未確認生物から女の子を守った結果――   作:対魔忍佐々木小次郎

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第五話

 失くしたはずの右腕に、不思議なくらい柔らかい暖かさと、一滴の冷たさを感じた。

 そのことに気付いて、彼女の顔を思い浮かべる。

 笑い声が聞こえてきそうなくらい楽しげな表情、言葉を発さなくても伝わるくらい怒気を滲ませた怒った表情、そして、涙を流す、哀しげな表情。

 そのどれもが美しくて、愛おしくて、けどやっぱり笑った顔が一番だなと思った。

 だから、これはそれを守るための戦い。

 あの日、あの時、戦うことすら出来なかった俺に、ただ守られることしか出来なかった俺に、やっと赦された、護る為の戦い。

 俺は厄災で、舞台はこの山で、相手は自分の星の正義の味方と、彼女の星の、大軍勢。

 あぁ、何だか本当に、役者が違うだけで、あの日とそっくりだな、とそう思った。

 あの時あいつは、どんな気持ちでここに立ったんだろうか。

 忘れようとも忘れられないあの戦争を思い出す、あいつの横顔がチラリと脳裏をよぎった。

 いやに奇抜な格好で、機械的なメガネを光らせていやみったらしく笑う、我が親友。

 俺が厄災になったって聞いたらきっと度肝を抜かすだろうな、それから馬鹿かと怒って、そうして理由を聞いて、お前らしいな、と笑うんだろう。

 それなら仕方ないな、と俺の肩を叩くのだろう。

 だから、悔いはない、あるのは決意と覚悟。

 あいつに貰ったこの人生で、彼女に掬われたこの命で、全部終わらせる。

 今度こそ後悔だけはしない、そして彼女にも後悔させない。

 四日目には笑顔で彼女を迎えに行くんだ、何もかも、余計なものは消し去って、幸せな未来だけを勝ち取ってみせる。

 

「さぁいくぜ」

 

 そう独り言ちて、空を見上げた。

 いっそ清々しいくらい晴れ渡った青空には、黒煙を上げる船が一隻、そしてこちらへと空を翔けて向かってくる、数多の地球の戦艦。

 どれもがきっと、想像もつかないようなとんでもない武装を積んでいるんだろう、けど、関係ない。

 山を駆け上ってくる沢山の足音が聞こえてくる、けどそれも関係ない。

 物質を消し飛ばす武装だろうが、銃すら効かない身体だろうが、どれもこれも尽く、平等に──

 

「消し飛ばしてやる」

 

 ドンッ、と力強く地を踏み込んだ。

 流石の俺も、この身ひとつだけであれら総てを殺せるとは思っていない、けれども考えだけはあった。

 あの船の中、飛ばして失くした足の中身を補填した時に、彼女が漏らした言葉。

 "自分の身体でないものを書き換えたの!?"彼女はそう言って、驚いたのだ。

 そう、書き換え。

 俺には難しい原理や仕組みは分からなかったけれども、彼女の放った言葉と、己の感じた経験があれば推測くらいは出来る。

 つまるところ俺は、別の物質を自分そのものに上書いた。

 補填として、己のものに書き換えた。

 何度も繰り返すようだが、全く別のものとして存在している物質を、自分そのものに変えきってから、補填した。

 そう、大事なのはこのプロセスだ。

 ()()()()()()()吸収、一度己そのものにしてから、足りない部分に組み込んだ。

 このことに加え俺は、彼女らドラグの星の民の特性である、自分の身体をある程度の質量を無視して自由自在に変化させる能力を手に入れている。

 であれば、()()()()()()も、出来るんじゃないのかよ───!?

 瞬間、ボコリと地面が盛り上がる。

 イメージだ、イメージ、俺の身体は今、人の身体なんかじゃない。

 もっと歪で巨大な、化物だ。

 不格好でもなんでもいい、ただ、俺の眼前に映り込むこのだだっ広い土地と接続して、俺そのものに書き換える。

 人である俺に変えるんじゃない、そのままの状態で、俺そのものに上書きしてやれば良い───!!

 地面は盛り上がる、まるで胎動するように、無機質的な地面や葉といったそれら何もかもを、己の肉体に書き換えていく。

 足先だった場所から、肉が広がり骨子は伸びて、血流が流れ始める。

 分かる、解る、理解る!

