英雄伝説『外伝』 刻の軌跡   作:雨の村雲

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2-07 決着、しかし

 

「オラァッ!!」

 

「せいっ!」

 

ガーゴイルへ肉薄し、己の拳を叩き付けるレオンと、短槍を構え強烈な突進突きを叩き込むエルガ。男性陣二人の攻撃はガーゴイルを捉え――

 

『ガァァァァッ!!』

 

堅い外骨格を前にレオンの左拳は通じず、エルガの龍牙槍も貫けない。二人の攻撃を易々と受け止めたガーゴイルは咆哮を上げ、五アージュ強の巨体からは想像も付かない俊敏さで尻尾を振り回してきた。

 

「ぬぉ……!!」

 

「おっさん!?」

 

その動きにいち早く対応したのはエルガである。彼は持ち前の速さを持って素早く後退し範囲から逃れたものの、レオンは対応できずに尻尾の薙ぎ払いを受け吹き飛ばされる。

 

「――彼らを清め、癒やし給え――」

 

後方にいるナギサが手にした札をレオンとエルガに向かって投擲する。本当に紙製なのか疑いたくなるほど真っ直ぐに飛んだ札は、それぞれ彼らの体に触れ、光を放つ。これは――体が軽くなる。見るとレオンもすぐに立ち上がった。――傷を癒やしてくれたのだろうか。

 

「嬢ちゃん、礼を言うぞ」

 

「なら避けて下さい!」

 

吹き飛ばされた彼は、わざわざナギサの方へ顔を向けてこくりと頷いていた。礼儀正しいのだろうが、戦いの場ではかなりの隙となる。現に、よそ見した愚か者へガーゴイルが飛びかかろうとし、慌ててナギサが呼びかけていた。

 

「合わせて! ソードアーツ!」

 

正面から向かっていった男性陣とは異なり、やや遠回りしつつ側面から回り込んでいたアニーは裂帛の叫びと共にレイピアによる突きを繰り出した。いつもは白銀である刀身が、青白い光を放っている。

 

――それが彼女の”ソードアーツ”。オーブメントに宿っているエネルギーを刀身に纏わせたのだ。

 

導力エネルギーを宿した攻撃は、導力エネルギーそのものに”弱い”魔獣もいるらしく――傾向的には、見るからに硬そうな魔獣ほど導力エネルギーに弱い――時折思わぬ効果を発揮することがある。

 

『ギャアアァァァァッ!!』

 

「効いてる!」

 

そして目の前にいるガーゴイルは、”硬そうな見た目”をしており、導力を宿したレイピアによる一突きは、男性陣の拳と槍を防いだ外骨格を貫いた。ガーゴイルの悲鳴じみた咆哮が周囲に轟く中、ギロリとガーゴイルの鋭い瞳がアニーを捕らえ、鋭い爪が生えた前足でなぎ払い彼女を引き裂こうとする。

 

「――っ!」

 

右前足のなぎ払い――それは空を切った。何とアニーはその場で跳躍し、ガーゴイルの巨体を踏み台にして一気に頭部から尻尾側へ移動し、あっという間に後ろを取ったのだ。その動きに、他の三人は呆然とする。

 

「エルガ君!」

 

「――あ、はい!」

 

ガーゴイルの後ろを取ったアニーが叫ぶ。相手にとっては、彼女の姿が突然消えたように映ったことだろう、辺りをキョロキョロと見渡して彼女の姿を探している。

 

――当初側面から回り込んでいた彼女に注目が行ったことにより、他の三人はその時点で視界から消えている。そこからさらに彼女が消えたことにより、ガーゴイルは”四人全員の姿を見失った”と言うことになる。

 

この隙を逃す手はない、とエルガは上空へ飛び上がり、自身の頭上で槍を回転させ、落下する勢いも利用し、短槍の石突きをガーゴイルに叩き付ける。回転によって生じた遠心力を一点に集め、さらに落下の勢いを乗せて放つ”天槍”の技の一つ。

 

「龍麟撃!」

 

上空から振り下ろした石突きはガーゴイルを捕らえた。――刃を通さない堅い外骨格に覆われていようと、“衝撃”までは防ぎきれない。龍麟撃の衝撃には耐えきれなかったらしく、地面に組み伏せられる形となる。

 

