英雄伝説『外伝』 刻の軌跡   作:雨の村雲

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3-04 嵐が過ぎれば

翌日、遊撃士協会の一角でどこか遠い目をする色白の女性がいた。色の薄い金髪のアニーは、書類作成のために手にしたペンを止めている。そのうち思い出したかのように書類を書き始めるのだが、やがてペンが止まり、再びぼうっとしてしまう。

 

「……大丈夫か、アニマの嬢ちゃん」

 

「え? え、えぇ、大丈夫。私は大丈夫だから……」

 

見かねたレオンが声をかけるのだが、彼女は我に返り何でもないように笑うものの、痛々しいまでの作り笑顔で言うのだから大丈夫なようには見えない。彼は何か言いたそうな様子で口を開きかけるが、すぐに首を振って言葉を飲み込んだ。

 

「……アニーさんは大丈夫なの? なんかさっきからあんな調子だけれど……」

 

「さっきからというか、昨日からあんな調子なんだよなぁ……」

 

その様子を、少し離れた椅子に座っているナギサと、その背もたれに寄り掛かっているエルガが見ながら心配そうに呟く。彼女の様子が変化したのは、昨日マルコから聞かされた例の五人組が所属する”ネイリ一家”という言葉を聞いてからだ。

 

「ま、仕方ないわ。ネイリ一家は、彼女にとってトラウマの象徴だから」

 

「トラウマの象徴?」

 

ナギサの対面の席に座るサラはえぇと頷いた。二人の目の前にある水晶からアニーへと視線を移し、ぽつりと呟く。

 

「あの子の母親がお医者さんだったのよ。それに憧れて、彼女は医者を目指していた時期もあったわ。結局、家庭の事情で医者の夢は諦めたようだけれど……その事情に、ネイリ一家が絡んでいたらしいわ」

 

「そうなんだ……」

 

「…………」

 

医者を目指していたと聞いて凄いと頷き、どこか残念そうな表情を見せるエルガとは対照的に、思い詰めた様子でアニーを見やるナギサ。――最初に帝都に入ったとき、彼女の実家であるレストランのお世話になったことを思いだしたのだ。かつては医者を目指し、現在はレストランのウェイター兼遊撃士を務めている――彼女は心配そうに問いかけた。

 

「……アニーさん、働き過ぎじゃないですか? 遊撃士だって忙しいのに、その上実家のお手伝いをしていらっしゃるんですし……」

 

「えぇ、おまけに医学の勉強もまだ続けているようだし……」

 

「い、医学の勉強まで!?」

 

あのバイタリティはどこから来るのかしら、とやや呆れた口調に心配を織り交ぜて呟くサラ。彼女もまた、アニーの働き過ぎに思うところがあるらしい。ただ、こればっかりは本人の問題だろうとも思っている。彼女は思考を切り替えるかのように首を振り、目の前の少女に声をかけた。

 

「さて、それじゃあナギサお嬢さん? さっそく私の占いをして欲しいのだけれども」

 

「あ、はい。そうですね、すみません……」

 

アニーの方を見ていた彼女は、サラに急かされて我に返り、慌てて机に置かれた水晶に手をかざす。すると、水晶が仄かに輝きだした。

 

――数日前にエルガの部屋で占いを披露してから、遊撃士協会では彼女の占いが好評になっていた。何でも、とある依頼で詰まっていた見習い遊撃士の一人が、エルガの話を聞いてダメ元でナギサに占いを頼んだところ、それが功を奏したらしい。

 

彼女の占いを頼りに調べたところ、見事に的中し依頼を完遂できたという。その結果、興奮した見習い遊撃士が彼女の占いのことを言い広め、瞬く間に遊撃士協会全体に広まったという。――本人は、どこか複雑そうな表情をしていたが。

 

占いと言えば例の胡散臭い占い師についてであるが、どうやら帝都ではすっかりその存在は忘れ去られてしまったらしい。今でもはっきりと覚えているのは、エルガ達四人だけのようだ。

 

