未確認生物から女の子を守った結果―― 作:対魔忍佐々木小次郎
「……随分と御大層なお出迎えで」
「いや何、
地球防衛軍。
姿勢良く、規律良く。
だけど感じる確かな威圧感に震える。
完全装備。
大佐を除いて目に見える全員が銃を俺達に向けている。
銃口から放たれる威圧感から守るように姫様の前へと身体を出してみればなおさら。
同行勧告?
んな優しいもんじゃねぇ、こいつらは――。
「ふむ、分かっているようだ。そう、我々は君達を殺してでも連れて行く」
「っ!?」
後ろで身体を震わせている気配。
すまねぇ……俺はそれからも守りてぇのに、頼りなくて悪い。
強制連行、生死は問わないってか?
がりっと言う音が頭に響く、知らない間にちょっと強く奥歯を噛み締めすぎた。
「無論先程言った言葉に嘘はない、大人しく同行してもらいたいという言葉にはね」
「はっ! その割には、殺気しか感じねぇけど?」
強がりだってわかってる。
でも仕方ねぇだろ? あんだけ強気な姫様がこんだけ震えてる。
それはきっと向けられているあの銃口のせい。
大佐から、周りの兵たちから感じる殺気はもちろん。
何より禍々しく、あまりにも危険な何かを向けられているってわかる。
……この場を、どうすればきり抜けられる?
どうすれば姫様を守ることが出来る?
「獅子は全力で兎を狩る。兎が鹿であろうと何であろうと、全力で。それは何故かわかるかね?」
「さて、生憎動物の気持ちはわからねぇもんで」
んなもん家族のためにしくじられねぇからに決まってる。
手を抜いて失敗してしまえば誰が家族に肉を持ち帰るんだ。
「ご名答、ご明察。そう、我々とて同じだ。人を、家族を守るために全力を尽くす」
「そうかい、そりゃ立派なこった」
逃さない。
そういうことだろう、わかってる。
抵抗するか、否か。
生きるか、死ぬか。
「そうだね、ならばこうしようじゃないか」
「……あん?」
それでもこうして何かを委ねようとしてくる理由は何か。
それはきっと俺が動かないから。
抵抗も、屈服も選んでいないから手を出せない。状況的に、罪状的にカードが揃っていても確証を欲しているから。
無抵抗の存在を力でねじ伏せてはいけないから手を出さない。
要するにそういうこと。
だがこいつの顔は不気味な笑みを浮かべていて。
早く抵抗しろ、そうすればねじ伏せられる。
そんな大義名分を欲しているんだ。
「君は人間……いや、元人間なのかも知れないが。もしも君がここで彼女を差し出せば……連行は変わらないが君の命は保証しよう」
「はっ?」
何いってんのこいつ。
いやいや、わかってる、わかってる。
それって要するに。
「モルモットが欲しいだけだろ……!」
「どうかな? もしかすると人間に戻れるかも知れないぞ?」
はん、そんな望んでもねぇことに誰が……。
「その話は、本当?」
「っ! 姫様!?」
いやがった……っ!
っておいおい! 何に反応してるんだよ!
何覚悟決めそうな顔してんだよ!
「私は嘘が嫌いだ。命は保証する、ただ戻れるかは可能性しかない」
「それでも……ほんの一握りでも可能性が……ある?」
やめろ、やめてくれよ……!
そうじゃねぇ、そうじゃねぇだろ姫様!
俺は、お前の騎士だ。
姫が騎士のために命を投げ出そうとしてどうすんだよっ!
てめぇも大きく頷いてんじゃねぇ!
残念だと思うならそんな事言ってんじゃねぇよ!
てめぇが獅子だと、狩人だというのなら、らしく全力で俺達を狩りに来いよ!
「ねぇ……」
「あぁ、そうだな……わかったよ」
いいさ。
安心してくれ姫様。
そう、その頷きは正しい。
ほっとしておいてくれ、大丈夫だそのままで――
「うおおおおおおおおおお!!」
「っ!?」
――俺は、人間であることを諦めたから。
「抵抗の意思を確認っ!! 射殺許可っ!!」
「待ってっ! 待ちなさいよっ!!」
「うるせぇっ!!」
変わっていく。
俺の足が、腕が、身体が変わっていく。
なるほど、そうだな。
俺は確かに兎だった。
命の行方を他者に左右される獲物、まさにその通りだった。
「っ!?
