現在、ビルスは正座中であった。
理由は目の前の存在が全ての答えではあるが。
「もー、ビルスってば。ダメなのね、勝手に帰っちゃ。」
「も、申し訳ありません。」
ビルスの目の前にいるのは12の宇宙の王。
明らかな子どもでありながら、その身体には全宇宙を容易く消滅できる権能に等しいエネルギーを持つ存在。
その名は全王。
破壊神たるビルスですら恐れるある種の舞台装置である。
実は全王は第七宇宙と第六宇宙の試合を観賞しておりその事を注意しようと
したのだが、一足先にビルスが第七宇宙の地球に帰ってしまった為シャンパに少しばかり八つ当たりをしてそのまま配下と共にやけ食いを終え破壊神の星へと帰ったビルスの元へ向かったのだった。
これに関しては完全にビルスの自業自得である。
「それでね、きょうはね、注意しようと思ってきたのね。」
「は、ははぁ!!も、申し訳ありません!!全王様!!」
「でもね、観てたらね。面白かったの~!
だからね、今度全部の宇宙の戦士を集めてね。
やってみようかなぁ…なんて思っちゃったのね。」
「は、はぁ…。」
「む、何その返事、消しちゃうよ?」
「いい!!?は、はいっ!とっても良い事だと思います!はい!!」
「でしょ〜?それでね、きみの宇宙の人にも聞いてみたいのね。
どこにいけば会えるかなぁ?」
全王は子どもながらの無邪気さでビルスに尋ねる。
これにはビルスは内心大慌てである。
常識で考えればフリーザの方だろう。
だが、あのフリーザがこんな大会に賛同するとは到底思えない。
奴は軍を統べる頭領だ。今回は景品が奴の支配予定地であったから渋々ながらも賛同したものの、長くは軍を離れないフリーザが今度は賛同するとは限らない。
逆に悟空の方はどうか。
あの戦闘馬鹿ならば、全王の提案にもにべもなく賛同するだろう。
が、界王星で会ったことで確信した事だが、あいつは絶望的にマナーというものを知らない。
敬語はめちゃくちゃだった事からそれは良く分かっている。
不敬と言われ、自分ごと破壊される可能性があるかもしれない。
硬い馬鹿と阿保。
二択をビルスは自ら背負いこみ…。
「ち、地球という星ならば会えるかと。」
阿保を取った。
「ふーん、じゃあ案内して欲しいのね!」
「は、はい!!おい!ウイス!!」
「はいはい…では、全王様失礼します。」
そうして、ビルスを引き連れ地球へと赴き悟空から全力の了承を得た全王は初めての友だちを得たのだった。
♠︎
一方のフリーザといえば。
「アハハハ!!」
「流石にやりますね。ですが。」
フリーザは一瞬だけ瞬く。
すると、世界が灰色に染まり21号の動きが完全に停止する。
フリーザはそのまま21号の背後に立ち三発拳を放つ。
そして、再び瞬くと世界は色を取り戻し三発の隕石にも匹敵する衝撃が21号を吹き飛ばす。
「痛ったぁ!!」
とはいえ、魔人ブウと同じボディは衝撃を殆ど吸収する為ダメージは軽減される他フリーザも手加減しているためダメージは痛みはあるものの殆ど無い。
寧ろ、暗殺の技を極め人体の急所に通じたヒットだからこそ21号にまともにダメージが入っていたとも言えるのだが。
「はい、私の勝ちです。」
「あーあ、負けちゃった。ま、いいわ。」
「…やれやれ、私を食べようとはね…まったくなんて娘ですか。」
惑星フリーザへと戻ったフリーザはまず21号の紹介を部下に通達した。
…とはいえいくら流石の歴戦の部下でもいつの間にか娘をこさえた上司には驚きの声が絶えなかったのだが。
その後、職場案内を済ませた矢先21号が唐突に言った。
「ねぇ、パパ。一度手合わせしてくれないかしら?」
やけに妖艶な笑みを浮かべて言ったことに多少違和感を感じたフリーザだったが、ヒットの時に活性化したであろうサイヤ人の細胞の熱がまだ冷めていないのだろうと思い快く承諾した。
ルールは背後に一発でも攻撃が当たればアウトという単純なもの。
そして、訓練室へ向かい構えを取った21号の開口一番がこれである。
「あ、パパ。もし私に負けたら食べちゃうから。」
そう言って、合図も無しに突撃してくる娘の攻撃はヒットの戦いで経験値を得た為鋭さは増したもののそれでも戦闘経験はその一回のみ。
そんな彼女が戦闘のエキスパートたるフリーザに勝てる筈も無くあっさりと通常状態へと戻り今に至る。
「それで?どうしてこんな事を?」
「だってパパがとっても美味しそうだったから…食欲が抑えられなかったの!」
「……やれやれ。」
「あ、これからも定期的になるかもしれないからよろしくね?パァパ?」
「…はぁ、これは思わぬ拾い物だったかもしれませんねぇ。」
おおよそ親子とは思えない会話ではあるが、21号はそのやりとりの中で何とも言えない安らぎを感じている事などフリーザには知る由も無いのであった。
