英雄伝説『外伝』 刻の軌跡   作:雨の村雲

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3-08 緋き黄昏

 

「……しかし、成り行きだったとは言え、まさかTMPの連中と手を組むことになるとは……」

 

「私自身も驚きだ。だが……敵に恩を売るのも、悪くはない」

 

「は、確かに。大きな借りを作って、恩に着せてやろうじぇねぇか」

 

夕暮れ時、クックックッと笑い声を上げるマルコに、タシースは苦笑する。リーヴェルトが相手ならば、そこまで露骨に恩を着せようとすれば思わぬ反撃に遭いそうだなと思いつつも、それも悪くないと感じてしまう。

 

彼らは今、導力車に乗りヴァンクール大通りを走っていた。運転手たるマルコの後ろで二人を見やり、

 

「……しかし、恩に着せるのならば、まずは手柄を上げなければ。早速地下道探索に関して、人手を出すよう伝えましょう」

 

もう先のことを考え始めたマルコとタシースに、ふぅっとため息をつきつつやるべき事を見極め、まずは目の前のことからと遠回しに伝えるのだった。

 

「それもそうだ」

 

「……あぁ。まずは地下道の探索……しかしある程度地下道を把握しているとは言え、それでも空賊団を探すのは骨が折れる」

 

ジェイクの現実的な発言に二人も気を引き締めなおし、タシースは探索について思案する。彼の言葉通り、色々”裏”の案件絡みで地下道を把握しており、帝都庁の行政課よりもと把握しているとは言え、それでも氷山の一角でしかない。

 

「だが、ある程度の絞り込みは出来るだろう。問題はそこからだな……」

 

別れ際リーヴェルト少尉から渡された資料の中に、帝都のどこで空賊団の団員を発見したか、どの場所から地下道に入ったか、そして地下道のどの地点で見失ったかという資料を譲って貰った。これである程度絞り込むことは可能だろう。

 

「えぇ。一体どの組に捜索をさせるか……む? マルコ、すまないが路肩に寄せてくれ」

 

思案するジェイクは、視界の端に知った顔がちらりと見え、マルコに頼み減速させつつ歩道に寄せてもらった。すると例の知った顔が小走りに向かって来るのを確認すると、彼は車を止めて、

 

「タシース会長、少々失礼します」

 

一声かけ、車の外へと出て行ったのだった。車の外でその人物と話す兄弟分を見て、マルコは誇らしさと少々の寂しさを滲ませながら、

 

「さっすが”副会長”、部下から頼られてるねぇ……」

 

「お前も子分を持ちたいか?」

 

「いや~……ははぁ……まだまだ好き勝ってやりてぇからな、俺は。そういうのは、まだいいですぜ」

 

苦笑しつつ、控えめだがやや強めの拒否を見せる彼に、タシースは苦笑する。すでに若い衆から頼られているマルコだが、”集団の頭”になる気はないようだ。――以前酒の席で聞いたことがあるのだが、レオンと肩を並べるようになるまでは、子分は持たないと漏らしていたりする。

 

「………?」

 

彼の、ある種の決意を思い出していたタシースは、そこふと妙な違和感を覚えた。ジェイクと話しているあの男――うちにいただろうか。

 

とはいえ表向き「スミットウェール物流商会」であり、”表の仕事”のみに従事する職員も多く、また物流という仕事の性質上、他の商会、商店との繋がりもあり、それ関連の可能性もある。それを考えるとおかしな訳ではないか。

 

「――会長、失礼しました」

 

「あぁ。……仕事の話か?」

 

マルコとそんな会話を交わしていると、用件が手短だったのか以外に早くジェイクが戻ってきた。しかしドアを開け中に入る気配を見せず、頭を下げる彼に、タシースは首を傾げつつ問いかける。すると大柄な体躯の彼は、やや目つきを鋭くさせて二人を見やった。

 

「えぇ、仕事の話です。……ネシードが見つかったと」

 

「……なんだと?」

 

彼の言葉に、タシースとマルコも同じように目つきを鋭くさせた。――TMPとの仕事の前に、まず”ケジメ”を付けなければならないようだ。

 

「それで、奴はどこに?」

 

早速とばかりにタシースが居場所を問いかけると、ジェイクは気になることがあるのか、気むずかしそうな表情を浮かべ、不可解そうに首を傾げて口を開く。

 

「それが……ネイリ一家の拠点へ向かう姿を目撃したと」

 