『ギャアァアァァァッ!!!?』

 

視界外からの攻撃に加え、いきなり地面に叩き付けられたガーゴイルは悲鳴を上げて暴れ出す。長い首を振り回し、ようやくエルガの姿を捕らえたのか、その瞳が凶暴さを宿し咆哮を上げてエルガに向かって突進する。

 

「――その穢れを祓い給え――エルガ、動かないで!」

 

「――はっ!?」

 

まずは近くに居るエルガから、とでも言うように石床を粉砕しながら向かって来る相手に対し、迎撃するつもりで居た彼は後方から飛んでくるナギサの指示に、素っ頓狂な声を上げる。だが振り返る暇もなく、視界の隅を、青白い光を放つ何かが飛んでいくような気がした。

 

「な、何だ……!?」

 

「ガアァァァッ!!?」

 

――青白い光はガーゴイルの体を貫いた。相手の様子を観察するエルガの目には、一本の矢が突き刺さっただけのように見える。違いは、その矢が青白い光を放っていると言うこと。一体どうやって彼女の放った矢が、自身とレオンの渾身の一撃をいとも簡単に防ぐ外骨格を貫いたというのか。

 

「……破魔矢が効いた……やっぱり堅いけど、霊力は通る……! アニーさん、アーツの詠唱を!」

 

「えぇ!」

 

任せて、と言わんばかりに彼女はオーブメントを駆動させる。彼女の足下にアーツの駆動を表す円陣が表れ、光を放つ。その光は徐々に強くなっていく――おそらくだが、高位アーツを放つつもりだろう。

 

ガーゴイルの体に突き刺さったはずの破魔矢が、光を放って消えていく。痛みに悶えていたガーゴイルがナギサを、そして隣にいるアニーに目を向けた。――まずい、今彼女はアーツの駆動中で動けない――

 

「――ガキ共ばっかに任せてられねぇよなぁ……おらぁ!!」

 

だがガーゴイルが彼女の元へ進むことはなかった。ナギサの術によって回復したレオンが横手から現れ、体を捻った回し蹴りを叩き込む。

 

「行くぜ――亀割り!」

 

片足立ちでの連続蹴りは、ガーゴイルを怯ませた。そしてこれがとどめだとばかりに、体勢を戻すと自らの拳を叩き込む。

 

「ギャアアァァァァッ!!」

 

連続蹴りからの正拳突き――亀の甲羅をたたき割るかの如く、ガーゴイルの外骨格が砕けた。あれだけ堅かった相手の体を、粉砕して見せたのである。その様子に、ナギサは頬を引きつらせた。ガーゴイルの悲鳴からも、体を砕かれる痛みが伝わってくる。

 

「――アーツ駆動!」

 

オーブメントの駆動が終了したアニーの背後に、巨大な”鎌”が表れる。黒い鎌はくるくると回転しながら放たれ、ガーゴイルの一対の翼を二つとも斬り裂いた。これでもはや虫の息だろう――

 

「坊主、いけ!」

 

「―――――」

 

体の表面は砕かれ、翼をなくしたガーゴイルに向かってエルガは走り出した。短槍の切っ先を向けて、ぐんっと飛び出して――

 

 

『――恐れるな。恐れて一歩を踏み出し損ねれば、お前の願いも思いも、全て無駄になる』

 

 

「――行くぞ、無明を貫く龍の技――」

 

ガーゴイルへ向けて放たれる突進突きは、奴の体の一部を削り取り、通り抜けた――瞬時に体を翻し、もう一度突進突きを繰り出す。二度、三度、四度――何度も連続して竜牙槍の一撃目を繰り出した後、エルガは飛び上がりガーゴイルの頭上を取った。

 

「――龍天裂波!」

 

自身が放つ闘気が槍に集い――ほんの一瞬だったが、レオンの目には彼から立ち上る闘気が、文字通り龍を形取ったような気がした――上空から一気に叩き付けた。その一撃がとどめとなったのか、絶叫を放ちつつ、死神が消えた時と同様に不可思議な光を放ちながら、ガーゴイルは消滅した。

 

 

 

「………」

 

槍を振り下ろした体勢のまま残心し、ゆっくりと体を起こしていく。周囲に気を配るエルガの元へ、他の三人が集まってくる。

 

