章題の伏せ字は物語が進めば明らかになります。
3-01 動き出す獅子
――今から二年前、七曜暦1199年某月。帝国と共和国に挟まれる形で位置する自治州、クロスベルにて事件は起こった。
当時のスミットウェール物流商会二代目会長――つまりブレイツロック二代目である『ガシャド・ドラン』は、商談のためクロスベルに滞在していた。目的は”とあるマフィア”との会談である。
クロスベルは両国に挟まれている地理的状況のため、“両国からの輸入品”がほぼ必ず通る地帯とも成っており、表向き物流商会であるブレイツロックは、このクロスベルの裏社会における“物流掌握”を重要視していた。
しかし当時から裏社会にて絶大な影響力を持っていた”某マフィア”が簡単に通すわけがなく、徹底的に対抗する姿勢を見せていたブレイツ側は、多数の部下達を引き連れ、会長と副会長が直々に赴いてまで商談するという事態に成っていた。
――それはもはや宣戦布告であった。一歩間違えれば、マフィアとヤクザの“戦争”が行われかねない状況であった。クロスベルの警備を担っている警備隊、警察、遊撃士協会は秘密裏に行われようとしていたこの会談に細心の注意を払っていたという。
しかし、事態は急変する。クロスベル滞在中、ブレイツロック二代目であるガシャドが、何者かに狙撃され、暗殺されたのだ。時期とタイミングから、某マフィアの仕業ではないかと疑われたもののこれを否定。
また警察の調査により、容疑者として現場にいた副会長――つまりブレイツロック二代目若頭である『レオン・オーガスト』の名前が挙がったのだ。当然本人は否定するものの、その一報がブレイツロックに伝わると若頭を降格、さらに「絶縁」されたのであった。
一気に組織№1と№2を失ったブレイツは、当時№3であった『タシース・フォル』が臨時で会長代行を努め、レオンに対しこれらの処分を下したのである。
その後も警察の根気の調査、遊撃士協会の協力により、ガシャドは”ある殺し屋”によって殺されたことが判明。その殺し屋の正体及び”依頼人”に関しては不明である。
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「この時は大変でしたよ。あそこまで肝が冷えるのは中々ないでしょうからね」
エルガの対面に座り、二年前のことを話してくれたダーゼフは苦笑していた。休憩室にて自ら淹れた紅茶を啜りながら、当時の状況を詳しく教えてくれた。
「私達遊撃士とクロスベル警察の協力と連携で、何とかレオンの無実を証明できたのですけれど、かわりに真犯人は逃してしまいましてね。痕跡を辿っても、おそらく共和国へ逃亡したと思われます。凶器となったライフルは帝国製のもののようですが、あまり当てにはできませんでしたね」
「場所がクロスベル……そうか、帝国製のライフルも共和国製のライフルもあるから、誤魔化しが効くし……何より現地調達だろうしね」
エルガも紅茶を啜る。彼の手元には遊撃士協会の方で保存してある依頼の報告書があった。二年前クロスベルで起こったブレイツロック二代目殺害事件の報告書。本来クロスベルで保存されているが、そのコピーが各支部にも回ってきているようだ。
――それにこの事件はダーゼフが遊撃士を引退し、受付としてクロスベルで修行していた時期に起こった事件らしく、よく覚えているとのこと。ここからはエルガの予想だが、絶対受付の範疇を超えた活躍(断じて事務仕事ではない)をしていたに違いない。
「それで、レオンさんはどうなったの? 話じゃ絶縁だけれど、本人は破門されたって……」
