英雄伝説『外伝』 刻の軌跡   作:雨の村雲

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今回はいつもよりも短めです。


3-10 異界なる黄昏~2~

 

レオンを伴ってネイリ一家の拠点であった建物に近づくにつれ、例の光の柱に近づいていく。エルガもアニーもそのことを理解した瞬間、嫌な予感を感じ取り徐々に足が速くなっていった。そして建物が目に入った瞬間、一同は呆然と立ち止まる。

 

「――これは……っ!?」

 

「やっぱり……」

 

ネイリ一家の拠点であった建物はそこにはなく、かわりに光の柱が突き立っていた。――ちょうどネイリ一家の拠点が会ったその場所に。目をこらせば、柱の中に建物があるのが確認できる。そして柱の周りには古の兵士達や、以前地下道で撃退したガーゴイルの姿まであった。

 

「あいつ等、囲んでいるって言うよりも……」

 

「えぇ、むしろ”守っている”って言う方が適切ね、あれは」

 

目の前の状況を見渡したエルガは槍を握る手に力を込めて呟いた。アニーの言うとおり、兵士やガーゴイルの布陣は、光の柱を守るように立ちふさがっている。レオンはその光景に舌打ちを一つして、

 

「……決まりか。ネシードの阿呆め……っ!」

 

握りしめられた拳に力を込める。これまでもたらされた情報から推測するに、ネシード・ネイリが今回の件を引き起こした――或いは、根本に関わっているとみて間違いない。レオンの情報が正しければ、そのネシードはおそらく光の柱の中にあるネイリ一家の拠点内にいるはずだ。

 

そしてそこには、ブレイツロック三代目会長であるタシースとマルコの二人も――膨れあがる怒りを抑えきれないのか、レオンの目つきは普段よりも遙かに鋭く、場慣れしているエルガでさえ声をかけづらい雰囲気を醸し出していた。

 

「あの中にマルコさんとタシースさんが……?」

 

「あぁ、ジェイクから聞いた話によればな。……あの阿呆にケジメを付けさせるほかにも、あの二人の無事を確かめなきゃならん」

 

エルガが恐る恐る問いかけると、拳を付き合わせたレオンは、じっと柱の向こう側を睨み付けながら唸るように口を開いた。ネシードを締め上げ、タシースとマルコの無事を確かめるためには、あの包囲網をくぐり抜け、柱を突破しなければならない。鋭い視線をエルガに向けて、

 

「坊主、手を貸してくれるか? あの包囲をくぐり抜けるのは流石にな」

 

「もちろんだよ。っていうか、遊撃士としてこの状況は見逃せないからね」

 

彼の頼みにエルガは即座に応じ、しかしなぜアニーには頼まないのか不思議に感じた。エルガの言葉を聞いてレオンは頷き、次に視線を彼女に向けると、

 

「……アニマ嬢はここに――」

 

ここに残っていてくれと、そう言いかけて口を閉ざした。彼女の根底に刻まれたトラウマ――ネイリ一家によって家族と夢を奪われた彼女への遠慮から出て来た言葉だが、アニーの真っ直ぐな表情を見て改めた。

 

「――アニマ嬢にも助力を頼む。良いか?」

 

「えぇ、私も行きます。――今回の一件を乗り越えて、前に進むって決めたから」

 

「…………」

 

それは先日聞いた年下の男の子の言葉。自分の奥底に刻まれたトラウマを乗り越えようとする意思――アニーはふっと笑みを溢しながら呟き、ちらりとエルガを見やる。彼は目線を合わせようとせず、ポリポリと頬をかいていた。今更ながら恥ずかしくなったのか、彼の反応が可愛く思えてしまう。

 

「わかった。二人とも、力を貸して貰うぞ」

 

「えぇ。……でもどうします。流石に私達だけであの包囲網を突破するのは……」

 

流石に厳しい、というか難しい物があるとアニーは難色を示した。その意見にはエルガもレオンも同じである。パッと見ただけで兵士達は数十体いる上に、ガーゴイルは十体以上。ガーゴイル一体倒すのに四人がかりだったというのに、それの群れをたった三人で突破するのは困難だ。――だが。