一体あの占い師は何者だというのか――その答えに一番近い所にいるであろうナギサでさえ分からないというのだから、正体は謎に包まれたままだ。

 

「――――……う~ん……」

 

水晶に手をかざしていたナギサが、やがて唸りながら視線をサラに向け、首を傾げながら問いかける。

 

「サラさんって、昔何かやっていました?」

 

「急にどうしたの?」

 

一瞬ドキリとしながらも、努めて冷静な声音で問い返すサラ。――流石に”元”猟兵という肩書きは、彼らのような”子供”には教えていない。別に元猟兵と言うことを隠しているわけではないが、だからといってわざわざ言いふらすことでもない。

 

「いえ……その、昔のサラさんの姿が見えたので……」

 

「私の? なんだか恥ずかしいわね……」

 

はにかんだように苦笑する彼女とは対照的に、ナギサの表情は芳しくない。どうやら何か思うところがあるらしいその態度に、エルガは眉根を寄せた。

 

「何が見えたんだ?」

 

「その……たくさんの人と一緒になって戦っている光景が。………」

 

彼女が占いを通して見た光景には、彼女を含めた大勢の人間が銃を持って、どこか別の所で戦っていた光景であった。――気になったのは、彼らが持っていたライフルである。あのライフルを、どこかで見た覚えがあるのだ。

 

「ふーん。まぁ別に良いけれど……それで、一体どんな占い結果なの?」

 

確かアレは……後もう少しで思い出せそうなとき、急かすようにサラが尋ねてきた。そこで再び我に返ったナギサは慌てて先程見た光景と、そこから生じた変化を思い出しつつ、

 

「おそらくなんですけれど、昔からの知り合いと近いうちに再会すると思います。でも、その……再会が、喜ばしいものになるとは限らないんじゃないかなって……」

 

と口にする。そして口にした後に後悔した。これはあまり言っていい言葉ではないような気がしたのだ。ちらりとサラの様子を伺うように上目遣いで見やるが、彼女はどこか驚いた様子で瞳を瞬かせていた。

 

「……なるほど。あなたの占い、よく当たるのね」

 

「……えっと……ありがとう、ございます……?」

 

その後、ふっと表情を和らげナギサを賞賛するものの、その理由がわからない彼女は首を傾げつつお礼を言うのだった。よく当たると言われても、まだ当たっているかどうかはわからないのだが。

 

――ナギサの占い結果を聞いて、サラの中にあった予感は、確信へとかわるのだった。このままこの一件に関われば、”彼ら”に会えると。

 

「占いありがとうね。良い息抜きになったわ」

 

「あ、あの……行っちゃった……」

 

口の端に笑みを浮かべて、どこか晴れやかな表情を浮かべた彼女は席を立ち、その場から離れていった。そんな彼女に向かってナギサはまだ何か言いたそうにしていたが、気づけば立ち去っていく彼女の後ろ姿を見送ることになっていた。

 

「何を聞きたかったんだ?」

 

「アニーさんのこと。もう少し詳しい事情を聞きたかったし……それに……」

 

――見覚えのあるライフルのことも、と言いかけて、そこで彼女は口をつぐむ。流石にこの話題は、この場面ではいささか物騒だと己を戒めたのだ。彼女の言葉を聞いたエルガは、あぁ、と頷きながら、

 

「……確かにアニーのことは気になるよな。けどまぁ……」

 

昨日、”ネイリ一家”という言葉を聞いていこうどこか上の空である彼女。ネイリ一家はブレイツロック傘下の組織であり、あくどい金貸しや土地の売買で設けている、言わば悪徳企業のようだ。エルガは頬をポリポリとかきながら、視線を変えて、

 

「……昨日の夜から、サラさんの様子も変なんだよな……」

 

そのネイリ一家がらみでもう一件――マルコから、ナギサを攫おうとした五人がネイリ一家の人間だと知らされた夜、サラと先輩遊撃士であるトヴァルがそのネイリ一家の拠点に張り込んでいたのだ。

 

