神の駒   作:海苔 green helmet

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被害甚大

 己の事を神と仲間に呼ばせている男は自身の組織のメンバーにある指示を出していた。

 

 神「23時までにA県A市から離れるようA市に滞在中の職員に通達を。

 厄介な客が来る。」

______________________

 

 見知った顔の少女は、自身を脅したあの少女であった。

 天窓から日が差し、丘となった亡骸の顔達が鮮明に映し出される。全て見知った顔だ。あの顔、この顔、全てあの学校、あのクラスの生徒たちだ。

 そして、全員の体には例の棘が突き刺さっていた。

 少女と目が合う。

 

 笹川「あぁ、また騒音が...」

 

 少女の表情は瞬く間に険しくなっていく。

 

 笹川「折角全員大人しくさせたのに...!」

 

 苛立ちの籠った口調が徐々に強くなり、何かが地面の下で這いずり回る音が、振動と共に神奈美の足裏に伝わる。

 

 笹川「どうしてまたこんなにッ...!苛つかせないでよ!

 折角!折角静かになったところなのに!!」

 神奈美「...。(正気を失ってるか、本当にうるさくしてしまったか...もし後者であるなら説得出来る)」

 笹川「だぁからぁあ!心臓の音を止めろォオオオオオオってんだよクソ漏らしがああああ!!!」

 神奈美「あっダメだこれ、目の焦点合ってない、逃げねば」

 

 神奈美は形振り構わずに地面を蹴り、唯一の出入り口へ駆け出した。ドアノブまであと2メートル、1メートル、30cm、80mm...

 

 ヤタガラス[待て!]

 

 寸前の所でストップが掛かる。

 

 ヤタガラス[後ろに避けろ!]

 

 神奈美も嫌な雰囲気を感じ取り、後ろ跳びに扉から離れた。

 錆びついた扉は、突如として床を割いて現れた巨大な棘によって破壊されてしまった。勿論入り口も棘で塞がれる。

 

 それが皮切りだった。建物の壁を覆うように、神奈美の身長を軽く超えるほどの棘が、コンクリの床を割いて迫り上がってくる。

 

 神奈美(げぇえっ!逃げ道消えたじゃん!)

 

 笹川「虫みたいに飛び跳ねんなぁ!気が散るぅッ!」

 

 神奈美「こちらはこちらであいも変わらず頭おかしいし、一回整理させてよ!クソッ!真実鏡!」

 

 宙に浮いた鏡は辺りに光を撒き散らす。光は棘に当たり、笹川に当たり、様々な物に乱反射していく。

 

 神奈美「な、なにこれ…」

 

 神奈美の脳内に白い筒や棘に関する知識が詰め込まれる。

 

 

[人間に寄生する菌糸類。ストレスを生じた際の熱をエネルギーに変換して成長する。

 エネルギーが一定まで溜まるとトゲを排出する。この時寄生対象の脳へ爽快感を感じるような信号が与えられる。しかし、筒は寄生対象へのストレス感度を徐々に上げていくので苛つきは収まらない。

 これにより寄生対象は棘の排出に依存していく。

 棘は胞子を守る外殻であり、棘が刺さると体内のヘモグロビンに反応して先端が展開され、胞子が体内へ入り込む。それによって寄生される。

 この菌は対象が死亡しても、身体全体へ菌が回っていれば死骸でも動かすことが可能。

 尚、£※£‘?‾”…@?"#"¢‘?”?…@§。]

 

 神奈美「なるほど、あの棘が刺さった瞬間もう菌の操り人形みたいなものね。」

 ヤタガラス[無力化は出来ないのか!?]

 神奈美(案ならある!)

 

 神奈美は背筋を伸ばし、その華奢な身体を堂々と晒す。奮い立つ必要はない。今まで通り、困難など軽く超えてやるまで。と、心の中でほくそ笑んだ。

 地面を強く蹴り出す。真っ直ぐ、笹川へ向かって真っ直ぐに突進を仕掛ける。

 

 笹川「足音を立ぁてるなぁ!!」

 

 笹川からの猛攻。無数の棘が筒から発射される。神奈美はそれをスライディングでそれら全てを躱し切る。

 しかし、滑り込む足先の地面にヒビが走る。コンクリートの破片を飛ばしながら巨大な棘が地面から迫り上がり、神奈美は棘に押し返され後方へ飛ばされる。

 神奈美はニタリとまたもほくそ笑んだ。

 

 神奈美(そう、これでいいわ。敵に背を向けたら何処から攻撃が来るか分からない。

 幸い、私の目指す方向は真っ直ぐ後方!床から飛び出した棘を射出装置代わりに使わせてもらうわ!)