「坊主、良くやった。……しかし、何だったんだ、あのガーゴイル?」

 

「……分かりません。ただ、もし今後も出現するようでしたら、ギルドの方でも対策を練らなければ」

 

「それなら必要ないと思う。上位三属性も、ガーゴイルを倒したと同時に完全になくなったし、”何か”が起こらない限りもう表れないと思う」

 

ガーゴイルの再出現を懸念するアニーに向けてナギサが断言する。彼女の発言に、他三人からの視線が殺到した。エルガも流石に頬をかいて、

 

「……まぁ、言いたくないなら良いんだけど」

 

「ううん、大丈夫。……昨日と今日の話を聞いて、説明しないといけないとは思っていたから」

 

それでもなおこちらを気遣ってくれたエルガに頷きつつ、ナギサは口を開いた。昨日の話とは、おそらく地下道で上位三属性が発動したと言うことと、今日の話はスミットウェール邸での話のことだろう。

 

「……あたしの生まれは東の方……共和国よりもさらに東なの」

 

「……嬢ちゃん、もしかして東方民族か?」

 

眉根を寄せて問いかけるレオンに、こくりと頷いた。

 

「はい。……その東方民族も、いくつかの部族に別れていて暮らしているところがあるんです。あたしはその中で、さらに特殊な一族で生まれました」

 

「東方民族自体、西ゼムリアでは珍しいんだが……その中でも、さらに特殊?」

 

「おそらく東ゼムリアでも珍しい……というか、同じ東方民族でも、知らない人の方が多い……そんな一族です」

 

彼女の言葉に、一同は沈黙し首を傾げた。帝国出身であるアニーとレオンからすれば、東方民族というのは因縁深い共和国のさらに東の地に存在する民族、ということしか知らないため、その中でも珍しいと言われても実感が湧かないというのもある。

 

外国で活動していたエルガでさえ首を傾げているのだ。――まず西ゼムリア大陸と東ゼムリア大陸では、情勢がかなり異なりつつあるため、情報が入りづらいというのもあるが。

 

三人の反応に苦笑を浮かべつつナギサは、

 

「その一族は、昔から“巫術”というものを受け継いでいたの。巫術とは、占いやお祓い、祈祷、薬草を使った調薬、そして今のような禍事退治……それらを行う不思議な力、と言うのかな……。そして巫術を使う女性を、“巫女”って呼んでいて……帝国で言うなら“魔女”のようなもの、と言えばわかりやすい……?」

 

「……魔女って、あの伝説の?」

 

アニーの問いかけに、ナギサはこくりと頷いた。――帝国のお伽噺には詳しくないエルガでも、魔女伝説に関しては耳にした部分は多い。元々帝国では精霊や魔法に関する伝承が多く残されているため、その手の話は各地に存在している。

 

「そこで生まれたあたしも、巫術について一通り学んだの。ただ、その時に……あたしが……あたしが……」

 

「……あたしが?」

 

言葉を紡いでいくうちに、徐々に尻すぼみとなっていく彼女の口調にアニーは優しく先を促した。何かを思い出してしまったのか、徐々に青ざめていく彼女の小さな手が首元へ伸び、服の中から何かを取り出した。白い珠の宝石――おそらく真珠だろう――のネックレスを握りしめ、プルプルと震えだした彼女を見ていると、嫌な想像が頭を過ぎる。

 

「あたしが……変な力に目覚めたせいで……あたしのせいで……お母さんとお父さんが…………亡くなって……」

 

「………もういい、わかった」

 

彼女の様子と、大事そうに握りしめられたネックレスと、そして震えながら呟いた母と父の呼び名――レオンは悟ってしまった。何らかの事情で母と父を亡くし、真珠のネックレスはその形見だろうと。

 

ぽん、とレオンの大きな手が彼女の頭に置かれた。びくりとナギサが反応するも、やがて俯き、ぽろぽろと大粒の涙を流していった。

 

「お、お母さんに……強く生きて、って言われて……っ。だから……だから、一人で……っ」

 

(……俺達に対して距離を保っているように思えたのは、そのせいか……)

 

自分は強く生きなければならない。誰にも頼ることなく――だから、自分たちに対して、常に一歩引いたような態度と姿勢で接していたのか、とエルガは納得する。彼女のその考え方をする奴を、よく知っていた。頬をポリポリとかく彼は、この時年下の少女相手にどう接すれば良いのかわからず、

