英雄伝説『外伝』 刻の軌跡   作:雨の村雲

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異界なる黄昏~1~です。はい、前編、後編つけないのはもしもの為の保険です。

それと先日イース9を購入しました。現在<背教者>が正式にパーティー入りを果たしたところ。7、セルセタ、8とプレイしてきた中で一番高低差が激しく、さらに入り乱れたマップが多いためよく迷子になっております……。

……あと「グリムワルドの夜」が、当小説内の「緋色の空」と被っている点が多くて白目剥いております……。ま、まぁ元ネタが東亰ザナドゥのアレなため、似ているのは致し方ありませんかね……。


3-09 異界なる黄昏~1~

 

第三章 獅子の心、目覚めるは異界の果て

 

 

――異界の話をしよう。それは二つの理が重なり繋がった陰と陽の世界。――生と死の物語を。

 

 

「ハァ、ハァ……っ!!」

 

緋色に染まった帝都の大通りを、一人の少女はひた走る。息を荒げながら、なんでこんな事になったのと疑問を口にするが、それに答える者はいない。周囲には倒れた人達に群がるように、黒い人型の瘴気が集まっている。

 

ちらりとそちらに視線を向けると、人型の瘴気はまるで倒れた人の中に強引に“取り憑こう”としているように見えて――同時に、人型の瘴気はこちらを振り向くかのように体を動かし――少女は視線を逸ら、なおも走る。

 

背後から追ってくるのがわかる。アレに追いつかれたらダメだと、本能的に悟って少女は逃げていた。走って、走って、走って、そして――

 

「あうっ!」

 

それは、エイドスがすっと目をそらした瞬間の出来事だったのだろう。舗装された道に出来る僅かな段差――走り回って疲労していた彼女はその段差に足を取られ、転んでしまう。痛みに呻き、足を押さえたところで、倒れた自分を囲む影に気づいた。

 

「あっ………あっ……」

 

震える瞳でそれを見上げる。――複数の人型の瘴気が、こちらを見下ろすような形で囲んでいて――

 

「いや……いやだっ……!」

 

フルフルと首を振って後ずさろうとするも、逃げ場などあるはずもなく――複数の腕が少女に伸びて――

 

「誰か……誰かぁ……っ!」

 

助けを求める声も弱々しく――そして何よりも、その声も応じる者はいない。迫り来る恐怖に、少女は腕をずっと見上げて――

 

――頭上から、一振りの剣が墜ちてきた。その剣は少女を囲んでいた一体を貫き体を霧散させ、地面に突き刺さる。そしてその剣の元へ、黒づくめで眼帯の男が頭上から飛び降りてきて、剣を引き抜く。

 

「動くな――裂空」

 

振り切った一刀は、少女を囲んでいた群れをまとめて吹き飛ばし、霧散させた。あまりの急展開についていけず呆然とする少女に、男は顎でしゃくって、

 

「行け。……次は助けてやらんぞ」

 

「ぁ……は、はい……っ!!」

 

コクコクと頷いて、少女は立ち上がり駆け出して行く。その背中を見送って、男は後ろを振り返り――

 

「相変わらずのお人好し。おまけに格好つけ」

 

「そういうつもりはないのだが……」

 

頭上――屋根の上から降りてきたのは十代前半頃の、灰色の髪をした少年。両手に持つ二丁拳銃を四方八方連射し、魔物の数を的確に減らしていく。魔物の位置を確かめるかのように動くその瞳に、光がないのが余計に気になる少年の指摘に、男は――ネモは肩をすくめた。

 

「自覚無し。そういうところだぞホント」

 

「どういう意味だそれは」

 

「ま、いつものことだいつもの。お前さんと同様、育ち方を間違った良い例だ」

 

言い合いになりかけた雰囲気を壊すかのように、屋上から大男が降りてくる。右手に導力機構が仕込まれた強化ブレードを、左手には小型の銃剣がついたライフルを持って武装した大男は、ネモの背後で着地するなり気怠げにライフルを構え、連射する。