「私達が真相を突き止めると、ブレイツロックは絶縁を撤回しましたが、二代目を目の前で死なせた、クロスベルの物流掌握が不可能になった、ということで結局若頭復帰も叶わず、破門されてしまったようです」
――なんて理不尽な話だ、とエルガは頬を引きつらせる。彼自身に何一つ咎はないばかりが、容疑者として疑われていた被害者だというのに、最終的な責任を押しつけられてそのまま切り捨てられてしまったようだ。しかし先程から話を聞いていると、ある疑惑が離れない。
「……ねぇ、ダーゼフさん。その殺し屋を雇ったの……実はタシースさん……今の”三代目”なんてことは……」
二代目が撃たれたという一報を聞いてからの行動の速さ、そして疑いを晴らした後の対応から、当時の№3であり、現ブレイツロックの三代目、タシース・フォルに対し、エルガは疑いの目を向けていた。
しかしそれはないでしょう、と口にしてダーゼフは首を振る。
「我々もそう思いましたが、証拠は何一つ掴めませんでした。それにレオン本人も、『アイツがやるとは考えにくい』とおっしゃっていました。何でも、二代目には恩があるそうで」
つまり動機はない、ということだろうか。それに、とダーゼフは紅茶が入ったカップをソーサーに置き、細い目をエルガに向けて、
「それにこの一件の後、私はこの帝都支部の受付として配属されました。その時三代目であるタシースと話す機会があったのですが……確かに彼は、そういったことをする器ではありませんでした。それに何よりも、今の三代目としての責任を重圧に感じ、早々に引退したいと思っているそうです」
「そうなのか……」
ダーゼフの人物評価を聞き、彼は頷いた。確かに様々な人物や今のブレイツロックを取り巻く状況を考えれば、組織のトップに立つには力不足という印象を受けていたし、どうやら本人もソレを自覚しているようだ。
早々に引退したいのだが、状況がそれを許さない――おそらく二代目暗殺の一件のゴタゴタが、未だに尾を引いているのだろう。三代目の力不足も相まって、組織を立て直せずにいる――と言った所だろうか。
「………」
無言で紅茶をすするエルガに、ダーゼフは微笑みを浮かべながら問いかけてくる。
「とまぁ、レオンさんの一件と、帝都におけるブレイツロックの現状を説明しましたが、何か気になる点でもありますか?」
「……一つ。俺はまだレオンさんとの付き合いが長いわけじゃないから何とも言えないけれど……あの人の性格からすると、落とし前付けさせるために犯人捜しを続けそうな気がする」
説明を聞きながら疑問に思っていたことを口にする。エルガはまだレオンと出会って数日しか経っていない。その間では、彼のことはまだやんわりとしか分からないものの、彼なら犯人捜しをしそうだなと感じてはいた。
だがレオンは犯人捜しを行おうとはしていない。二代目が殺されたその場にいたのならばなおさらだろう。彼の疑問にダーゼフはなるほどと頷き、微笑みを浮かべた。
「彼も最初は、犯人を徹底的に追い詰めてやると意気込んでいましたが……実は報告書には書いていないのですが――」
「――エルガ、ダーゼフさん。少し良い?」
何やら少し嬉しそうな表情を浮かべるダーゼフの言葉を遮るように、受付に通じる出入り口からひょっこりと顔を出した黒髪の少女が声をかけてくる。
「えぇ、大丈夫ですよ。何かありましたか?」
「レオンさんが来た。……その、女の子連れて……」
彼女――ナギサは、どこか不安げな様子で伝えてくれた。時計を見ると、そろそろ約束の時間である。しかし、今ナギサは何と言った? レオンが女の”子”を連れてきた?