 

「ナギサちゃん。もう強がらなくて良いんだよ」

 

そう言って彼女を優しく抱きしめるアニーを呆然と見やることしか出来なかった。ナギサを優しく抱きしめ、その頭をポンポンと叩くアニーのこれまでにないほど優しげな口調に、彼女は一瞬瞳を見開いて、やがてその胸に顔を埋めるのだった。

 

「今まで良くがんばったね。ここには私達が居る。だから安心して、ね……」

 

「……うん………うん……っ!」

 

――まだ出会って三日しか経っていないが、これまで頑なだったナギサが素直になっているのを見るのは初めてな様な気がする。グスグスとアニーに抱きついている彼女を見て。

 

(――助けるため、救うために手を差しのばしたのなら、その手は何があっても手放すな、か。……そうだな)

 

「ナギサ、約束する。何があっても、俺が助けてやる。……救ってやる」

 

――師匠からは気軽に「救う」などと口にするなと言われているが、だとしても今は口にしなければならないだろう。そう言ってレオンに習い、自身も彼女の頭に手を置いて撫でてあげた。――さらさらの髪の毛の触り心地に感心しつつ、救ってやると口にした。

 

――それは、本人もこの時は気づかなかったが――その言葉は、本当にナギサに向けて放った言葉だったのだろうか。

 

「―――――っ!」

 

コクコクとアニーの腕の中で頷いている彼女を見ながら――ふと、何者かの気配を感じたような気がした。周囲を見渡しても人影はないため首を傾げ、レオンからも胡乱げな瞳を向けられて、

 

「……どうかしたか、坊主」

 

「……いえ……」

 

そう言いながらも、もう一度辺りの気配を探るエルガ。――今度は何も感じない。そういえばこの地下水道に入るときも似たようなことがあったことを思い出しながらも、彼は首を振ってそのことを追い出すのだった。

 

「――何でもない」

 

 

 

――地下水道からの帰り道、ナギサは赤く腫れた目元を気にしながら他の三人と一緒に歩いていた。巫術に関する説明をしていたのだが、話している途中で”あのこと”を思い出してしまい、自分の事を押さえきれなくなってしまったのだ。

 

その後は、洪水のように自然と口から言葉が出て来てしまった。話すつもりもなかったことを口に出してしまったけれど、不思議と後悔はなかった。

 

あのこと――父と母が亡くなった一件。あれは誰が悪いのでもない、ただ強いて上げるとするならば、この身に宿ってしまった“異能の力”。

 

「大丈夫、ナギサちゃん」

 

「うん、大丈夫」

 

隣を歩いてくれるアニーが絶妙なタイミングで声をかけてくれた。きっと彼女も、ナギサがまた沈みかけていることに気づいて声をかけてくれたのだろう。彼女の思いやりと気遣いに感謝しつつ、ナギサははっきりと答えた。

 

「――さて、そろそろ地上に出るが……今何時頃だ?」

 

しばらく歩き、やがて地下水道に入ってきた場所に戻ってきた彼らはそこで一息ついた。レオンが隠し扉を開いて地上へ繋がる階段を見上げた後、まぶしそうに瞳を細目ながらエルガに尋ねる。

 

「……13時頃。お昼過ぎたのか……このまま地上に出たら休憩しよう」

 

「えぇ、わかったわ」

 

懐から時計を取り出して今の時刻を伝えた彼は、そのまま苦笑いを浮かべて皆に提案すると、賛成の声が続々と上がってくる。時間的なこともあるが、今日は朝から働きづめだったため、少し休みたいというのが皆の本音である。

 

レオンを先頭に皆が階段を上り、中間辺りまで来たところで異変が起こった。

 

「――なんだ?」

 

急に自分のポケットが光り出したのだ。エルガは慌ててポケットに手を突っ込み、そこから光る”それ”を取り出す。

 

「え、これって……」

 

「……なんでこのタイミングで……?」

 

アニーとナギサも、懐にしまっておいたそれ――地下水道に入った後、ナギサから“気休め”として渡されたお札が青白い光を放っていた。――先程の戦闘中、ナギサが光を放っていたが、その光によく似ている。

 