 

彼の背後から近づいてきていた魔物達を瞬く間に蜂の巣にし、周辺の敵を殲滅する。周辺の敵影がいないことを確認しながら大男はネモに向かって、

 

「――さっき確認取ったが、この緋色の空の怪奇現象、あの魔女殿は”無関係”だそうだ」

 

「信じねぇ」

 

「嘘だな」

 

隣で聞いていた少年も、胡散臭いとばかりに醒めた瞳で吐き捨て、ネモに至ってはばっさりと断言する。二人の意見に大いに賛成しながら、大男は――空賊団団長であるゾルダ・ヴァリウスは頷いた。

 

「他の団員にも伝えてある。たまった憂さ晴らしと”点数稼ぎ”もかねて、”こいつ等”を退治しようや」

 

「――ま、無関係とあの女狐は言ったんだ。なら、倒しても問題はない」

 

「あぁ。……全く関係のない市民を巻きこむ時点で、俺等の流儀に反してる……行くぞオメェ等、”狩り”の始まりだ」

 

 

 ~~~~~

 

 

「――龍爪乱舞!」

 

短槍の中心部分を握りしめ、舞うかのような動きで穂先による斬撃を、石突きによる打撃を敵集団に打ち据えていく。敵集団とは緋色の空になってから現れ始めた古の兵士達。亡者である彼らを瞬く間に撃破していくのは白髪の少年であるエルガ。

 

「っ……!」

 

しかし十体以上もいるこの状況では、数体討ち漏らしが出て来てしまう。乱戦になっている現状では、その討ち漏らしからくる不意打ちが恐ろしい。槍の石突きを叩き付け、よろめかした兵士が体制を建て直し、反撃の一撃を放ってくる。エルガは飛び退いて回避し、槍を構えて突進する。

 

「龍牙槍!」

 

放たれた突進突きは、古の兵士達持つ盾に防がれ、そのまま短槍が弾かれる。絶好の隙を見せたエルガに対し、彼を囲むように飛びかかってきた兵士達は集団でそれぞれの武具を振り下ろそうとして――エルガの口元に、ニヤリと笑みが浮かぶ。

 

『―――』

 

兵士達が振り下ろした武具はエルガの体を貫き斬り裂いて――その体が、“水”となって崩れ落ちる。その現象に驚いたのか、魔物達の動きが固まったその瞬間、魔物達が凍り付けとなった。

 

「エルガ君!」

 

「了解!」

 

離れた所からその様子を見てアニーは水属性の高位アーツを放ち、敵集団をまとめて凍結させ相方の名前を叫ぶ。攻撃を回避した彼はすでに飛び上がり、短槍を頭上で回転させ技を放つ準備が出来ているところだった。

 

「砕けろ、龍麟撃!」

 

まとめて凍結させた場所へ落下と回転の力を宿した石突きを叩き付け、氷を粉々に砕き――中に捕らわれていた古の兵士達もまた、氷と共に砕け散るのであった。

 

 

 

「補助ありがとう、アニー。助かったよ」

 

「どう致しまして。でも無茶しすぎだよエルガ君」

 

――オスト地区に出現した兵士型の魔物を殲滅した二人は互いに呼吸を整えながら頷き合い、エルガはアニーのジト眼に晒される。うっと呻くエルガは目線を逸らしながら言い訳するかのようにぶつぶつ呟く。

 

「とは言っても、このコンビじゃ俺の方が前衛向きで……」

 

「前衛だから無茶しなきゃいけない、なんてことはない! あそこは引くべきだよ、私の補助を前提とした行動はやめなさい!」

 

「…………はい……」

 

しかしエルガの言い訳をばっさりと断ちきり、がーっと捲し立てる。彼女の勢いに押され、渋々といった様子で彼は頷くのだった。先程の水を使った回避方――あれがアニーから受けた補助であった。

 

ブルーミラージュ――彼女が得意とする水属性アーツを用いた、水の分身による身代わりである。事前にこれを仕込んで貰っていたため、エルガはあそこまで強引に突っ込んだ戦闘を行えたのだが、それが彼女の怒りを買ったらしい。

 

確かに強引に攻めすぎたと自身でも分かっている上に、彼女の補助がなければ危ない場面が多々あったため、逆の立場なら確かに怒るだろうと納得出来る。――しかし、だからといって易々と下がるわけにはいかなかった。

 

「でも多勢に無勢であることは変わりないんだ。向こうも兵士としての性なのか、妙に連携が取れてるときもある……多少は強引に引っかき回さないといつまでもこちらが不利なままだ」

 

「それはそうだけれど……! ……それとこれとは話が別!」

 

エルガの言葉にうー、と唸りながら渋い顔をするアニー。彼の言うとおり、兵士としての性なのか、それとも僅かながらの意思を持っているのか、連携を取っている。その連携の質は高くはないが、しかしこの数が一気に連携を取ったとすれば、かなりの脅威となるだろう。

 

幸いにも倒れた民間人を積極的に襲うことはしないものの、危険であることにかわりはない。それは理解しているし、その不利を覆すためにはエルガの行動も有効だと言うこともわかっているが、だからといって容易に納得は出来なかった。ぷんぷん怒っているアニーを宥めつつ、エルガは懐から札を取り出して、

 

