギリのタイミングだった。
姫様を抱える腕に力を込め、極力速度を落としながら着陸態勢に入る。
膝をクッションにして衝撃を殺しつつ着地。若干脚は痺れたが
「ここは裏山……だよな」
辺りを見渡せば、最初に俺達が飛び立った位置からそう離れてはいないようだった。
ひとまず、生きて帰ってこれた。
周囲にゴトゴトと降り注ぐ通信機器を余所に、ふわふわとした安堵感のようなものにほんの一時浸ろうとして──
「いやいやいや通信機器⁉︎」
一瞬でそんな場合じゃないと思い直した。
あの部屋の機材全てが、こうして落ちてきているということは。
あの船の通信手段が失われたってことじゃないのか?
「それは大丈夫。通信ルームに何かあった時のために、非常用の回線が備えつけてあるはずだから」
「あ、そうなのか」
それなら一応、母星へ直接連絡を取る手も潰れてはいないのか。
今からあの牢獄に逆戻りなんて考えたくないし、そもそも移動手段がないが、選択肢として残っているというのは重要だ。
「……それで、結局何がどうなったんだ?」
「私だってわからないわよ……地球軍が何かしたってことくらいしか」
姫様にもわからないとなるとお手上げだ。
スカイツリー跡地を見遣れば、今も漆黒の巨塔が聳え立つさまが伺える。
戦争とか身体のこととか事件は色々起きてるのに、一番の混乱の元がこの星の謎技術ってどういうことだよ。
『──とまあ、ざっとこんなものだ』
「っ、まだ繋がってるのか……!」
不意に、近くに転がっていた機材の破片からさっきの軍人の声が流れ出した。
ややノイズ混じりだが十分聞き取れる。これだけバラバラになっても機能が生きている辺り、流石は宇宙テクノロジーというべきか。
『理解は及んだか? 対策は立てられたか? できたのなら称賛を送ろう。そうでないなら、君達の実力はその程度ということだ』
通信越しでも、その声からは確かな自信が感じ取れた。
正直、まだ信じがたい思いはある。けれどさっきの謎攻撃を間近で体感した以上、一概に否定もしきれない。
『では改めて勧告しよう。降伏する気は』
轟音。
続く台詞を遮ったのは、火薬なんぞの音じゃなく。
五十の熱線が空気を灼き潰しながら、そこら中へ無秩序に降り注ぐ音だった。
「ちょ──」
「やば──」
当然のように、俺達の元にもそれらは殺到する。
咄嗟に彼女に覆い被さり、少しでも死線から逃れるために身を伏せて。
『──どうやらないようだ』
「……嘘、でしょ」
呆然とした様子の姫様の口から、ぽろりとそんな言葉が零れた。
結果的に助かったとはいえ、自星の先端兵器がこうも容易く防がれてしまっては無理もない。
『何をした……』
スピーカーから、これまでの軍人とは別の声が聞こえてくる。
この声は……宇宙人C、船長の奴か?
『何百年も出遅れた猿の分際で……! 何十世代も前の骨董品風情が‼︎ お前ら一体何をしたァァァあああああああああああああああ‼︎』
随分と激昂しているようで、ただでさえノイズ混じりの中に時折ハウリングまで加わってくる。
けど正直、こいつの気持ちもわからないでもない。何がどうしてこんな状況になっているのか、俺だってまるで理解が及ばないのだ。
『必要は発明の母、という諺がこの星にはある』
対するロザン大佐は冷静そのもの。
この時点で、半ば格付けは済んでいた。
『一度目は原始的な暴力だった。二度目は狂人の妄念だった。そして三度目は技術の裏切りが悲劇の引き金となった』
放たれた一発の弾丸は平和の象徴の喉元を食い破った。
元漫画家志望の女は現実をパステルカラーに染め上げた。
ネジ一本分の機械の誤作動は既知を未知へと巻き戻した。
死者数千人という小規模な戦争でありながら、遍く世界を震撼させた三つの地獄。
『我々とて学ぶのさ。暴力には団結を、狂気には幻想を以て絶望に終止符を打ったように。──さて、それでは科学への対抗策とは一体何か?』
教え諭すような口調だった。
ロザン大佐は、地球軍は、この場において明らかに上位者だった。
『簡単だ。科学を超えるのは、いつだって次世代の科学だよ』
だからこの星の技術は進歩したのだ、と。
さも当然といった調子で、意味不明な理屈が飛び出した。
『ふざけるな‼︎ たった十年で僕達を追い越したとでも言うつもりか⁉︎ そんな都合の良い進化があってたまるか‼︎』
喚き立てられたその指摘は、至極真っ当なものだ。
