神の駒   作:海苔 green helmet

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[は切替わる]

 秋塚は監視室の扉を閉め、守衛にそれをチェックさせた。セラミックと鉛を使った厚さ32cmの複合材で出来た扉を呆然と眺める。

 紙袋から唐揚げ棒を取り出し、齧りつきながら廊下へ出た。

 トレンチコートにジャージという独特の服装の男が待っていた。

 

 ベンチが2人目の重量を受け止め、座板が軋む音が廊下に木霊した。

 

 「ちょい調べられるか?」

 

 秋塚は折越と視線も合わさずに語りかける。

 

 「応よ」

 

 折越も視線を合わさずコートのポケットからタバコを一箱取り出す。

 

 「いっけねこれじゃねぇや」

 

 別のポケットから別のタバコを取り出し、咥え、火をつける。

 

 「んでなによ」

 「5年前までの児童相談所による女学生の保護記録を漁って欲しい。女学生の特徴は赤目で口に欠損有り。保護の後(のち)失踪まで入ると完璧。」

 

 ふぅ~っ、と煙が吐き出される。

 

 「引き取り先が人体実験やるイカれた科学者だったとか運がないねぇ」

 「………」

 

 折越は無言で俯く秋塚の肩軽くを叩く。タバコを携帯灰皿に突っ込み、ベンチから立ち上がる。

 

 「後悔は思ってるより引きずることはないし、キメてる最中はハイになるぜ…復讐ってやつは…」

 

 秋塚の握り締められた拳から、一つまた一つと血の雫が滴る。強く、ひたすらに強く握りしめた。

 

______________________

 

 

 カットされた林檎に爪楊枝を刺す。静かに口へ運び、咀嚼する。シャキッ、シャキッと頭蓋骨を通して音を感じ取る。

 神奈美は自室のソファの上で考えを巡らせていた。

 頭を掻き、林檎を一切れ、二切れと口に突っ込むが思考は一向に進まない。諦めたように爪楊枝を皿へ放る。

 

 「ヤタガラス」

 

 神奈美はいつものように頭の中で呟くのではなく、声に出してその名を呼んだ。

 

 [脳内で会話する必要も無いと気がつけただけでも上出来だわ]

 

 脳内でヤタガラスの声が響く。

 

 [それで、何が知りたいの?]

 「先ず、お前は何者なの。そして私は何。知っているはずよ。」

 

 頭を抱えたまま脳内声に意識を傾ける。視線は机を向くが瞳は何も観ていない。

 少しの間の後、ヤタガラスの言葉が脳内で浮かび上がる。

 

 [資料が必要ね。開発課のラボラトリに行ってくれる?幸い、この時間は誰も居ないわ。]

______________________

 

 不気味な程静かで薄暗い。天井は高く15mもある。

 制作途中の装置がカバーを掛けられ、中には解体中の札の掛かったものもある。

 ラボラトリの中央にデスクトップパソコンを載せた机が列を成す。ヤタガラスはその内の1台に近づけと命令する。

 

 [USBポートに触れて]

 

 神奈美は脇に抱えたモッズコートを椅子に掛け、USBポートに人さし指を近づけた。余りにも潔く、何ら怪しむ様子もなくである。

 

 バチッ、とスパークする。薄暗かったので火花がよく見えた。

 

 突然パソコンの電源が入った。ファンが回り、モニターが眩く色付いていく。

 呆気なくパスが破られたと思えば、デスクトップにはすさまじい速さでカーソルがファイルを食い荒らす様子が映っていた。

 

 カーソルが一つの映像ファイルを持ってくる。

 

 [これを観る前に一つだけ言わせて。]

 

 神奈美はそっとマウスに触れる。

 

 [貴女は貴女自身が何故以前の記憶を追っているか覚えている?]

 

 カチッ。高く、薄暗い天井にクリック音が木霊した。

______________________

 

 ケンタウロス実戦記録1

 備考:本来ケンタウロスは武装試験及びそれの理論実証用のテストベッドであるため、実戦は想定しない構造となっている。

 

 [画面は切替わる]

 

 [三号機カメラ 23:25]

 月明かりが僅かにその場を照らしている。

 トンネルが見える。電灯は全て消えていて、トンネルの輪郭がボンヤリと確認できる。

 

 [画面は切替わる]

 

 [三号機カメラ 23:50]

 15秒ほど先ほどと同じ映像が続いた。事が起こったのはその後だ。

 突然カメラが月の方へズームする。カメラが右往左往と揺れる。辛うじてそれが映り込む。

 人影。それはカメラに捉えられるやいなや急接近を開始する。

 雑音の後、映像は砂嵐状態となった。

 

 [画面は切替わる]

 

 [四号機カメラ 23:53]

 照明を炊いてトンネルを進む。出口に巨大な影が見える。肩の三のマーキングが照明に照らされる。

 半壊していた。頭部センサーユニットが無く、右肩から腰、脚部ユニットが破壊されている。

 左肩に人が立っていた。パイロットではない。パイロットはそいつが両手に持っていた。

 

 [四号機の火器管制レーダー使用。対象UNKNOWNをロックオン。]

 

 そいつは一瞬首を傾げるが、何かを察したようにパイロットの上半身を四号機に投げつける。

 

 [左腕オートガンバーストモード。発砲開始。]

 

 曳光弾がパイロットの上半身を砕く。2弾目が三号機の左肩を破壊。3弾目は虚空へ消える。

 UNKNOWNが濡れたアスファルトへ降り立つ。照明がその姿を照らす。キトンを纏った少女をカメラが捉えた。

背から何かが広がった。カメラが白一色になる。

 

 [照明OFF。ナイトビジョンへ切り替え。]

 

 少女の背には残光を放つ翼があった。

 

 [画面は切替わる]

 

 [Irregular No.6カメラ 0:07]

 トンネルに明かりが灯っている。少女のキトンが赤であるとわかる。少女の背後は複数機のケンタウロスが塞ぐ。

 カメラは振り返り、自機のコックピットから警棒を取り出す。

 

 [Irregular No.6、試製特殊警棒使用。]

 

 腕が映り込み、警棒で挑発する様子が視えた。

 

 [画面は切替わる]

 

 [Irregular No.6カメラ 0:12]

 映像は激しく揺れる。一瞬、一瞬の揺れが止まる瞬間で状況を飲み込む。

 肩を掴む手。

 腹に叩き込まれる警棒。

 少女の広げる翼。

 割れる蛍光灯。

 霰石の様に叩きつけられる破片。

 何かをアスファルトへ固定するケンタウロス。

 自身の頭を抑える少女。

 その頭にフルスイングで叩き込まれる警棒。

 吹き飛び、蛍光灯へ頭から突っ込む少女。

 一瞬ぷらんと垂れ下がる体。

 無様に地面へ落ちる体。

 近づくカメラ。

 髪を引いて持ち上げる手。

 顔面のガラス片と血を雑に取り除く手。

 

 そして映し出された。その顔はよく知っている。

 

 神奈美は画面に映る自身の顔を見つめていた。

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