「わかった、話は後で聞くよ。それよりも先に、例の札を……」

 

「あ、あなた達が化け物を倒してくれたのか……?」

 

背後から声をかけられた。振り向くと、物陰に隠れてこの先程の戦闘を見ていた複数の民間人が恐る恐るこちらに寄ってきていた。二人は一度目配せをして頷き合い、

 

「えぇ、私達は遊撃士協会の者です。先程の魔物は倒しましたが、また現れる可能性はあるかと……」

 

「遊撃士の方が……! よかったぁ……」

 

「おい、あの化け物は何なんだ……? 見たこともねぇ魔獣なんだが……ってか、本当に魔獣なのか?」

 

「それに空の色もなんかおかしいし……!」

 

「それに関しては、現在調査中としか……」

 

アニーがこちらの身分を告げると、安心するかのような雰囲気が漂う一方、緋色の空のことや、魔物がなんなのかという当然の疑問を告げる声も聞こえてくる。それに答えられないことを四苦八苦しながら説明しようとする傍ら、エルガは懐から取り出した札をオスト地区の至る所に貼っていく。

 

――今回の一件に対処するに当たって、遊撃士達は二手に分かれて行動を開始していた。一つはナギサの言葉を信じ、光の柱の発生源と思われる地下道の墓所を探る精鋭陣。以前エルガ達が行った探索の時のように、ガーゴイル等の魔物が現れる可能性があったため、こちらにはサラのような腕利きの遊撃士達がチームを組んで行動している。

 

もう一方は地上に出て来た古の兵士達の討伐、および市民の保護、護衛。こちらには大部分の遊撃士達が当たっており、エルガとアニーのコンビはこちらに回っていた。

 

そしてどちらのチームに配られたのが、ナギサお手製のこの札であった。この札には彼女の巫女としての力が込められており、浄化能力を持つほか簡易的な霊的結界を作り出せるという。残念ながら、エルガにはさっぱり理解できなかったが。

 

現在彼女は遊撃士協会でかなりの数の札を作成中である。たくさん用意しなければならないのでどうしても簡易的になり、効力も一晩でなくなってしまうとは本人談である。

 

そんな”すごいお札”を至る所へ張っていくと、同年代と思わしき少年少女が近寄ってきた。眼鏡をかけた緑髪の少年と、勝ち気そうなツリ目が特徴的な赤毛の少女。少年の方はエルガに対して頭を下げながら、

 

「あの、さっきはありがとうございます。おかげで助かりました」

 

「い、一応礼は言っておくけどな! おめーらが来なくてもあたしが何とか出来たんだからな! そこ勘違いすんじゃねーぞ!」

 

「こ、こらパチェリー!」

 

「あははは……気にしなくて良いよ」

 

素直にお礼を言ってくる彼とは対照的に、フンと鼻を鳴らしながらもお礼を言ってくる少女にエルガは苦笑する。窘める少年ははぁ、とため息をつきながらもエルガが貼っていく札を見て首を傾げた。

 

「あの……このお札のような物は一体……」

 

「おまじない……かな? まぁ今に分かるよ」

 

そう言って最後の一枚を建物の壁にぺたりと貼り付け――それを合図に、これまで貼り付けた札が光を放ち始める。そして周囲の空気が変わる――ような感覚が走った。おそらく浄化の作用が効いたのだろう、現に地面から立ち上っていた黒い瘴気は跡形もなく消え去った。

 

少年達もその変化を感じ取ったのだろう、呆然とした表情を浮かべながら押し黙っている。

 

「あの……これは一体……」

 

「……すげー、札が光ってる」

 

「うん、俺もよくわかんない。ただ、これでオスト地区にあの化け物は現れないと思う。今晩は安全……かな。念のために後で遊撃士が見回りに来るだろうけれど」

 

ずり下がった眼鏡を押し上げるのも忘れて呆然とする少年と、極めて単純な感想を口にする少女という対照的な二人にクスリと笑みを浮かべる。困惑を隠せない少年は頭を抱え、

 

「い、一体何が起こっているんだ……」

 

「マキアス、わかんないものはわかんないんだぞ」

 

「君はあっさりしすぎだろう……」

 

「はは……とにかく君達も、安全地帯になったとは言え、少なくとも今晩は家に戻っていた方が良いよ」

 

二人にそう告げ、住民達への説明を何とか終えたアニーの元へ戻っていく。そしてその場に残った住民達にも家に戻り外出は控えるように告げた後、疲れを滲ませたアニーと共に他の地区へと向かうのだった。

 

「……次はエルガ君に説明役をして貰うから」

 

「げっ」

 

――道中、上手く逃げたことを悟られた彼女に、ジト眼で睨まれたのは余談であった。背後で家に戻ろうとするマキアスとパチェリーの会話が風に乗って聞こえてくる。

 

「――それにしてもあの柱……ちょっとおかしくないか?」

 

「あ? 何がだよ」

 

「他の柱は一定間隔で並んでいるんだが……あの柱だけ、ずれているような気がするんだが……」

 