すると、その夜のうちに動きがあった。例の空賊団――「レヴァナント空賊団」の副団長が一人でネイリ一家を襲撃し、結果組員の大半を病院送りにしたようだ。その際、サラとトヴァルは副団長――例の仮面の男であり、ネモという名前らしい――と交戦したのだが、そこでネモの反応から空賊団にも何か理由があるらしいことが判明した。

 

その理由まではわからなかったが――ともかく、今朝方戻ってきてからサラの様子がおかしいのだ。どこか急いでいるというか、何かを心待ちにしているというか。

 

「……………」

 

「……どうしたナギサ?」

 

サラが立ち去った方向を見やっていたエルガであるが、すぐ側から視線を感じ、そちらを見やると黒髪の少女がこちらを半眼で見つめていることに気がついた。彼女の態度を不審に思い、首を傾げながら問いかけると、すぐに視線を逸らされた。

 

「アニーさんとサラさんのことがそんなに気になるの?」

 

「え? そりゃあまぁ、先輩で、同僚だしな」

 

「………」

 

エルガの答えを聞いて、頑なに視線を合わせようとしないナギサ。どこか不機嫌というか怒っていると言うべきか、そんな雰囲気を感じ取ったエルガは胸中呟く。

 

(……俺、何か怒らせるようなこと言った? 言ってないよな……?)

 

内心首を捻るエルガ。数日前の、自室で占いをして貰った日を境に、以前よりも妙に懐かれたが、時々どう対応すれば良いのか分からなくなるときがある。先日もこのことをダーゼフやトヴァルに相談したのだが、生暖かい瞳で肩を叩かれたことぐらいしかされていない。

 

一体俺にどうしろというのだ。頭を悩ませていると、扉が開き、入ってきた人物がこちらを見て声をかけてきた。

 

「ナギサ~! あ、それにエルガさんも! こんにちはっ」

 

「あ、サリスさん」

 

「おう、こんにちは」

 

声をかけてきたのは、ナギサよりもやや年上で金髪の少女。レオンが引き取ったというサリス・ラージバルムであった。初対面の時は控えめな少女という印象だったが、どうやらそれは誤りのようで、彼女はこちらに早足でやってくるとナギサに飛びかかるように抱きついた。

 

「むぎゅっ」

 

「ナギサ~! ん~相変わらず良い匂い~すりすり~」

 

「さ、サリスさん……ちょっと、苦しいよぉ……」

 

抱きつかれたナギサは、サリスの腕の中で苦しそうな声を出すが、サリスはそんなこと気にせずに腕の中のナギサに頬を擦りつけていた。苦しいと言い張るナギサだが、拒絶の色は感じられない。

 

昨日一緒に留守番をした仲だからか、二人はあっという間に友達になったようだ。一応彼女の保護者になっている(ダーゼフから、助けたのだから面倒を見なさいと言われている。犬猫じゃないんだから……)エルガとしては嬉しいことこの上ない。

 

それもきっと彼女の性格が大きく関係しているだろう。おとなしめなナギサとは真逆のタイプで、活発的で元気の良いサリスは相性が良いのだろう。

 

「ナギサ、あたしちょっとお腹空いたんだ~。何かお菓子とかないかな?」

 

「まだお菓子には早いです。 もう少し我慢しましょう」

 

――おかしいな、ナギサの方が年下のはずだが、サリスの方が妹に見えるぞ。胸中呟くエルガのことなどいざ知らず、二人の会話は続いていく。ナギサがやや眉根を寄せて、

 

「……というよりも、なんであたしに聞いたの?」

 

「昨日ダーゼフさんが作ってくれたお菓子、一杯食べてたでしょ? ナギサだったら、お菓子置いてある場所とか、そういうのに詳しいんじゃないかなって」

 

「人を食い意地が張っているみたいに言わないでッ!?」

 

――そういえばナギサは作る子でもあるけど、食べる子でもあったな。からかうように指摘され、顔を真っ赤に染める彼女を見つめながら思い出していた。彼女と一緒に初めてアニーのレストランへ行ったときは、財布の中身にひどいダメージを受けたのは良い思い出だ。

