神の駒   作:海苔 green helmet

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烏の行水2

 土手から滑り降り、近場の茂みへ駆け込んだ秋塚と追跡官Rは、拡散する煙の中から四回の破裂音を耳にした。

 

 秋塚(タイヤをやられたか!)

 

 二人は移動及び逃走手段を初手で失ってしまった。

 これからどうするか。襲撃者を撃退しようにも、相手側はまだ未知数な部分が多い。などと考えていた秋塚であったが、Rの視線がまじまじと自分に注がれていた事に気が付いた。

 

 秋塚「どうかしたのか?」

 R「いえ、先程からあなたの姿がハッキリと視えているな、と。」

 

 秋塚暫く発せられた言葉の意味を考えていたが、すぐにピンと来たのか自分の頭部を触った。

 

______________________

 

 木製の床の感触が皮膚を通して伝わる。もう神奈美には冷たい水中を藻掻く感覚を感じ取ることが出来なかった。

 いつの間にか手首を締め付けるロープも、顔にまとわりつく目隠しも無くなっていた。

 

 神奈美(ヤタガラス?神の使い?私と共に?というか思考を読んでいる!?いや、思考の中に居る!?)

 

 藻掻くフリを続けながら思考を巡らせる神奈美であったが、一向に理解できなかった。理解しようにも材料が少ない。そして、明らかに時間がそれを許さなかった。

 故に神奈美は理解することを諦めた。諦め、決めつけることにしたのだ。

 

 神奈美(もうどうでもいい。生かしてくれたなら味方でしょ?テレパス的な何かだとしておくわ。

 それよりも周りの状況をもっと教えて!直接介入してこない所を見るに、動けるのは私だけなんでしょ!知らんけど!)

 

 [貴女の頭頂部を12時として、10時と7時の場所にそれぞれの一人づつ居るわ]

 

 頭の中にヤタガラスの言葉が流れ込んで来る。

 

 神奈美(明るさと視線!出口も!)

 

 [天井からぶら下がった電球が一つ。LEDではなく、白熱球の物。

 ガキはスマホを観てる。さっき腰のポケットからスマホを取り出したときに古臭い形状の鍵が見えたわ。ノッポは爪を齧りながら貴女を舐めるように見てる。出口はその二人の背後]

 

 周囲の状況を頭の中に叩き込んだ神奈美は賭けに出た。

 ドン!と、足を鳴らし力任せに起き上がる。間髪入れずナガレの目に向かって手をかざした。

 

 ナガレ「やけに息が長いと思ったら...解けていたノーネ。」

 

 ナガレは予期していた。目を瞑り、鏡の出現を防いでいたのだ。

 気味の悪い緑色のネクタイを締め直すナガレ、余裕しゃくしゃくといった様子である。リンゴも同じ様に目を閉じている為、真実鏡を呼び出すことができない。

 

 ナガレ「目を閉じるだけじゃないんよこれがまた。

 なんと今日はネクタイピンだとか、時計、指輪も着けてないんじゃよ

 さてさて、茶番とバンバン50は大好きだけどそろそろ御開きでんな。ウランダリンゴ、頼んマッスル。」

 

 僅かな間場が沈黙に包まれる。

 

 ナガレ「ウランダリンゴよぉぐーすかぴーってわけじゃねぇよなぁ!」

 リンゴ「こ、この女の意識に動揺が感じれない!

 力が使えないの!意識に深く突っ込めない!」

 

 耳障りの悪い高笑いが響いた。

 

 神奈美「くっクククッ、ァアハハハッ!動揺していない!当たり前でしょ?ここまでは予定通りだもの」

 

 神奈美は自身の目に手をかざす。神奈美は自身の目の反射から鏡を呼び出したのだ。痛みに耐えた目から数滴涙が落ちる。

 鏡の出現を感じ取ったナガレとリンゴは、目を見開いて神奈美に掴み掛かろうとするが、既に遅かった。鏡は光を放ちながら天井から下がった電球へ飛んでゆく。電球の破片が飛散り、窓のない部屋が闇に包まれた。

 

