英雄伝説『外伝』 刻の軌跡   作:雨の村雲

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第四章 暴走
4-01 失せもの探し


 

 

――〇の話をしよう。悲しき過去が生み出した、墜ちた人間の物語を。

 

 

 

 

――大地震から二週間が過ぎた。規模と建物の被害のわりに人的被害がほとんどなかったあの大地震の影響も落ち着き始めていた。倒壊した建造物を建て直すため、帝都市民が街中を慌ただしく行き交う様子からは活気が見て取れる。

 

そしてその大地震を発端に、新しい事実が判明したブレイツロック内では一つの転機を迎えようとしていた。

 

「――では、異例ではある物の、三代目の引退と同時に、”四代目”の就任式を執り行う。……これでまた、私はお役ご免だな」

 

スミットウェール物流商会が保有する大きな建物の、これまた大きな一室で、ブレイツロックの幹部達が集まっていた。式を進行するフガルの前で、礼服を着込んだタシースとレオンが盃を酌み交わしている。

 

――大地震に乗じて”大規模騒乱”を引き起こそうとしたネシード・ネイリと、それを”教唆”したとして疑われたジェイク・ドランは鉄道憲兵隊と遊撃士によって逮捕、連行されてまった。

 

ネシードに関しては現行犯なことと、その評判から擁護する者は一切現れなかったものの、スミットウェール物流商会の若頭であるジェイクに関しては帝国政府との間で”話し合い”がなされたものの、今だ留置所に拘束されている。

 

なお二人の証言により、ネシードが騒乱を引き起こすように教唆したとされるもう一人の女性の存在が浮かび上がったが、今は置いておく。ともかく、幹部と若頭の逮捕を受け、三代目であるタシースの責任が問われた。

 

そしてタシースはついにブレイツロック三代目の座を降り、“四代目”にその座を譲り渡したのであった。その相手がレオン・オーガストである。

 

無論破門を受け、それまで堅気として生活していた彼がいきなりブレイツロックに戻ってきたかと思えばまさかの”四代目”への大抜擢に、幹部陣から非難の声も上がった。だがボロボロになっているブレイツロックを建て直し、幹部達の手綱を握ることが出来るのは彼ぐらいだ、と一部の幹部と初代党首であるフガル・スミットウェールが推薦したのだ。

 

三代目の代わりに取り仕切ることになった初代の推薦ともなれば無下にも出来ず、仮にも“若頭”まで勤め上げた男である。渋々といった様子ではあった物の、最終的には幹部全員からの了承も得られ、新たな四代目が誕生したのであった。

 

「……レオンさん、すみませんでした」

 

「どうした、急に」

 

その就任式。ブレイツロック傘下組織の組長達――つまり幹部達に見守られながら、タシースから”引き継ぎの盃”を受け取るレオン。その最中、小声で彼に謝られたレオンは眉根を寄せる。

 

「貴方が引き取っている例のあの子のことですよ。……間接的に、あの子の将来に影を落とす決断をさせてしまったのではないかと、私は……」

 

「………」

 

タシースはこちらを気遣って遠回しに言ってくれているが、ようはサリスに”ヤクザの娘”というレッテルが張られてしまうことを気に病んでいるのだ。それもそうだろう、以前あったときに、そうさせないために組から足を洗うと告げたのだから。

 

「全くだ、俺の努力を無駄にしやがって」

 

「すみません……」

 

「だがまぁ、お前達を放っておくわけにもいかないだろう? それに……」

 

冗談のつもりなのだが、そう聞こえなかったのだろう、ますます萎縮するタシースに苦笑しながら、レオンは続けた。

 

「……他でもない”娘”が、背中を押してくれたからな」

 

 

『周りからなんて言われようとも、あたしは大丈夫だから。それに、そういうのを気にせず接してくれる友達も出来たから、これからもきっと出来ると思う』

 

『――だからおじさんは、あたしに気を遣わなくて良いよ。――ガンバレ、おじさ……ううん、“お父さん”!』

 

 

「……気を遣って、娘にそこまで言わせたことを恥じるべきなんだろうが……同時にどうしようもなく嬉しくてな。だったら……もうやるしかないだろ」

 

「………――」

 

”父”と呼んでくれた子にそこまで言わせた以上、もう引き下がることなど出来るわけがない。彼の決意と覚悟を感じ取ったのか、タシースは軽く目を見開いて隣の四代目を見やり――苦笑する。二代目そっくりの雰囲気を漂わせるレオンに、タシースは誓う。

 

「……どこまでも着いていきますよ、四代目」

 

