神奈美「え?何?ちょっと待って。」
神奈美のデスクの上に厚さ3cm程の紙の束が無造作に置かれた。
ヤカタ「超異能課との共同任務だってさ」
資料をめくる神奈美の表情は1ページを過ぎる毎に雲っていく。
神奈美「潜入調査?...実働隊?...名ばかりで私だけしかいないじゃん!
決行は...嘘、三日後!?」
ヤカタ「そうだ島川原からコレ預かってきた」
ヤカタはエプロンのポケットから黒い革製のホルスターを取り出す。
神奈美「コレが出てくるってことは今回の任務の難度はお察しじゃん
こんな危険な任務子供にやらせていいんですか?」
ヤカタ「伝言も預かってるわよ。[都合の悪いときだけ子供になるな]って」
神奈美はムスッとした表情を浮かべるが、吹っ切れたのか黒いホルスターを掴んだ。
神奈美「分かりましたよ!やればいいんでしょ!てか結局強制でしょ!」
神奈美はレザーのグローブを尻のポケットのに突っ込み、椅子に掛けていたモッズコートを羽織った。
出口のドアノブに手を掛ける。
神奈美「秋塚叩き起こしてきますっ!」
ドアが乱暴に閉める音の後、ズカズカと廊下を進む音が響いた。
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十日後、神奈美は体育館裏の木陰で本を片手に連絡役を待っていた。
背後のフェンスに誰かが寄りかかった。
秋塚「テスト結果出たか?」
これは所謂合い言葉である。神奈美は伊達眼鏡を掛け、長い髪を結んで変装をしていた。
神奈美「上々よ」
神奈美はフェンスの上にメモ帳を置いた。
秋塚「ごくろうさんっと。いや~普段と格好が全然違うからヒヤヒヤしたよ」
秋塚はメモ帳をジャケットの内ポケットに仕舞い、何処かへ去ろうとするが、神奈美はそれを引き留めた。
秋塚「なんぞや?」
神奈美「面白いもの見つけた」
秋塚「ボー○ボ?」
神奈美「もっとミステリー寄りの面白さよ」
神奈美は持っていた本を秋塚に寄越した。
秋塚「卒業アルバム?」
神奈美「23ページ...」
秋塚「ページ数くらい振っとけよクソッ」
ひい、ふう、み、とページを捲っていくと、部活動の様子が記録されたページにたどり着いた。
神奈美「そこよ、そこの左上」
秋塚「写真部のコンテスト?部活内で複数人で写真撮ってきて、誰が一番いい写真撮ったか投票で決めると...」
秋塚の瞳が泳ぐ。そしてその写真に視線が止まった。
大きいが、光の無い目に、への字に曲がった口。妙に大人びた雰囲気と、子供臭さの残る表情。写真の下にはコンテスト2位と書いてある。
秋塚「この2位の娘の顔どっかで見たことあるな...