「……誘拐じゃないだろうな……」
「こら」
頬に傷のある強面の大男が女の子を連れている絵面を想像してしまい、思わずそんなことを口に出してしまった。すかさずダーゼフに怒られるものの、本人も苦笑を隠しきれていない。
「しかしちょうど良いですね、エルガも分かりますよ。彼が、なぜ二代目の敵討ちを諦めたのかが」
「………?」
エルガに告げると、ダーゼフは立ち上がり受付の方へと向かっていく。彼はダーゼフの言葉に首を傾げていたものの、後を追えばわかるのだろうと独りごち、その後を追うのだった。
――地下道での一件が終わった翌日、レオンが再び遊撃士協会に顔を出し、正式に依頼してきたのだ。ブレイツロックの内部調査――依頼書にもそれしか記されておらず、詳しい内容は直接話す、という形であった。
その調査開始が今日からであり、さらにレオンはこの一件の担当遊撃士に関して、アニーとエルガの二人を指名してきたのだ。そのため二人はレオンと共に調査を行うことに成り、その予習として、エルガはレオンが「やからかした」ことを調べていたのだ。
最も、やらかしたと言うよりは嵌められた、というのが正しいだろう。以前彼に聞いたが、相手側が一枚上手だったということだ。
「――来たか」
休憩室から受付に顔を出すと、レオンが受付の前で腕を組んで待っていた。顔の傷や大柄な体も相まって、本人にその気がなくとも威圧感が凄い。現に協会内にいる帝都民達が遠巻きにこちらを眺め、近づいてこようとしない。
だが、彼のすぐ側にいる少女――少し色が薄い金髪をショートカットにしている活発な印象を受ける子が側にいた。彼女は周囲をキョロキョロと、興味深そうな様子で見渡していた。
「………えっと……迷子、ですか?」
「違う」
(同じ事聞いてる……)
レオンを見て、次にその少女――おそらくナギサと同い年か、一つ二つ上だろう――を見た後、もう一度レオンへ視線を移し、ぽつりとエルガは呟いた。レオンはまたか、と言いたげな表情で否定し、ナギサはやや恥ずかしくなった。
「お久しぶりですね、サリスさん。お元気そうで何よりです」
「あ、ダーゼフさん。お久しぶりです」
内心で笑いながら、微笑みを浮かべてダーゼフはその少女――サリスに向かって頭を下げた。すると彼女は嬉しそうに表情を綻ばせながらダーゼフに向かって手を振る。その様子から知り合いだと言うことがわかり、思わずエルガは問いかけた。
「知っているの?」
「えぇ。名前はサリス・ラージバルム。二年前クロスベルで、レオンさんが引き取った女の子です」
「それって……」
先程の話を思い出し、エルガは目を瞬かせた。レオンが嵌められたのも二年前で、場所はクロスベルである。詳しい事情はわからないまでも、無関係とは到底思えなかった。ダーゼフに説明を求むとばかりに目線を送ると、彼は笑みを浮かべながら、
「血は繋がっておらず、家名こそ違いますが、彼の”娘”です」
「……いやそうじゃなくて」
引き取った、という時点でそうだろうなという予感はしていたため、さほど衝撃はない。エルガが知りたいのは、そうなった経緯についてである。だがダーゼフは肩をすくめるのみで、答える気はないようだ。おそらく、レオン本人に聞けと言うことだろう。
「………」
「それで、サリスさんを連れてきたのは?」
不満げにため息を漏らすエルガを無視し、ダーゼフは首を傾げつつレオンに問いかけた。だが彼は、わかっているだろうと言いたげに軽く睨み付けるが、やがてため息をついて頭を下げてきた。
「――例の件で、しばらく家を空けざるを得ないからな。その間、サリスを預かっていて欲しい」
「……うちは託児所ではないのですが……」
ぼやきつつも、まぁいいですよと頷くダーゼフに、彼はホッとしたような笑みを浮かべた。
「まぁ、ナギサの嬢ちゃんもいるんだ。どうせなら、賑やかな方が良いだろう」
そういってナギサを見やり、一瞬びくりとする彼女だがすぐにこくりと頷き、サリスを見やる。少しだけ年上に見える少女は、にっこりと微笑むと手を振ってきてくれた。それを見て、どこか安心したような表情を浮かべるサギサに、エルガは安心する。
「じゃあ、ナギサは留守番だな」
「――え?」
「いや、えじゃなくて……」
付いてくる気だったのかお前、とやや唖然とするエルガだが、今回はダーゼフも味方に付いてくれた。
「えぇ、ナギサさんとサリスさんは支部でお留守番をお願いします」