 

頬をポリポリとかきながら、彼女達を微笑ましく見ていたエルガに視線を向けたサリスは、ナギサを解放し、

 

「そうだエルガさん、お願いしたいことがあるんだけれど……」

 

「何だ?」

 

やや真剣な眼差しを向けてきた彼女に、エルガは首を傾げて問いかける。すると彼女は手をパンと合わせて頭を下げてきた。

 

「あたしに、武術を教えてくれませんか……?」

 

「…………はぁ?」

 

いきなりな彼女の申し出に、エルガは素っ頓狂な声を出してしまった。

 

 ~~~~~

 

「――って頼まれたんですけれど、どうすれば良い――」

 

「俺から話を付けておくから、断って良いぞ」

 

それから数時間後。レオンと一緒に行動するエルガは、サリスからの頼み事を保護者である彼に相談すると、全てを言い切る前に断言してきた。その有無を言わさぬ口調に瞳を瞬かせ、エルガは首を傾げる。

 

「えっと……理由を聞いても……?」

 

「……簡単な話だ、坊主。アイツには、そういったものとは無縁の人生を送らせてやりたい。……それが、俺の我が儘だとしてもだ」

 

そう告げるレオンから、サリスのことを真剣に思っていることが伝わって来た。思えば彼も、クロスベルで起こったという一件の後、その気になればブレイツロックに復帰することも出来たはずだ。なのに復帰しなかった――ダーゼフは、その理由がサリスにあると言っていったが。

 

「……あの、サリスとはどういう関係なんですか?」

 

「同居人だ……だが、養子縁組をしてやりたいとは思っている」

 

「そうですか……あ、いやそれもあるんですが……」

 

なるほど、まだ書類上は”他人”なのか。サリスがオーガスト性を名乗らなかった理由がわかったが、今聞きたいのはそのことではない。

 

「レオンさんはサリスのことを凄く大事にしていますけれど……何か理由があるんですか?」

 

「……別に大した理由ではない。個人的な理由だ」

 

エルガの問いかけに彼はふっと微笑み、肩をすくめてそれだけを言い放つ。だがその後に一言だけぽつりと呟き、その一言にエルガもこれ以上突っ込むのはダメだと感じたのだろう。この件について、彼はそれ以上詮索するのを止めたのだった。

 

「……彼女が、”忘れ形見”なだけだ」

 

「………」

 

絶対に気のせいなのだが、遠くを見るレオンの瞳は、どこか潤んで見えた。そしてその瞳は、エルガの師匠が、妻子の話しになった時に浮かべるそれと重なり、口を閉ざさざるをえなかったのだ。

 

「エルガ、それにレオンの旦那。着いたぜ、ここがネイリ一家の拠点だ」

 

そうこうしているうちに、サラとトヴァルに連れられてネイリ一家の拠点までやってきた。今回はこの四人で昨日の一件の調査を行うことになっている。本来であればアニーもいるはずなのだが、ダーゼフの判断でトヴァルと一時的に交替することになった。

 

とある建物を指さしたトヴァルに従い、エルガもその建物を見やる。一件、普通の建物のように見えるが、作業服を着た数人が何かを運び出している。運び出されるのは主に家具などであり、ちらりと見ただけでも盛大に壊れているのが分かった。

 

「………なんであいつ等がいるんだ……?」

 

眉根を寄せて疑問を口にするレオン。その言葉に他の三人は首を傾げ、サラが頬をかきながら困ったように、

 

「実は昨日の襲撃で部屋が大きく損傷したみたいですから……その片付けとかじゃないですか?」

 

「あぁ、いや違う。俺が聞きたいのはそういうことではなく……」

 

首を振るレオン。確かに初見ではそう思うのも無理はないだろう。どのような襲撃だったのかはわからないが、家具の損傷具合からも、相当ひどい目に遭ったというのも伝わってくる。

 

だが彼が指摘したのはそのことではないらしい。では一体、何に気づいたというのか。レオンの視線を追うと、作業服を着て片付けをしている者達に向けられていることに気がついた。

 

