英雄伝説『外伝』 刻の軌跡   作:雨の村雲

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2-05 スミットウェール邸

――翌日。ナギサが作ってくれた朝食を食べ終えた後、浮かない顔をするエルガと、やれやれと言った顔をするアニーの二人が遊撃士協会の帝都支部から出てくる。何かに納得していないのか、エルガはうーんと唸りながら、

 

「本当に大丈夫なんですか? また昨日みたいに死神が表れたりしたら……」

 

「でもナギサちゃんが”まかせて”って言っていたんだから、何か考えがあると思うの。それにあの死神から逃げるだけなら、私達だけでも何とかなると思うわ」

 

昨日と同様、これから帝都地下で放置されたままの地下水路へと赴くのだが、そのことで昨日の夕食時ナギサから提案があったのだ。

 

――『あたしも連れて行って』と。

 

当然タクトは反対したのだが、彼女が妙に強引だったことと、上位三属性について心得があるとのことで、ダーゼフからも連れて行ってはどうでしょうと言われれば無下にも出来ない。

 

そのため今日の調査には、エルガとアニーの二人に加えて、ナギサを含んだ三人で向かうことになる。エルガとしては彼女に危険が生じるのではないかと危惧し、今もなお地下水路に連れて行きたくなさそうである。

 

「それにしてもナギサちゃんが作ってくれたご飯、美味しかったなぁ~。元から料理上手だったみたいだね」

 

「……今朝彼女が朝食をつくっているところを見たんですが……一緒に台所に立っていたダーゼフさんが生き生きとしていたのは思わず笑っちゃいました」

 

ちなみにダーゼフは若い頃、遊撃士と料理人を兼業していた時期があり、過去には一流ホテルのシェフとの料理対決で勝負し、勝ったこともある人だ。エルガも過去に彼から料理のイロハを叩き込まれたのだが、今となっても辛い――もとい、今となっては楽しい思い出である。そういうことにしておいて欲しい。

 

「教え甲斐のある子で大変嬉しいです」とはダーゼフ本人の談。もし娘がいれば、今のナギサと同じ年代でもおかしくはないのも、それに拍車をかけているのだろうが。

 

「――準備できた」

 

協会東部支部の入口辺りで、通行人の邪魔にならないように待機していた二人の元へ、扉を開けて出て来たナギサが近づいてくる。動きやすくするためか、長い黒髪を後ろで一つに束ねてポニーテールにしている。アニーはナギサの姿を見て、

 

「うわぁ、可愛い! 似合っているね、ナギサちゃん!」

 

「そ、そう……かな……?」

 

にっこりと笑顔を浮かべながら誉めるアニーに、ナギサはさっと顔を背けながら口を開く。顔が真っ赤になっているのを見てエルガも微笑み、

 

「あぁ、似合っているぞ」

 

「………ぅぅ……」

 

二人に似合っていると言われたからか、ますます顔を赤らめるナギサに、二人は顔を見合わせて笑みを溢した。

 

 

 

「二人ともごめん。地下道の調査に行く前に、行きたいところがあるんだけど……」

 

早速地下水道に向かうのか、と思っていたナギサだが、エルガがそう切り出したことに首を傾げつつも、特に問題もないため黙って頷いた。アニーも同様に、

 

「それは良いけれど、どこに行きたいの?」

 

「ヴァンクール大通り。それとガルニエ地区にある……この住所」

 

ごそごそと懐から取り出した遊撃士用の手帳を捲り、そこに書かれた住所をアニーとナギサに見せてくる。意外に達筆なのか、字が綺麗である。

 

「うん、わかった。……あら……この住所……」

 

住所を見ながら頷いたアニーだが、やがてまじまじと書かれた文字を見つめている。何かに気づいたのか、ナギサは彼女の視線を追ったが、以外にも住所の上に書かれている「スミットウェール」の文字を見ているようだ。

 

スミットウェール――人名、家名だろうか。まるで何かを思い出そうとしている色白の女性を見て、エルガは眉根を寄せて問いかける。

 

「何かありましたか?」

 

「……その住所と名前、どこかで聞いたような気がする……どこだっけ……?」

 

しばし考え込んでいるアニーだったが、やがて首を振って息を吐き出し、

 

「……思い出せないけど……なんだろう、そこに行くのは止めた方が良い気がする……」

 