「……わかった」
どこか残念そうに呟くナギサを見てエルガは頬をポリポリとかく。数日前、フガル・スミットウェールが約束してくれたように、すでにブレイツロックにも根回しが回っているようで、彼女に危険が及ぶことはない。
だとしても、出来るなら彼女を連れ回したくはなかった。相手はヤクザ者であり、どんな行動をしてくるか読むことは難しいのだから。今回の一件に対し、逆恨みとばかりに襲いかかってくる、という可能性も捨てきれない。
「よし。それじゃ、坊主を借りていくぞ。……それと、アニマの嬢ちゃんはどこだ?」
ナギサが渋々ながらも了承したのを見て、レオンがダーゼフに問いかける。――確かにアニーの姿はないが、すでに彼女から事情を聞いているエルガは苦笑を浮かべるほかなかった。
ダーゼフも苦笑しながらも、
「実家の手伝いをしていますよ。彼女の実家、今はレストランを経営していらっしゃるので」
「そういうわけで、レオンさんには申し訳ないけど、これからそのレストランに行ってアニーと合流しようと思うけど、良い?」
「あぁ、別に構わねぇ」
レオンを振り回すことになってしまうが、どうやら気にしないようだ。なら早速出発、とばかりに遊撃士支部を後にしようとする二人に、ダーゼフは呼びかけた。
「それと、三人だけでは少々不安なので、こちらでもう一人遊撃士を加えさせて頂きました。その人物は、すでにアニーさんのところにいるはずです。協力して調査に当たって下さい」
「了解です」
エルガは素直に頷き、レオンもありがたいことだと肩をすくめていた。そんな大男に向かって、黙って事の成り行きを見守っていたサリスが口を開く。
「――おじさん。行ってらっしゃい」
「……あぁ。いってくる」
――基本、つねに強面な目つきをしているレオンの表情が、その時だけは和らいだ。
アルト通りにある帝都遊撃士協会東支部――帝都は広いため、支部を西と東の二カ所に置き、東西で担当区域を区切っている――を出た二人は、そのまま帝都のメインストリートであるヴァンクール大通りまでやってきた。
ちなみに例の導力トラムを活用したのだが、レオンは慣れた感じで時刻表を調べ、到着したトラムに乗り込み、その間エルガは不自然に思われないようさり気なく彼の背後をついていくのだった。
「――で、大通りまで来たが……どの店だ?」
「えっと……ありました、アレです」
大通りから少し脇道に逸れた所で看板を立てている、見覚えのあるレストランを見つけ、エルガとレオンは中へ入っていく。
「いらっしゃ――って、エルガ君にレオンさん。ごめんなさい、少し待っていてくれても良いですか?」
「わかった。じゃあ奥の方で――」
扉を開けると、給仕服――所謂メイド服に身を包んだアニーが出迎えてくれた。確か最初に来たときもそうだったよな、と苦笑しながらも、エルガは頷いて奥の席に案内して貰おうとするが、その前にアニーが笑顔を浮かべて、
「いえ、こちらでお席に案内します」
先にそう言って付いてきてと言わんばかりに歩き出した彼女に、二人は顔を見合わせて首を傾げる。
「……もしかして俺達、今はお客さんとして扱われている?」
「売り上げに貢献させるために呼び出したわけじゃねぇだろうな……?」
――最近、養い子が出来たため金銭的余裕があまりないレオンは、唸るように呟くものの、結局二人は案内されるのだった。
前回来たときと同じ時間帯――つまり昼を少し過ぎた時間帯のため、お客の姿はあまりないが、以前昼時に近くを通りかかったときはかなり繁盛している様子であった。どうやら一番忙しい時間は乗り切ったらしい。
「こちらでお待ち下さい」
「――あら、エルガ君に……」
「サラさん? 何でここに……」
アニーが案内してくれた席には、先客が一人でジョッキを煽っていた。まだ日も高い時間帯から飲んでいるワインレッドの髪の女性に既視感を覚えるも、エルガは首を傾げる。そんな中、アニーはまだ仕事が残っているのか、ひっそりとその場から離れていった。
昼から飲酒しているワインレッドの女性――エルガにとって先輩遊撃士に当たるサラ・バレスタインが頬を赤らめながらこちらを見て、隣にいるレオンを見た瞬間固まった。
「……ふ~ん、貴方が噂の……」
ゴトン、とジョッキをテーブルに置き、据わった目つきでレオンを眺め、その視線をあっさりと受け流すレオンは肩をすくめて、
