水の流れる音が聞こえる。いい音だ。人間の先祖に当たる生物は海から上がってきたとされている。だから人は水の音に癒やされるのかもしれない。
意識が死にかけの電灯のように、付いては消えを繰り返す。顔に当たる水の流れを感じた。
何かがおかしい。大事な何かが欠けてている。神奈美は脳を働かせる為に呼吸をするが、鼻には大量の水が流れ込んで来た。
途端に意識が戻った。
神奈美(!?っ...空気が無い!)
神奈美は手足を動かそうとするが、ビクともしない。縛られている。
神奈美(落ち着いて、落ち着いて。体に空気が残っている以上、私はちょっとした浮きのようなもの。力まず待てば浮いてくる筈よ...)
確かに神奈美の体は徐々に浮きつつあった。しかし、待っていたのは水上の新鮮な空気ではなかった。
神奈美(えっ...これ..)
神奈美は背中からその絶望を感じ取った。浮いて来た先には、天井があったのである。
神奈美(つまりはなにかぁ!?私は水の並々注がれた密室に閉じ込められてるってのか!?)
神奈美は目を瞑ったまま天井を伝い、空気のある場所を探す。しかし、神奈美の意識に限界が近づいていた。
神奈美(まずい...そろそろ保たない..)
意識が遠退き、眠気が襲ってくる。体を包み込む水すらも感じ取れないほど感覚が麻痺しだした。
その時である。手首を縛っているロープが引かれいく感覚が神奈美の脳を刺激した。
気が付くと神奈美は木製の床の上で横たわっていた。未だ視界が開けないところから察するに、自分は目隠しをされているのだなと神奈美は勘付いた。
神奈美(相変わらず縛られているということは、助けじゃなさそうね)
ロープを引かれ、無理やり体を起こされる。
リンゴ「ハーイ!死んでるぅ?さっきぶりかな?リンゴだよぉーん!」
声には聞き覚えがあった。
リンゴ「胸板に浮き沈みがあるって事は呼吸が出来ているってことネ!つまり生きてるゥ!」
激しい足音の後に強烈な痛みが神奈美の腹部を駆け巡った。
神奈美「ぐゥっ..!」
リンゴ「キャハハハッ!蛙の鳴き声みたい!」
神奈美「蹴りのモーニングコールは注文してないわよ...」
リンゴ「随分とお喋りな蛙ね、踏み潰しちゃおうかなぁ!?」
顔の皮膚が風の流れを感じる。
神奈美(二撃目!...)
視界ゼロの中、頭部へ向けて何らかの攻撃が来ることを悟った神奈美は、何かが頭部に振り下ろされる直前で背中を反らしそれを避けた。頬越しに床が衝撃で震えるのを感じる。
神奈美は自身の頭部の近くに振り降ろされた何かに向かって思い切り頭突きを当てる。
リンゴ「いったぁ!リンゴの脛ちゃまが!」
リンゴが痛みで足を上げ、勢い余ってずっ転ける。音で感じ取った。
痛みで騒ぐリンゴの側から新しい声が聞こえた。
ナガレ「そこまでにしましょうかウランダリンゴ。
お久しぶりですな。38秒ぶりですかな?」
神奈美(この声は!?金属煙の時の変な奴!)
ナガレ「時の流れはやけに早く感じるものざんしょ?ワイにとって数日前は三年前。ありゃ遅くなってね?」
神奈美「尋問の担当が話の通じない狂人とキレやすいメスガキって人選ミスにも程がある!」
ナガレ「お酸素チューチュー出来なくて思考がNow loadingかと思ったら全然冴え冴えじゃん」
制服のネクタイを引かれ、首が締まる。
ナガレ「んじゃじゃあ抵抗心ドゥルッドゥルッに溶けるまでまた水中へバイビー!」
神奈美は体が一瞬宙に浮くのを感じた。そしてまたあの冷たい水の中へ落ちてゆく。
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秋塚「能力者について何処まで知ってる?」
白煙を巻き上げ、水色のバンが住宅街を走り抜ける。揺れる車内でRは車体の床で足を踏ん張らせながら口を開いた。
R「確か、超能力者とは過度な精神的ストレスによって脳が防衛本能を活性化させ、万能の力を得た者のことを指しますね。」
秋塚「御名答、超能力者は言うなれば万能の人。
脳の今まで使われていなかった部分が覚醒し、状態によっては時間の操作まで可能となる。
だがしかし、それら全てが思い浮かべただけで出来てしまうが故に、制御不能。その上異能力者の法則を当てはめれば存在すら出来ないという代物。
はいここで第二問!デデン!異能力者とはどういう人を指す?」
R「超能力覚醒後、アイデンティティ、即ち自我や自身の思想により超能力が劣化。超能力が万能から、特定の動きしか出来ない状態にまで性能が低下します。
劣化した超能力を使う方達、それが異能力者です。」
秋塚「正解!異能力者はソイツの性格や癖によってそれぞれの力の形に変化してゆく。真っ白い画用紙に色を付けるようなモノさ!
