未確認生物から女の子を守った結果――   作:対魔忍佐々木小次郎

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第七話

「ぬおおおおおお!?」

 

 駆け込んだはいいけどさ! やべぇって!? 階段足踏み外した!?

 

「いででででででで!?」

 

 姫様をしっかり抱えながら転がり落ちてみれば。

 

「なんで扉がねぇんだよぉ!?」

 

 え、まじでなんで無いの!? もしかして姫様扉開けたんじゃなくてさ!

 

「こぉんの……おバカ姫!!」

 

「うる、さいわ……バカ騎士……むにゃ……」

 

 あぁ、俺はこんな寝顔を守りたいと……ちげぇ!! ほっこりしてる場合じゃねぇってば!!

 てか変なところで未来越えしちゃってもう!! 俺のためってわかってるから嬉しいけどさ! でへへ!

 

 あーもうっ! 複雑すぎるっ!!

 

「ちぃっ!!」

 

 案の定、あの砂波だ、地面が揺れるってか揺れてる中にいるみたいでその砂は当然ここにも迫ってくるわけで。

 

「わりぃ!! 後で謝る!!」

 

 姫様を放り投げて中へ。

 扉があったであろう場所で、足を鉄杭へと変質。

 

 腰から上を扉……いや、壁に変えた。

 

「来るなら、来やがれっ!!」

 

 地鳴りが近づいてくる。

 流石に後ろの景色は見えない、というか見れても見たくない。

 ただ出来ることは来るだろう耐えなければならない衝撃に備えるだけ。

 

 杭へと変えた足に目一杯力を込めて、どんどん近づいてくる音へと覚悟を決めた時。

 

「ぐぅっ!?」

 

 足がより深くめり込んだ。壁へと変えた身体が軋んだ。

 当然のように口から血液が吹き出たし、目の前で火花が散った。

 でも自分の口から人間と同じ血が出たことに何処か安堵もした。

 

 確かに打撃斬撃に対して強くなった、弾くことが出来る程度には。

 だが衝撃自体は感じるもんで。

 意識を手放さないように必死で繋ぐ。

 

「ぐ……ぐぐぐ……!」

 

 はっきり言って奇跡だろう、一番最初の衝撃に耐えられたのは。

 よく折れなかった、壊れなかった決壊しなかった。

 

 自分で自分を褒めるのなんてなんだか負けた気もするから、姫様が目を覚ましたら存分に褒め称えてもらう所存。

 

 そんな活力足り得る先に想いを馳せながら、衝撃に耐え続けていれば代わりに強くなっていくのは重さ。

 背後に積み重なっていく圧力。

 

 意識は、はっきりしている。

 全くもって嬉しくないが、点滅していたそれは今ではしっかり繋ぎ止め、背にのしかかってくる重さをはっきり教えてくれる。

 

 筋力を耐久力を手に入れたわけじゃない。

 あらゆる力を発揮しやすいモノへと変わる力が手に入っただけ。

 

 要するに、やっぱり今の状況は奇跡そのものとしか言いようがない。

 

 姫様は、まだ目を覚まさない。

 

「はは……目覚めが悪いのは……朝チュンシチュなら最高なんだけどなぁ……」

 

 まぁいいだろう、本懐である。

 守りたい人が目の前にいるならいくらでも耐えてみせるさ。

 

 

 

「ごめんなさいっ!!」

 

 ジト目で見てみれば頭を下げているお姫様。

 

 あの後、正確な時間はわからないけどまぁそれなりに長い時間。

 ようやく目を覚ました姫様の手を借りて壁を生成した。

 

 いやまぁ怒ってるわけじゃないんだよ、ほんとだよ?

 ただこういうポーズをしとけば可愛い姿を見せてくれるもんだから……いや、性格歪んでるな、俺。

 

「いやいや、怒ってないよ姫様。むしろ……ありがとうな?」

 

「ふぇっ?」

 

 正直、こうしてもう一度会えるとは思っていなかった。

 かっこつけて出ていったわりに情けない姿を晒したって自覚はあるんだ。

 頭に響く声へと負けて、自分を失いそうになって。

 

 それでもこうして、俺が俺として姫様に再会できたことに対して、感謝しか沸き起こる感情はない。

 

「そ、そうよっ! 感謝しなさいよね! わ、私のおかげで――」

 

「あぁ、ありがとう」

 