「サラ、ということはあんたが”紫電”のバレスタインか……まさかとは思うが――」
「貴方、歳はいくつ?」
そこでレオンの言葉を遮り、突如サラが年齢を尋ねてきた。唐突な問いかけに目を瞬かせるレオンだが、あっさりと答えてあげた。
「三十九だが、それがどうした?」
「え? 四十目前なんですか? てっきりまだ三十代半ばだと……」
彼の実年齢に驚いたエルガは素直にそう呟くと、レオンはどこか居心地が悪そうに頬をかいていた。一方レオンの年齢を聞き出したサラはよし、と拳を握りしめていた。
「好みよりも一、二歳下だけど十分過ぎるほどに渋いし、むしろOKよ! 来てる、私の春が来てるわ!」
『………』
――サラさん、せめて言葉に出すのは止めましょう。ていうかあなた完全に酔ってますよね、などと突っ込みどころ満載の言葉を言いたくなるものの、辛うじて押さえるエルガ。隣のレオンも若干引いていることに彼女は気づいていなかった。
(サラさんがここにいるってことは……多分……)
遊撃士協会を出発する前に、ダーゼフから伝えられたことを思い出していた。おそらく――というよりもほぼ彼女が助っ人の遊撃士だろう。非常に頼もしい反面、この場面を見せられると大丈夫かなと思ってしまう。
「…………」
やや離れた所から店の残った仕事を片付けていたアニーは、”相棒”の行いを見て頭が痛い、とばかりに額に手を当てるのだった。
それからしばらくし、アニーの残っていた仕事も片付き彼女も合流すると、そのままレストランの一角でこれからの行動を打ち合わせることになった。
「それでブレイツロックの内部調査……っていうことだけれど、一体何を目的に調査するのかしら?」
すでに酔いは醒めているのか、真面目な態度で口火を切ったサラに、エルガは瞳を瞬かせる。正直それまでサラの酔いつぶれた姿しか見ていなかったため、真剣に仕事に取り組む姿勢に驚きを隠せない。
思わずアニーの方を見ると、彼女も真面目な表情をしている。どうやら彼女は、サラのそういう一面を知っているようだった。まぁそれも当然か、と頷く。彼女達はコンビを組んでいたのだから。
「……最近のブレイツの暴走のこと、あんた達はすでに知っているだろ?」
「えぇ。三代目が舎弟達の動きを制御しきれず、目先の利益に飛びついて重要な土地を売り払ったりしたのでしょう?」
以前、レオンが語ってくれたことだが、サラはすでに把握していたらしい。部下達からは舐められ、鉄血宰相の罠にはまりそれまで押さえていた土地の所有権を帝都庁に売り払ってしまったりしたこと。
「あぁ。そのせいで三代目は求心力がない。おかげで今のブレイツロックは、実質的な”まとめ役”がいない、言ってみれば烏合の集だ。――にも関わらず、未だ空中分解せずに”組織として成り立っている”」
「…………」
――妙だな、とエルガは独りごちる。三代目が頼りないという話はわかっている。ならばさっさと三代目を蹴落として、”四代目”を襲名する不届きな輩が現れてもおかしくはない。
むしろ血気盛んなヤクザならば、そうならない方がおかしいだろう。しかし未だ、レオンの口からそのような過激なことを考えている輩がいる、という話にすらならない。
「その……次期党首を目指そうとしている人はいないんですか?」
「あぁ。マルコから聞いたが、驚くことに”一人もいない”そうだ。古参連中……所謂幹部だな。奴らの静けさに寒気がする、ってよ……下っ端の暴走は、そのことに対する不満もあるかも知れないな」
恐る恐る尋ねたアニーの問いかけに首を振るレオンは、ふとそんなことを呟いた。――てっぺんを目指そうとしない幹部達に対する不満――それがブレイツロックの暴走に繋がっているのか。
「――なるほど、つまりレオンさんが私達に調べて欲しいことは……」
それまで目を瞑り話を黙って聞いていたサラは、瞳を開けてニヤリと口の端に笑みを浮かべた。その笑みを頼もしく感じたのか、レオンも同種の笑みを浮かべて、
「――絶対にいるんだ。三代目を、そして幹部達も丸め込んで”ブレイツロックを裏から操っている黒幕”が。その黒幕を突き止めて欲しい」
ヤクザ、徒手空拳、喧嘩殺法から脳筋と思われてそうなレオンさんですが、割と頭は良い方です。しかし良い方であって、頭脳派ではないので要注意。某氷の乙女や某小悪魔には到底及ばない。
レオン
「相手が悪すぎるだろう」