「そうなんですか? う~ん……実は二日前のハイジャックされた飛行艇で、このスミットウェールさんに会ったんですよね。無事かどうか確かめたいですし……」

 

二日前のハイジャックされた飛行艇、というと自分とエルガが出会ったあの事件だ、とナギサは黙って頷いた。だがナギサ自身、スミットウェールという名に覚えはない。ということは、自分と彼が出会う前の話だろうか。

 

「……………」

 

――そういえば、あの件について何一つお礼を言っていない気がする、とふと思い出し。しかし口をすぼめてそっぽを向いた。空賊団に襲われ、さらわれそうになったあのとき、彼は手を差しのばしてくれたのだから、きちんとお礼を言うべきなのだ。――しかし。

 

(……あたし、助けてなんて一言も言っていないし……)

 

ふと、そんなことを考えてしまう。自分でも、下らない意地を張っていると言うことはわかっているが、それでもだ。――強く生きないと行けないのだ、あたしは。だから――

 

「おーい、ナギサ?」

 

「あ、うん。……何?」

 

「まずヴァンクール大通り行こうってアニーさんが提案してくれたんだ。だからほら、付いてこないとまた迷子になるぞ」

 

「……迷子になったのはエルガの方でしょ」

 

ジトッとした目でエルガを見ながら言い、いつの間にか先に歩き出していた二人の元へ駆け足気味に近づいていく。――あぁ、また。いけないことだとわかっているけれども、ついひねくれたことを口に出してしまう。

 

「あら?」

 

「ち、違う! あのとき迷子になっていたわけじゃ……! 導力トラムに乗ったら全然、別の場所に行っちゃって、それで迷っちゃって……!」

 

「自爆してるよ」

 

アニーにニヤニヤとした目で見られたエルガは、慌てて否定するものの、その途中で自分から迷ったと口にしてしまっている。呆れながらそのことを指摘すると、彼はぐむっと口をつぐんで黙り込む。

 

「へぇ~? まぁ帝都は広いからねぇ。迷っちゃうよねぇ~? 良くいるのよ、適当なトラムに乗ってどこか行っちゃうお子様って」

 

「しかもトラムの代金がコインでしか払えないことを知らなくて、かなり焦ってた」

 

「……帝都初心者にとってトラムは、敷居が高すぎると思うんだ……」

 

恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にするエルガの言い訳に、アニーはついに爆笑し、ナギサも堪えきれずに顔を背けながら吹き出すのを我慢するのだった。

 

――その翌日辺りには、ダーゼフにもその話が伝わっており、優しい笑顔を向けられて余計に恥をかいたのは余談ある。

 

 

 

――最初に言っていたヴァンクール大通りでの用事というのは、例の”占い師”のことである。ダーゼフもその占い師のことは知らなかったらしく、ナギサの件も含め、少々詳しい話を聞きに彼の屋体を探していたのだ。

 

しかし占い屋の看板を掲げた屋体など見つからない。そこで通行人に聞いてみると、あっさりと理由が判明した。

 

 

『あぁ、あの人がやっている占い屋のことね? それだったらいつもこの辺りで屋体を開いているわよ。――え? あぁ、いつもお昼頃にお店を開いているから、まだやってないんじゃないかしら』

 

『かなり当たるって評判なのよ。この間なんか、なくしていたと思っていた鍵の場所を当ててくれて! え? あぁ、だいたい日が沈むぐらいまでやっているわね』

 

『あ、あの占い屋さんなら、多分昼頃に来ると思うわよ? いつもそれなりにお客さんが並ぶから凄いのよねぇ……。っていっても、あの占い屋さんがやってきたの、一ヶ月ぐらい前なんだけど』

 

 

また例の占い師のことはナギサには伝えていない。少々迷ったのだが、アニーと相談して伝えないことにしたのだ。――何せ彼女は空賊団に狙われた上に、例のヤクザ組であるブレイツロックにも狙われているという。そういう状態のため、これ以上負担をかけるのはよろしくないとの判断である。

 

しかしそのことが原因で、妙な勘違いをされてしまった。

 

「二人は占い屋さんを探しているの?」

 

「え? あぁ、ちょっとな。たまには空の女神様以外にも頼ってみようかなって」

 

「……あたしも占いできるよ。戻ったらやってあげようか?」

 