「あぁ。宜しく頼むぞ、先代」

 

 ~~~~~

 

「……つまりその大切な物をなくしてしまったから探して欲しい……っていうこと?」

 

遊撃士協会の休憩室で、自分で淹れたお茶をすすりながら話を聞いていたナギサは首を傾げる。話を持ちかけた張本人であるエルガは首を縦に振り、

 

「協会に入ってきた依頼でな。まぁ、俗に言う”失せ物探し”だ」

 

駆け出し、新人、新入り遊撃士が受け持つことが多いであろう依頼の一つである。民間人の保護をうたう遊撃士であるものの、その実体は”何でも屋”が一番近い。そのため失せ物探しや猫や犬と言った迷子になった動物の捜索などといった依頼が多く入ってくる。

 

それは帝都でも同じ――否、人口が多い分その数は他の支部とは比べものにならないため、危険性も少なく重要度も低い依頼はどうしても新人に回されてしまう。そして遊撃士に憧れを持って入ってきた新人は、その“雑用”とも言える依頼を前に現実に打ちのめされるだろう。モチベーションが上がりづらかった。

 

エルガに関しては少々事情が異なる。この手の依頼はさほど苦には感じない――もっとも彼は、ペットの捜索は得意である物の、失せ物探しは苦手であった。そのため彼は失せ物探しが得意そうな彼女に相談を持ちかけたのである。

 

「……最近エルガから便利屋扱いされている気がする」

 

「頼りにしているんだよ」

 

相談を持ちかけられたナギサはコトンと湯飲みを置くと、半眼で彼を睨み付けてきた。ジト目を向けられたエルガはその視線を容易く受け流す。実際彼女はとても頼りになるのだから、その言葉に他意はなかった。

 

彼女が行う占いの的中率は凄まじく――彼女が持つ”異能”が大きく関係しているのだろう――詳しい状況を説明すればヒントを教えてくれ、場合によっては“答え”まで導いて貰えるのだ。これで頼りなかったら何が頼りになるというのか。

 

「……まぁ良いけど。それで、その大切な物とやらがどこにあるのか占って欲しいの?」

 

不満そうにしながらも、どことなく嬉しそうに水晶を取り出し占いの準備を始めるナギサ。そんな彼女の様子に首を傾げつつも、エルガはこくりと頷いて懐から手帳を取り出した。すでに依頼人とは顔を合わせており、その際に詳しい話を聞いている。

 

「あぁ。依頼人の名前はアスノさん。帝都生まれの帝都育ちで、帝都周辺は自分の庭だって言ってたオスト地区出身の人」

 

「帝都周辺は自分の庭……そのプロフィール必要だと思ったの……?」

 

少なくともナギサは思わない。一体エルガは自分の手帳に何を書き込んでいるのだろうか。

 

「……その大切な物は鞄にしまってあって、その鞄ごとなくしてしまったらしいんだ。気づいたのは昨日の夜。昨日の朝の時点ではあった……というか、朝にきちんと中身を確認して出発したらしい。だから朝の時点では鞄はあったというのは確実だな」

 

「うんそう、そういう情報が大事なの。……後なんで鞄なくしたことに気づくのが遅いの……?」

 

最初は不安に駆られたが、その調子で教えてくれると何とかなると思う。水晶に手をかざし、ナギサの体から霊力が滲み出る。

 

帝都出身、オスト地区で暮らすアスノさん――それだけではまだ“不十分”だ。そこに新たな情報である“昨日の朝”、“鞄”、その二つの単語を念じながら水晶に意識を向けて行く。

 

「出発した後、アスノさんは知り合いの女性とヴァンクール大通りでショッピングに出かけていたらしい。知り合いへの贈り物を選んでいて貰ったそうだよ。だいたい九時から十一時……午前中だね」

 

「……もしかしてアスノさんはデートしてたの?」

 

「いや、恥ずかしそうに苦笑してた。……あれ? そういや答えになってない……」

 

どうやらエルガも同じ事を思い問いかけたのだろう。だが返ってきた返事は少々判断が付きにくいものだった。ナギサに伝えた後にそのことに気づいたのか、彼は首を傾げている。まぁ答えるのが恥ずかしかっただけで、実質敵にデートだったのだろう、とナギサは納得する。

 

「それでその後はお昼を食べて……女の人と一緒にマーテル公園で散歩していたみたいだよ。十四時から十六時頃の話みたい」

 

「あそこでデート………むっ」

 

マーテル公園と言えば、整えられた庭園や花壇、噴水が設置された定番デートスポットの一つである。カップルと二人並んで歩くと幸せな気分になれるとはもっぱらの噂だ。

 

