あの後、私に対する周囲の眼はいっそう懐疑的なものとなっていた。ガミラス人を擁護するような部分をより、強調する感情に押し流されているのだろう。
そりゃそうだ。自分達の信じていたことを、上のやつが悉くメチャクチャにして、あまつさえ戦争の原因の一端が自分達にあると言うことを認めたくないのだから、当事者である私に、その矛先が向いていくのは必然だろう。
だが、これでメルダに対する風が少しでも和らぐのではないだろうか?いや、むしろ風当たりが強くなってしまうかもな。
だとするとあまり擁護しすぎない方が良いのか?う~ん。イカンイカン。メルダのことばかり考えているな。
あの子にそんなにも似ていたのだろうか。
気が付くと格納庫にいた。
おいおい、冗談にもほどがある。
そんなに深く考えていたか?おお?おいおい、パイロット達がこっちを睨み付けているな。こんなにも嫌われるかね。
そう思いつつ艦橋に戻ろうとしたところ、加藤に声をかけられた。
「待ってください、岩本さん。話したいことがあります。」
「全員揃って私に何を聞きたいんだ?ガミラスとの初接触時のあの戦いのことか?
それとも、俺の言ったあの発言のことか?」
少し、殺気立ったように発言を行うと、返答が帰って来た。
「!そうです。何故クルーに言わなかったのですか?
軍機であるのはわかります。しかし、我々は共に戦い命を預けたいわば家族のような存在です。それほどまでに我々が信用出来なかったのですか?」
「はぁ。私が気にしていたのは、艦内の士気だ。別に信頼していなかった訳ではない。だが、万が一このことが公になった場合、はたして全てのクルーが君達のように戦うことが出来るだろうか?
最悪、反乱を起こす連中がいないとも言えない。」
「では、あのタイミングで何故話したのですか?」
「あのままだと、血気盛んな連中が彼女を殺すのではないかという懸念があったんだ。そうしたら今度こそ戦争は終わらなくなる。」
「勝つ方法があると?」
「勝つんじゃない、講和だよ。ガミラスはあれほどまでに頭が良いのだ。なら、話し合いで戦争を終わらすことが出来ない訳がない。勿論、こっちとあっちが対等にならなければ意味がないが?
これで、納得したかな?」
どうも怪訝そうな面持ちであるが、今はこれしか言えないだろう。これ以上言うと完全に未来の情報になっちまうからな。
「わかりました。今はそれで納得します。しかし、いずれ真実を聞かせてください。」
会釈で返答する。
「それでは私は巡回に戻るとする。くれぐれも、暴走だけはしないでくれ?」
ザッという音が聞こえそうな敬礼をされた。頼もしい限りじゃないか。
そして、艦橋へ向けて歩いていくが、寄り道をしようじゃないか。
順路を変えて医務室へ、佐渡先生が酒を飲まないように見張っていた、確か原田君だったか?がいる。
その横には身体検査を行っているメルダの姿が見えるな。今日は骨格の検査をする予定だった筈だな。
異星人のサンプルとしてだいぶ検査が進められていた筈だ。明日は血液検査だろう。
「佐渡先生、経過はどうです?」
「うん?なんじゃ、岩本君じゃないか。何か用が有るのか?」
「いえ、たまたま通りかかったものですから。ところで彼女、どうです?」
「ああ、非常に不思議なことに骨格の作りもそうだが、触覚や視覚等の感覚器官はわしら人類と非常に似ているな。この分だと、血液検査も同様の結果になるかもしれんぞ?」
「そうですか。健康状態はどうです?どこか悪いとかそういうところは」
「いたって健康だな。う?おぬし、どうして彼女の体を気にかけているんじゃ?もしかして、あの娘に恋心を抱いているんじゃないだろうな。」
「あー。その可能性は充分ありますね。どうしてこっちを見てるんだ?原田二等宙曹。そんなに私に興味があるのかね?」
「いえいえ、違います。ただ、本当にメルダさんの事を好きなのかなと。」
「本当のところ私にもわからないな。」
「でも、素敵です。異星人同士のラブロマンス。今みたいじゃなかったら良かったんでしょうけれど。」
何で、君がショボくれてるんだよ。
「君には加藤君がいるだろ?それで気を戻してくれ。」
少しずつ顔が赤くなっている。図星か。
「大丈夫だ。誰にも言わん。それよりもメルダが医務室から出たがっているようだが?」
こちらをじっと見つめているメルダがそこにいた。
「お前が話しかけるからじゃろう。良し出て来てくれ、検査結果は良好だ。」
検査服を着たメルダが目の前に立っている。
彼女は着替えた後きっと独房へ入れられるだろう。
なら、俺がエスコートしても良いんじゃないだろうか?そうすれば話をすることが出来るし、何よりこの艦内の味方と思わせることも出きるだろう。
「私の見舞いに来るのが貴様とはな。」
「相も変わらず口が悪いな。翻訳機のせいにしておこうか?」
あって早々睨み合うかたちとなるが、こちらの方が身長が高いため見下ろすように見つめあう。
かなりかわいいな。ツンとしたところがたまらない。
本当彼女にそっくりだ。
「こらこら、こんなところで見つめ合うんじゃない。やるならよそでやりたまえ。」
「わかりました。では、お嬢さん。着替え終わりましたら、部屋までお送りさせていただきます。」
それから少し歩いた。実は歩く方向をちょっと変えてみて、独房の反対方向を歩いている。
「先程から疑問に思っていたのだが、独房とは逆の方向へ歩いていっていないか?」
「流石だね、君の気分転換になればと思ってね。どうだい?少しは違うんじゃないか?」
少し考えた素振りを見せたが
「そうでもないな。行為はありがたいが、私は別にそこまで追い詰められている訳ではない。
だが、この艦の甘味には驚かされたが。」
「甘味。というと君達の星には甘味が無いのか?
砂糖を主成分に作る植物が存在しないのかい?」
「砂?糖?というものに該当するものが無いのだ。」
ほう、砂糖が存在しないせいでその文化も違ったものになると。
「私もね、ガミラスの料理を食べてみたいと思っているんだ。どういう料理が多いんだい?辛いのとかしょっぱいとか、色々あるが…。」
「そうだな、たとえば…。」
メルダから振られた甘味の話から料理の話が広がっていく。途中展望室によって長々と話を続けていた。
笑顔で笑う彼女は、華奈に似ていた。それでも違う人だと理解しつつも、その笑顔は脳裏に刻み付けられるものだった。
何時間たったのだろうか。
ふと、メルダは話を変えてきた。
「そういえば、貴様等の星を私は見たことがなかったが、どういう星なんだ?」
地球の話か、だがここでこの話は不味いかもな。俺がここに居るから、監視を続ける連中が外で待機してやがる。
「そうだな、記憶にある地球はとても青く輝いていて、宇宙に輝く宝石のようだ。今は見るも無惨だがな。」
「そうか、私も見てみたかったなそんな星。
我々の星は、あまり綺麗なものではない。濃緑と茶色く濁った星だ。昔は綺麗だったそうだが、私は見たことがない。」
「じゃあ、もし戦争が終わったらお互い星を案内し合おう。そうすりゃきっと、互いを認められるさ。」
「今まですまなかったな。劣等民族等といって、食文化は遥かにそちらが上だ。」
そろそろ良い時間になっていた。
きっと明日は、山本君と戦闘機で戦うのであろう。
そして、この艦を離れることとなるはずだ。
せめてこの時を楽しもうと心に決めていた。
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