「何……?」

 

彼の口から告げられた場所に、二人は顔を見合わせた。

 

 

 

大通りから場所も近いということもあり、マルコはタシースと共にネイリ一家へと向かって行った。一方ジェイクは車を降り、一度“本社”に戻り各方面へ連絡をした後、応援を引き連れてネイリ一家へ向かう事になった。

 

「……まさか一度見捨てた拠点に戻るとはな。まぁ、あの考えなしならば納得か」

 

はぁ、と呆れたため息をつきつつも頷く彼は、未だに導力車を降りた大通りから移動していなかった。大通りの歩道の傍ら、壁に背を預け煙草を一服吹かしている。

 

「だが、これで遊撃士も動かざるを得ないだろう。……我々も動かざるを得ないが……」

 

これから起こるであろう”騒乱”を予想し、ジェイクは一人これからの動きについての段取りを組み立てていた。――そして先程の”見知った顔の男”からもたらされた情報に寄れば、おそらく”空賊団も動く”。

 

「……あの女狐め、忌々しい……連中もあの女に目を付けられて災難だな」

 

詳しい背景まで掴めなかったようだが、どうやら空賊団はあの女狐からの依頼という形で、今回の騒動を引き起こしたらしい。――そもそも”人を攫え”などという依頼、空賊ではなく”猟兵”に依頼するのが筋というものだろう。

 

だが先程出会った例の少女の持つ“異能”――事象の検索が行える眼の事を考えると、空賊団が北の猟兵――否、“元ノーザンブリア公国軍”の特殊部隊であり、あの伝説の“黒い鳥の再来”が団員として紛れ込んでいる組織に頼むのは、分からなくはない。

 

あの異能は、可能性の塊である。ありとあらゆる”真実”を見極めることも、大昔に消失してしまった”遺物”を探し当てることも、そして充分な情報さえあれば、”未来”さえ識ることが出来るだろう。

 

 

『――あなたの目の前には、”越えられない壁”がある。一生かけても乗り越えられない壁が。なぜそんな壁が目の前にあるのか、疑問に思ったことはありませんか?』

 

『答えは簡単です。なぜなら――“この世界は、そういう風に出来ているから”』

 

『馬鹿げているとは思いませんか? 巫山戯ているとは思いませんか? もしそう思っているのなら……貴方の力を、私にお貸しただけませんか?』

 

 

「“魔女”殿には悪いが……あの子を渡すわけにはいかないな」

 

「―――――では、今夜行動を起こすのですか?」

 

壁により掛かっていた彼の言葉に反応するかのように、隣から声をかけられる。ちらりとそちらへ視線を向けると、先程去って行ったはずの”見知った顔の男”が、並んで壁により掛かっていた。

 

いつの間に、と内心驚くものの、冷静さを保ったままジェイクは頷き、隣の男を見ることなく告げるのだった。

 

「あぁ。壁を……”兄貴”を超えるチャンスだからな」

 

このチャンスを掴む――常に自分の前を歩き続ける幻影をかき消す絶好の機会――これを逃すわけにはいかない。胸ポケットに引っかけていたサングラスを自身にかける。まるで、己の決意を表すかのように。

 

「匿名でTMPに連絡を入れとけ。今夜起きる騒ぎで、空賊が動くとな」

 

「――わかりました」

 

ジェイクに聞こえるよう小声で告げる男は、その後何もなかったかのように大通りを歩く人混みに紛れて消えていった。仕事が終わる夕暮れ時だからか、昼間よりも人の数が多い。見知ったはずの顔は、僅か数秒でその人混みに紛れ探せなくなってしまった。

 

「さて、俺もそろそろ……――――」

 

あの男が人混みに紛れて消えていったのを見送った後、ジェイクは煙草の後始末をして本社に戻ろうとした矢先、突然起こった異変に立ち止まり、空を見上げた。一人、また一人と通行人が立ち止まり、ジェイクと同様驚きの表情で空を見上げている。

 

そこには“緋い空”があった。――先程までの夕暮れとは違う異質な色彩に、困惑のざわめきが次第に広がっていく中、一人移り変わった緋い空を見上げるジェイクは魔女の言葉を思い出していた。

 

 

『……ですが私にとっては、黄昏時というのは、生と死が混じり合う頃だと思っています』

 