 ドアが勢いよく閉まる音、軽い金属音。咄嗟にポケットへ手が伸びるリンゴ。

 

 リンゴ「鍵取られた!」

 

______________________

 

 R「先程までは貴方がどんな身長か、どんな顔か、どんな声か、どんな服装か。それらが全くもって意識出来ませんでしたが、今はハッキリと視えます。

 ダブルのライダースジャケットもハッキリと見えます。その赤いシャツと黒いネクタイも、そのハネッ毛も一際尖った犬歯もです。」

 秋塚「今はこの状況を突破する方法を考えてくれ。俺の外見ではなくさ。」

 

 Rは一瞬キョトンとした表情をみせるが、すぐに表情は何の色も見せなくなり、再度機械のような堅い口調で喋り出した。

 

 R「いえ、外見等が感じ取れなくなっていたということは、使いようによっては襲撃者の隙を突く事が出来るかもしれないと考えたからで..」

 秋塚「悪いがそれは出来ない。俺の事を上手く記憶できなかったのは俺の力じゃなく、あの帽子の力だ。

 そしてあの帽子は使用者の所謂覇気だのオーラだのの、存在感を薄くすることしかできない。なんなら帽子は落として来た。」

 

 秋塚はジャケットの内側から先程見張り役として押し付けられた島川原28.1号を取り出した。

 

 秋塚「追跡1、見張り1か。」

 

 秋塚は茂みの中から土手上の車の方のを覗く。

 

 秋塚「じきにここもバレるな。しゃーない。」

 

 そう呟くと秋塚は足元に転がっている石を拾い始めた。

 

 R「策があるのですか?」

 秋塚「足に自信があったら全力で逃げろ。無理なら引き付けてる間に応援を呼べ。」

 

 秋塚は各指の間に石を挟み込んでいく。

 

 秋塚「銃は預けとく、発煙弾と実弾が交互に入ってるからよろしく。」

 

 そう言い放つと同時に秋塚は土手を駆け上がった。

 

 土手の上へ上がった秋塚は改めて刺客の姿を確認した。

 

 秋塚「(見間違いじゃない、やっぱガキか。

 距離は8m)一投目!」

 

 指に挟み込まれた石が刺客の顔面に投げ込まれた。しかし、石は刺客の顔面の30cm先で止まってしまう。

 

 鷲尾は投げ付けられた石の表面のザラつきを感じていた。ゴツゴツとした形状、細かい窪み、それらを触れずに感じ取っていた。

 石に亀裂が入っていく。せん断時の音が秒ごとに増していき、そして遂に石は空中で完全な球体にその形を変えた。

 

 秋塚「学生のコスプレして油断させといて殺りに来る殺し屋かと思ってたら、ガチの学生か...

 腕のいいのがいると思っていたから正直ちょっとがっかりだぜ」

 

 球体になった石は、鷲尾が力を止めると、一部粉末状になりながら風と共に散っていった。

 秋塚は持っていた石の一つを、自身のポケットへ滑り込ませる。

 鷲尾の脳に秋塚の言葉が刺さる。鷲尾はただ眼の前にいる若干血生臭い男を睨みつけることしか出来なかった。

 

 秋塚「(さて、特殊相手には分が悪い。

 能力者は精神的弱点を突けば出力の安定を大きく欠く。だがジェンガを崩すには俺の拳一発じゃ足りないな。)

 んじゃ、コイツを使う。」

 

 秋塚は右手に掴んだ石を鷲尾の胸部に投げ付けた。

 振りかぶった腕を見るやいなや、鷲尾は腕で体をガードしつつ秋塚に猪のような突進を仕掛ける。石は能力で潰さず腕で受け、被弾した皮膚が赤く腫れる。

 耳障りな音ともに秋塚の右腕が潰れ、骨が筋を巻き込みながら皮膚を突き破った。

 

 秋塚は毛程も動揺していなかった。痛みで悶える事もなく、それどころか予想通りと鼻で笑っていた。余裕の面持ちで左腕を側に停まっていた自分の車のボディに向けてボソリと呟く。

 

 秋塚「[権限貸与、真実鏡]...」

 

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