秋塚はRに運転を代わった。そして後部ハッチを蹴り開けルーフにしがみつく。風に叩かれながらフロントガラスを小突き、合図を送る。
秋塚の体は風に煽られたように浮き上がった。が、これは振り落とされた訳では無い。Rが能力を使って浮かせているのだ。
(相手より先にコンテナへ乗ってしまえばいいと。なるほどな、脳筋だが効果的ではある。)
秋塚は心の中で呟いた。
Rは秋塚をコンテナの上へ運ぶ。
無論それを許すナガレではない。ナガレは幻覚、そして幻聴を作り出し、Rへそれらを差し向けた。
Rの視界の中でトラックは凄まじい勢いで左右へ揺れた。次々に状態が変わる。真ん中から真っ二つに割れ、分裂する。
幻聴も聴こえる。神奈美の声で「右が本物だ」「いや左だ」と喧しく吠える。
ナガレはしたり顔を晒す。が、空中を移動する秋塚へ視線を戻した途端に、苦虫を噛み潰した様な顔になった。
それもそのはずである。秋塚は全くブレずに空中を移動し、今当にコンテナの上へ着地したのだ。
ミラーを凝視するナガレ。よく見ればRの肩をしきりに叩く手が見える。神奈美の手だ。
叩くだけではない。時々人さし指を使って撫でている。
モールス信号だ。
視えている!方法は解らない。しかしあの辻 神奈美には幻覚を突破する術(すべ)を持っている。
ナガレは大きく口を開いた。悔しさ故に慟哭した...訳では無い。高らかに笑ったのだ。まるで人生の目標を達成したような、まるでかねてより重くのしかかっていた面倒事を、全て片付けきったような清々しい笑いだった。
「見つけちゃったよ..主人公ってヤツ。悪役をぶっ殺してくれる最高の主人公だ...」
流れるような手つきでトランシーバーを取り出す。
「おっはー!聞こえていろよウランダリンゴ!今から言う事しっかり頭に刻み込んどけよぉ?」
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神奈美は秋塚がコンテナの上に着地するのを確認した。
「ヨシ!あとは私達で彼奴等を追い払うわよ!幸い銃はある!」
神奈美は小型のリボルバー式拳銃を車の座席の下から引っ張り出した。
その時だった。一瞬、銃を取り出す為に一瞬だけ目線を逸らしたその隙を狙われた。
「何ッ!?」
Rが何かを咄嗟に避けようとハンドルを切り込む。車体が傾き、リヤタイヤが悲鳴を上げる。カウンターステアを切り、スライドを制御するが、何かがフロントガラスを突き破って車内に入って来る。
[何か]は神奈美の額に直撃した。
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風が強く当たり、寒さで目が覚めた。神奈美はいつの間にかトラックのコンテナの上に横たわっていた。
「だぁっもうっ…なんn…!」
神奈美の喉元にナイフが突きつけられる。しかし、既のところでナイフは動きを止めた。
ナイフを持った手は秋塚によって阻まれていた。
「眠れる森のドチビさんや、お目覚めのとこ悪いがちょっと手ぇ貸してもらえる?」
「えっ?あぁっ!ごめん!」
神奈美は即座にナイフを持ったバニーガールの腹部を蹴り飛ばす。
バニーガールはバランスを崩し、コンテナの後端まで転がっていく。落下の直前に、亜凛華によって乱暴に押さえつけられ、事なきを得る。
「ところでなんでお前までラピュタのシータみたいに空から降臨してんの?」
秋塚はそう問いかけながら神奈美の拳銃を引ったくる。
「多分この間の洗脳使いの攻撃かな?」
獣のような荒々しい足音を鳴らしながら、亜凛華が突進を仕掛ける。秋塚は予見していたかのように、亜凛華に鉛玉を数発撃ち込んだ。
が、亜凛華は弾丸を拳で受け、そのまま突進する。迎え撃つ為拳を構える秋塚。しかしその予測は外れる。
秋塚の間合いの一歩手前で亜凛華は強くコンテナを蹴り込んだ。まるで特撮ドラマの様なジャンプモーション。神奈美達の頭上を宙返りで通過し、2人の背後に着地する。
「げえっ!囲まれたじゃないのよ!」
トラックの前方に亜凛華。後方にバニラ・バニー。両サイドは地面。時速80km/hで走行する
車両から飛び降りればどうなるかは語るまでもない。
「とりあえず人という字作戦?」
「ちょっと修正は必要だけど、一応作戦があるわ…」
「おっ、叩いてみそ!」
神奈美と秋塚は互いに背中合わせになった。神奈美は踵で秋塚の足を軽く小突く。
神奈美は秋塚から拳銃を奪い返し、亜凛華へ銃口を向ける。秋塚は拳を構え、バニラ・バニーを見据える。
ファイティングポーズを崩さず、隙を狙う亜凛華。どこからともなく取り出したナイフを構えるバニラ・バニー。
拳を握りしめ、睨み合い、そして…
「はいちょっと待ったぁあ!」
秋塚が積み上がった緊張感を奇声でもって崩していく。
「もうこんな、こんな無毛な争いはやめましょうよぉ!」