「あいつら……ビックスロープの……」

 

「ビックスロープ?」

 

瞳を細めて呟くレオンに、エルガは首を傾げて問いかけた。急に出て来たその言葉は何なのだろうか。その疑問に、背後から聞こえてくる声が教えてくれる。

 

「ビックスロープっちゅうんは、ブレイツロック傘下の組織で、わいの組やで?」

 

「うわっ!?」

 

耳元で独特な訛りのある声で教えられ、エルガは文字通り飛び上がるほど驚き、慌ててその場から距離を取り、後ろを振り返った。そこには、にっしっしといたずらに成功した子供のような笑みを見せる中年男性がいる。

 

耳に息がかかったのもそうだが、どうやってこれほど近づいたのか。サラやトヴァルも驚いた様子でその男を見やっている。口元に無精髭を生やし、目と鼻の間にある横一文字の傷が特徴的なその男を見て、レオンはふぅっと深いため息をついた。

 

「何やっているんだグロードさん」

 

「久しぶりやの、”獅子”ちゃん。何って表向きの清掃活動やで。ネシードのアホウがアホウやらかしたからな、その後始末や」

 

グロードと呼ばれた独特な口調の男は、肩をすくめて後始末と言い放った。それだけでサラとトヴァルはだいたいの事情に察しが付いたのか、なるほどと頷いている。

 

「……ここはネイリ一家の縄張りだぜ。そこに他の組が”お節介”焼いて大丈夫なのか?」

 

「わいは”シンセツシン”で後片付けをやっているだけやで。文句言う奴がおかしいやろ。現にネイリ一家の連中も、だーれも文句言いにけーへんしな」

 

トヴァルの指摘にも肩をすくめるだけで、歯牙にもかけないと言わんばかりにグロードは飄々として受け流す。この辺りでようやく、エルガも概ねの予想が付き始めた。

 

先程の発言から、おそらくグロードはブレイツ傘下組織である「ビックスロープ」の組長なのだ。その組長自ら、”ネイリ一家の拠点の後始末”をしているという事実。それはつまり――

 

「……ネイリ一家の縄張りを取るつもりか」

 

「―――――」

 

レオンの指摘に、グロードはにぃっと口の端に浮かべる笑みを深くさせる。やはりそういうつもりなのか。ネイリ一家が文句を言いに来ないのは、組員の大半が病院送りにされたことも多いはずだ。そのうちに縄張りを取る――空き巣狙いのその手段に眉を寄せるが、だからと言って非難することではない。

 

「おおっと、そーいや自己紹介がまだやったな。わいはブレイツロック傘下であるビックスロープの会長をやっとるグロードっちゅうもんや。まぁ、表向きは清掃業者をやっとるで」

 

大仰に肩をすくめ、自己紹介をするグロードに、一同もそれぞれ挨拶を交わしていく。サラは当然として、トヴァルの事も知っていたらしく、何かを納得した様子で頷いていた。

 

「なるほどのぅ、紫電に零駆動に獅子ちゃん……それに天槍の弟子まで。中々豪勢なメンツやの」

 

「俺のことまで……」

 

自己紹介と言っても、精々自分の名前を告げたくらいだ。どうして天槍の弟子であることまで知っているのか。非常に気になるが、今はおいておこう。

 

「それでグロードさん。あんた、なんでこのタイミングでネイリ一家のシマを取ろうとしてるんだ? まさかとは思うが……”四代目”を狙っているんじゃないだろうな?」

 

「っ!」

 

「四代目……いや、だがそうか……」

 

目つきを鋭くさせ、やや棘を感じさせる声音でレオンはグロードに告げた。今のブレイツロックの状況を鑑みれば、”世代交代”が起こってもおかしくはない。この時期にシマを、つまり勢力拡大を目指すのにはそういうもくろみがあってもおかしくはない。エルガとトヴァルは確かにと頷くなか、ぽかんとした表情を浮かべたグロードは鼻で笑う。

 

「んな面倒なことするわけないやろ。だいたい、ワイは四代目に興味ない。四(よん)って! 四(し)って! んな縁起悪う数字背負いたくないわ!」

 