「見ればわかる……クク、そうか。そうでなくてはな」
兎で駄目なら獅子となれ。
ヒトで駄目なら真に騎士となれ。
ただ守りたいものを守れるモノとなれ。
変化しろ、進化しろ、望む自分に為り至れ。
──俺の身体よ何よりもただただ騎士となれ。
そうすりゃ、ほら。
笑えるだろ? さっきまであんなに驚異として感じていたアレにさえ。
抗える。
「でりゃああああ!!」
地面を変化させた左腕――大槌でぶち殴る。
そうすればまるで爆発したかように地面が弾けた。
「ぐ、むっ!」
「逃げるぞ姫様っ!!」
「待って、待ってよ!! アンタ――もがっ!?」
あーあーうるせぇうるせぇ。
姫は騎士に黙って守られてろい。
つま先に
空気抵抗を限りなく受けないように、身体を鋭く。されど、右腕に抱えた姫様を守れるように。
身体に響く衝撃はきっとあの玩具から放たれたモンだろう、カンカンとうるさい。
自分の耳へと響く音は明らかに人体に流れる音色じゃない。
だけど、構わない。
「お前を守るためならっ! 俺は何にだってなってやるっ!!」
「――!!」
抱えた手を、腕を離さない。離すつもりもない。
騎士。
それも極めて独善的な。
それで良い、だから良い。
こんな身体になっても伝わってくる温もりを、失うよりよっぽど良い。
「アンタねぇっ!!」
「あーはいはい、わかったわかった。見つかるとやべぇからちょっと静かにしてろっての」
木々に身を隠しながら目指すは秘密基地。
裏山を囲うように
飛んで逃げるかと翼を生やしてみたけど、流石に飛ぶという行為を理解していない俺には無理だった。
今の俺なら一人二人を突破するのは簡単かも知れないが、姫様がいる以上難しいし、展開された数は一人二人じゃない。
要するに二択。
あいつらが自主的に居なくなるか、俺がこの手で消すか。
不思議な気分だ、多分ちょっと前までの俺なら人を殺すって発想に何かしら思うはず。
だけど今、まったく躊躇を感じない。そんな思考に拒否感を覚えない。
こんな身体になった代償だろうか。
どうも、殺
あるのはただ一つ。
姫様を守りたいって思いだけ。
それを遂行するためになら、きっと俺は何でもするだろう。
「っ~~! もう! 後でちゃんと聞きなさいよっ!?」
「あぁ、喜んで」
はは、そうそう。
あんたはそんな顔のほうがよく似合う。
さっきまでの顔よりずっと、ずっと。
「……で? 何処に行くの? この山からは出られないみたいだけど」
「言わなかったっけ?
正確には対厄災避難施設。
地球防衛軍が人類の牙だとするなら、シェルターは人類の盾。
一度入ってしまえば内側から開けない限り外からは絶対に開けられない様になってる。
だから良く近所の悪ガキがそこに立てこもって親を泣かせるなんて光景があるんだけど、まぁそれはいい。
「なるほどね。一旦態勢を整えるわけね……だけど、あいつらだって馬鹿じゃないでしょ? 当然入られないようにされてるんじゃないの?」
「だろうな、だから強行突破する」
「……」
……あれ? 驚かないの? むしろなんでそんな悲しそうな顔してるの?