 

 宙を舞う神奈美は、背後の堆く積まれた段ボール箱の山へ不時着する。

 

 神奈美「そしてここには!」

 

 神奈美はある一つの段ボール目掛けて手を伸ばした。中には革製の長細いホルスターが入っている。

 中身を抜き取り、少し太めの警棒のような武器を首の前で構える。

 前方を睨む瞳に、筒から発射された棘が映る。真実鏡が放つ光がより鮮明に棘を照らす。

 神奈美は警棒を握り締め… 

 

 神奈美(弾道は読めた!)

 

 即座に眼前へ警棒を動かす。棘は警棒に弾かれカランと床へ落ちた。

 

 ヤタガラス[で、どうするの?その警棒使ってあの小娘をブン殴るつもり?]

 神奈美「フッ、まあ見てなさいよ。」

 

 神奈美は指を振り、鏡を笹川へ突進させる。鏡は笹川の頭上を蝿の様に飛び回る。笹川は気を乱され、鏡へ棘を乱れ撃つ。

 

 ヤタガラス[また撹乱?]

 神奈美(見てろと言った。)

 

 自信あり気な神奈美は警棒の柄に手を掛け、それを引き出した。金属質な関節機構が露出し、トリガーがせり出す。

 

 ヤタガラス[なに!?警棒ではない!?]

 

 警棒はガチャガチャと音を立てながら、瞬く間に簡易的な銃へ変形した。ショットガンの様な中折れ式の銃に弾を詰め込む。

 

 ヤタガラス[待て!また壁を作られて防がれる!]

 神奈美「あの棘ってさぁ、竹みたいに地中に張られた根から出てきてるんだよね。」

 

 アイアンサイトで狙いを定める。

 

 笹川「さっきから何ブツブツ独り言ってんのよぉ!!!!!」

 神奈美「つまり、どう足掻いたって隙間ができる」

 

 引き金を引いた。ヤタガラスの予想通り、笹川は壁を作るように棘を出現させる。

 しかし、弾は棘の隙間を通り抜け、笹川の喉元に食い込んだ。

 

 神奈美「そして端から殺す気はない。麻酔弾よ。」

 

 笹川は首に刺さった弾を引き抜く。手に力が入らないのか、弾は手から滑り落ち床で砕けた。

 笹川は千鳥足で筒を構え、再度神奈美へ狙いを付けるが、すぐに瞼が降りて糸が切れたように床に倒れた。

 

 ヤタガラス[眠らせたとしても、胞子を体に取り込んでしまったその女は既に手遅れでは?]

 

 神奈美は足元に落ちている棘を1本拾い上げる。そして突っ伏した笹川へ近づくと...

 

神奈美「この棘は横方向の負荷に弱いの」

 

 棘を拳の中でへし折り、先端部の方を笹川の腕に突き刺した。

 どろり、と黒く血の混じった泥状の胞子が、棘の断面から溢れ出す。ドボドボじわじわと溜まり、そして溢れる。

 15秒もしないうちに胞子の流出は止まった。

 

 神奈美「抜けきった。そら胞子より心臓の圧力の方が強いわよね〜」

 

 笹川の体温が緩やかに下がり、平熱へ戻ってゆく。胞子が完全に取り除かれたのだ。

 

 神奈美「解決解決!ったくノロマの秋塚呼ばなきゃ。アイツいないと帰る足無いんだから」

 

 神奈美は先程の段ボール箱から回収しておいた携帯を取り出す。

 

 神奈美「さてさてアイツの番号は...」

 ヤタガラス[気を付けろ!後ろだ!]

