日の登り始めた頃だった。警察車両や救急車の赤色灯が鬱陶しい程に光り、サイレンが忙しなく路地を駆け抜ける。
人集りの出来た公園の周りに警察が立ち入り制限のテープを張っていった。緊急車両の行き来が穏やかになった頃には、公園の真ん中に簡易的なブルーシートの仕切りが出来ていた。
ブルーシートで作られた仕切りに、ハンチング帽を被った男が近づく。男はブルーシートを捲って中へ入ろうとするが、背後から襟を掴まれ引き戻された。
振り返ると眼鏡をかけた目つきの悪い男が秋塚を見下ろしていた。
秋塚「おっ、身長180cm!いいなぁ俺にも分けてくれよ」
島川原?「どうやって入ったイレギュラーナンバー6」
秋塚「コネ。てかお前こそデスクに齧り付いてた筈じゃ...あっ、ちょい手首失礼。」
秋塚は島川原が手を完全に引っ込める前に腕を掴み、袖をまくる。島川原の手首には28と太い字で番号か振られていた。
秋塚「あぁ、28号か。」
島川原28号「遊んでいる暇は無い。とっとと要件を済ませて持ち場に戻ってもらおうか。」
秋塚「おけおけ、じゃあハイ!これ命令書。」
秋塚はジャケットの内側から一枚の小綺麗な紙を取り出した。
島川原28号「ふむ。ん!?指揮担当の変更だと!?」
28号は再度秋塚の方へ視線を戻すが、いつの間にか秋塚はブルーシートの囲いの中に入ってしまっていた。
島川原28号「全く、誰かヤツに鈴付けておけ!」
秋塚「うわぁ、しいて言うなら殻付き半熟卵を握り潰したような光景」
島川原28号「酷いものだろう。」
28号は口をハンカチで抑えながら遺体の傍らに移動する。
そこはまるで二昔前程のB級特撮ホラー映画のワンシーンのようだった。地面の上に転がっているのは確実に人間二人の遺体ではあるが、頭部が潰れている。頭蓋骨が皮膚を突き破り、血液で赤く染まった脳が溢れ出ていた。
二人は割れて交差した顎の骨を見たところで視線をズラした。
秋塚は遺体の傍に置いてあったビニール袋を持ち上げる。
秋塚「これもしかして飛散した脳か?」
島川原28号「触れるな、眼球も入っている。」
秋塚は言われた通り袋を元の場所へ戻した。(土と脳の混ざった血液の中に浮かぶ球体を、薄っすらと確認できたところで秋塚は目を逸らした。)
秋塚「さっきの書類に書いてあった通り、サイキッカーが出現した可能性がある。開発課のレーダーが昨晩異常な脳波をキャッチした。
既に性能の割れたOツール持った未登録ユーザーを追うのとは訳が違う。確実に死人が出る。てか出た、目の前に転がってる、いや飛び散ってる。」
島川原28号「我々超能力及び異能力対策課はそれを覚悟で日々動いている。」
秋塚「確かにそうだな。日々動いている。一人残らずな。特に今回の作戦は資料集めから現場まで。
つまりは全員出払っていて人がおらんってこった。」
島川原28号「・・・今回のサイキッカーは覚醒したばかりで、まだ異能力にまで劣化せず、超能力を維持しているかもしれない。何が言いたいかと聞かれれば」
秋塚「侮るべからず。ありがとさん!被害者の資料コピってくわ!」
島川原28号「待て。」
秋塚「ワン?」
島川原28号「おすわり。」
島川原28号は側にあった折りたたみ式の椅子を蹴ってよこした。
島川原28号「一応監視役を付けておく」
秋塚「人いない言うてたやん」
島川原28号「何をしでかすか解らない爆弾を2つも抱えるのは気が引ける。」
島川原28号はジャケットの内ポケットからメッキの剥がれかけたカウンターを取り出した。カウンターのボタンが押される。するとカウンターのメッキの一部が剥がれ、地面に落ちた。
島川原28号「本当はもっとまともなのを付けてやりたいが、今は非常事態なのでな。」
メッキが泡立つ。泡は割れずに広がり、成長するかのように肥大化していく。泡は蠢き、不自然な形ではあるが人型を作っていく。
数秒もしないうちに泡は15cmほどの人形になっていた。
秋塚「二頭身のデフォルメされたお前の縫いぐるみなんて持ち歩きたくないんだけど」