この生意気でマセてそうなクソガキ感どっかで...あ"っ」
神奈美「どーもー、マセてそうなクソガキでぇす」
秋塚「マジか!?えっ?」
秋塚は写真と神奈美の顔を交互に見比べる。
秋塚「いや格好変わり過ぎだろ...」
確かにその通りだった。写真の人物は髪を金髪に染め、更に右側頭部を刈り上げていた。
秋塚「なんちゅうかこう...ギャルだな
にしてもお前の過去余裕で見つかったじゃん。」
神奈美「どっこい、それがね..」
神奈美はアルバムに手を伸ばすと、パタンとアルバムを閉じてしまった。
神奈美「この卒アル何年度のか覚えてる?」
秋塚は肩をすくめ「さあね?」とジェスチャー。
神奈美「オーケー、んじゃここ見て」
神奈美はアルバムの表紙の中央、[平成13年度]の文字を軽く指で叩いた。
神奈美「見た?じゃ、よそ見して」
秋塚「ほいほい」
神奈美「そしてもう一度表紙を見る」
秋塚「賽の河原味がある」
神奈美「無ぇからとっとと見る」
秋塚は(何故か)渋々と表紙に視線を向けた。するとどうだろう。[平成13年度]の文字にノイズが走り、まばたきする間には[令和2年度]へ変わってしまった。
神奈美「異能力だか超能力だか知らないけど、取り敢えず認識を阻害する何かが仕掛けられてる。
さっきの私似の子、写真部だったでしょ?私が最初に見たときは吹奏楽部だったわ」
秋塚「はえ~っ!」
神奈美「この間のなんとかビデオの件といい、今回の配属の件といい絶対内部に良からぬ事企んでる輩いるでしょ」
秋塚「なんとかビデオの件を俺は知らないからなんとも言えん」
神奈美「だあ~もうっ!なんかイライラしてきた!マリオネットにでもなった気分、気に入らない!」
秋塚「命令を聞くのは嫌か?」
神奈美「特定の人物に限る。つか共同任務と言いつつ、回収課で指定された人員私だけだし。
本当に誰なのよ、こんな事思い付いたのは!?」
秋塚「指揮とってるのシマだろ?アイツが指定したんじゃない?」
神奈美「シマさん人の扱い雑!」
秋塚「部外者視点からだけど、結構良い采配だと思うぜ、チビだから溶け込みやすい」
神奈美「誰がチビだ!」
秋塚「まあまあ、チョコでも食って落ち着けよ」
秋塚は上着の内ポケットから板チョコを取り出すと包装に何かを貼り付け、神奈美に渡した。
秋塚「んじゃ、俺はこれでサラダバー」
秋塚が去ると同時に神奈美は手鏡から真実鏡を取り出し、校舎の柱の角に向かって光を照射した。
神奈美「首が飛ぶわよ007
(気付いていたなら口で言わんかい!ぁのフィジカルゾンビが!)バキッ」
神奈美はチョコを頬張り、[建物の影に気配有り]と書かれた付箋を細かく破いた。
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扉をノックすると深い金属音が響いた。
部屋の内側からさも多忙だと言いたげな声が聞こえる。
島川原「あとにしr」
秋塚「お邪魔しま~す」
秋塚は声を無視して[超能力及び異能力対策課]の扉を開けた。中に入ると一人の男が珈琲を片手にファイリングされた資料に目を通していた。男は眼鏡のフレームを押し上げ、位置を直すと、秋塚の方へ目線を向けて面倒げに口を開いた。
島川原「イレギュラーナンバー6か、後にしろと言った筈だ」
秋塚「言いそびれたからノーカン。あっ!ちょっと待った。出ていけと言う前にちょっと待った!
カナーミンから新鮮な状況報告を持ってきたぜ」
秋塚は神奈美から預かった手帳を島川原へ手渡す。島川原は付箋の飛び出たページを開き、再度眼鏡の位置を直す。
秋塚「あの学校の生徒がOツールを所持しているのは確実だそうだ。それだけじゃない、Oツールの入手ルートにディーラーが絡んでるのは十中八九間違い無しだとさ。」
島川原は暫くの間メモ帳を眺めた後、それを机に置いて口を開いた。
島川原「全く。無駄話をしている時間は無いというのに、キミとの会話で時間を無駄にしそうだ。折角部下が作ってくれた貴重な時間をな。」
島川原は椅子から立ち上がり、資料を背後の棚に戻した。
島川原「そもそもメモだけ置いて帰ればいいものをキミというやt..」
振り返ると秋塚の姿は跡形もなく消えていた。
島川原「死ねよ...」
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神奈美「そ、それで、なんの用ですか?放課後帰らずに残っていろって...大事な要件なのですよね?」
神奈美は普段の強気な姿勢を抑えて話を切り出した。
片膝を抱えて教卓にふんぞり返っていた女生徒は、わざとらしく髪をなびかせるとこう言った。
???「二江 郁恵さん、貴女自分がなにをしたかわかってるの?」