 ~~~~~

 

「――先程地下道に向かった一班が光の柱を消滅させたようです」

 

「そう。やっぱり墓所が発生源だったのね……」

 

帝都の各地区を回る最中、見回りと連絡役を兼ねている同僚の報告を聞いて、アニーが神妙な面持ちで頷いていた。ナギサの見立て通りに事が進んでいることに安心すると同時に、緋色の空を見上げて頷く。――六本あった光の柱のうち、二本が消滅している。

 

現在、古の兵士達を追い払い、瘴気を浄化する結界を形成する傍ら、逃げ遅れた人達を安全圏まで連れて行くことを平行して行っている。幸いなことに鉄道憲兵隊や近衛兵、正規軍からも避難誘導を行ってくれているため、何とかなりそうであった。ちなみに正規軍に関しては、独自に状況把握に走っているためか、原因が判明するまでは住民感情を考えてか簡素な武装しかしないらしい。

 

そしていくつか、気になる情報もある。

 

「それで、武装した一部の民間人も魔物退治に協力してくれているんですよね」

 

「……武装した民間人? 大丈夫なの、それ?」

 

「ダーゼフさんは、盗みを働くならともかく、魔物退治をしているのなら今はおいておきましょう、と。……彼らの正体に、思い当たる節があるみたいでしたが……」

 

連絡に来てくれた後輩遊撃士に対し、アニーはふむと考え込む。その武装した民間人については気になるものの、心当たりがあると言うのなら、今はダーゼフの言葉を信じよう。それに――

 

「…………」

 

