神の駒   作:海苔 green helmet

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勝つ為のご都合主義2

 その時、Rの横を一人の男が走り抜けていった。

 

 檻越「後は任せてもらおうか..」

 R「待ってください!射程に入らないで!」

 

 鷲尾の巨大な手が秋塚に迫る。

 秋塚はコンマ1秒を長く感じていた。足の再生が間に合わない。

 1.3秒。砕けた骨が足の中で分解され始める。しかし鏡を使った影響か、再生が遅い。

 

 秋塚(鏡を使った影響で脳にリソースを割きすぎた!養分が足りない!脳と細胞が寝ぼけてる!遅い!かったりぃ!)

 

 2.7秒。ようやく骨が分解を終える。鷲尾の足取りは淡々と秋塚との距離を詰めていく。

 

 秋塚(くそぉ、動かないと!動かないと次にやられるのはRだ!)

 

 4.5秒。骨が生成され始め、足に骨の膨らみが戻って行くが、その再生の速度は普段と比較するに値しない程だった。

 

 秋塚(これは、覚悟しろってことかっ!...

 いや、俺は良くても2人分はキツい!)

 

 秋塚の頭の中でこれから起こる事を予測していた。

 まず、自分がここで身動きの出来ない状態になる。しかし、結局は再生能力があるので助かりはする。が、次に殺られるのはRだ。超能力を使った残り香を追う事しかできないRは鷲尾を撃退することが出来ない。

 そして組織の人間を殺した能力者は討伐対象になる。最悪の場合2人分の命が消えるのだ。

 仮にRが拳銃で鷲尾を倒したとしよう。勿論この場合の[倒す]の意味は額に狙いを付け、そこを撃ち抜くことを意味する。一瞬、[Rに逃げるよう呼びかけるか?]と過るも、先程Rが自身の指示に従わなかったことを思い出す。

 [駄目か...]と、肩を落とす。そして無慈悲にも頭部へ巨大な手が容赦なく迫ってくるのであった。

 叩き潰される。その直前だった。鷲尾の腹部に向かって地面から鼠色の棒が突き出した。突き飛ばされた鷲尾を見れば、その勢いの強さを知るには十分だった。

 

 檻越「厄介極まりないな。あのダメージを貰っても、すっくと立ち上がるとは」

 

 檻越は秋塚に手を差し伸べた。秋塚は髭面の男の顔を見て少し驚いた表情を覗かせるが、ぎこちなく口角を上げ、差し伸べられた手をしっかりと掴んだ。

 

 秋塚「まだ骨が治りきってねぇな、走れない。」

 檻越「そのようだ。よし、状況!」

 秋塚「あの巨大な手で叩き潰すだけの能力。射程距離はそこまで無い。奴は遠隔で洗脳されてる...」

 檻越「うむ。とりあえず投獄する」

 

 鷲尾の周囲の地面から棒が地面の石や土を蹴散らしながら現れた。棒はミミズの様にウネり、形を変え、人間をすっぽりと収容できる籠を作り出した。

 

 檻越「捕獲...」

 秋塚「後は洗脳波を受信するための端末がどっかにあるはずだ、そいつをぶっ壊しゃぁ洗脳は解除できる!」

 檻越「確かか?」

 秋塚「今朝予習済み。(このタイプは前にも見たことがある。)」

 檻越「なら尚の事..」

 

 二人の会話を遮るように金属質な破断音が響いた。音のする方へ視線を向ける。

 ひん曲がり、へし折れた鉄格子。人が通れるサイズにまで広げられた隙間から、先程捉えた鷲尾がのそりと身を出す。

 

 秋塚「純鉄の檻...」

 

 秋塚は檻越に責めるような視線を向ける。

 

 檻越「強度不足かぁーっ..」

 秋塚「ポンコツが!」

 

 突如、背後から王手を掛ける為の狼煙が上がる。

 

 R「ズボン!左のポケット!」

 

 一瞬でその言葉の意味を理解した秋塚と檻越は、視線のみで意思を疎通させた。

 檻越は自身の足元から鉄棒を出現させ、鷲尾に向けて真正面から刺突攻撃を仕掛ける。同時に秋塚の足元から一本の鉄棒が出現させる。秋塚はそれにしがみつき、右から弧を描くようにして鷲尾に急接近した。

 初動の刺突は巨大な手によって白刃取りの様に受け止められ、そして砕かれた。

 それが好機となった。手を使ってしまった鷲尾は秋塚への対応ができない。まんまと懐へ潜り込まれる。ポケットに手を突っ込み、黒いスマートフォンを引っ張り出した。

 

 秋塚「ア”ァールゥ!」

 

 空へ目掛けてスマートフォンが投げ上げられる。

 

 R「Copy(that)...」

 

 Rは投げ上げられたスマートフォンに三発の弾丸を撃ち込む。初弾、外れる。次弾、命中。しかし煙幕である。

 そして運命を掛けた最終弾。煙幕を貫き、命中した。画面が砕け、リチウムイオンバッテリーが火を吹く。

 スマートフォンの残骸が地面に落ちると同時に、鷲尾もその場に倒れた。檻越は駆け寄り、脈を計る。

 