「……あぁ、じゃあ頼む……?」

 

占いができるとはどういうことだ? と若干首を傾げたが、そんな約束を彼女とかわした。

 

ともかく、現時点では占い屋に関してはまた後で来るということにし、二つ目の目標であるガルニエ地区にあるスミットウェールさんの元に向かうことにした。

 

ガルニエ地区にはオペラハウスや貴族向けのホテルが多数並んでいる地区であり、帝都の中でも有数の観光名所とも言える地区である。アニーに連れられてこの地区に足を踏み入れたエルガは、口をすぼめて首を傾げた。

 

「ここがガルニエ地区ですか? なんて言うか……高い建物が並んでいるなぁ……でもまぁ、あの人はぱっと見、貴族ぽかったから、ここに住んでいてもおかしくはないのか……」

 

そんな地区だからこそ、ここに居を構える人は大抵貴族のようなお金持ちが多い。あのとき住所を教えてくれたスミットウェールさんも、見た目は貴族のようであったため、ここに住んでいてもおかしくはない。

 

「…………なんか、嫌な予感がしてきた」

 

一方アニーは、ガルニエ地区に足を踏み入れたときから、何かを思い出せそうなのか眉根を寄せている。はっきりとは思い出せないらしいが、それでも嫌な予感がするとのことでエルガも少しばかり心配になってきた。

 

「……このスミットウェールさんって人、知っているんですか?」

 

「以前、何かで名前を見た気がする……なんだっけ……そうだ、確か報告書の備考欄に書かれていて……」

 

必死に思い出そうとするアニーの独り言を聞いていると、なぜ思い出せないのかが何となく分かってきた。おそらく誰かが書いた書類の隅の方に、さらっと書かれていたため、印象に残りづらかったのではないだろうか。

 

「……ねぇ、ここじゃない?」

 

三人が固まって歩いていると、住所欄と標識を見ていたナギサが先にスミットウェールの文字を見つけ、その建物を指さした。二人もそれを見やると、そこには豪勢な邸宅が建っている。一見ごく普通――一般向けとは言えないが――の邸宅であるが、それを見た途端アニーは思い出したのか、一瞬で顔を青くさせて悲鳴を上げた。

 

「あああぁぁぁぁぁっ!! 思い出した-!!」

 

「アニーさん? あの、ここガルニエ地区の住宅街なので静かに……」

 

「スミットウェールって、もしかしてフガル・スミットウェール!?」

 

突然エルガの肩を掴んで揺さぶってきた。相当焦っているのか、エルガの注意をまるで無視しながら大声で問われ、彼も困惑しながら首を振る。

 

「いや、名前までは聞いてないです……」

 

「もしフガル・スミットウェールなら……! その人は、ブレイツロックの“初代頭首”よ!?」

 

「え? えぇぇっ!?」

 

「うそ……!?」

 

突然の情報にエルガは驚き、ナギサでさえも目を見開かせている。なぜそのことをもっと早く教えてくれなかったのか。いや、アニーも半ば忘れてしまっていたようだし、仕方のないことではあるのだが。

 

ということは、今目の前にあるあの建物には、一連の事件における重要人物が住んでいると言うことになる。だが果たして、初代頭首などという大物相手に、話が出来るのだろうか。飛行艇で会ったときは、わりとフランクな人物であったような気がするが。

 

「……お前等何やってんだ、こんなところで」

 

突然のことにあたふたし出した三人に向かって、背後から声がかけられる。そちらに視線を向けると、大柄な男性が二人、こちらを呆れたような目つきで見やっていた。片方は赤みがかった黒髪に、右頬の傷があった。そしてもう一人は、体中に巻かれた包帯が痛々しいが、昨日見覚えのある人物である。

 

「レオンさんに、確かマルコさん!?」

 

「ここ金持ち連中の住宅街だからな、あんま大声出すなや」

 

「す、すみません……」

 

エルガが二人の名前を呼ぶと、マルコがふぅっと息を吐き出しながら注意する。レオンはエルガ達三人を見ながら苦笑し、

 

「それで、おやっさんの家に何のようだ?」

 

「……おやっさん、ということはやっぱり……」

 

レオンがおやっさんと呼ぶということは、少なくとも彼にとっての恩人か、もしくは文字通りの”親”、つまり頭首になる。ということはつまり――

 