「……アニマさん? どうかしたんですか?」

 

「……ううん、何でもないわ」

 

急に起こった非常事態にもかかわらず、正規軍やTMPの対応が非常に素早いことが引っかかる。ダーゼフが上手くやったのか、それとも――しかしそのことを考えるのは後回しとし、目の前の後輩遊撃士に対して頷くと、

 

「このまま見回りを続けてましょう。エルガ君、行こう」

 

「了解です。……でも大変だよね、こういうときの情報共有って」

 

報告してくれた後輩と別れ、最初から引き連れていたエルガと共に他の地区の見回りを再開する。現在外にいる遊撃士が多いため、情報共有にも人手を使って行わなければならなかった。通信機が使えれば良いのだが、残念ながら回線の存在や持ち運びが出来るほどの小型化もまだ実用にいたっていない。その不便さにアニーは苦笑を浮かべる物の、

 

「噂じゃ、戦術オーブメントと通信機を一体化した物が造られてるって話だよ。嘘か本当かは分からないけれど」

 

「本当だと良いな、その噂」

 

しみじみとそうであってほしいとぼやくエルガ。しかしすぐに彼はやや渋い表情を浮かべて辺りをしきりに見渡していた。その様子に首を傾げるアニーは歩きながら問いかける。

 

「どうしたの? さっきからあたりを見渡しているけれど」

 

「……よくわからないんだけれど……少し前から何かに見られてる気分……」

 

「え?」

 

渋い表情を浮かべながら視線を感じるとぼやく彼に、アニーは慌てて周囲の様子を探る。しかし空の色を除けば、特におかしな所はなく、また人気もなかい。彼は自分と違って他人の気配を読めるため、視線を感じると言うことはおそらく誰かに見られていると言うことだろうが――

 

「その視線、どこから感じるかわかる?」

 

「いや……なんて言うか、変な感じで場所までは……ううん、ゴメン、多分気のせいだと思う」

 

だがエルガも自信がないのか首を傾げつつ首を振る。そんな彼の様子に、気配が読めないアニーは首を傾げるしか出来なかった。

 

――さっきから誰かに見られているような感覚はするのだ。しかしその感覚は弱く、どれだけ周囲に気を配ってもその感覚が強まることはない。エルガの、”気配を読める範囲”の外からこちら見ているのだろうか。

 

それとも――これは視線ではなく、エルガ自身が感じている“勘”なのか。少なくとも、何か変な感じがするというのは確かだ。

 

「そう……でもエルガ君がそう言うのなら、何かあるのかもね……」

 

「何でそこまで信じているのさ……俺だって間違うことあるよ?」

 

「だってエルガ君、納得してないんでしょ?」

 

「それは……まぁ……」

 

首を傾げながら真っ直ぐに見つめられ、その視線と心情を見透かされた発言に居たたまれなくなったエルガは、ふいっと視線を逸らしてしまう。そんな彼にふふっと笑みを溢しながら、年下の彼の頭にぽんと手を置く。

 

「アニー……?」

 

「納得出来ないなら、自分が納得出来るまでやった方が良いんじゃないかな? お姉さんはそう思うよ」

 

そう言って微笑みかけてくる彼女の顔をまじまじと見やる。年上だということは知っているが、こうされると確かに年上の女性だと言うことを実感できる。最も――

 

「……背は俺の方が高いんだけれど……」

 

「だったら少し屈むとかして空気を読みなさい!」

 

――なんでされる側が空気を読まなくちゃいけないんだ。よくわからないまま怒りを露わにした彼女に釈然としない物を感じながらも、大人しく体を屈めたエルガ。そんな彼の髪の毛を触りながらお姉さんぶるアニーだが、そこであることに気がついた。彼の白髪だが――根元の部分が、薄く赤みを帯びていた。

 

「……エルガ君、もしかして髪の毛って脱色してるの?」

 

「これ地毛ですけど……」

 

「そうなんだ」

 