 これは俺の肉体だ、ついさっきまでただの山だったこれは、既に確実に俺の一部となった。

 身体が熱くなる、強大で強力な血のうねりを感じる、徐々に徐々に、己の身体が広がっていく。

 足りない場所を敢えて補わない、ただただ自分に書き換えこの姿で固定する。

 直後、あらゆる感覚情報が脳みそをぶっ刺すように流れ込んできた。

 流れるそよ風、走り回る動物、そして、馬鹿みたいに揃った足並みで向かってくる敵の軍勢。

 

「人様の身体の上をチョロチョロチョロチョロと……」

 

 うざってぇな、近寄るなよ。

 そう呟いてから、意識を研ぎ澄ます。

 腕なのか、足なのか、腹なのか、はたまた内臓なのか。

 これがどれに分類されるのかは良く分からないけれども確実に俺の一部であるそれを、思いのままに()()()()()

 時には刃へ、時には銃へ、時には拷問器具へ、ありとあらゆる()()へ己の身体を書き換える。

 動かしたことなんて無いけれども、動かし方は何となくわかっていた、ちょっとばかしぎこちないが、問題ない。

 この程度、殺すだけなら問題にすら成り得ない。

 すべてを同時に振り下ろす、目には見えなくても、奴らが踏んでいるのは俺の肌だ。

 逃げることすらさせない、抵抗の暇すら与えない。

 疾く、無慈悲に、完璧に、何もかもを、殺し尽くす。

 大きく広がった肌のあちこちで血の沼が作り上げられる、肉片がごろりと転がって、それをただ汚いなぁと思った直後、光の雨が降り注いだ。

 

「ぐ、おぉぉぉあぁぁぁぁあ!?」

 

 あらゆるものを消し飛ばす光が肌に穴を空け、焼き付くような痛みが全神経を駆け巡る。

 視界がチカチカと明滅して、意識がとびかけた。

 そりゃそうだ、肉体に穴を空けられたら当然痛い。

 

「くそったれがぁぁあ!」

 

 反射的に身体を作り変える。

 穴の空いた箇所を起点に、大量の砲門が大きく口を開け、間髪入れずに撃ち放った。

 爆音が次々と鳴り響き、血肉の弾丸はまるで地から落ちる雨のように、空へと降り注いだ。

 何もかもを弾幕で覆い尽くして、しかしそれらが当たるほんの直前ですべてかき消えた。

 嘘だろ──そう思うと同時に、ドラグの船から落ちた光線、そして兵士が振るっていた剣を思い出す。

 そうか、そうだったな、生半可な攻撃じゃ届く前に消されちまう。

 その上こっちの的はでかくて相手の数が多い。

 対人相手なら相当便利だったが、あまりにも不利だ、やめとくべきだったか。

 唇を噛んで思考を回す、あれを一気に叩き潰せて、その上で頑丈かつ機動力がある力、そんな都合のいいものが───あ。

 ある、いや、正確にはそれを創り出す方法が、俺にはある。

 スケールがでかすぎて考えが遅れた。

 そうだよ、さっき俺は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 複雑に考えることはない、同じことだ、ただ切り離す量が多いだけ。

 ぶちぶちと、己の足底だった部分から先を切り離して、それから変えてやる。

 何もかもを受け付けないあのシェルターのように頑丈に、されど俺の思考と同調する力。

 精巧にイメージさえ出来てやれば後は記憶に従って、それをなぞるだけだ。

 俺は研究者だとかが読んでいるような論文だったり、学んでいることだったりは良く知らないが、どう組み立てれば()()が出来上がるかは知っている。

 あいつの後ろでずっと見ていた、時には手伝った、あいつの薀蓄を死ぬほど聞いた。

 あれは小さいものだったけれど、同じ比率でただでかく作ってやれば、それで良いだろう!