『昼は生者の世界、夜は死者の世界……黄昏時というのは、その二つの世界が混じり合う時間帯。……故に私は、あのペンダントを”黄昏のペンダント”と名付けました』

 

 

「…………」

 

――昼は生者の世界、夜は死者の世界。二つが混じり合ったのが黄昏時だとしたら、黄昏は一体誰の世界――いや、“どんな世界”になるというのか。

 

「そうか、これがあの女狐めが寄越した力……! ネシードの旦那も厄介なことをしてくれる……!」

 

ポキポキと指を鳴らすジェイク。目的地へたどり着く前に、どうやら一仕事せねばならないようだった。

 

「う、うあぁぁぁっ!!?」

 

「な、なんだアレは!?」

 

ヴァンクール大通りで木霊する悲鳴。それと同時に地面から黒いオーラ――“瘴気”が立ち上り、そこから黒い影がゆらりと顕れた。棒のように細い体に四肢を持つ人型の魔獣――いや、魔物が。剣や槍を思わせる武具を持っており、そんな魔物が帝都の街に次々と顕れていく。その姿は、まるで古の兵士を連想させた。

 

――黄昏時が示すのは、生者と死者が混ざり合った世界――

 

『――――――』

 

「すでに死した亡者の兵……だが行く手を阻むのならば、叩き潰すまでだ」

 

武具を振り上げ、襲いかかってくる魔物の兵士達。市民が悲鳴を上げながら次々に逃げ出す中、拳を握りしめ、戦闘態勢を取るジェイクは唸るように呟く。同時に、全身から闘気を溢れ出した。