 檻越「生きている。後は超異能課に任せよう。」

 

 檻越はRの方へ向き直る。

 

 檻越「申し遅れた。今回の任務の指揮を引き継いだ回収課の檻越(オリコシ)だ。協力に感謝する。」

 

 檻越は静かに右手を差し出した。

 

 R「超能力及び異能力対策課所属、コードネームRです。よろしくお願いします。」

 

 Rも差し出された手を握り、固く握手を交わした。

 

 檻越「R?....Rか。なるほど。コンペまでに仕上がると良いな。」 

 秋塚「ヒゲ面さんとアルファベットさんや、俺も一件落着と握手したいとこなんだけどコイツに洗脳掛けた能力者がまだ見つかってない」

 R「既に追尾済みです。」

 秋塚「優秀!カナーミンにも収集掛けたほうがいいかな」

 檻越「頼む。移動手段はこっちで用意済みだ。あのポンコツはレッカーでも頼んでおきなさい」

 秋塚「ポンコツにポンコツ呼ばわりされる俺の車の気持ちになってみなさいよぉ。全く。」

 

 秋塚は片足を引きずりながらブツブツと愚痴を飛ばしつつ、車に携帯を取りに行った。

 

 檻越「それではこちらも足の準備をしておこう。

 というか、Rは確実に見ておいた方が良い。これは[塩]だと思ってくれて構わない。開発課は気にも留めないだろうからね。」

 R「開発課は随分と余裕なのですね」

 

 檻越は意味深な笑みを返し、取り出した携帯で何処かへ連絡をとる。

 

 檻越「もし?俺だ御嬢。輸送課に渡してあるな?あぁ、頼む。あ?それ死ねって言ってるのと同じだぞ!?それは秋塚の担当と認識している。わかった、わかった、なるべく秋塚殺して来るから勘弁してくれ」

 

 携帯を仕舞った檻越は少し疲れたようなため息の後、Rへ向き直る。

 

 檻越「では、ご対面だ...」

 

 そう言うと檻越は何も無い空間を指で示した。

 Rは道の向こうから輸送用の車両でも来るのかと、一歩踏み出して遠方を視ようとする。

 

 檻越「おっとそれ以上踏み出さないことだ」

 

 Rは足を止め、檻越の方へ向き直る。

 

 R「何故です?」

 檻越「それにめり込みたくないだろう」

 

 振り返るとそこには奇妙な形状をした装甲車が停まっていた。

 装甲車。そう表現する他なかった。車輪は四つ有ったが、車軸で繋がっておらず、それぞれで独立しその巨体を支えている。装甲は黒く、角張っている。所々ボディと同色のケースが積載されていた。

 

 檻越「緊急事態だからな。テレポートで要請した...」

 

 秋塚「ヒゲ面さんや!」

 

 後方から秋塚の声がした。

 

 秋塚「どわぁっ!ケンタウロスまで持ち出したのか!?今回の件てそんな緊急事態なん?

 じゃ、な、く、て、カナーミンと連絡が取れねぇ!」

 R「圏外などではなく出れないのですか?」

 秋塚「あぁ、コール音は鳴るが出ない...」

 R「もう一度発信をお願いします」

 

 秋塚は何かに気が付いたように慌てて携帯を取り出した。指示されたとおりに神奈美の連絡先へ発信を掛ける。

 

 R「...キャッチしました。携帯がすぐ近くにあるという前提のもとですが、位置の特定は完了いたしました。」

 秋塚「優秀!」

 R「しかし、同じなんです...」

 秋塚「同じとは?」

 R「先程追跡した洗脳波と同じ地点へ発信しているのです...」

______________________

 

 

 駆け上がった階段の先にはまた扉があった。

 [即刻開けるのは愚策であろう。]そんな言葉が過ぎったが、今の神奈美には逃げの一手しか切れる札無いのだ。

 扉を張り倒す勢いで開け、広場へ駆け出す。

 そこは古い倉庫のようだった。日の光が窓から差し込み、埃っぽい室内がハッキリと照らされる。

 神奈美の足取りが止まった。顔から血の気が引いていく。それは陽の光を受け、神奈美の視界に飛び込んで来た。

 血、血、血。紅く流れ、交わり、やがて床の窪みに沿って溜まる。そして源流には無数の人体が重なり合い、まるで丘のようだった。

 そしてその丘の頂きに一人、件の筒を携えて、清々しいまでの笑みを浮かべる少女が一人。

 





 圧縮:鷹尾の有する異能力。発現直後は任意の空間に存在する物体を圧縮出来る自由度の高い能力であったが、不安定であり機能も未確定であった。
 元々は超能力と異能力の中間に位置する力であり、その効果範囲や発動条件も自由であったが、能力者本人がそれに気づくことはついぞ無かった。
 秋塚により機能を制限され弱体化。巨大な手による打撃で対象を潰す能力へと変化した。
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