「――さっきから妙に騒がしいと思ったら……客が多い日だな」

 

ぎぃ、と扉が開く音と共にやや年配の男性が姿を見せた。以前、飛行艇の中で出会った人物である。レオンとマルコの二人はそちらを見るなりさっと頭を下げ、アニーは警戒心を露わにし、ナギサはおろおろと周囲を見渡している。様々な反応を見せる中、頭を下げたレオンが口を開く。

 

「お騒がせしてすみません、フガルのおやっさん」

 

「おう、久しぶりだな。それに、そこの少年も」

 

どうやら自分の事を覚えていたらしい。どこか安心したように笑みを溢しながら、エルガも頭を下げた。

 

「二日ぶりですね、スミットウェールさん。その節はありがとうございました」

 

「何、老人の気まぐれだ。それに怒ってくれても良い。アレはある意味、裏社会への勧誘でもあるからな」

 

憮然とした態度を崩さず――飛行艇で出会ったときはもっと親しみやすそうだったが――に口を開いたスミットウェールに、エルガも確かにと苦笑する。だが自分は遊撃士――どのみち裏社会との関わることは多いため、そのあたりの気遣いはありがたいが無用である。

 

「積もる話はあるだろうが、まずは中に入ると良い。茶ぐらいは出そう」

 

 

 

 

「それでは改めて自己紹介と行こう。私はフガル・スミットウェール。”スミットウェール物流商会”の前会長であり、そして察しの通りブレイツロックの初代会長を務めていた」

 

フガルに連れられて屋敷の客間に案内されたエルガ達は、改めて名乗った彼に向かって頭を下げた。スミット物流商会――おそらく、昨日レオンが話していた物流を行っている商会だろう。

 

ブレイツロックの資金源とも言える会社であり、同時にブレイツの”表の顔”でもあるのだろう。大きなテーブルを囲むようにソファに腰掛け、来訪の理由を語るエルガ達を見渡したフガルはふむ、と頷いて、

 

「そうか、遊撃士だったか。あのとき渡したメモを頼りにここへ、か。――あのハイジャック事件、どこの空賊団が行ったことなのかわかっているのかね?」

 

「最近結成されたレヴァナント空賊団だとこちらは考えていますが……あの、それがどうかしましたか?」

 

「…………」

 

ただの問いかけのはずだが、なぜか妙に威圧感を感じるため、アニーはおっかなびっくりといった様子で口を開く。一方空賊団の名を聞いたレオンとマルコは互いに目を見合わせている。

 

名前を聞いたフガルは、眉根を寄せて黙り込み、

 

「やはりか。……突然現れた黒い飛行艇に描かれていたマークは見間違いではなかったか……しかし……」

 

腑に落ちない、とばかりに首を振るおやっさんを見て疑問に思ったのか、レオンは問いかけた。

 

「何か、気になることが?」

 

「……私も詳しくは知らないが、連中の船は現行の技術じゃ再現しきれない機能を持つらしい。どういうつもりかは知らんが、その隠密性を生かして猟兵団、もしくは軍隊からしか略奪を行わない連中だ。……個人的には好感が持てる。略奪を行っている以上、誉められたものではないが、奴らなりに何らかのルール……“信念”を持っているように思えるのだ」

 

そんな批評を空賊団にしているが、しかし心の底から嫌っているわけではないことは伝わって来た。

 

「だから気になっている。脅すだけ脅して、結局何もしなかったあの空賊団は一体、何がしたかったのか、と」

 

フガルの鋭い視線が遊撃士達――特にあの場にいたエルガに向けられていた。あの場にいた君ならば、何か知っているのではないか、と言葉にせずに問いかけてくる疑問に、彼はしばし考え込んだ。

 

「……ナギサ。ある程度の事情を話しても大丈夫か?」

 

「……うん」

 

こくりと頷いた彼女を見て、安心させるように穏やかな微笑みを浮かべると、コホンと咳払いをしてフガルに向き直る。

 

「空賊団の狙いは……理由はわかりませんが、おそらくここにいるナギサだと思われます」

 

「……何?」

 

彼女に伺っていたことから、ナギサが関係しているのだろうと察していたレオンではあるが、まさか彼女自身が狙われているとは知らず、驚きの表情を浮かべた。――隣に座るマルコも同様であり、レオンとフガル、そしてエルガの三人に視線を向けていた。