 

 ~~~~~

 

「……クックック……ハッハッハッ……」

 

すでにものけのからとなったネイリ一家の拠点である建物で、一人の男が乾いた笑みを溢しながらゆらりゆらりと二階へと上がっていく。すでに家具などといった家財は全て撤去されており、綺麗に掃除もなされている。

 

流石に床や壁に走る傷跡までは消されていないが、それでも修理を試みようとしている形跡があることから、この建物に”新たな持ち主”が表れたことを何となく察することが出来た。

 

それは同時に、ネシードはすでにこの家の持ち主ではなくなったことも意味していたが。見れば隠し持っていた金品や権利書、契約書の類いまで全てなくなってしまっている。――火事場泥棒ならば過去にやったことがあるが、まさかやられる側になるとは夢にも思わなかった。

 

その現状に、ネシードは怒りを通り越し笑うことしか出来なかった。苛立ち紛れに何か当たろうという気も沸かなかった。ただただ笑いを溢すことだけ。

 

――もう彼も悟っていた。奪われた契約書の類いには秘密にしておかなければならないもの――真っ黒なミラの流れや違法な金貸しなど――がいくつかあり、それをネタにされればネイリ一家は終わったも同然である。

 

そしてそれは、組長である自身の終わりをも意味していた。これではもう、笑うことしか出来なかった。乾いた笑みを溢し続ける彼は、やがて魔女に渡されたペンダントを取り出した。――これの使い方は、すでに聞いている。

 

「ハッ……どうせ俺はもうおしまいだ……なら……」

 

今までの行い全てが無駄になるのなら――心の中であふれ出る黒い感情をそのままに、彼は二階の自室にてペンダントを部屋の中心に叩き付ける。

 

「全部ぶっ壊してやる!!」

 

――コーン――

 

叩き付けられた衝撃でペンダントが跳ね飛び、そして緋色の光を放ち出す。そしてその光は真上に向かって直進し、天井まで立ち上る。――建物内部にいた彼は気づかなかったが、立ち上った緋色の光は天井をすり抜け、帝都上空へと伸びる光の柱と化した。

 

そしてそれは、その場にある一本だけではなく、帝都の”ある場所”からも次々と光の柱が出現し、帝都全域へと広がっていった。――黒い瘴気が、帝都を覆い尽くす。

 

「は……ハハッ……!!」

 

その光景に、彼は驚きつつも笑顔を浮かべていく。口元を大きく歪ませ、高らかに笑い声を上げる彼は異様にも思えた。――彼は気づかない、その体を、黒い瘴気が覆っていることを。

 

「もっとだ……もっト……モット……!!」

 

――光の柱が徐々に巨大化していく。そうして巨大化する柱は、ネイリ一家の拠点である建物を飲み込んで――

 

「モットヨコセェ!!」

 

 

 

「緋色の……空?」

 

「それに……何、あの光の柱……?」

 

遊撃士協会に戻っていたエルガとアニーは、表が騒がしくなったことに異変を感じ、外に出たところ、緋色に染まった空と、立ち上る六本の光の柱に目を奪われた。夕暮れ時の空とは違う、緋の空――それと、地面から立ち上る”黒い煙”のような物。

 

「っ――“ソレ”に触れちゃダメだ!!」

 

それを見た瞬間、エルガは叫ぶ。アレ危険だと、彼の本能が訴えかけていた。現に、その煙に触れてしまった通行人が次々に倒れていく。クッと呻いたエルガは協会を飛び出そうとして、しかし煙から表れた人型の化け物に気づき、短槍を引き抜いた。

 

「龍牙槍!」

 

放たれるのは、突進突きから薙ぎ払いへと繋ぐ二段技。貫かれ、斬り裂かれた人型の化け物は妖しげな光を放ちながら消えていった。その消滅の仕方は、かつて帝都地下道で戦った魔獣――否、魔物を連想させる。

 

「今のは……」

 

「エルガ君!」

 

地下道での一件を思い出していたエルガは、背後から近づいてくる気配に気づくのが遅れ、ハッとしたときには駆けつけてくれたアニーの剣閃によって魔物――古の兵士が光となって消滅していくところだった。

 

「ご、ごめん。助かったよアニー」

 

「油断しないで! でもこれは……!」

 

「っ!」

 

エルガの背後を守るようにぴったりと後ろにくっつくアニーは、周囲を見渡して苦い表情を浮かべる。エルガもまた、周囲から感じる気配から古の兵士達に囲まれてしまったことを理解した。その数は、二、三十体はいるだろう。

 

一体一体の戦闘力はさほどでもないが、それでもこれだけの数になってしまえば危険すぎる。それに周囲には、倒れた人達もいるのだ。幸い彼らを襲おうとする個体はいないが、それが続くとは限らない。槍を握りしめる手に力を込め、エルガはすまなさそうに背後に告げる。

 

「……ごめん、俺が無鉄砲に飛び出したから……」

 

「ううん、気にしないで。それよりも、辺りの兵士達を何とかしたら、倒れた人達を助けて――」

 

 

「――なら、二人は助ける方を優先させなさい」

 

「ここは俺達に任せろ!」

 

 

指示と共に、突如として雷が振り落ちる。いや、雷を纏った女性が、といった方が正しいか。雷を纏った女性は長剣を地面に突き刺し、周囲に電撃によるダメージを与えた後、そこから飛び退き銃撃による追撃を行う。

 

攻撃、牽制、後退、全てが流れるように行われ、一つの技と化した戦技。ワインレッドの先輩遊撃士が、エルガの眼には非常に頼もしく見えた。

 

「サラさん!」

 

その反対側では、古の兵士達の群れの中心地帯に白銀に輝く剣が数本落下してきた。その剣は、それぞれが基点となって繋がり、円陣を作り出し――その円陣が光り出す。幻属性の中級アーツだ。

 