♠︎
「コメソン…ですか。」
あの試合から数日が経ち、宇宙にも多少の平穏が訪れたある日。
フリーザは惑星ポトフへの視察に赴いたドドリアが封印されていたコメソンという兵器を誤って解き放ってしまったという報告を受けていた。
更に部下によれば、形状は紫色のスライムのようであり
ドドリアを飲み込んですぐにドドリアそっくりに変身したという。
今は共に視察していたザーボンがそのコメソンを食い止めてはいるものの
本体を叩かないとドドリアの存在が消失するという情報を聞かされフリーザへと応援を求めた次第だった。
その部下はドドリアの部下であり、もう何年も世話になっているという。
厳しいながらも熱血に熱心に指導し、訓練が終わればいつも自分の金で部下全員の飯を奢ってくれる。
そんなドドリアを失いたくないという懇願をフリーザは聞き入れ
部下が乗ってきた小型ジェットに兵器ならばと21号とビッグゲテスターを引き連れ惑星ポトフへとワープした。
「フ、フリーザ様!!?…も、申し訳ねぇ…!!」
ジェット機から降り立ってきたフリーザに対しドドリアは驚きと共に自らの不甲斐なさを謝罪する。
その体は大分すけ始めており一刻の猶予もない事が見て取れる。
「ドドリアさん、次はありませんからね?もっとあなたは周囲を見なさい。」
「へ、へい…。」
「21号。」
「はぁい。…あ、いたわ。そこよ。」
フリーザは21号に指示を出し、21号は魔術の探知によって直ぐ様コメソンの本体を特定する。
フリーザはその座標に狙いを定め、念力でコメソンのコアを握り潰し
それと同時にビッグゲテスターが解析を終了させ21号は溶け始めた複製されたドドリアとコメソン本体をお菓子に変えそのまま一口で食べ尽くす。
コメソンの本体はそのまま21号を複製しに掛からんとするが逆に魔術によって持たされてしまった悪の意志を含めた存在の全てをバラバラに分解され無事に21号の養分となった。
「んー、まぁ65点ってとこかしら。少し脂っこいのが難点だけどこれはこれでいけたわね。」
「てめぇ…じゃなかった、21号!それは俺が脂っこいとでも言いてえのか!?」
「あら、ごめんなさい?てっきり自覚しているかとばかり思ってたわ?」
「くくくっ!!自業自得だぞ、ドドリア!」
「うるせぇ!」
『解析終了だ…が、これは軍で扱えそうには無いな。食べて正解だった。』
コメソンの脅威があっさりと終了し、談笑を始める部下達。
そして、ポトフの100年以上続いたコメソンの脅威がようやく終わりを告げたとわかったポタージュは安心で腰を抜かしてしまっていた。
ともあれ、これで惑星ポトフはようやく一つの星として成立するようになったのだった。
その後、ポタージュはフリーザに惑星の権利を完全に譲渡。
コメソンという最大の爆弾を隠していた事を謝罪し責任を持って星から退去する事を決断した。
とはいえ、星の元の景観を取り戻さなければこの星の商品価値は無いも当然。
そんな訳でフリーザはそのままポタージュを現場監督へと任命。
ドドリアの処罰とザーボンへの特別ボーナスの為にポトフから飛び立つのだった。
因みにドドリアには給料の5%の減俸を二ヶ月。
ザーボンには惑星リゾートの中にあるエステでも最高額の場所の無料券が支給された。
ドドリアは自らを反省し、更なる力の研鑽を。
ザーボンは早速エステへと向かい更なる美の研鑽を行った。
そして、ベビーのラボが取り壊された跡地にリニューアルし創り上げられた21号のラボではコメソンの解析結果から新しい装置を作らんとフリーザ、21号、ビッグゲテスターが構想会議へと入っていた。
「しかしコメソンとやらの複製にはいささか惹かれるものがありましたねぇ。」
「といっても複製し過ぎたらアレの二の舞。…つくづく欠陥品ねぇ。」
『ふむ、では存在感が消えたという方に視点を変えて…こういうのはどうだ。』
ビッグゲテスターが表示したソレに2人は悪どい笑みを浮かべる。
「ふむ、悪くありません。」
「いいんじゃ無いかしら?…それじゃあ早速取り掛かりましょうか。」
こうして、3人の天才の暗躍は密かに進行していくのだった。
紹介コーナー
・フリーザ
娘が自身を物理的に食べようとしてくる。
・21号
実は愛情の裏返し。
食欲と愛情がごちゃ混ぜになった結果である。
ずっと強い父でいて欲しいけど、それはそれとして食べたい。
・ビッグゲテスター
21号の加入によって更なるアップデートを地味にしている有能。
コメソンのデータから新たな発想を得る。
・黒の男。
本編では出番なしです。
要望があれば番外編で。
「何故だ……。」
・自称神
上記に同じく。
「何故だ…!」