そこに二人の男女が並んで歩くところを想像して憧れを抱くと同時に、ふとあることを思い出した。以前エルガが教えてくれたが、そのデートスポットで、アニーと二人きりで昼食を取ったことがあるらしい。しかも、アニーの手作り料理を。

 

「……ナギサ? どうかしたのか?」

 

「……どうもしてない」

 

――別に私はどうも思わないし、何とも思っていない。エルガだって気にしていないし、むしろデートみたいなことをしていた、などと指摘しない限り気づかないような朴念仁である。だから気にすることはないはずなのだが。

 

なぜか、無性に、おもしろくない。

 

「いや、思いっきりジト目で睨まれてもな……どうかしたの――」

 

「ど う も し て な い」

 

「……………はい」

 

重ねて言うと、なぜかエルガは黙り込む。そんな彼を催促するようにわざとらしく咳払いを一つして、話を続けさせた。

 

「えっと……その後は、女性の方と一緒にガルニエ地区のレストランでディナーしてたみたい。それで、その時にプレゼントを渡そうとしていたんだけれど、その時に鞄がなくなっていることに気づいたみたいで……」

 

「……最初に聞いたときも思ったけれど、なんでそのタイミングで気づいたのかな……?」

 

二回目の疑問である。大きさにもよるだろうが、鞄のような大きめの物を忘れてしまうとは相当慌てていたのだろうか。首を傾げつつも今まで聞いた”場所”と”時間”という情報によって、占いの結果がより強固なものになっていく。水晶の輝きがよりいっそう増していき、そして――

 

「――――あれ?」

 

水晶が見せたくれた光景を見たナギサが、真っ先に呟いた一言がそれであった。同時に首を傾げ、「どういうこと?」と言わんばかりの反応を見せている。

 

「どうした?」

 

「……もしかして……」

 

見えた光景の事は説明せずに、ナギサは一人眉根を寄せて考え始めていた。が、やがてこれは深く突っ込んではいけないのではないかと思い直し、釈然としないながらも、

 

「……とりあえず、鞄がどこにあるかわかった。けれど……」

 

「けれど?」

 

首を傾げてナギサを見やるエルガ。その視線を真っ向から受け止めて、やがて彼女は大きなため息をついた。

 

「――もう、手遅れかも知れない」

 

「え?」

 

不穏を隠さず呟くナギサの言葉に、エルガは目を見開かせた。

 

 

 

「――あの、すみません。プレシアさんのお宅ですよね?」

 

「えぇ、そうですけど……どなたですか?」

 

ナギサと共に、住宅街であるアルト通りの一軒家に突撃し、呼び鈴を鳴らす二人。そうして出て来たのは二十歳前後で美人な栗色の髪をした女性である。おそらくアスノの恋人だろう。彼女は突然の見知らぬ来訪者を前に、怪訝そうな表情を浮かべていた。

 

来訪者が少年と少女が相手となれば警戒はされないが不審そうな目は向けられてしまう。しかも片方が東方風の顔立ちをしていればなおさらだろう。

 

「遊撃士協会の者ですけれど……アスノさんって人に心当たりはありませんか?」

 

「――あの人に何かあったんですか?」

 

エルガが真面目な表情で問いかけると、プレシアは緊張した面持ちで問いかけてくる。そんな彼女にエルガは首を振って、

 

「いえ、何かあったというわけではなくて……実はアスノさん、昨日鞄をなくしてしまったそうなんですよ。それで協会の方に探して欲しいという依頼が届きまして。彼、何か忘れ物をしていきませんでしたか?」

 

「あぁ、なるほど! 確かにありますよ、忘れ物。全く、うっかりやさんなんだから」

 

呆れながらもどこか嬉しそうに口を開き、今取ってきますと一声かけて部屋に戻っていくプレシア。バタンと閉じられたドアを見ながら、エルガは隣のナギサを見やる。

 

「……これは、まだ大丈夫な感じか?」

 

「……多分。まだ中身は見ていないんだと思う」

 

内心焦りと冷や汗を流しているエルガ。それはこの状況もそうだが、隣でやけにやる気になっているナギサが放つプレッシャーが主な原因であった。どうも相当お冠なようだ。――まぁ無理もないかも知れない、と彼女の見解を聞いたエルガはため息をつく。

 

 

『―――な、何コレぇっ!!?』

 

 

「…………」

 

「………私から説明しても良い?」

 

「……お任せします。俺には荷が重すぎる……」

 

扉の向こう側から聞こえた大絶叫に、全てを察したエルガは顔を覆い、ため息混じりに、しかし確かに怒りを露わにさせたナギサに全てを任せることにした。

 

 

 