 神奈美「!?」

 

 神奈美は笹川に覆いかぶさるようにして床に伏せる。轟音が響く。ちょうど神奈美が先程立っていた場所に、全長3m、直径約20cm程の棘が突き刺さっていた。

 

 神奈美「そういえばそうだったわね...」

 

 確かに笹川は無力化できた。しかし、笹川は棘の操り人形の一体でしか無かったのだ。

 重なり合った死屍累々の山は、それぞれの死体を繋ぐように蔦を伸ばしている。根はコンクリートの床を貫通し、地中へ根を張っていた。それがあの地中からの攻撃へ利用されていたのだ。

 そして、根を張るということは、それらの中心となる幹が生成されるということだ。

 今、神奈美の目の前にはその幹が地中から姿を現していた。

 

 質感は骨そのものであった。白く、硬く、生物的でありながら、しかしどこかその出で立ちは生(せい)を感じさせなかった。

 成長した幹は枝にいくつか死体を引っ掛け、そのまま天井まで伸びてゆく。吊るされた死体が血を垂らし、白い幹にそれが掛かる。まるでまっさらなキャンバスに、赤いインクを染み込ませた筆を振りかけているようだった。

 

 地獄絵図である。正に地獄絵図そのものである。

 突然幹にヒビが入る。割れ目から鋭く尖った枝がゆっくりと突き出す。突き出した枝は神奈美達のいる場所を指した。

 

 神奈美「あぁ、さっきのはそれか...」

 

 額に滲む汗も無視し、神奈美は策を練る。

 

 逃走を選択→人一人担いで移動出来る時間、そして体力など持ち合わせていない。

 応援を呼ぶ→間に合うわけない。

 死を覚悟→論外。

 

 神奈美「1番無謀なヤツやるしかないかな..」

 ヤタガラス[まて!考え直せ!お前だけでも逃げれる!]

 

 銃を手に取る。枝はバキバキと音を立ててそのサイズを増してゆく。

 銃を警棒へ変形させる。枝が成長を止める。ついに発射準備が整ったようだ。

 

 神奈美「バントはだめだ、ホームランもあの質量を弾ける筋力は無い。棘の横っちょをかすめるイメージで...

 腕をへし折ってでも弾道を変えて見せる!」

 

 緊張の一瞬。顎から落ちる汗と共に、枝も空気を割いて飛び出す。

 

 そして、、、

 

 発射された枝は空を裂き、神奈美に向かって真っ直ぐに飛び掛かる。が、突然右側の壁をぶち破りながら現れた白い槍によって、呆気なく真っ二つにへし折られた。

 枝は軌道がズレ、破片を撒き散らしながら床に叩きつけられた。

 

 呆気に取られる神奈美の耳に、壁に空いた穴から聞き覚えのある声が聞こえた。

 

 秋塚「げえ!何か余計なモノまで撃っちゃった気がする..

 Xって書いた丸底フラスコとか撃ってないよね!?そこにあるのはお砂糖スパイス素敵なものいっぱいとかじゃなくて、寸足らずのメスガキなんだけど!?」

 神奈美「訂正しろ!私はメスガキじゃないクソガキだ!」

 秋塚「おっ、カナーミンお便器ぃ?ケガない?」

 神奈美「便所ぉぶだ!無駄口連発してないで次弾急げ!左に3度修正かけろ!」

 秋塚「アラホラサッサー!」

 

 神奈美は笹川をおぶった。一歩ずつ、のっそのっそとその場から逃げる。背後から轟音と共に骨のような材質の破片が飛び掛かった。

 

______________________

 

 秋塚「で、あれは何だったワケ?」

 

 笹川を装甲車の車輪へよりかからせる神奈美へ秋塚は疑問を投げかけた。

 

 秋塚「見たところ骨のような材質の木たけど。」

 神奈美「あれは今回の件、即ち白い棘の発生源よ。

 あれは人に寄生して増えていく菌糸類で、棘を発射するのは一種の繁殖行動なの。」

 秋塚「じゃ、さっきはお前と木が繁殖行動を?」

 神奈美「繁殖行動だったとするのが正解かも。人に寄生した結果、人の脳を解析し知能を得た可能性がある。

 その為繁殖用の器官が武器のように使われた...と予想することが出来るわ。」

 秋塚「ほう。じゃ、何でそんなものがあの学校の生徒の間で流通してたんだ?」

 神奈美「ディーラーね。ヤツらが広めたのよ。

 棘を発射するとストレスが一時的に緩和されるの。おそらくストレス解消を謳って広めたのでしょうね。意思があれば負担なんて簡単にたまっていくわ。」

 秋塚「ディーラーのヤツらは何考えてんだか...」

 