 

「帝都への定期飛行便の中で、自分は彼女を保護したのですが、その時空賊団から彼女を渡せと何度も迫られました。理由は分かりません。ただ……あくまで個人的に感じたことなんですが、あの時の空賊団からはあまり”やる気が感じられませんでした”」

 

「……え? そうなの……?」

 

「あくまで俺自身が感じたことだけど。なんて言うか……覇気がなかった。結局連中のライフルも、全部空砲だったし、今思うと剣撃も、微妙に急所を外してきてた」

 

やる気が感じられない、と言われナギサは若干驚いたような声を出していた。二日前の飛行艇内での戦闘では、空賊団もブレードを手に何度もエルガを斬り殺そうとしてきたように見えたが、エルガからすれば違うらしい。

 

「だからその……こう言ってしまうと、向こうに肩入れしているって言われそうですけど……何か、空賊団の方でもやむを得ない事情があるのではないかと、思ってしまって……」

 

「それは……でも確かに。今まで民間人を襲わなかった空賊団が、いきなり民間の飛行艇を襲ったのも、少し不自然だし……」

 

エルガの希望的観測に、アニーも思うところがあるのかやや同調気味に頷いている。――それにライフルの空砲や、金品に一切手を付けなかったこともある。不自然な点が何を意味しているのかはわからないが、非常に気になる点である。

 

「……坊主、なんでそこの嬢ちゃんを狙っているのか、その理由は分かっているのか?」

 

やや視線を細め、レオンが根本的な理由を問いかけてくる。――一瞬、彼の隣に座るナギサがぴくっと反応したものの、問われた本人であるエルガはそっと首を振る。

 

「それについてもわからないです。ナギサ本人に聞いても、わからないみたいで」

 

「………」

 

ナギサはエルガの方を見て目を瞬かせた。――そういえば彼は、うっかり自分が口を滑らしてしまった”巫術”について一切聞いてこない。遊撃士の立場としては聞くべきなのにもかかわらず、だ。こちらに配慮してくれているのだろう。

 

ありがたいと思う反面、申し訳ない思いもある。しかしだからこそ、上位三属性の話が出たとき、協力しなければと思ったのだ。

 

「初代、実は……」

 

エルガとレオンの話を黙って聞いていたマルコは、二人の間で流れる沈黙を破るかのように口を開いた。ナギサが狙われている、という話を聞いて、ブレイツロックでもそれに関連することがあったからだ。

 

「先日うちの連中の一部が、ナギサお嬢さんをさらおうとしたんです」

 

「……なんだと?」

 

マルコの言葉にフガルは眉根を寄せ、次いで確かめるかのようにナギサへと視線を向けた。怖い顔にジロリと睨まれ萎縮しかけるも、彼女はゴクリと喉を鳴らし、視線を逸らさずに頷いた。

 

「……本当みたいだな。それで、そんなことをやらかした馬鹿は」

 

「――その馬鹿共に、けじめを付けさせに行こうと思っていたんだが……」

 

ここから先は俺が話す、とレオンがマルコを制し、話を続けた。今朝マルコから聞いた話をこの場にいる全員に伝えようと口を開いた。――自分自身、未だに半信半疑で信じ切れていないのだが。

 

「――その一件に関わった奴ら全員が、”死亡した”らしい」

 

『っ!!?』

 

――レオンの言葉に、マルコを除く全員が驚きの表情を浮かべた。一体なぜ、どうして。彼らは鉄道憲兵隊に掴まり、拘留所にいるのではなかったのか。

 

目を見開いて固まった一同だが、だがそのことを尋ねる間もなく、マルコは先を続ける。

 

「今朝TMPの拘留所にいったんだが……詳しい話は聞けていない。だがTMPの方も予想外だったようで、今朝見に行ったら連中も慌ただしく動いていた。あの様子だと……多分今頃必死に調べているだろうよ」

 

「それに連中の話に聞き耳を立てていたら……どうやら帝都近郊に、例の空賊団が潜伏しているかもしれないって言う話も聞こえてきた」

 

「……それは」

 

二人の言葉に、フガルは思いっきり表情をしかめて頷いた。真剣な表情を浮かべたままナギサを見た後、レオンへと視線を向けて、

 

「……この件、お前はどう思う?」

 