「……ごめんなさい」
「何に対してかわかんねぇよ」
あぁ、本当に。
わからないさ、わからないってことにしてくれよ。
「~っ……わかったわ! なら行きましょう!」
おう。
そうだよ、話ならそこで出来る。
喜ぶでも怒るでも、悲しむでもなんでも。
まずは姫様の無事を確保してから、いくらでも出来るさ。
そのために、俺はこうなったんだから。
シェルター。
一見普通の山小屋に見えるそれ。
中に入れば地下へと続く階段があって、その先に目的の場所がある。
だけど。
「やっぱり……居るわね」
「あぁ、予想通りってな」
目視で確認できるのは八人。
ステルスで姿を消しているのを入れたら十人、か。
遠視鏡へと変形させた左目、感知センサーへと変形させた右目で確認できるのはそれだけ。
これが少ないのか、多いのかそれはわからない。
だけど、あの場を抜けてからそう時間は経っていない。
隠れながらとは言え真っ直ぐにここへと向かってきた俺達より早くここに来るのは、それこそ瞬間移動でも出来ないと無理だろう。
強行突破で山から離れる可能性だって考えなきゃいけないあいつらだ、今ここにいるやつらが全員だと考えておく。
まぁ、増援やらなんやらが来た時はその時、ぶち殺せばいいだけだから。
「で、行くの?」
「当然だろ。もちろん、俺一人で」
一瞬反論しそうになる姫様だけど、まだ完全に力が戻っていないのは
自分のことだ、当然姫様だってわかってるだろう、だから唇を噛み締めてるんだ。
とはいえ。
「よっ……と」
「ちょっ!? 何をっ!?」
右腕を剣に変形させた左腕で切り落とす。
そしてその右腕を変形させて、
「大事にすっぽり被っとけよ? 俺のお手製なんだから……腕だけに」
「ば、ばかっ! 洒落になってないわよ!」
あーはいはい、静かに静かに。
また生やすことは
それだけは俺の
「ひゃんっ!? ってちょ!? やめ、やめ……にゃ、そこは……きゃん!?」
「おーおーなるほどなるほど」
被ってもらったクローク。
それをもにゅもにゅと動かすことが出来た、なんかとっても柔らかい感触がしたのは気の所為だろ、ごちそうさまです。
「いい加減にしなさいっ!」
「へぶっ!?」
痛ぇ……なんだよ姫様の拳はあの玩具以上ってか? ……やるじゃない。
と言うか何やってんだ俺は、うるさくしちゃ駄目だろ……うん、大丈夫か?
「ごめんごめん、ちょっとした場を和ませるジョークだよ」
「……スプラッタで変態的なジョークは遠慮したいわ……」
いいじゃん、安心してくれたみたいじゃん?
だったら大成功ですよ、ドッキリじゃないけど。
それにそれ。
俺の元腕だけあって頑丈なんだぜ?
まぁ、とりあえず。
「んじゃ、行ってくる。ちゃんとソレ大事にしてくれよ? 後で返してもらうんだから」
「……うん」
うっし、覚悟完了っと。
同時に身体を槍に変える、えらく大きい上に足が生えてるから多分傍から見たらすっごく気持ち悪いんだろうけど気にしない。
足先の爪を鋭く、頑丈に、伸ばす。
地面を踏みしめる。
そして。
「っ!?」
「はい、一人目っと」
思い切り踏み切れば、一人投槍の完成だ。
風を切り裂き、腹を貫いて。出来上がったのは焼き鳥もびっくり人間の串刺し。
頭から滴る血の塊は気にならない、生暖かさを感じる暇もない。焼いて美味しそうとも思わない。
「き、きさっ――」
遅いねぇ、遅すぎる。
着地した勢いのまま首を振れば、刃となった穂先が刺さっていた腹を裂いて、もう一人の首を跳ねた。
スローカメラに変えた瞳は世界をより鮮明に映した。
駄目だろ? 軍人だろ?
まずは報告、異常を知らせなきゃ。ほうれんそうって知ってるかい?
「ヤツだっ! ヤツが――」
「ま、させないけど」
槍から戻って、髪の毛を抜き投げる。
そうすりゃその途中で鋭い針となって兵士の喉を貫いた。
「ぎっ!?」
「あぐっ!?」
ついでにめんどくさそうなステルス君にもぽぽいのぽいっとね。
うんうん、これで無線持ちは全滅かな?
いやぁ、便利だねこれ。
「この、厄災がぁっ!!」
おっといい音するねぇ。
ていうかもうあの
まぁどっちも同じ。
ただの玩具に変わりはない。
「でもまぁ姫様になんかあったら嫌だし……」
「な、なっ! ひぎっ!?」
はいっ! 腕、スポーンっ!
剣を持ってた腕を引き抜いて、そのまま剣をゲットだぜ!
そしてー?
「や、やめろ……やめ、やめ」
「何で?」
なぁにを言ってるのかねこの人は。
遠慮なく俺の首目掛けて剣振って来ておいて命乞いとは情けない。
「お、れ……俺には、か、家族が……今年五歳になった、娘が……」
「ふぅん」
家族、家族かー……そりゃ大変だ。
嫁さんに娘。うんうん、大事だもんな、大事にしてやれよ?