 

「全くの不可能という訳ではないだろう。ナギサの嬢ちゃんから貰った札、まだあるんだろう?」

 

「それはまだあるけど……」

 

エルガは札を取り出し、難色を示す。確かにこれを使った結界は、兵士達は瘴気の侵入を見事に防いでいたが、それはどちらかというと”実体感が薄い”ことも影響している気がする。兵士達以上に”実体感が強い”ガーゴイル相手に効果があるのだろうか。

 

「それを使って群れをくぐり抜ける。……何もアレを全部倒すというわけではない、一点突破を狙えば勝ちの目はある」

 

「う~ん、確かにありそうですけれど……何か別の方法にしたほうが良さそうな気が……」

 

力説するレオンに、アニーは困った顔を浮かべて別の手段を執るべきだと提案する。マルコやタシースのこともあり、焦っている様子のレオンをどうやって落ちつかせようかと思案していると、背後から声をかけられた。

 

 

「――面白そうやないけ。わいらも力貸したるわ」

 

 

 ~~~~~

 

光の柱を守るかのように配置された魔物の群れ。その群れの一軍はこちらにやってくる集団の気配を感じ取り、ある方向へと体を向ける。

 

魔物達が視線を向けた先には、作業用のつなぎを着用し、ヘルメットを被った数十人の集団がゆっくりと近づいてくるところであった。皆一様に俯き、その手にはバケツやモップなどといった清掃道具が握られており、その背後には布で包まれた大きな物を複数人で運ぶ姿もある。そしてその集団の先頭を歩く男は、布でくるまれた何かを持ってだらだらと気怠そうに歩いていた。

 

魔物達が知るよしもないが、作業員である彼らは清掃業者であった。先頭を歩く男は顔を俯かせたまま、ふぅっと面倒くさそうにため息をつく。

 

「さぁて、お仕事の時間やぁ。折角綺麗に片付けたっちゅうのに、盛大に散らかしてくれて、ホンマ嫌になるのぉ~」

 

体を大きく左右に揺らしながらゆっくりと近づいてくる集団に、魔物達は攻撃態勢に入った。人間の言葉など理解できない彼らにとって、”獲物”が自ら隙だらけで近づいてくる――その程度の認識である。だがその認識は、今回に限っては大間違いであった。

 

かつて暗黒龍に支配された帝都を奪還するために、かつての皇帝であったヘクトル大帝とともに戦い命を落とした兵士達、その思念が実体化した古の兵士達は槍や剣と言った武器を持っている。

 

兵士達はそれぞれ武器を構え、その切っ先を近づいてくる集団に向け、ガーゴイル達は彼らを威嚇するかのように低く唸り声を上げて翼をはためかせた。しかし彼らは怖じ気づく様子を見せない。――意味がないのだ、魔物達の行動には。何せ彼らは。

 

「さて、帝都の”ゴミ掃除”、始めるとするでぇ~。まず手始めにこの辺一帯や……」

 

先頭を歩く男が担いだ荷物を揺らす。それを合図に、背後にいる集団もまた清掃道具に手をかけた。武器でもないそれを手に持った彼らを、”好都合な獲物”として認識した兵士達はついに動き出した。一部の軍団が彼らに向かって突撃を開始する。

 

「――――」

 

陽炎の如く揺らめく兵士が、先頭にいた男に剣を突き刺そうとする。だがそれより先に、俯いていた男がようやく顔を上げた。無精髭を生やした、顔の真ん中に横一文字の傷が特徴的なその男は、

 

「――言い忘れ取ったが。ゴミっちゅうのはテメェ等のことやでぇっ!!」

 

手にしていた荷物で剣を弾くと、そのまま布で包まれたそれを兵士の腹部に突きつける。その衝撃で布が外れ、中にあった黒く光るソレが姿を見せた。――やたらとごつく、傍目からも特別製だと分かる散弾銃が。

 

「ほな行くでぇ~! グロード様率いる”ビックスロープ”のお通りやぁ!!」

 