「……奴らが死んだのは口封じというのが一般的か。仮に口封じだとすれば、それを行った連中がいる。……単純に考えるのならば、口封じをしたのは下っ端共の上の連中で、嬢ちゃんは空賊団とブレイツロック……二つの勢力から狙われていることになるが……」

 

「…………」

 

どこか沈痛な表情で顔を俯かせるナギサの手を、アニーがそっと掴んだ。まるで安心させるかのような行いに、表情にこそ出ないがレオンも少しホッとする。これで少しは続けやすくなるだろう。

 

「だがどうにも”タイミングが良すぎる”。ハイジャック事件……空賊団から逃れた後、間髪入れずにブレイツからの襲撃があったのだろう? それにあの五人が死んだのも、捕まってさほど時が経っていないし、空賊団の情報もある……もしかしたらだが、空賊団とブレイツは繋がっているのかも知れないな」

 

「…………」

 

レオンの言葉に、アニーは神妙な顔で頷いている。もしかしたら彼女も、すでにその線を考えていたのではないだろうか。

 

「今の段階だと、これ以上の推測は立てられん。まだ謎は残っている上に、あくまで推測……違う可能性の方が高い」

 

と最後に付け加えたレオンではあるが、しかしその推測はエルガとアニーにとって腑に落ちるものであった。

 

ある程度の情報の整理が付いた、と納得するように頷く一同。中でもフガルは瞳を閉じてレオンの考えを聞いていたのだが、その答えに満足したかのように何度も頷いている。やがてナギサの方へ向き直り、真剣な眼差しで彼女を見据えて、

 

「ナギサお嬢さんを狙う理由はわからない。だから一端そのことは置いておく。現時点で言えるのは、仮にお嬢さんを狙う勢力は二つだとして……うち一つに対しては、こちら側で対処させよう」

 

「……それって、どういう……」

 

フガルの言葉を聞いて、事態が飲み込めないのか、ナギサは眉根を寄せて困惑する。そんな彼女を見やりながら、フガルは深々と頭を下げた。

 

「今回の件、身内が迷惑をかけたこと、深く謝罪する。今後お嬢さんを狙う輩を出さないようにしていく」

 

「……元身内として、俺の方からも謝らせて欲しい。足を洗った俺に出来ることは少ないが……最悪ぶん殴ってでも、身内の暴走を止めることを約束する」

 

「俺の方からも。舎弟共にはきっちり言い聞かせておくぜ」

 

強面の男三人に潔く謝られたことによって、ナギサはぱくぱくと口を開け閉めして固まってしまった。無理もないとは思う。何せその光景は、エルガもアニーも固まって見入っていたのだから。

 

「静観するつもりであったが、もはや見過ごせない。隠居した身ではるが、少々出張らせて貰う」

 

――その発言に、エルガは頬を引きつらせた。それはアニーも同様だろう。なぜなら今の発言は、この件の尻ぬぐいを”ブレイツロックの初代頭首”が直々に行うと言うことでもあるのだから。

 

組織清浄化にとって、これほどの劇薬はないだろう。現に頭を下げていた二人は、驚きのあまり思わず頭を上げてしまうほどに。

 

「お、おやっさん……!」

 

「元々お前等は、今のブレイツを何とかするために、私を頼りに来たのだろう?」

 

「そ、それは……確かにその通りですが……」

 

思わず口ごもるレオンとマルコの二人を、三人は珍しいものを見る目で眺めていた。あの二人がたじろぐ姿など、そうそうお目にかかれるものではないだろう。はぁ、とため息をつきながらも、フガルは若き遊撃士達へと視線を向けて、

 

「……今回の件は、古巣の不手際が発端です。こちらで何とかしましょう。もしかしたら、遊撃士のお力をお借りすることになるやもしれません。その時はお力添えをお願い致します」

 

年老いた、しかし未だ力強さを残した瞳を見て、二人も真剣な眼差しで頷くのだった。

 




原作でもよくある情報整理によるストーリー展開。要は襲ってきたブレイツロックの五人が死亡したこと、空賊団とブレイツロックが繋がっているのでは疑惑が上がったことだけ覚えて頂けたら大丈夫です。


それにしても矛盾点や穴がありそうで怖いです……
何度か読み直しているのですが、「書き手」という立場上気持ちが入ってしまって矛盾点に気づけないということが多々ありそうです……。
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