首を傾げるものの、緋色の空の影響でそう見えるだけかと思い直し、彼から視線を外して周囲を見渡した。この周辺は店舗が建ち並ぶ商店街がある地区であり、近くに形成された結界に避難したのか人気がなかった。

 

「…………」

 

――いつの間にか戻ってきていたんだ……。辺りを見渡すアニーは内心そっと呟く。かつてこの辺りに診療所が建っていたのだが、その面影はまるでない。そのことを若干寂しく思いながらも、今の盛況を見ると仕方のないことなのかなとため息が漏れてしまう。

 

「……? どうかしたのアニー?」

 

「……ううん、何でもないわ」

 

彼女のため息に何かを感じ取ったエルガは、首を傾げて問いかけるも、アニーは気にしないでとばかりに笑みを浮かべるのみ。腑に落ちない表情を浮かべるエルガだが、こちらに近づいてくる気配と物音に気づき、そっと短槍に手を伸ばす。

 

「……エルガ君?」

 

「誰かいる」

 

短槍を構え、真剣な眼差しで呟く彼の様子にただならぬ物を感じたアニーもレイピアを引き抜き構える。微かに聞こえた物音は、何かを殴る鈍い音。そして曲がり角から、勢いよく黒い人影――古の兵士が飛んでくる。

 

飛んできた古の兵士はそのまま壁に叩き付けられ、瘴気となって消えていく。その様子をぽかんと見ていたアニーだが、やがて我に返ると、

 

「エルガ君、行こう!」

 

「もちろん!」

 

彼女の号令にエルガは頷く。――感じる気配と戦闘音から、曲がり角にいる人物に察しが付いていた。

 

「はっ! せいッ!! オラァッ!!」

 

――左肘打ち、回し蹴り、右正拳――流れるように繰り出される連続技によって、古の兵士達が次々と吹き飛ばされ、壁に叩き付けられていく。暴風の如く暴れ回る男は最後の一体を叩きのめすと、ふぅっと深く息を吐き出した。

 

「……これで終わりか。……それで、お前等は何の用だ」

 

「これが、帝都の獅子……」

 

「いやお見事です、レオンさん」

 

鋭い目つき、厳めしい顔つき、若干赤みを帯びた黒髪に、右頬の傷跡が印象的な、まさにヤクザの兄貴分とでも言うようなレオンは、二人の驚きと賞賛の声に肩をすくめる。

 

「こんなもんどうってことはねぇ。グロードさんとサシでやりあったほうがまだ手強かった」

 

『…………』

 

――この人本当にタダのヤクザなのか、いや正確には堅気なのだが。だとしてもただのヤクザの若頭にしては戦闘力が高い気がする。何せ彼が叩きのめした兵士達の数は、少なく見積もっても十体以上はいた。

 

それほどの数となれば、エルガもアニーも苦戦はするだろう。一方の彼は、苦戦していた様子はない。納得いかないエルガは思わずジト目を向けながら、

 

「何か武術でもやっているんですか……?」

 

「ガキの頃、先生に『常に周りの状況を把握しろ』と言われてな。以後、それを実践しているだけだ」

 

教わったのはそれぐらいだな、と最後に付け足した彼にエルガは頭を抱える。やはり、納得いかない。レオンの一言で空間把握力が優れているのはわかったが、それを除けばほぼ我流のケンカ術と言うことになる。アニーも苦笑しながら、

 

「これで武術をやっていたら、とんでもない人になっていたかも知れませんね……」

 

「ま、極道は脅してなんぼだ。ああいう手合いの方が慣れているんだろうな」

 

ああいう手合い、とはおそらく古の兵士達が”人型”であることを指しているのだろう。ま、ヤクザだしなと強引に結論づけため息をつくエルガを見ながら、レオンは問いかけた。――落ちついているようで、しかし焦りを見せる彼に違和感を覚えた。

 

「坊主、それにアニマの嬢ちゃん。ワリィが状況を教えてくれ。一体、帝都で何が起きている。それと……三代目とマルコの奴を見なかったか?」

 