加えてこの法則の通りならば、超能力は自我を持った瞬間にその力が使えなくなってしまうのさ。
では第三問といこうか!Oツールユーざ..」
秋塚が言い終える前にRが回答でそれを遮った。
R「Oツールユーザー。Oツールの所持、携帯を神の駒によって許可された方達です。
本来Oツールはその危険性故に使用が禁じられていますが、特別に許可と登録を受けた者によって運用されます。他の二者と違い、非能力者が運用することが多いです。」
若干引いた様子でRを横目で覗く秋塚。シフトレバーとクラッチを操作しつつ口を開いた。
秋塚「ありゃぁ。言い終える前に答えるとか、そろそろ飽きてきてるじゃん。
(不気味だ、受け答えが機械的過ぎる。感情あるんか?コイツ。)」
秋塚はRに対しての無機質な印象を受けていた。口調は堅く、辞書やマニュアルから引用したような説明口調で喋り続ける。道案内をしている時でも、まるでカーナビを助手席に座らせて走っているような感覚を覚える程だった。
R「無駄話をしてる間に到着しました。」
秋塚「無駄話って言っちゃったよ!」
秋塚は人気の無い土手の道に車を停めた。傍らに川が流れ、数十メートル離れた先に橋が掛かっている。
秋塚(畑に田んぼに河原。無駄足だったかな。)
車から降り、辺りを見渡す秋塚だったが、周りに誰も居ないことを確認すると踵を返しRの方へ向き直った。
秋塚「Rちゃんホントにここだったの?人っ子一人おらん。」
同じく車から降りたRは辺りを見渡しつつ秋塚の傍へ近づく。
R「妙です。到着した瞬間、能力者の脳波が微弱になりました。」
秋塚「それってどういう..」
その時だった。秋塚はRの眼鏡に反射する景色に目が釘付けになった。
一人の男が右手を掲げ、秋塚の背中に向かってその手を振り下ろそうとしていたのだ。
秋塚は咄嗟にRを押し倒して伏せさせる。あまりの速さに秋塚のハンチング帽は空中へ置き去りになった。
背中にボトリと[丸まった帽子]が落ちてくる。
R「失礼します」
Rは秋塚の革のジャケットから拳銃を取り出していた。即座に青年に発砲する。放たれた弾丸は青年の学生服にすらかすりもしなかった。Rが片手で粗雑にぶっ放したからではない。弾丸は青年の脇腹のすぐ手前で停止ていたのだ。
秋塚「二発目!地面に向かって!早く!」
Rは右手に構えた拳銃を地面へ向けて引き金を引いた。破裂音と共に、コンクリート爆破のような濃い白い煙が立ち込める。
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神奈美(また水の中...どうしたら良いのだろうか?いや、どうするべきなのか。
情報を吐いたとて、私の命が保証されるわけじゃない。なら、私が死ぬ前に奴らをブッ殺してここから逃げるしか方法は無いわ!)
神奈美は両腕に力を込め、ロープを緩めようとする。が、依然としてロープは硬く縛られたままである。
神奈美(いだだだだだ!皮膚に食い込む!)
腕にじわりと痛みが残る。体を動かしたことで酸素が消費され、息が保たなくなり、また意識が遠のいて行く。
神奈美(クソッ!もう..息が...)
神奈美の意識が消えかけたその時だった。思考の片隅から誰かが語り掛けてきた。
神奈美(えっ?...息..吸えるの?)
藁にもすがる思いで神奈美はそっと鼻で吸い込む。まだ顔面の皮膚には水の感覚があったが、確かに吸えた。肺が空気で満たされていく。
神奈美(吸え..た?ということは、この声は一体誰!?)
水の音で満たされていた神奈美の耳に、突如カラスの鳴き声が響いた。
???[ワタシはヤタガラス。貴女と共にいるオンナよ。]