『……………』

 

大真面目な口調で憤慨するグロードに、一同は押し黙る。彼の言葉に、どう答えるのが良いのかわからない――そんな雰囲気が流れるなか、冗談半分でエルガは問いかけた。

 

「……なら、五代目になれるとかだったら、考えたりするんですか……?」

 

「そうやのう、わいは数字の七が好きやからな。ラッキーセブン。七代目になれる言うんなら、考えんでもないわ」

 

「そ、そうですか……」

 

つい苦笑いを浮かべてしまったエルガ。本気なのか冗談なのか、判断が付きにくいことを言うグロードに対し、サラもトヴァルもやりにくそうな顔をしていた。ただ一人、レオンだけはじっとグロードを見つめて、はぁっとため息をつく。

 

「……相変わらず、読めない人だな、あんたは……」

 

「それがわいの”生き方”やからな。……みんな待っとるんやで、獅子ちゃん」

 

「………」

 

ニッと笑みを浮かべながら、それが自身の生き方と語るグロード。だがその次には、名残惜しそうにレオンを見やり、彼にそう告げた。

 

――みんな待っている――待っているのは、一体誰なのか。僅かに迷うような仕草を見せたレオンの肩を叩き、グロードはサラとトヴァルに体を向けて、

 

「それで、お前等は何を聞きたいんや? 昨夜ネイリ一家で起こったことか? わいが答えられる範囲なら、できる限り答えちゃうで」

 

 

 

――その後グロードに色々と質問し、問いかけたところ、色々なことが判明した。壁や家具に残された襲撃の跡は主に斬痕と銃痕であり、”血痕”に関してはほぼないということ。病院に連れていかれたネイリ一家の組員も、しばらく安静が必要だが命に別状はないらしい。また襲撃者が残していった、手がかりに繋がるような物はないようだ。

 

当時サラやトヴァルもネイリ一家の監視をしていて、襲撃者が一人で、そして軽装で襲撃したことは見ていた。そのためどちらかと言えば、こちらがグロードに伝える情報のほうが多かったぐらいであり、なるほどのぅと納得したように頷いていた。

 

(……ここは空振りだね)

 

(ま、仕方ねぇさ)

 

ネイリ一家の拠点で得られそうな新しい情報はなさそうである。エルガが残念そうに呟くと、それに同調したトヴァルが肩をすくめた。そこで、それまで黙っていたレオンが何かを思い出したように唐突に口を開いた。

 

「――そういえば、ネシードはどこに行ったんだ? 聞いた話じゃ怪我もなかったらしいが……」

 

「あのアホウなら昨日の夜から行方知れずやで。ま、自分の組がほぼ壊滅したんや、ショックで寝込んでるんちゃう?」

 

「…………?」

 

奴のことなんざ知らん、とどこか不機嫌そうに告げるグロードの態度に不審そうな表情をするレオンだが、それに他の三人は気づけなかった。彼らは互いに顔を見合わせ、そして頷いた。

 

――ともかく、これからの行動指針が固まった。それだけでも進歩があったという物だ。

 

 

「……ところでグロードさん。幹部陣から、”四代目の座”を狙っている奴はいたりするのか?」

 

「みーんな狙ってるで。でもま、今すぐ成り代わろうっちゅう不届き者はおりゃせんやろ。ジェイクの坊主が、睨み効かしまくっとるからのう。それにフガルの大親父まで出て来ちゃな」

 

「……そうか。あいつは、しっかりやっているみたいだな」

 

別れ際に、レオンとグロードはそんな会話を交わしていた。

 




実家では飲食店の手伝い、職場では遊撃士としての仕事、一人の時間は医学の勉強。アニーさんのバイタルがとんでもないことに。仕事以外の趣味ってなんですか?

アニー
「え? …………………」(長い沈黙)

アニー
「……あ、明日答えても良い?」(震え声)
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