先程彼女が語っていた巫術には、お祓いの要素も含まれているという。三人の視線が彼女に集中するも、ナギサ自身なぜ今光ったのか分からないそうだ。

 

「……このお札は”魔除けの護符”で……悪霊を追い払ったり、不運を遠ざけたり、呪いを祓ったり……そういったお札なんだけれど」

 

(……渡されたときは気休めだと思っていたが……かなり効果があるのか、これ)

 

手にした札をじっと見つめながらナギサが呟き、その呟きを耳にしたレオンはそう独りごちた。ともあれ急に札が反応した理由はわからず、一同は首を傾げながら残りの階段を駆け上がるのだった。

 

階段を駆け上り、マーテル公園に出ると、アニーとナギサはホッとしたように息を吐き出した。うーんと呻き声を上げながら、太陽の光をまぶしそうに見上げて、

 

「もうしばらく地下はいいわ……」

 

「同感……」

 

「二人ともお疲れだな。さて、それじゃ――」

 

疲れを見せている女性陣に対し、レオンは苦笑を浮かべながら飯行くか、と告げようとするも、その前に背後から声をかけられた。

 

「おや、そこのお兄さんとお姉さん達、一体何をしているんだい?」

 

「ん……?」

 

聞き覚えのある声に、レオンは眉根を寄せて振り返る。そこには昨日もここで見たフードを深く被った占い師がこちらを指さしている。――少し休んでから彼の元に行こうと考えていたというのに、まさか向こうの方からやってくるとは思ってもみなかった。

 

「何だ、またお前か。……ちょうど良い、少し聞きたいことがあってな?」

 

――良いカモが居る、そう言わんばかりに口元に笑みを張り付かせたレオンが占い師の元へ詰め寄っていく。その光景は、端から見ればヤクザに絡まれている一般人という図が出来上がってしまっていた。慌ててエルガとアニーがフォローに入ろうとするも、その前に占い師の方から変な反応が返ってきた。

 

「……”また”? 何のことだい? だって僕たち、”初対面”じゃないか?」

 

「……あん? 何寝ぼけたこと言っている? 昨日の夕方、ここで会っただろうが……」

 

何言っているんだこいつ、とばかりに眉根を寄せ、呆れたように吐息を付くレオン。しかし占い師は明らかに困惑した様子である。フードを深く被り、顔は見えずとも、それぐらいは雰囲気で察しが付く。

 

しばし困惑する様子を見せた占い師であったが、やがてフードから僅かに見える口元に笑みを浮かべると、

 

「――全く、冗談が通じないなぁ、お兄さんは。僕がお兄さんみたいなおっかない人、忘れるわけないじゃないか」

 

「……………」

 

めちゃくちゃ猜疑心まみれの視線を向けるレオン。正直彼のその反応には、エルガも同じであった。今の占い師の反応は、明らかにおかしい。彼は一同を見渡して、アニーが未だ手に持っていたお札に目を向けると、

 

「お姉さん、ごめん。ちょっとそれ貸してくれない?」

 

「……良いですけど、ちゃんと返して下さいよ」

 

昨日何度かナンパされていたからだろうか、アニーが占い師に向ける視線には棘がある。渋々といった様子で、手にしていた魔除けの護符を彼に手渡した。

 

――彼はそれを受け取ろうとして、しかし直前で手を引っ込めた。その動作は、まるで何か危険を察知したかのような動きで――

 

「――あぁ、そういうこと――」

 

小さく、誰にも聞こえな声量でぽつりと呟いた。その呟きは、当然誰の耳にも入らなかったが。

 

「うん、ありがとう。いやぁ、これ作ったの誰? 僕もほら、占いなんてやっているからさ。ここまで見事な札は初めて見たよ」

 

占い師の言葉に、エルガ達の視線が後方のナギサへと向けられる。まさか目の前の占い師も、その札を作ったのが巫女という“本業”の手によるものだとは思わないだろう。彼も三人の視線に気づき、その先にいる少女へ顔を向ける。

 

「やぁ、初めましてだね、お嬢さん。……もしかしてこの札は、君が作ったのかな? というよりも、目元が赤いけど、何かあったのかい?」

 

「………」

 

占い師がナギサを見て問いかけるものの、彼女は全く答えずにいる。ただじぃっと目の前の男性を見据えていて――やがて声を震わせながら問いかける。

 