 感謝と言ったな、あれは嘘かもしれない。

 そうだったのならこんなことはしないだろうから。

 

「ちょっ!? えっ!? そにょっ!?」

 

「……ありがとう、な」

 

 腕の中に在る感触は紛れもなく姫様。

 俺の、大事な人。

 

「……あの、ね?」

 

「うん」

 

「私も、ありがとう、ね」

 

 背中に回される腕。

 さっき砂を受け止めてまだ痛むそこを、優しく包むかのように。

 

 あぁ、ありがとう、大事に想ってくれて。

 

 新しく芽生えた想いもまた感謝。

 

 きっと、色んな道違いをした。

 だけど結局、俺達の行き着くところはお互いのここなんだろう。

 

 とは言え。

 

「……もうちょっと、大きければなぁ」

 

「……はい?」

 

 あぁ、うん。

 確かに気持ちがいい、それは間違いない。

 

 土っぽい埃っぽいとは言えど、姫様の匂いは安心できるし最高だ。

 

 だが、しかし。

 

「これじゃあ、なぁ……?」

 

「……」

 

 俺の視線を追うように、姫様の視線は自分の身体一部へと……。

 

「やっぱり殺すわ」

 

「ごめんなさいっ!!」

 

 いやいやいや! どうせ自由自在じゃん!? だったらちょっとサービスしてくれてもいいじゃん! 俺、頑張ったよ!?

 

 あぁ!? そんな目で見ないで!? だったらそうだ! 俺がおっきくしてあげる!!

 

「はぁ……まぁいいわ」

 

「えっ!? 揉んで良いの!?」

 

「あ?」

 

「ごめんなさい!」

 

 はい、落ち着きます。

 ちょっと色々昂ぶっていただけなんです、許してください。

 

「とりあえず……ここ、さっきのシェルターよね? ここに逃げ込んだのは良いけど……どうするの?」

 

「……正直、安全だからって駆け込んだだけだ。今から考える」

 

 そうだな、いい加減落ち着いて考えよう。

 

 俺達は生き埋め状態になった。

 あの砂波だ、多分この裏山一帯は砂に埋れたと見ていいだろう。

 

 およそ、二十メートル。

 そしてあの勢いだ、ここと同じか以下の高さにあった家屋なんかもおんなじ状態だろうな。

 

 そして。

 

「あの艦に乗ってたヤツら……姫様ならなんとか出来るか?」

 

「……正直、半々ね。私はともかく、すでにドラグに対する人的被害が出たことは把握しているでしょう。私の声が届いたとしても、何もせずに、はいさようならは難しいと思うわ」

 

 だよなぁ……それに人類側の事情とやらもきな臭い。

 多分、あの大佐は俺を欲していたと思う。

 それは何のためか、考えは及ばないがろくでもないことに使われるのは間違いないだろう。

 

 要するに。

 

「戦争は避けられない、か」

 

「……」

 

 姫様の表情に影が差す。

 気持ちは、理解できる。

 姫様はどちらにも被害が出ないことを望んでいた。

 ならこの結果は意に沿っていない。

 

「ならそうだな、とりあえず外の状況を把握しなきゃならねぇな」

 

「出来るの?」

 

「一応、壊れてなければ、な」

 

 

 

 本棚の奥にある隠し部屋はロマン。

 変なところで共感した覚えは懐かしい。

 

 一冊抜き取って所定の場所へ。

 そうすれば出てくる眼球認証装置と暗証番号入力装置。

 アイツと俺だけが認められる認証と、知っている暗号

 

「……なんでそんなの知ってるのよ」

 

「あれ?」

 

「うん? 何よ?」

 

「……いや、まぁ、色々な。俺はよく知ってるんだよ、ここのコト」

 

 俺の記憶、知識をコピーしたとか言ってなかったっけ?