俺だって大事にしたいモンだからな。
「そっか、なら仕方ないな。死ね」
「えっ……」
そうだよなぁ!? 大事だよなぁ!?
俺にとって姫様が大事なように! 大事なもんは誰だってあるよなぁ!?
それを奪おうとしてるってことはさぁ! てめぇも奪われて仕方ねぇよなぁ!?
間抜け、間抜けすぎるぜ!?
「や、やめ、あ、あ……あああああああああああ!?」
はぁいこの剣はどんな剣かなー?
おや? とても良いですねーナイスですねー切れ味抜群ですねー。
あらあらまぁまぁ。
奥様? こんなに切れ味が良くて、切ったところから一瞬で身体が消滅するこの剣! 今ならたったのプライスレス!
「なぁんてな!? はは! ははは! はハはハハはははハハハハ!!」
そうだ。
そうだそうだ。
そうだそうだそうだそうだ!!
てめぇらの命なんざ姫様に比べりゃタダも同然っ!!
惨めに、無価値に!!
この
「死にさらせぇ!!」
……――そうして。
どれ位時間が経ったか。
どれ位何かを殺したか。
「……お疲れ様」
「……」
止めてくれたのはやっぱり俺の大事な人。
背中から感じる温もりで、ようやく落ち着くことが出来た。
見渡せば、赤くないところの方が少ない。
「あぁ……これ、俺がやったんだ」
熱病に浮かされていた。
そんな風に思う。
それでもこの光景に対して悲しいとか、後悔とかそういう気持ちは持てなくて。
何も感じないという自分に対してだけ、悲しいと少し思った。
「……行きましょ?」
「うん」
二兎追う者は一兎も得ず。
金の斧と銀の斧は同時に手に入らない。
何かを得ることで、何かを失うなら。
きっと俺は――
「私は、あなたが何に変わっても、あなたを大切に想ってるから」
「……うん、俺も、お前のことが大事だ」
――ありがとう。
いつの間にか振ってきていた雨。
きっと周りに広がる赤も、これで流れ落ちていくんだろう。
そうしてなかったことになっていく。
なら俺もまた……。
「えいっ! ……もうっ! やっぱりアンタちょっと背が高いわ!」
「うるせぇな、お前が縮んだんだよ」
頭の上に広げようとしてくれたクローク。
彼女が右端、俺が左端を持って二人で掲げる。
うん、そうだ。
たとえ俺の何かが消えるのだとしても、彼女がいれば、きっと大丈夫。
きっと大切な何かだけは持ち続けられる。
だから。
「これが……」
「そう、シェルター」
小屋の階段を降りた先。
無骨な丸い金属で作られた扉がある。
懐かしい。
俺も良くここで遊んだもんだ。
だからよく知っている、ここがどれ位安全か、
「さ、どうぞ? お姫様」
「……んっ、苦しゅうないわ」
気取って。
騎士らしく、キザっぽく。
そうすりゃ全力で笑ってくれて。
その笑顔が見れたことで俺は十分で。
「ほら、アンタも早く入りなさい?」
「なぁ……ソレ、ちゃんと大切にしてくれよな?」
「えっ?」
その手は離さない。
これで俺はずっと彼女を守り続けられる。
「まっ――!?」
それで良い。
俺は彼女が大事だから、絶対に離したくないから。
扉を閉めた。
「……ふー……」
そう、俺は知ってるんだ。
ここが一度閉まれば、中からも外からも三日間絶対に開かないことを。
「三日かー……」
今頃この扉を開けようと必死になってるかな?
ごめんな? 許してとは言わねぇよ。
まぁ安心してくれ、中にはまっずい保存食で悪いけど年単位で食う分には困らねぇし、風呂だってあるから。
「まずはどうすっかなぁ……」
守りたい。
それしか考えていなかった。
これからどうしたら良いかなんて考えてなかったや。
「でもまぁ……行くか」
扉を背に歩く。
安全の保証を示すかのように、扉の向こうから音は聞こえない。
「行ってくるよ」
だからこの言葉も届かない。
それでいい。
騎士の心は彼女へ右腕と共に。
そして残った俺は。
「厄災として」
さぁ、まずは何から始めようか。
もうあんなことは
あぁ、そうだな、確かにこれは戦争だ。
あんまりにも勝利条件が不透明で、敗北条件だけが明確な。
一人ぼっちの大戦争。