そしてさらに一時間後。遊撃士協会の受付スペースの一角で、無表情を浮かべて椅子に座っている”三人の女性”と、彼女達と向き合うように縮こまって居心地悪そうに腰を下ろしている男性という構図が出来上がっていた。

 

男性――依頼人のアスノである――は、すぐ後ろで控えているエルガを見て恨めしそうに小声で呟いた。

 

「だから余計なことはせず、鞄を早く取り戻してくれとあれほど……!!」

 

「いや、不可抗力です」

 

あの時ばれてしまったのではどうしようもない。いくら遊撃士と言えども、不可能を可能にすることは出来ないのだから。それに元はといえば、貴方がまいたタネではないか? こんな場面に付き合わされる事になったからか、珍しくエルガは相手を冷たくあしらう。

 

「……ねぇ、アスノさん? この人達は誰なんですか?」

 

コホン、と可愛らしく咳払いをするのはまだ幼さを残す十代後半のミリー。彼女はちらりと横目で他二人を見やり、アスノに問いかける。びくりと体を震わせたアスノは、しどろもどろになって口を開く。

 

「いや、その……ミリーちゃん、彼女達は――」

 

「ミリーちゃん………?」

 

ただ名前を呼んだだけなのに、ぴくりと反応する人がいた。笑顔を浮かべながらも頬を引きつらせる金髪が特徴的なコトナ。二十代半ば頃の彼女は指先で毛先を弄りながら、にっこりとした笑み(という名の重圧)をアスノにかけていく。

 

「へぇ、ミリーちゃんって言うだ。こんな可愛らしい”お友達”がいるのなら紹介してくれても良かったのよ。言ってくれたら、彼女達に似合うお洋服とか選んであげたのに」

 

「お、お友達……っ!?」

 

「………」

 

――”彼女は私よ”と遠回しに告げるコトナに対し、ミリーは明らかにうろたえ、プレシアも綺麗な笑顔を浮かべてアスノを見やる。

 

「――昨日のディナー、とても素敵だったわ。おまけに歌劇場も”二人で一緒に”入っていったし、とても楽しい時間だったわ」

 

「………」

 

今度はコトナが押し黙る。おまけに周囲は極寒状態になった。そんな状態の最中、声を震わせながらもミリーが負けてたまるかとばかりに声を張る。

 

「わ、私だって、昨日アスノさんと一緒にマーテル公園でデートしました! 最後には、その……き、キスだって、してくれましたし!」

 

「――へぇ」

 

「――ふぅん」

 

顔を赤らめながらとんでもないことを口にするミリー。――一番の小娘が、一番強力な“ジョーカー”を持っていたことに、場の温度はさらに下がっていく。当然二人も接吻などすでにしているのだが、昨日は一度もしてくれなかったのだ。

 

「…………」

 

(お腹が……お腹が痛い……というか胃が痛い……)

 

明らかに汗が止まらないようすで流し続けるアスノを一瞥し、エルガはお腹を押さえた。彼女達が自分を見ているわけではないと分かっているが、彼の隣に立っているため、どうしたって彼女達の視線に晒されてしまうのだ。

 

――アスノがなくしてしまった鞄の中には”三つの指輪”が入っており、なくしていた鞄を持っていたプレシアがそれらを見つけ、彼の”三股”が明らかになった。どうも昨日の三重デートは全くの偶然であり、相当テンパっていたようだ。鞄を”誰のデートの時になくしたか”すら思い出せないほどに。

 

当初の予定ではここまで事を大きくする気はなかったのだ。アスノからの依頼通り、鞄を手に入れたら余計なことはせずに渡すつもりだったのだが、その前に三股疑惑を、そして三股が暴露されてしまえば何もしないというわけにも行かなかった。

 

「……ねぇアスノ、私はアスノにとってどんな存在?」

 

「どんな存在って……」

 

「こうなったら直接聞いた方が早いかなって。ねぇ、教えてよアスノ……」

 

「確かにそれが早いわね。教えて下さい、アスノ」

 

「アスノさん……!」

 

三人からすがるような視線を向けられ、流石にこれは答えなければならないと感じたのか、アスノは悩むような素振りを見せながら彼女達を順番に見つめていく。重苦しい沈黙が続く中、アスノが出した答えとは。

 

「……ダメだ、決められない……っ! だって……三人とも、本気なんだから……!!」

 

『………え?』

 

彼が出した答えに、三人は愚か側にいたエルガとナギサ、そして離れた所から事の成り行きを見守っていた先輩遊撃士達も驚きを露わにさせた。三人とも本気――それはつまり。

 