散弾銃を接射し、兵士を吹っ飛ばした男は名乗りを上げ、口元をニヤリとつり上げて笑みを溢す。グロード――ブレイツロック傘下組織である“ビックスロープ”を束ねる会長である。表向きは彼が言うように清掃業者だが、極道としてはブレイツロック内における“武道派”であった。

 

それを表すかのように、会長の発砲を合図に清掃業者――組員達もそれぞれ武器を取り出した。ある者は懐にしまい込んだ銃器を、ある者は仕込み武器だったのか、モップの柄を引き抜き片刃の剣で武装する者など、様々である。また一部では複数人で運んできた大きな物に巻かれた布をはぎ取ろうとしている。

 

「せーだいに……ブチかましたれやァァァァァっ!!」

 

緩急を付けて叫ぶグロードの言葉を契機に、布で巻かれたソレが姿を現す。移動式の台車に固定された、六本の銃身を環状に配置した独特な外見をした兵器――その名もガトリングガン、それが二丁もあった。ガトリングガンの銃身が回り始め、ついに火を噴いた。

 

ガーゴイルはもちろん古の兵士達も、現代の兵器の代名詞とも言えるその銃を前に、為す術もなく貫かれ、塵と化していく。殲滅する勢いで瞬く間に散っていく中、ガトリングガンを封じ込めようと数体のガーゴイルが上空から接近する。

 

「――無駄です」

 

「さいなら、だ」

 

『っ!?』

 

攻撃のために降下してきたタイミングを見計らって組員の数名が飛び上がり、仕込み刀やゴミ粉砕用のハンマーなどの近接用の獲物を振るい地面に叩き付ける。翼を失い落下したガーゴイルを待っていたのは、一方的な蹂躙だった。

 

複数名に囲まれて袋だたきの憂き目に遭い、数秒と持たずに光を伴って消滅していった。ビックスロープの手によって光の柱周辺にいる魔物達の防衛線の一部が崩れかかっていた。そのことに危機感を覚えたのか、散らばるように配置されていた魔物達が彼らの方へと集まり始めた。

 

「――狙い通りやな♪ 後は頼んだで、獅子ちゃん」

 

兵士達やガーゴイルを特製ショットガンで吹っ飛ばしながら、概ね想定通りに状況が動いていることにグロードはニヤリと笑みを浮かべた。そして”別働隊”にいる知り合いへ、聞こえないだろうがエールを送るのであった。

 

 

 

魔物達がビックスロープの方へ向かっていったため、一部の防衛戦が手薄になる――その隙に反対方向にいた別働隊であるエルガとアニー、レオンの三人は光の柱へと向かって突撃を開始する。ありがたいことに彼らが魔物の注意を引きつけてくれているおかげで、防衛戦を一瞬で抜けることが出来た。

 

「まさかあの人達が協力を申し出てくるなんて……」

 

つい先程の出来事なのだが、未だに信じられないのかアニーはそう呟いた。光の柱を前にして、どうやって防衛戦をくぐり抜けるか考えていた矢先にグロードが現れ、面白そうという一言だけで囮作戦を提案し、囮役を引き受けたのであった。

 

『ワイらが派手に暴れるから、その隙に突っ込むとえぇ』

 

何とも頼りがいがある一言とともに、グロードは配下の組員達と共に防衛戦へと突っ込んでいったのだった。ブレイツロック――というよりもヤクザそのものにあまり良い印象を抱いていないアニーは信用しきれなかったが、今となっては逆に困惑している。

 

「ネシードのような阿呆もいれば、グロードさんのような男もいる……それだけだ」

 

困惑するアニーに対し、レオンはそう告げた。彼女の過去を考えるとヤクザに対し偏見を持つのは仕方がない。だが全員が全員そうではないということも確かなのだ。

 

「所で、ビックスロープの方達が持っている武装は何ですか? 銃器には詳しくないけど……アレ、一般に出回っている物じゃないですよね?……」

 

複雑そうな表情を浮かべて黙り込むアニーをよそに、エルガは激しいドンパチを行っている彼らの武装に首を傾げる。清掃道具に仕込んだ武器はともかく、ガトリングガンやライフル、ショットガンなどの銃器は、一般に出回っている物とは形状が大きく異なるように見せた。

 