 切り離された大地は盛り上がる、抉れた傷は周りを取り込み再生して、山を半分、シェルターから後ろを残すように形を組み上げていく。

 生い茂っていた木や草は盾に、剣に、銃に、鎧に成り代わり、肉の山は鋼の身体へと姿を変える。

 

「科学力と技術力でのバトルなら、やっぱりこれは必須だろ、なぁ?」

 

 そう言って俺は、如何にも金属で出来たような、人の姿を象った、()()()()()()を組み上げた。

 それの肩に乗って悠々と、敵を見る。

 多少不格好なのは許してくれや、そう言って、銃を見立てるように左手の人差し指と親指を立てて、前へと向ける。

 それについてくるように、ロボットの左腕が持ち上げられた。

 ロボットの掌がバカリと開く、凝縮された、血肉、骨だったものが変質したエネルギーが渦巻き今か今かとその輝きを増していく。

 

「ばきゅん」

 

 あまりにも軽く言葉を飛ばすと同時、赤黒い極光は解き放たれた。

 目が眩むくらいの明るさと、恐怖を抱くような悍ましい光を放ちながら空を駆け抜け、そして当たる寸前で()()()にぶち当たった。

 透明な空間が激しく歪んで、衝撃音が鳴り響く、が、関係ない。

 

「ぶち抜け」

 

 言葉と同時、障壁は硝子のように砕け散り、眼前に広がっていた多数の戦艦は一瞬にして消え去った。

 多少威力が高すぎるかな、とは思ったがこれは星に住む多くの人との戦いだ、これでも足りないくらいだろう。

 蟻みたいにぞろぞろと、奥から溢れてくるようにやってきた戦艦がその証拠だ。

 少しの不安が頭を過る、それを無理矢理握りつぶす。

 姫をシェルターに入れてからずっと感じられる優しい暖かみをそっと抱き寄せて、

 

「俺は厄災だぜ、止められるものなら止めてみな」

 

 と言って、ニヒルに笑った。

 

 

 ───それから、どれだけ経っただろうか。

 いや、現実逃避は止そう、まだあれから、一日も経っていない。

 時間にして言えば12時間も経っていなかった、太陽は沈んだが、月光が俺を照らし出す。

 戦った、闘った、戰った。

 あらゆる手段を用いた、あらゆる武器を用いて、あらゆる発想を用いて、何もかもを叩き殺した。

 斬り、穿ち、裂き、貫き、潰し、しかしそれでもまだ足りない。

 折角作り上げたロボットも、もう完全に朽ち果てている。

 性能だけで見ればそれこそ地球の科学力にだって負けていないと確信できたが、それでも数の差ってのは大きかった。

 大量に叩き潰せたのは良かったが、それでも反動のダメージでこのザマである、便利な能力ではあるが、万能ではない。

 ちょっと調子に乗りすぎた、素直にそう思ったがそれでも折れるわけにはいかなかった。

 彼女があそこから出る前に、俺は彼女にとっての平和を、掴み取らなければならないのだ。

 だから、だから────

 

「ここで俺が終わる訳には、いかねぇんだよ!!」

 

 同時、地を踏み蹴った。

 跳躍、ではなく飛翔。

 丸く輝く月を背に、スラスターを生やして血液を燃料に空を舞う。

 毎度ながら不格好ではあるが、翼を生やして飛ぶってのが上手く出来ないんだから仕方が無いし、そもそも翼をはためかすってのが非効率的だ。

 的は大きくならないし、それに何よりこれなら速く、上手く動ける、だから、戦闘機にだって、追いつける。

 飛び交う戦闘機の羽を掴んで叩き割る、同時に変換、吸収。

 中の人ごと呑み込んで、そのまま己に変えていく。

 流石に半日も戦い続ければいくら俺でも学習する。

 まず喰わなくても吸収は出来る、コツさえつかめれば、触れるだけで変換できた。

 そして何より、一人ぼっちでの戦い方。

 馬鹿みたいに大きくなれば良い訳では無いのだ、アホみたいに派手になれば良い訳ではないのだ。

 この能力は幅広い力があるけれども、真価はそこには無い。

 というか今更俺が複雑なことしたってそれを使いこなせる訳ないのだ、だから、ただただ純粋に己に書き換えて吸収し尽くす。

 吸収がイコールで欠損箇所の補填にはならない、折角自分の身体を作り変える力があるんだから、動かし慣れた身体の見た目は変えず、ただ中身を凝縮させて肉体そのものの格を上へと引き上げる。

 己をもっと高みへ持っていかなければならない、そも、相手はまだ全力ではないのだから、尚のことだ。

 だってそうだろう、あれだけ大口叩いておきながら、俺は()()()()()()()()()()()

