たとい、エースと呼ばれても   作:丸亀導師

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第5話 宇宙へ

ヤマトの発進シーケンスに入っている。最初は皆、落ち着きのない対応だった。そりゃ、実戦経験の少ない新兵の集まりのような集団だ、こんな重要な役職に着いたことがあるものは何人いることか。

 

沖田艦長が降りてこなければ俺、私が一喝しなければならなかったが、幸か不幸か、沖田艦長が現れたためこっちはやらずにすんだ。

 

発進するのだが、私は役職上、操艦するわけでもなければ、主砲の射撃号令を跳ばす訳でもない。

航空機のパイロット兼教官であり、戦術オブザーバーだから、今私に出来ることとすれば士気を高める位かな。

 

それは、良いとして真田君が私の事をジーっと見つめてくるんだ。なぜ緊張していないのか?とでも聞きたそうな顔をしてやがる。

流石の真田君も『こんなこともあろうかと』なんて言えない状況なのか。

 

「随分と落ち着いておられますね。やはり実戦経験が長いとこう言うことになれたりするのですか?」

 

まさか、本当に聞いてくるとは困るねぇ、何て返そうか。

 

「そうだね、やはり慣れだよ。遊星爆弾なら落とせと言われれば破壊可能だが、巨大な弾頭を持つ砲弾のようなものなのだろう?正直お手上げだよ。

でもね、自分の載っている船を信じるのが船乗りなんじゃないのかい?

まあ、俺は船乗りじゃないけどな。」

 

そう言って艦橋から出ようと試みる。

 

「岩本君、パイロットたちの事を頼んだ。彼等は船には慣れていないからな。」

 

「了解しました。必要とあらばランニングでも何でもさせて、船に慣れて頂きます。それでは失礼します。」

 

ナイスゥ沖田艦長。正直あの空間に俺がいてもやれることなんて何にもないからね。だったらパイロットたちをからかってやる方が有意義な時間だ。

 

廊下を歩くと多くの乗組員に出会う。会うたび敬礼をされるのはもうなれたが、有事の際は忘れても良いと思うんだが、ここがこの国の軍隊の官僚的な部分か。

 

 

そうこうするうちに、パイロットの待機室に到着する。外まで声が聞こえてくる、どうやら動揺を騒ぎで紛らわせようといているな。こりゃ楽しみだ。そうとなったら早速ドアを開けよう。

 

入ったら早速敬礼だ。だが、こいつらにはそれだけで終わらせたくはない。

 

「諸君始めましてのものは始めまして、岩本鉄郎だ。ここにいる連中はみんな船乗りではなく、パイロットとして配属されたものたちだろう。私は君達を応援すると共に、君たちがいったいこの旅でどれ程変わっていくのか。それが楽しみで仕方がない。」

 

「それはいったいどういう事でしょうか。」

 

原作には出てきてないパイロットか。

 

「君は谷垣三尉か、そのままの意味だよ。君達は、それこそ地上勤務が主体だったものたちだ。

従って、この宇宙船という閉鎖空間の中、どれ程自分を保っていられるだろうか。

皆こう思っているはず。『自分は変わらない』と。

だが、変わらざる負えない事態が必ず来るだろう。そのときに折れるか、跳ねっ返るかは君達しだいだと言っておこう。

私が言いたいのはそれだけだ。それでは、各員の奮闘と健康を祈る。」

 

言うことだけ言って帰る。絶対に怒ってるからな、こんな煽るような言葉普通は言わないだろ。

どう思うかは勝手だが、きっと言葉通り変わっていくだろうさ。

 

後ろから駆けてくる音が聞こえる。

振り向くと加藤君がいた。

 

「岩本さん、さっきのアレは何ですか。全員怒りに燃えてますよ。舐められたって。」

 

「それで良いんだ。今はね、いずれ気が付くさ、俺の言葉の意味を。さて、そろそろ時間だ君も持ち場に戻れ、こっちも戻らねばならないからな。」

 

後ろ姿がどう写ったのかはわからないが、融通の効かないやつに見えたかなぁ。本当に不器用にやるしかないな。

 

格納庫の整備士さんたちにあいつらはあんまり礼を言わないから、俺が言いに行かなきゃなぁ。加藤君、確かに隊長は荷が重いけど、整備士は大切にしなきゃだめだぞ。

 

それから方々へ、挨拶をして艦橋に戻ると発進シーケンスのあの場面に出くわした。エネルギー供給が世界中から送られてきているのは、壮観だな。

 

そして…

 

「抜錨!!ヤマト発進。」

 

「さらば、地球よ。必ず帰ってくる」

 

宇宙の彼方イスカンダルへの旅路が始まった。


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