最悪の戦争の三番目、通称『ミッドナイト・サン戦争』が勃発したのは僅か十年前のこと。
それから必要に迫られて技術が進歩したというのなら、数百年分もの開きをこの十年でひっくり返したということになる。
普通に考えるなら不可能もいいところだ。
『そもそもこっちは惑星レベルの戦争を繰り返して発展してきたんだぞ、その理屈なら差が埋まることなんてあり得ねえだろうがよ‼︎ あァ⁉︎』
『惑星レベル?』
唐突に。
飄々としていたロザン大佐の声音から、あらゆる色が消えた。
『どうやら君達は、かの惨劇の恐ろしさを何も理解していないらしい』
『……何の話を』
『スケールの違いだよ』
気圧されて勢いを失った問いに淡々と返すさまは、どこか余裕を失っているようでもあり。
それ以上に、怖気を震うほどの寒々しさを感じさせた。
『死者が数千人なのに最悪なのではない。数千人に抑えられたから
遥か上空の宇宙船から、息を呑む音が伝わってくるようだった。
いや、それとも音源は俺の喉だったのか。あるいは姫様だったのかもしれない。
科学技術の異常な発展といい、その根底にあるらしき地獄の更なる闇といい。
この地球は、一体どれほどの秘密を抱えているっていうんだ?
『……敵を相手に随分と話し込んでしまったな。私の悪い癖だ』
もはや極寒の息吹のような抑揚のなさで、幕引きの宣告は為された。
話を切り上げようとしている。それはつまり、対話の段階を通り過ぎたということだ。
『待て──何を、何をする気だ⁉︎』
『決まっている。投降しない敵など、撃滅する以外の選択肢はないだろう?』
正論、ではある。
あるけれど。
その冷淡さは、
この時ばかりは、元凶のはずの宇宙人達を心の底から憐れんだ。
『では、さらばだ』
カシュッ、と。
いっそ気の抜けるような軽い音が耳に伝わる。
それがあの化物じみた巨砲から発された音だと気づくまでに、数秒の時を要した。
『……な、んだ? 何だ、これは──』
コーヒーに落とした角砂糖が溶けるように、微生物が生ゴミを分解するように、被弾したであろう箇所を基点にみるみる船体が崩れ去っていく。
困惑と焦燥がスピーカー越しに空気を震わせ──そして途切れた。
「────」
誰も、声を発さない。
俺も、姫様も、通信機の向こう側も。
本当にあっさりと。
絶対的な脅威のはずだった大型母艦は、ものの数秒で粉微塵に解体された。
「状況を整理しよう」
沈黙を破ったのは俺からだった。
しばしの間、二人して夜空を見上げながら呆けていたが、いつまでもこうしてはいられない。
考えるべきことはまだまだ無数にあるのだ。
「母艦を落とすって目的自体は、結果的に達成された」
「……そう、ね」
彼女としては複雑な心境だろう。
あの船には知り合いもいただろうし、そうでなくとも自分の星の臣民だ。
たとえ裏切り者であっても、それは変わりないのだから。
「ただ懸念も増えた。
「正直、その可能性だけは考えなくていいと思ってたんだけどね……」
姫様は頭痛を堪えるように額に手を当てた。
俺も頭を抱えたいところだが、眉間を揉んでも現状まで解れてくれる訳じゃない。
「差し当たり、取れる方針は二つあるわ」
ピンと立てられた二本の指のうち、一本がすぐに畳まれる。
「一つ、通信設備を修理する。ここに散らばってるパーツをかき集めれば、元通りとはいかなくても母星との通信くらいはできるはずよ」
「おっ、いいんじゃないか」
「問題は動力源。電力換算なら大体七百万キロワット必要ね」
「いや無理だろ」
発電所にでも突っ込めってのか。
そんなことしたら俺達がテロリストだわ。
「二つ、後詰めの部隊が来るまで待機。地球側の戦力が予想外に整ってるから、下手に動いて目をつけられるよりいいかもしれない」
「まあ確かにな」
「問題はこっちから能動的な干渉ができなくなること。それに、下手をすれば──」
「増援があっさり蹴散らされて終わりって可能性もある、か」
そうなったら、地球は助かっても姫様が救われない。
それじゃあダメだ。彼女に笑ってほしいからこそ、俺は今ここにいるのだから。
なら考えろ。
今必要なことは、できることは、避けるべきことは何だ。
勝利条件を洗い出せ。チェックポイントを明確にしろ。絶対に選択を間違えるな。
──そんな思考を、再び断ち切るかのように。
『さて』
それは仕切り直しの合図。
数分間の沈黙を破って、再びロザン大佐がスピーカー越しに口を開いた。
……一体、誰に対して?