 厄災ってのはただ強大な力とか、そういった目に見えた暴力的な脅威のことを指すのではない。

 かつてのあの日、十年前に起こったあの戦争のように、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を、人は厄災というのだ。

 であれば、《対世界的厄災撃滅機関》と銘を打つ彼らがまだ全力ではないことは自明の理だった。

 まぁ、彼らの装備と良く似たものを俺はずっと前、それこそ十年前から()()()()()から、そう思うだけかもしれないが。

 それでも、この考えは決して間違いなんかじゃないだろう、その確信がある。

 あれだけ大見得張って進化を遂げたとあの偉そうな大佐様が言ったのだ、底はまだまだ尽きてなんか無いだろう。

 あの世界から、科学力を手に入れたのであれば、まだまだ色んなものが出てきてもおかしくないはずなのだ。

 だからこれはまだ、前哨戦。

 あちらもこちらも、互いの限界を図っている。

 今のうちにもっと溜め込まなければならない、限界まで、いや、限界を超えても尚、どこまでも。

 彼女を護るために、何もかもを奪い、糧とする。

 大きく吠え声を上げながらもう一機、穿ち落として全てを喰らう。

 パイロットの首を手折って投げ捨てる。

 ドチャリと落ちた音を聞きながら、戦闘機の羽の先から少しずつ、呑み込むように取り入れていれば、不意に声がした。

 機械的な音声が、コックピットの無線機から響くように聞こえてくる。

 

『あーあー、聞こえているかね、厄災候補君』

 

「また、あんたか。もう話すことは、ないと思うが」

 

『そう連れないことは言わないものだ、それにこれは、君への温情なのだから』

 

「温情……? 何を今更」

 

 そう吐き捨て無線機を壊そうとすれば、焦ったような声が響いた。

 まぁ待て、話しだけでも聞くべきだ、と彼は言い、仕方なく無線機を拾い上げる。

 

『これは所謂降伏勧告というやつだ、我々は既にドラグの戦艦長とは話をつけた、これからは我々二つの星が君等を狙う。逃げ場はもう、無いのだよ』

 

「そんなものは最初からいらねぇよ、お前らが消えれば、それで良い」

 

「───あぁ! 君ならそう言うと思っていた、だから今のはただの前置きだ、ここからが本題だ、まだコックピットは生きているかい?」

 

「あぁ、まだ残ってる」

 

 そう応えた瞬間、大きく開いたコックピットの機材から、ホログラムが虚空へ投射された。

 そこに映っているのは───シェルターに一人でいるはずの、大切な人。

 その彼女が今、あいつらに捕まって銃を突きつけられていた。

 頭が赤熱する、それに追随するように何故、どうして、といった感情が渦巻き犇めき合って、思わず動きを止めた。

 

『驚いてくれたかい? そう、君が開かないと信じ切っていいただろうシェルターは、開かせてもらったよ。我々の技術力を持ってすれば、当然のことだ』

 

 無線機から零れてくる音が耳を素通りしていく。

 吐き気すら催すような感情の中、冷静になれ、という己の意志だけで全てを抑えつける。

 過去を悔いても仕方がない、今俺にできるのは、これからどうするか、だ。

 今、彼女はどこだ? どうすれば、助けられる?

 それだけを思考に張り巡らせる。

 

『必死に救助しようとなっているのかな、でも無駄だ。君がこの場で抵抗を止めると宣言し、拘束を受け入れなければ、彼女は直ちに射殺する』

 

 くそ、くそ、くそ、どうすれば良い、どうすれば。

 俺が降伏しても、きっと彼女は殺される、抵抗しても、殺される。

 手詰まりだ、畜生、畜生、畜生!