それ以外にも、火属性、水属性、空属性――中級とは言え、いくつものアーツが瞬く間に発動し、敵陣を次々瓦解させていく。これほどの高速駆動を行うアーツ使いなど、アニーは一人しか知らない。

 

「トヴァル先輩!」

 

二人がそれぞれの先輩方の名を呼ぶ中、前衛で暴れるサラを援護するかのようにトヴァルはアーツを駆動させ、瞬く間に古の兵士達を蹴散らしていく。しかもただ闇雲に倒していくだけではなく、倒れた市民達を巻きこまないように気を遣いながら。

 

「今のうちよ! 早く!」

 

いつの間にか、倒れた市民達の周りはぽっかりと穴が空いたが如く兵士達の姿はない。サラとトヴァルが作ってくれたその隙に、エルガとアニーは協力して市民達を助け起こし、遊撃士協会へ連れて行く。

 

「大丈夫ですか!? しっかり!」

 

「うっ……ぅぅ……」

 

(意識を失っている……一体何が……!)

 

助け起こすと、苦しさを感じているのか呻き声を漏らす男性に、エルガは表情をしかめつつ何か超常的な現象が起こっていることを嫌でも理解させられたのであった。協会内へと男性を連れて来たエルガを、慌てた様子のサリスが出迎えてくれた。

 

「エルガさん、大丈夫ですか!?」

 

「うん、俺は大丈夫……! でもそれより、ナギサはどこに――」

 

「エルガ、こっちに!」

 

黒髪の少女を探して受付へと視線を向けると、片手にたくさんの札を持って二階から降りてきた彼女が目に映る。どうやら彼女も、超常的な事が起こっていると理解しているのだろう。

 

この状況、頼れるのはおそらく巫術を学んでいるナギサか、もしくは空の女神を信仰する七曜協会のどちらかだろう。ナギサの元へ男性を連れて行くと、彼女は側で跪き、苦しげに呻く彼の胸元にそっと手を当てて瞳を閉じる。すると、ナギサの体が仄かに光が放たれた。

 

「な、ナギサ……?」

 

「これが例の……ふむ」

 

その様子を初めて見たサリスは戸惑いを浮かべ、いつの間にか気を失っている別の男性を運んできたダーゼフも興味深げに見やっていた。

 

「――やっぱり魔に侵されてる…………これは、もしかして……」

 

一方のナギサは、二人の視線を気にせずに男性へと意識を集中させる。――空が緋色に染まったときから発生した“上位三属性”と、男性から感じる“魔”の気配――これが無関係だとはどうしても思えない。

 

それに、彼から感じる魔の気配――以前どこかで感じた物に非常によく似ている。これは確か――そう、地下道で浄化した魔の気配に似ている。

 

「――まさか」

 

そこであることに気づいたナギサは、遊撃士協会の窓から外の様子を確かめる。――特に、光の柱が立ち上る場所を。あの方角は、確か――

 

「ナギサ、一体どうした?」

 

「――地下道」

 

何かに気づいたかのように外を見上げる彼女に気づいたエルガは、首を傾げながら問いかける。それでも彼女はすぐには答えず、しばし迷いを見せたもののやがてそっと口を開くのだった。

 

「以前地下道で、手配魔獣……魔物を倒した場所、覚えてる?」

 

「あぁ、覚えているが……」

 

「そこって、地上だとだいたいあの辺りよね?」

 

そう言って指さしたのは、ちょうど光の柱が立ち上る方向。彼女が指さした方角を見てエルガもハッとする。光の柱がある場所――確かにあの辺りが、以前地下道で手配魔獣(実際は魔物だったわけだが)と交戦した方角になる。

 

「……まさか、地下道にいくつかあるって言う”墓所”が光の発生源……?」

 

何の根拠もなく、ただの偶然である可能性もあるが――偶然で片付ける訳にもいかなかった。

 

「――なるほど、昔の兵士のような雰囲気を感じたのはそのためですか……」

 

例の墓所は、暗黒時代からある墓所だという。そこに埋葬された兵士が何らかの力を受けてあのような姿で動き出した――非現実的な考えだが、そもそもこの現状自体非現実的なのだ。そんなことがあってもおかしくはない。

 

「……あの黒い人型の魔物は……墓所で眠っている人達の”遺志”や”記憶”を糧にしているんだと思う」

 

「……それは、つまり……」

 

あの魔物を見た瞬間に感じ取った気配、そして感覚を元に、ナギサはぎゅっと手を握りしめながら告げた。遺志や記憶を糧に――自分なりに言葉を選んだための表現だが、もっと平たく言えば“死者の魂を元に生まれている”のだ。

 

「……なるほど、死者を利用していると言うわけですか……」

 

「胸くそ悪くなるわね……」

 

ダーゼフは細目でまじまじと緋色の空へと立ち上る柱を見やり、そして遊撃士協会に運び込まれた市民を見て決断する。突発的に起きた事象だが、それにも対処するのが我々遊撃士なのだから。

 

「――これより西側にある帝都遊撃士協会とも連携し、此度の緊急事態の解決を行う。皆さん、よろしいですか?」

 

『はいっ!』

 

その場に居合わせた遊撃士全員が、ダーゼフの決断に賛成し、力強く頷くのだった。

 




初登場からネシードを諫めたり、焦るタシースを宥めたりしていたジェイクさんが表を向きました。そして(思い出したかのような)サングラス装備。これからどんなことをしていくのか……。

そして暴走したネシードによって引き起こされた”黄昏”。名前は同じですが閃の軌跡4の黄昏とは全くの別物です。どちらかというとアポカリプス……つまりこの現象は……。

次話で正式な三章コールです。同時に章始めに入れてある「~~の話をしよう」の一文が入るはずです。


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