 なんて一瞬思ったけど、知らないならその方が良いのかも知れない。

 

 訝しげな視線だけど、気にしない。

 てか人の性癖知ったのに、なんでこっちは知らないんだよ……。

 いやまぁそれもそうなのかもな。

 俺自身、はっきりと思い出したのはついさっき……なんだし。

 

 ともあれ。

 

「H、O、P、E……っと」

 

 希望。

 アイツはいつだって最後にこの言葉で締めた。

 

 たとえば文書。

 たとえば会話。

 たとえば、パスワード。

 

 なんでこうしたのかは最後まで教えてくれなかった。

 ただ、口にすれば望みは叶う、叶えるために動くことが出来ると言っていた。

 だからアイツはここに、この今に希望を求めてやってきたんだと言うことだけは、なんとなくわかる。

 

 スライドしていく本棚。

 その先に見える扉はシェルターの入り口と同質のモノ。

 

「何……これ……!?」

 

「さぁ、な」

 

 扉が音もなく開いて中にあるのは高度すぎる機械。それらがひしめき合うこの部屋だけがまるで違う文明を築いているかのよう。

 それも当たり前だ、この部屋だけは、この部屋だけがあの時のまま。俺達のイマよりも先のイマを刻んでいる。

 

 俺にとっては懐かしく、姫様にとっては未来すぎるこの機械達。

 

 驚きのままふらふらと部屋に入っていく姫様。

 そっと機械に触れては手を離し、未知を知ろうと探っている。

 

「姫様、まずは先にやることやろう」

 

「え、えぇ……」

 

 我に返ってくれたみたいで何より。

 

 さて、と。

 

「……わかる、の?」

 

「あぁ、よくこれで遊んだんだよ。マインスイーパーって知ってるか?」

 

 まぁほんとにそれで遊んだわけじゃねぇけどさ。

 とりあえず起動完了してみれば部屋中のモニタが点灯する。

 

「っ!?」

 

 驚いてる姫様を尻目に、キーボードへ手を走らせてカメラ映像を確認、モニタに描写。

 

「……やっぱ無理か」

 

「外の映像を出そうとしたの?」

 

「あぁ。自立型超小型カメラが山小屋周囲にあるんだけど……ダメだな、全部潰れてる」

 

 たとえば草木に、たとえば小さな虫に。

 そうして設置されたカメラは全て使用不可能、自己修復機能も試してみるが、反応もなく。

 これじゃ周りの状況は把握しようがない。

 

 他に集音装置だなんだを確認するが、どれも応答なし。

 

 不幸中の幸いとでも言うべきか、このシェルターを維持する機能だけが生きている。

 酸素生成、収集装置だとか、食べ物を保存する機能だとか、そういうのだけ。

 

 シェルタードアの強制開放については……言わずともがな、扉自体が無いし、土砂で埋まっている。

 

「二択、だな」

 

「二択?」

 

「あぁ。どうにかしてここから脱出する手段を探す、作るか……ここで誰かに、何かに見つかるまでじっとしているか」

 

 そう言ってみれば姫様は目を丸くして驚く。

 

 まぁそれもそうだろう。

 これで俺達が外の状況を確認するためには、自らが外に出るしか手段がなくなったわけだ。

 だが、外に待ち受けているものが危険であることは確かなわけで。

 

 だから、ここで何かを待つという選択肢。

 

「俺は、あなたさえ守れたらそれで良い。わざわざ戦争大勃発中だろう表に出て、あなたを危険に晒したいとは思っていない」

 

 少し語弊はある。

 姫様が望むなら、それに相対する覚悟はある。

 相対した上で守り抜くという覚悟もある。

 

 だけど、それでも危険に晒すという行為に対しては、躊躇がある。

 

 何かに見つけ出されて、それが姫様に対して害を及ぼすのならば、立ち向かうことも出来る。

 

 でも、まぁ。

 

「愚問ね」

 

 あぁ、そうだな。思ったとおりだよ。

 

「ここで大人しくしていれば、あなたとかき氷は食べられるのかしら?」

 

 そういうあなただから、大事なんだ。

 

「んなもんいくらでもここで作ってやれるけど?」

 

「……バカね、街であなたと一緒に食べたいって言ってんのよ」

 

 知ってるよ。

 

 だから止める。

 このわけがわからないままに始まった戦争を止めると言っているのだ、俺と過ごすために。

 

「恥ずかしいやつ」

 

「アンタ程じゃないわ」

 

 笑い合う。

 お互いバカなことを言ったと、当たり前すぎることだと笑った。

 

「転送プログラムがある」

 

「転送って……まさか生身の身体を何処かに飛ばすことが出来るの!?」

 

 アイツは……アルは。

 いつだって不意にここから飛び立った、淡い光を纏い、同化して。

 そして笑って帰ってきた、失敗したよと困ったように苦笑いを浮かべながら。

 

 今思えば、あれは自分の身体を粒子へと変質させて、その粒子を指定の位置へ飛ばしていたんだろう。

 ご先祖様の同胞、ならばアルもまた俺や姫様に連なるもので、そんな能力を持っていたはずだ。

 