「……あなた、”体”はどうしたの?」

 

「……は?」

 

彼女の問いかけに、他の三人は困惑する。体はどうしたの、とは一体どういう意味か。占い師やどこか病気でも抱えているのだろうか。しかしナギサは周囲の反応を無視して、ただひたすら占い師を見続けている。

 

一方占い師は、ナギサの問いかけに口の端をつり上げた。笑っている――彼の笑みに気づいたのは、彼女だけである。

 

「僕としては、君の”魔眼”の方が気になるけどね」

 

「っ!!?」

 

びくりとナギサが反応した。一瞬にして体を強ばらせたその様子から、何かあると感じたエルガは占い師の方へと視線を動かし――そして絶句した。

 

「………うそだろ……」

 

「へ? 一体なに――――」

 

エルガの呟きにアニーが首を傾げるも、即座に気づいて困惑する。先程まで目の前に居た占い師が、綺麗さっぱり消えていた。

 

「ど、どういうことだ……?」

 

「……やっぱり。あの体は幻影……どこか遠くから、自分の姿をここに投影してたんだと思う」

 

やや顔を青ざめさせているナギサが冷静に分析する。――しかしそう言いながらも、彼女としてはあまり自信がなかった。遠くに自分の姿を映す術はナギサもいくつか知っているが、そうやって映した物は大抵どこか透けている、もしくはどこか粗く写ってしまう。

 

だが今のは、あまりにも”リアルな姿”だったのだ。当然透けてなく、粗くもない――エルガ達の眼にも違和感なく写ったばかりか、巫術を覚えているナギサでさえ、一見気づかなかったのだ。

 

おかしいと思ったのは、彼がアニーから差し出された魔除けのお札に触れようとして、手を引っ込めたとき。――触れかけた指先が、僅かに”揺らいだ”のだ。それを見て違和感を覚え、そしてまじまじと見て気づいたのである。――これは幻影だと。

 

「……訳が分からんぞ……つまりあの占い師は……俺達に幻覚を見せていたということか?」

 

「うん……多分そうなる」

 

頭をかいて納得いかん、とぶつぶつ言っているレオンに、ナギサは頷いた。彼とエルガに関しては信じられん、とばかりに眉根を寄せ、アニーは逆の意味で眉根を寄せていた。

 

「……この後昼食って話だったけれど。市民に話を聞いてみない? 何か、嫌な予感がするの」

 

「……そうだな。昼飯は後にして、アイツがやっているって言う占い屋に行ってみるぞ」

 

 




クラフト紹介

エルガ
・龍麟撃
飛び上がり、打ち砕く龍の鱗
威力C- 範囲M CP30
備考 駆動解除、ディレイ短め、地点指定

Sクラフト
・龍天裂波
天をかける龍を纏い、敵を貫く天槍の御技
威力SS+ 範囲L


アニー
・ソードアーツ
導力を宿した刀身で敵を斬り裂く
威力B 範囲S CP35
備考 魔法攻撃、封魔付与


レオン
・亀割り
連続蹴りからの一撃によって相手を打ち砕く
威力C 範囲M- CP40
備考 防御ダウン付与、地点指定


ナギサ
・巫術・見識眼
敵を見据えてその特徴を見極める
威力ー 単体 CP20
備考 攻撃・防御ダウン付与、作中未使用、本作のアナライズ枠

・巫術・治癒札
札を持って祈りを捧げ、傷を癒やす巫女の技
威力ー 範囲M+ CP40
備考 HP回復、CP10回復、状態異常・能力低下回復、地点指定、本人にも効果あり

・弓術・破魔矢
魔を払う矢で敵陣を貫く
威力B 直線S CP35
備考 魔法攻撃、地点指定、悪霊・悪魔系の場合威力アップ(威力S相当)



地下道編終了、次回で2章終了です。

ナギサちゃんも過去をぽつぽつと話してくれましたが、やはり全部はまだ話していません。とはいえ、おおよその経緯は語ってくれました。
彼女の秘密に関しては、占い師が言った”魔眼”がキーワードになります。

ちなみに占い師の投影に関しては、魔女達が使っていた物の強化版(透けていない、魔法陣なし、肉感がある)になります。
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