 冷静になりきれない頭の中で怒りと悔いと哀しみだけが連鎖して渦巻いていく。

 完全に打てる手が無くなったことを認めたくなくて奥歯を噛み締めた。

 

『判断の時だ、十秒くれてやろう、確り考えろ』

 

 そう言ってやつは一秒一秒、余裕たっぷりに唱え始めた。

 無慈悲に数字は減っていく、未だにどちらを選ぶべきかは分からない。

 どうすれば、どうすれば正解なんだ、この二つの選択肢がどちらも正解じゃないのは解っているのに、これ以外の選択肢が見当たらない。

 ぐちゃぐちゃに思考が固まって、ついには停止した、思考は全く進まなくて、判断が下せない。

 

『3,2,1───』

 

 終わりだ、ここで、終わり。

 カウントは終わり、その瞬間彼女も死ぬのだろう。

 失敗した、失敗した、失敗した。

 俺のせいだ、俺のせいで────その瞬間、ふと、暖かい感触が右手に触れた。

 そっと何かに抱き寄せられて、人の身体特有の優しく柔らかい感覚が腕を包み込む。

 これ、は、彼女の──?

 弾けたようにホログラムを見る、そこに映る彼女の姿はぐったりとしていて、手には何も持っていない。

 バチリと頭の中で何かが弾けた、同時に、何時だったか聞いた、()()()の言葉を思い出す。

 

 《この時代、この世界のレベルは低いね。冷静に分析しても、僕の知りうる技術を全て提供して、どれだけ上手く行っても僕の時代と世界の水準まで上がるには後ざっと一千年は必要なんじゃないのかな》

 

 そうだ、あいつは確かにそう言ったのだ。

 もしこの言葉だけなら、不安でたまらなかったが、今俺の右手はまだ彼女の元にあって、あのホログラムには映っていない。

 つまりはそういうことなのだ。

 彼女は無事で、当然シェルターは開いていない。

 あっちの世界でも天才扱いだったと自称してたあいつのお墨付きもあるんだ、であれば、やはり3日は絶対に開けられない。

 あの日あの時、少しの間だけ交わりあった、果てしないほど遠い世界のシェルターが、開くはずがない。

 たかだか十年、あの世界から技術を、科学を手に入れたであろうあいつらの手は、まだ届くはずが無いんだ───!

 

『0だ、覚悟は決まったか?』

 

「覚悟を決めるのはそっちだろ詐欺(ペテン)野郎」

 

『何を──?』

 

「生憎俺のお姫様にはちょっと重めのお守りを持たせていてな、理解るんだよ」

 

『それこそハッタリだろう、良いのか? 我々は、殺すぞ?』

 

「やってみろよ、お前らの頑張ってきたその科学力で、技術力で、この世界に唯一の、遙か先の世界のシェルター、開いてみせろ」

 

『────待て、待て待て待て待て待て!! 何故だ、何故貴様がそのことを知っている!? あのシェルターだけが、この世界のものではないと、何故!?』

 

「分かるさ。あの日、真夜中に朝日が昇ったあの時、帰っていったあいつ──厄災と、ずっと一緒にいたの俺だ。お前らの進歩がどれだけ目覚ましくても分かるさ、お前らがあそこまで辿り着いているかどうか、なんて、それくらいはな」

 

『なっ───はぁ? ミッドナイト・サンの、厄災、だと。貴様、それは、一体、どういう──』

 

「どういうも何も、言葉通りだよ。知らなかったか? 厄災には一人だけ、この世界に相棒がいたんだ」

 

『それは、それは知っている! だが厄災と共にいた人間は、あの時我々が殺したはず───!』

 

「残念、それは不正解。正解は、死にかけた所を最低限の治療だけ施されてあのシェルターにぶち込まれた、だ。終わった後、シェルターのあるあの山の中腹でぶっ倒れてたガキが俺だよ」

 

『そん、な、馬鹿な──』

 

「あの時は拾って助けてくれて有難うな、おかげで今、ここに立っていられる」

 

『───────』

 

「じゃあな、もう良いだろ、次に会うのは、お前が死ぬ時だ」

 

 そう言って、無線機を叩き壊した。

 そしてそれを自らに書き換え血肉へ変える。

 何だか語りすぎたな、とそう思った。

 今まで話すことが無かったせいで、思いの外ペラペラと話してしまった。

 お陰で勢いよくかつての記憶が思い返されていく。

 それを振り払うように空を見上げれば、雲海の隙間から輝く星が顔を覗かせていて、いっそう記憶は駆り立てられた。

 

「そういや望遠鏡の使い方も、あいつに教えてもらったんだったっけか」

 

 口に出せば、より記憶は鮮明になってきて、少しくらいなら良いか、と記憶に身を委ねた。

 そう、あいつの第一声は確か─────

 

 

 

 


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