本来の通信相手は、ついさっき消し飛んだばかりだというのに。
『
「ッ⁉︎」
──まさか。
まさか、まさかまさかまさか。
『届いていないならいないで構わないのだがね。聞いていて無視するのなら、それもまあいいだろう』
その声からは既に、凍てつくような寒々しさは消えている。
だというのに、背筋の震えは増す一方だった。
『だが僅かばかりの期待を込めて、一応勧告だけはしておこうか。──君達には、約一年間に及ぶスパイ活動の容疑がかかっている』
「ぁ──」
隣で零れた小さな悲鳴が、木々の狭間に溶けて消えた。
気づかれていた。
姫様のことなんてとっくに知られていて、その上で泳がされていたのだ。
それも最初から。母艦が現れてからなんて話じゃない、彼女が地球にやってきたその時からだ……!
頬を伝う冷や汗が、容赦なく体温を奪い取っていく。
こいつが、地球軍が、次の俺達の敵なのか?
『すぐにそちらに迎えを出そう。抵抗せず、大人しく同行されたし』
さっきまでの饒舌さが嘘のように、事務的な通達のみを残したっきり通信は切れてしまった。
「……大人しく同行されたし、か」
まあ無理な話だ。
捕まったら碌なことになるとは思えないし、姫様に何かあったら本当に全面戦争が起こりかねない。
「とにかくここを離れよう。秘密基地ってほど大層なもんじゃないけど、そこそこ身を隠せる場所ならいくつか知ってる」
「……………」
「……姫様?」
「……………、さい」
あまりにもか細い声だった。
だからしっかりとは聞き取れなくて、それでも尋ね返す気にはなれなかった。
聞きたくなかった。見たくなかった。こんな震えた声なんて、今にもその場に崩れ落ちそうな姫様なんて。
それなのに。
悲痛な顔で、二筋の雫を伝わせながら、彼女はその先を続けてしまう。
「ごめん、なさい……」
やめろ。
「あの軍人、君
やめてくれよ。
「私が、私の、私のせいで……」
頼むから、そんな顔をしないでくれ。
お前の泣き顔を見たくないから、俺は今ここにいるのに。
「貴方の居場所が、帰る場所がなくなっちゃう……!」
なあ、おい。
今、彼女を泣かせているのは誰だ?
──俺じゃねえかよ。
「──いいんだ」
「え……?」
ふざけんじゃねえぞ。
騎士なんて名乗っておいてこのザマかよ。
テメェは覚悟を決めたんだろうが。
「君の隣にいられれば、俺はそれでいい」
だったら初めから、このくらい言ってみせろ。
「……ほんとに?」
「ああ」
「許して、くれるの?」
「許すも許さないもねえよ」
「まだ……一緒に、いてくれるの?」
「ええい、だからそうだっつってんだろ! 立場とか戦争とか知ったことか! 俺が一緒にいたいんだよ‼︎ 今、お前と‼︎」
ひとしきり怒鳴り散らして、ようやく落ち着いたところで。
しゃがみ込んで目線を合わせ、小さな肩に手を添える。
「だからさ……いつもみたいに笑ってくれよ。それだけで、俺は何度でも立ち上がれるから」
「ぁ──ぅ、あぁぁぁっ……!」
膝を折り、こっちに寄りかかってくる彼女の目元は、むしろさっきまでよりも濡れていた。
だから笑ってくれっつってんのに。
……でも、まあ。こういう涙なら、たまにはいいのかも──
「取り込み中のところ、失礼」
余韻なんて、一瞬で吹っ飛んだ。
「……………冗談だろ」
聞き覚えのある声だった。
知り合いかと言われると頷けないが、因縁のある相手だった。
つい数分前まで、通信機越しに相対していた男だった。
「無論、冗談などではないとも。すぐに出迎えると言っただろう?」
「だからって、わざわざ
国連直下の
その総本部とは、すなわち地球最強の精鋭が集う場所に他ならない。
そんなエヴァルド=ロザン大佐が、完全装備の一個中隊を引き連れて立っていた。