 

 

「……あの柱がこの状況を生み出している、か……。想像しちゃいたが、正直オカルト過ぎて付いていけねぇ……」

 

帝都で起こっている状況を説明し、現在見回り兼要救護者の発見、保護及び結界形成を行って回っていることをレオンに伝えた。以前地下道で目の当たりにした異変や兵士達が現れる場面を目にしたからか、受け入れるのは早かった。――もしくは、深く考えないようにしたか。

 

「それでレオンさんは? 今日は確か、フガルさんの所に寄っていくって言っていましたが……」

 

「あぁ、おやっさんの所で酒を飲もうとしたら、空がこうなっちまってな」

 

そう言って視線を空へ向けるレオン。緋色の空が浮かぶこの状況では、スミットウェール邸でおちおち飲んでいられなかったのだろう。

 

「おやっさんを安全な場所……スミットウェール物流商会の本店まで送ったんだが、そこでジェイクから、タシースとマルコが旧ネイリ一家まで向かったまま連絡がないという話を受けた」

 

「――それって……」

 

ネイリ一家の話題になったからか、アニーの体が若干強ばった。そんな彼女の不安を和らげるかのようにエルガはさりげなく近くによって、

 

「何であの二人がネイリ一家の元へ? 空賊団の行方を追うために、色々と準備をしているんじゃ……」

 

「……空賊団を探す目的はなんだ? ネシードの行方だろうに。どうやらジェイクの部下があっさりと奴を見つけたらしい。そいつ曰く、ネイリ一家の拠点へ向かっていくのを見たんだとよ」

 

そう告げる彼の言葉に、エルガとアニーは互いに顔を見合わせた。例のビックスロープによってネイリ一家はすでにものけのからとなっている。そんなところになぜ向かう必要があるのか。

 

そして先程耳にしたマキアスの呟きが脳裏に木霊する。――一定間隔で並ぶ中、一本だけずれた場所に立っている柱のことを。その柱は、今彼らがいる場所からはほど近い場所にあって、ちょうど”ネイリ一家の拠点があった方向”である。

 

「――まさか……っ!」

 

「……魔術なんて物がからむ以上、流石に奴一人でことを起こしたとは考えにくい。だが、”引き金を引いた”可能性はある。そしてタシースとマルコが、それに”巻きこまれた”可能性も」

 

ここに来て彼から感じられる焦りの正体を遅まきながら察することが出来た。現状決定的な証拠はない。しかし行方不明となっていたネシードが姿を見せ、ものけのからとなったはずのネイリ一家へ向かったこと。そして光の柱が立ち上る場所――これが無関係であるとは正直思えなかった。

 

「……俺はこれからネイリ一家へ向かう。お前達も、俺に力を貸してくれないか?」

 

「もちろんだ」

 

「……えぇ、わかったわ」

 

 




ネシードの旦那がやらかしたのは、帝都全域の”異界化”。当然彼一人で異界化を起こしたわけではなく、地下道にある”墓所”にある仕込みが発動したため起こった現象。緋色の空、緋き黄昏などと呼ばれます。

帝都地下を通る霊脈を刺激し、霊力を増幅。墓所から発生する光の柱は、”外の世界”とも繋がっており、そこから流れてくる霊力が、墓所に眠る者達の魂や遺志を刺激し、仮初めの体を与えて魔物を生み出していきます。

そして何気に初登場のⅦ組、マキアス君。貴族絡んでないから、エルガからすると素直で鋭そうな、勉強の出来る少年という印象しかないです。貴族絡んでいたら、めんどくさい子と思ってそう。



クラフト紹介

エルガ
・龍爪乱舞
槍で舞い、敵を打ち付け斬り裂く龍の爪
威力B 範囲M+ CP45
備考 地点指定 吸引



アニー
・ブルーミラージュ
水を操り身代わりとして敵を欺く
威力ー 範囲M CP50
備考 補助 三ターンSPD25%アップ 1回確定回避
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