「身体の粒子化は……まぁなんとなくわかる。出来ると思う、後はこのコンピューターで座標を指定するだけのはずだ。姫様が粒子化出来なくても、外に出た俺がここを掘り返せばいいし」

 

「出来ると思うって……ううん、まぁ良いわ。私も多分大丈夫、不思議と出来ると思うから」

 

 いやはや揃ってなんてあやふやな。

 でもまぁ仕方ない、出来そうな気がするから。

 

「じゃあそういうことで……ってこれは?」

 

「あぁ、それ回覧パスワード設定されたファイル。俺もパス知らないから何が入ってるのかわかんねぇんだけど……」

 

「ふぅん……」

 

「気になるならなんか適当に打ち込んでみるか?」

 

 そう言って席を譲ってみればいそいそと座る姫様。

 転送プログラムの検索に時間もかかるだろうし、大丈夫か。

 

 だけどなんでそれだけパス設定されてるんだろ? 俺にも教えないでさ。

 

 まぁどうせアルのことだ、俺の理解できない高尚なご趣味画像でも――。

 

「あ、開けた」

 

「はい!?」

 

 開けたって……え? いやまじで? はい!?

 

「どどど、どうやって!? なんて入力したんだ!?」

 

「し、知らないわよ! なんとなく私の名前を入れたら開いたのよ!」

 

 姫様の名前ぇ!? いやそういや姫様なんて名前だっけかこら!

 いやそういやご先祖様って――

 

『○月○日、どうやら僕は成功したらしい』

 

「は?」

 

「……え?」

 

 流れてくる、音声。

 かつてよく聞いた、アルの声が流れてきた。

 

 

『想像以上に文明は遅れていた。それは一旦破壊の必要があるくらいに。このままでは必要とされる四つ目の戦争が戦争にならないとわかるくらいに。

 為す術もなく崩壊するだろう、絶滅するだろう。それは僕が……いや、僕達の死を意味する。

 だから僕が三つ目の厄災とならなければならないなんて、皮肉も良いところだなんて思う』

 

『教科書に乗った言葉通り、最悪を乗り越えた先に希望は生まれる。それはまさにそうだとわかった。

 この時代は、まず最大ではなく最悪に直面しなければならない。

 暴力、妄執、そして次に直面すべきは技術の裏切り。それこそが必要だった』

 

『予定通り僕は僕に出会った。

 悲しいとは思った、だけど僕ならきっと乗り越えると確信していた。

 ご先祖様となるべき人は間違いなく僕だったから』

 

『そうして技術の提供が始まった。

 最悪を受け入れる、そして乗り越える準備が始まった。

 全て、予定通り、計画通り』

 

『恨んでくれても良い。むしろ、恨まれるために僕はこのメッセージを遺している』

 

『そして姫様。

 どうか僕とこの厄災を乗り越えて欲しい。最後の最後まで信じて欲しい。その先に、幸せは、希望はあるのだから』

 

『最後に、僕。

 君は最後に選択を迫られる。出来る限りのお膳立てはしたつもりだけど、最後に選ぶのは君だ。

 未確認生物から女の子を守った結果は、君の意志によって定められる。

 何度も言うけど、どういう結果になろうと、僕は出来る限りをしたつもりだ。だから君の選択に何もケチはつけるつもりはない。

 たとえ、世界が滅び、未来が無くなったとしても、ね。それが君の希望であることを、僕は祈っているよ』

 

 

「なん、だよこれ……」

 

 流れる音はノイズだけになる。

 そのノイズも前触れなくぷつりと切れて、データ再生の終了をわかりやすく伝えてくれた。

 

「ねぇ? もしかして、あなたは――」

 

 姫様が口を開いた時。

 

「っ!?」

 

 まばゆい光。

 これは……!

 

「転送プログラム! くっそ、姫様話は後だ!」

 

「――っ……わかったわ!」

 

 なんで急に自動実行された!? そんなの指定した覚えはないぞ!?

 

 だけどその疑問は――

 

 

 

「何だよ……ここ?」

 

「……ここ、は?」

 

 包まれた光。

 それが無くなり、姫様と一緒に眺めた景色は。

 

「さ、ばく……?」

 

 あたり一面に広がる砂。

 姫様が零した言葉通り、そうとしか思えない光景だった。

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