本来目のある場所に28.1と番号の振られたその人形は、意思を持ったかのように動き、秋塚の足元まで歩いて近づいてきた。
島川原28号「持ち歩く必要はない。勝手について行く。さて、監視役を付けたところで、2つ目の爆弾を処理しよう。
サイキックナンバー41。」
ブルーシートを捲り、ビジネススーツを着込んだ女性が入ってくる。背丈160強、短く切り揃えられた髪、赤い口紅と、それに合わせた赤縁のメガネ。真面目そうではあるが、何を考えているか分からないミステリアスな印象の女だった。
島川原28号「コードネーム追跡官Rだ。新人だが、追跡に関しては一流だと言っておこう」
秋塚「スーツにメガネて...流行ってんの?」
追跡官R「流行ってはいません。これはある種の」
島川原「その内容はまだ機密事項だ。
よし、先程の携帯の解析は終わったか?」
Rはジップロックに入れられたスマートフォンを持ち上げる。
秋塚「うわぁデッコデコ」
追跡官R「被害者の女性の指を使い、ロックを解除行いましたところ、機器が自動的にカメラ機能を立ち上げた為、録画ファイルを確認することにしました。」
島川原28号「このスマホは公園の広場が丁度見渡せる位置にある木の上に固定されていたんだ。」
秋塚「自身に危険が迫ったときのために録画しておいたか...
ということはこういう事が起きると予め知っていたということになる...のかな?」
追跡官R「・・・終わりましたか?それでは続けます。
録画ファイルを確認したところ、途中でカメラにノイズが走り、音声のみになってしまい」
秋塚「待った待った、掻い摘んで要点だけ教えてちょ」
Rは秋塚を睨みつけた。
R「手掛かりの不足により、現時点での加害者とみられる者の追跡は不可能です。」
秋塚「まじか〜。」
秋塚がうなだれ、椅子が軋んだ。その時、突然携帯の着信音が鳴り響いた。秋塚と島川原28号はそれぞれ自分の携帯を確認するが、音は鳴り止まない。やがて3人の視線は一つの方向へ集中した。
Rの持っていたジップロック中で、携帯が小五月蝿く鳴き、そして震えていた。画面の放つぼんやりとした光がRの眼鏡に反射する。
Rは無言のまま携帯を耳に当てる。
秋塚「おい、どうやってロック解除した?
てかおい、勝手に出ていいのかよ?お前も何か言えよ島ガ..」
秋塚は戦慄した。視線の先の島川原28号もRと同じように、虚ろな目で自らの電源の入っていない携帯を耳にあてがっていたのだ。
状況を察した秋塚はRの手から携帯をもぎ取ろうと、ジップロックの袋を引っ張る。しかし、Rの指は万力のようにガッチリと固定され、緩む気配が無い。
未だ着信音は鳴り続ける。
秋塚「しょうがない、ちょっと失礼...」
秋塚はポケットからハンカチを取り出した。そしてそれを僅かに開いたRの口へねじ込んだ。
二、三歩下がり、僅かに助走を付ける。
秋塚「受け身くらい自分でやれよぉ...ソイッ!」
秋塚はRの左頬をその拳で思い切り殴りつけた。
殴られた衝撃で宙を舞うRの目に光が戻ってゆく。体はシートの囲いの外へ飛ばされ、携帯は地面へ落下する。秋塚は空かさず折り畳んだ椅子で袋ごと携帯を叩き潰した。
着信音は画面にヒビが入ると同時に消え去った。
島川原28号「今のは...」
秋塚「洗脳タイプの異能力者だな。」
島川原28号「こちらの動きが読まれていると観た」
秋塚「このザマが超異対策課とは聞いて呆れるぞ」
秋塚は叩き潰した携帯を拾い上げる。
秋塚(しかしこの攻撃、相手を仕留める意図は無さそうだ。まるでちょっかいを出すような...誘われているのか?)
R「呆れるのはまだ早いです!」
Rが殴られた頬を抑えつつ、囲いの中へ入ってくる。
島川原28号「まさか!」
R「能力と電波の発信源の追跡を完了しました!」
秋塚「なんだちゃんと優秀じゃんよ。
そんじゃ仕留めに行きますか?敵をわざわざ挑発してくるような青臭い思考回路したガキを。」