 神奈美は[さあね]と首を振ってみせ、くわえたタバコに火をつけた。

 

 神奈美「てかこのデカブツなんなの?」

 

 二人は背後の巨体に目をやる。

 まるで車の上に人の上半身をくっつけた様な姿のそれは、二人の頭上に影を落としながら静かに佇んでいた。

 

 秋塚「ケンタウロス。半人型武装試験機。

 開発課のヤツらが武器作るときに使うテストベッドさ。ただなまじ戦闘そのものができないわけじゃないからこうして実戦に投入される事もあるんじゃよ。

 さっきの槍だってコイツのレールガンから発射したんだぜ。」

 神奈美「なんか…あんま好きくな〜い」

 秋塚「おっとガン◯ンクアンチか?」

 神奈美「勘違いしないでよね!////私の好きなモ◯ル◯ンクはヒル◯ルブなんだから!///」

 秋塚「誠に遺憾!同担拒否!」

 秋塚・神奈美「・・・バハハハハハッ!」

 

 二人の汚い笑い声が響く中、廃倉庫の壁の大穴から折越とRが出てくる。

 

 折越「ガキ共ぉ、バカ笑いしてるトコ悪いが撤収だぞ」

 神奈美「えっ?地下室のディーラー共は?」

 R「もぬけの殻でした。」

 折越「そもそも俺達が倉庫内に入った時には既に地下室の扉は破壊されていた。

 おまけに壁に俺達には覚えの無い大穴が空いていた。」

 神奈美「あッ!幻覚使い!」

 

 ナガレ達はとうに抜け出していた。神奈美の脳裏に自分が戦っている間に堂々と壁に穴を開けて脱出するナガレとリンゴの姿が浮かぶ。

 

 神奈美「やられたぁ...」

 折越「さてと、撤収!撤収!」

 

 折越は急かすようにポンポンと手を叩く。

 

 折越「急いだ急いだ!そして君は二人の処分は帰ってからだな!」

 

 折越は意味有りげに神奈美とRの肩に手を置いた。

 

 神奈美「処分?私とこの子の?」

 

 折越はその髭面をわざとらしく縦に振り、ニタニタと目を細めながら口を開く。

 

 折越「お前等命令違反してるだろ..」

 神奈美「ヤカタさんのイン◯タアカウント教えたら許して貰えちゃったり?」

 折越「もう知ってる。そして既にブロックされた。」

 神奈美「悲っし..」

 

 4人は(折越は笹川を担いで)ケンタウロスの肩に乗り込む。秋塚はコックピットへ。

 折越が輸送課に連絡を取り、瞬間移動の準備へ移る。

 

 折越「神奈美よぉ、お前今回の成果に満足いってないだろうけどさ、自信持ちなさいな!被害は比較的軽微なんだからさ!」

 

 神奈美「はいはい。以上おじんの下手くそな励ましでした元気出ましたありがとう!

 そういえば秋塚、帽子は?」

 秋塚「あっ、被ってなかった」

 

 秋塚はクシャクシャになった帽子を伸ばし、被り直す。

 

 神奈美「...お前そんな顔だったっけ?」

 秋塚「あぁ、帽子一つで人の印象なんてコロって変わってしまうものさ!」

______________________

 

 その夜、家に帰ってこない息子や娘を探す為親達の警察への電話が鳴り止まない。

 廃倉庫には人集りが出来、その非現実的な光景に人々は困惑を隠せない。

 あり得ない、説明がつかない、[異常だ]、[異常事態だ]。

 

 凍えるような風が吹く寒空を見上げると、月に人影が映し出されていた。いや、あれは人ではない。人に似せられた別の生物..いや最早生命体と呼称するのもおこがましい。

 言うなれば天使。言うなればデバッガー。鉄の翼を携え、空に音も無く浮いている。

 天使は右手を上げた。

 息を吹きかけた蝋燭の火が消えるかのように地上の光が消えた。骨の木があったあの廃倉庫も消えた。鷲尾がクラスメイトを殺害した公園も消えた。彼らが過ごした学校も街も消えた。

 そこにはただの荒れ地のみが残された。

 

 異常(バグ)は除去されたのだ。街ごと、住民ごと。

 

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