「不毛だろ。ハゲさすな。」
「複製人間?」
「マモーな」
「三菱!」
「ふ・そ・う!いい加減にしろ!お前わざとだろこの野郎!」
「ごめんごめん次は真面目に…あれ何してたんだっけ?え~と、え~と、そうだ!俺はお前を[愚弄]してたんだった!」
「いい加減にしろ!シリアス台無しよ!まず口閉じろ!この壊れた蓄音機が!蓄音機のラッパ脳天に突き刺してテメェをピクミンにしてやろうか!」
神奈美は秋塚に蹴りをいれようと振り返るが、秋塚は背中を合わせたままくるりと避ける。神奈美も負けじと体をよじるが、またも避けられる。そんなことを繰り返し始め、二人はコマのように回転しだす。
何をやっているんだかと呆れた表情を浮かべる亜凛華。バニラ・バニーへ目配せをし、ワチャワチャ、グルグルと回る二人へじりじりと近づいていく。
亜凛華とバニーば少しずつ足を運ぶ。そしてあと一歩というところで亜凛華達の顔面へ蹴りが飛んでくる。
「私だって成長してる…!」
亜凛華は片腕で神奈美の蹴りを受け切っていた。受けた衝撃で拳にめり込んだ弾丸が、カランと音を立てて落ちる。
「こっちは初めてみたいだぜ」
バニーの仮面に秋塚の足がめり込む。
「諦めるべき。こっちは挟み撃ちにしてる」
「でもどうやらアドバンテージがあるのはこちらみたいよ?」
「あんなの見ちゃったら勝ち確って思っちゃうよ。でも気ぃ抜いたらこっちまで殺されそう。」
神奈美と秋塚の視線の先、つまりはトラックの進行方向にそれは浮かんでいた。
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「で、そっから何故(なにゆえ)トラクター(トレーラーの牽引車)が紙くずみたいにグシャグシャ、コンテナは捻れて使い物にならず、敵組織の捕虜の一人が肉塊になるんだ?」
島川原は丸めた新聞紙を抱え、対策課の床に正座で俯く神奈美、秋塚、Rを睨み付けた。
Rが目をきゅっと瞑り、恐る恐る手を挙げる。
「私の…私の慢心によるものです。」
神奈美は横目にRを見つめる。
「自らの実力を見誤り、過剰な戦力を投入した結果このような醜態を…」
遮るようにして神奈美が口を挟む。
「私が指示しました。最終的な責任は私が取ります。」
島川原は目を瞑り、一呼吸置き、そして口を開いた。
「トラクターはオートパイロットで、捕虜は再生するらしいからとりあえず死者は無し。コンテナ、というか今回の作戦そのものがデコイだから、別ルートで運んでいた物資は無事なものの…一体どう報告書にまとめたら良いか…」
「まあ、あれじゃない?」
秋塚が口を挟む。
「今日は一旦全員休めで良いんじゃない?俺もこんなだしちょっと寒い。」
秋塚の上着の右半分は破れてズタボロ、血だらけになっており、体はガタガタと震えていた。
「…そうだな、俺もちょっと疲れた。後日なんか、なんか考えておく。とりあえず解散。」
三人は対策課の事務室を後にした。ドタドタと若干重めの足取りで廊下を進む。皆疲れていた。
途中でRと別れ、二人は回収課の事務室に入る。ソファにどっかりと腰を下ろした。
「にしても驚いたわ。」
神奈美はふと口を開いた。
「Rちゃん、超能力者だったんだ。」
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神奈美とRはプランBを用意していた。即席のものであったが無いよりはマシであった。
内容としては、もし洗脳使いに襲撃された際に超能力を発動し、洗脳を解除。再度戦闘に復帰するというものであった。
そして今それは実行された。が、様子がおかしい。
Rは空中に浮いていた。まるで見えない足場がトレーラーに付いているかのように。眼鏡の代わりにパイロットゴーグルを掛け、どこから持ってきたのか小綺麗な制帽を被る。
そしてこちらもどこから取り出したのか精巧な作りの軍刀を天高く掲げる。
「マズイな…!」
秋塚は何かを察しトレーラーから飛び降りようと神奈美を抱える。
が、突然右肩に違和感が走る。焼けている。溶けている。頬に焦げ付く感触を感じながら横目にバニラ・バニーを観る。
左腕は裂け、中から金属の配管が幾本も伸び、右腕から生えた戦車砲サイズのバレルに繋がる。[戦車砲]には冷却フィンが連なり、配管から血が滴る度に湯気が上がる。
(レールっ…キャノン!)
秋塚は神奈美を路側帯へぶん投げる。
Rが軍刀を振り下ろし、バニーがキャノンを発射する。
トレーラーは独りでに凄まじい速度で潰れていく。レールキャノンの弾頭は秋塚の右半身を木っ端微塵にしながらも、Rの攻撃の圧を前に砕け散る。
亜凛華は潰れた虫の如く骨や内臓を飛び散らせ、バニーは発射の反動で両腕が破裂。秋塚は残った左半身でRに殴りかかる。
飛び上がって首を掴み、再生が完了した右の拳でRの顔面を真正面から殴りつけた。