おまけに銃器に描かれた刻印――おそらく製造元のエンブレムは「ラインフォルト」を表すRFの二文字ではなく、EXEの三文字であった。この距離でよく気づいたな、とレオンは呆れと驚きと、そしてどう説明すべきか迷った様子を見せながら言葉を選んでいく。

 

「”エグゼ”っていう、うち(ブレイツロック)の傘下にある工房製の武装だ。……いろんな所から、行き場を失った訳あり技師を受け入れた”ごった煮変態工房”だ」

 

「ご、ごった煮? 変態?」

 

彼のあまりにもな呼び方に、エルガは当然アニーも反応する。ごった煮、というのは流れ技師を受け入れたことを示しているのだろうが、変態とはどういうことなのか。首を傾げる二人にレオンは説明しようとして、しかし途中で諦めた。

 

以前二代目と共にエグゼの拠点――工房に訪れたときのことを思い出したのだ。彼らが自信満々な様子で造り上げた大砲(彼らはライフルだと言い張っていたが、レオンの目からはどう見ても大砲だった)を見た二代目の言葉は未だに忘れられない。

 

 

『お前等、こんな7アージュ級の巨人しか使えねぇようなライフル何のために造った?』

 

『――ロマンのためです』

 

『――この変態技術者共め』

 

 

あの技術者集団を表す言葉として、これほどあう言葉はそうはないだろう。ちなみにその後、彼らへの支援金を三割増しにしようとした二代目を蹴り飛ばしたことも追記する。

 

「あの連中とは関わり合いにならねぇほうが良い。絶対にな」

 

「は、はぁ……」

 

力説するレオンに飲まれ、二人は思わず気の抜けた返事をする。ともかく、そんな会話が出来るほど彼らの周りに魔物はおらず、悠々と光の柱へと接近することが出来た。

 

「――エルガ君、札!」

 

「――!」

 

柱に近づくと、エルガの懐が光り出す。アニーの指摘を受けて札を取り出すと、これまでにないほどに光り輝いていた。柱に反応しているのは明らかであり、エルガは一人頷き、

 

(――信じてるぞ、ナギサ!)

 

「このまま突っ込もう!」

 

「あぁっ!」

 

「うん!」

 

この札を渡してくれた彼女への信頼を表し、三人は光の柱に触れ――そしてあっさりと通り抜けた。若干の肩すかし感を味わうが、しかし気にせず三人は柱の中にある建物へと突き進んだ。

 




EXE(エグゼ)は、帝都郊外に拠点を構える武器工房であり、ブレイツロックの収入源の一つ。ラインフォルト社のみならず、エプスタイン財団、ツァイス中央工房、ヴェルヌ社などに在籍していた腕利きの技術者が数多く在籍しており、彼らの技術が組み合わさった”規格外兵器”の開発、製作が行われている。

また在籍する技術者は腕は確かな物の、性格面、人格面、個人の拘りなどに多少(かなり)問題点があり、結果追い出された者が多い。

また遊び心にも富んでおり、似たものが集まる(もしくは”染まる”)事で有名。


黒の工房長
「ほう、EXEに潜入させた者達からの報告か。どれ……」


『Sウエポンに匹敵するガトリングガン!』

『モップ型仕込み刀! 清掃器具としての重量バランスが好評!』

『基部が展開しドリルが飛び出すびっくりハンマー! ドリルは男のロマン!』

『↑男のロマンはグレネードじゃたわけぇ!!』

『RFで造ってる列車砲……あれ、個人で使いたいじゃん?』

『不明なユニットが接続されました』

『資金調達だが、良い考えがある。各戦車、戦艦の模型を製作して販売するというのはどうだ?』

『↑なるほど、妙案だな』

『そしてあわよくば、美少女擬人化させてグッズ展開するというのはどうだ?』

『↑貴様天才か』


黒の工房長
「……………」

工房長も匙を投げる、そんな変態集団です。
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