「指輪を三つ用意したのだって、三人とも本当に好きだからだよ……! 本当に好きなんだ! 君達の中から一人を選べなんて、俺には出来ない!!」

 

『………』

 

何とも贅沢な話である。だがそれはアスノの本心なのだろう。飾らない言葉からそれは伺えて、そしてだからこそ、三人も少しは圧を弱めたのだ。それぞれが難しい顔で目配せをする。とりあえず、話は聞いてみるか――そう言わんばかりの空気が流れ始めた。

 

そしてそれを好機と見たのか、それとも単純に間を開けただけなのか、アスノは一拍おいて言葉を続けるのだった。

 

「だから――俺はハーレムをつくろうと思う!! みんな幸せにする、絶対にだ!! みんな俺の嫁だぁ!!」

 

『……………』

 

半ば自棄になった感を漂わせながらの絶叫を聞き、エルガは悟る。何でダーゼフさんに怒られるのか、なんとなくわかった。言い方には気をつけよう、と。最後の、男の本性をさらけ出した一言が完全に余計であったのだ。

 

微かに流れていた溜飲を下げ、話し合いをしようという雰囲気は完全に消し去り、しばしの沈黙の後、三人の中で一番年下のミリーがスッと立ち上がった。――その瞳に大粒の涙を浮かべて、

 

「っ~~~~~サイテーですッ!!」

 

「ブッ!?」

 

「うわあぁぁぁぁぁん!!」

 

心地良い音を響かせたビンタをアスノに喰らわせて、大粒の涙を流しながら協会から走り去ってしまうミリー。一方ビンタを食らったアスノはぽかんとした表情を浮かべたまま彼女を見送るのみ。

 

「――そう、それが貴方の本音なのね。よくわかったわ」

 

「え? こ、コトナ……?」

 

ミリーが去って行った後、コトナも席を立つ。その表情には残念そうな、それでいてどこかすっきりとしたような、そんな感情が宿る魅力的な笑みを浮かべて、

 

「今までありがとう、楽しかったわ、クズ男」

 

「ブヘェッ!!?」

 

今度は逆側のビンタを食らわせて暴言を吐き、コトナも足早に協会を後にした。――不思議とその後ろ姿だけを見ていれば、そのうち良い出会いが起こりそうな気はした。

 

「そんな……ミリーちゃん……コトナまで……」

 

「……ねぇ、アスノ。あたしね?」

 

唐突に別れてしまった二人を見送りながら、途方もなく落ち込んだ声を出すアスノ。そんな彼に、一人残ったプレシアはいつの間にか席を立ち、彼の隣から優しげに彼の手を掴んだ。その優しげな雰囲気にほだされたのか、アスノは瞳を輝かせて一縷の希望を彼女に向ける。

 

「近所に住んでいる友人のお父さんが、軍将校なの。そのつてで、護身術を教わっていてね」

 

「……え?」

 

「歯を食いしばって」

 

語尾にハートマークが付きそうな口調で恐ろしいことを言い放った彼女は、そこから見事な一本背負いをアスノに食らわせて、その体を床にたたきつけた。――彼女の怒りを体現したかのように、床が激しく打ち震える。

 

「あっ……ぁっ……ぁぁ……」

 

「さようなら。もう会うことはないでしょう」

 

最後にそう告げて、プレシアも協会から去って行った。その表情は清々しさに充ちていた。

 

「……どうするの、この雰囲気。それにこの人も」

 

「……いや、これ……俺のせい?」

 

傍らで見守ってくれていたナギサが、周囲を見渡してエルガに問いかける。今この場にいた遊撃士全員が、完全にどん引きした様子でこちらを見つめている。この場の空気が変になったのは自分のせいではないのだが。とりあえず床でぴくぴくしているアスノを視界に入れないようにして、先輩達に助けを求める。

 

しかし先輩達からは、「俺達は関係ない、お前が何とかしろ」と言わんばかりに視線を逸らされてしまった。

 

「……解せぬ……」

 

激しく納得がいかないエルガであった。

 

 




ダーゼフ
「何ですかこの茶番は……」(呆れたため息)

というわけで失せもの探しから始まった三股男の公開処刑。所謂残当であります。

もうちょっと答えを選んでいたら……でもアスノさんはきっと主人公補正とかないと思われるため、結局この未来が待っていそうな気がします。





オスト地区出身のレーグニッツ君
「しかしおかしいな……アスノさん、浮気するような人じゃなかったと思うんだが……」
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