英雄伝説『外伝』 刻の軌跡   作:雨の村雲

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今年最後の更新です。


4-04 ”黒”き猟兵

帝都地下にいくつか存在する墓所の一つで銃声が鳴り響く。自らを黒鬼と名乗ったゾルダは、あくまで牽制目的で当てる気はないのか、必死に周囲を走るエルガの足下ばかりを狙っていた。

 

――とはいえ、ライフルが特別なのか弾丸が特別なのか――弾丸が撃ち込まれる度に石床が砕け、罅が走り、その破片がエルガを襲う。実害はないが鬱陶しいことこの上なかった。一発で石床が砕けているのだ、もし当たったらと思うとぞっとする。

 

「………っ!!」

 

とはいえ、恐れてばかりではいられない。このままゾルダ達の周囲を走り続けていても、こちらが先に疲弊するだけ。――幸い広間の通路を塞ぐ空賊達は何もせず、ただぼうっとした様子で立ち尽くすだけ。気になるところではあるが、手にしたライフルで援護してこないため、今は下手に手を出さない方が良い。

 

「……エルガ……っ」

 

そして、一人取り残したナギサから向けられる不安げな表情。それに気づきながらも、彼の視線はナギサを一瞥することなくゾルダを――その先にいるロゼリアにのみ向けられている。

 

――彼女を倒さなきゃ、ナギサは……! 熱に浮かされたが如く、その思いに駆られてエルガは槍を構えた。その切っ先を、魔女の前で銃口を向ける“鬼”へと向けて――

 

「――ちっ!!」

 

――“無策で突っ込んでくる”。そう悟ったゾルダは自由の効きづらい体に活を入れ、ライフルの銃口を強引に跳ね上げて剣を構える。そして案の定というべきか、短槍を構えて突撃してきた彼に舌打ちをし、その穂先を右手の剣で弾いた。

 

「何無策で突っ込んで来てんだバカが!」

 

「――余計なお世話だ!」

 

銃持ちの相手に無策で突っ込む――撃って下さいと言わんばかりの愚行に、ゾルダは唾を吐く勢いで罵倒する。しかし怒りにより聞く耳を持たないエルガは、弾かれた勢いを利用して回転、龍牙槍の二撃目をゾルダに叩き込もうとして。

 

「なっ――ぐっ!?」

 

二撃目は銃剣――ライフルの銃口に取り付けられた小型の刀剣によって受け止められた。間髪入れずにゾルダは彼の腹部に蹴りを叩き込み、距離を開ける。たたらを踏んで後ずさったエルガは槍を構えなおし、ゾルダを見やって――

 

「――上ッ!?」

 

飛び上がっていた彼は、”雷”を纏った長剣をエルガに叩き付ける。そして飛び退きながら追撃の銃撃――すでに弾種は切り替えており、貫通、破砕力ともに低い特殊弾を放っていた。それは着弾と同時に、周囲に“雷”を放ち敵を拘束する。雷撃によるダメージを受ける中、エルガの脳裏に閃く物があった。

 

――さっきの技……サラさんの……!――

 

頭上から雷を纏った一撃を喰らわせ、飛び退きながら追撃の銃撃を放つ――多少の違いこそあれど、ゾルダが放った技は、サラの戦技に酷似していた。先程の既視感のある構えといい、似ている理由は分からない――だが似ているのであれば、おそらく“彼女”と同じ動きをする。

 

「……っ!!」

 

「――ちっ」

 

痺れた体にむち打ってエルガは、今度はエルガが飛び上がる。銃を持つ相手に、易々と飛び上がるのは自殺行為だ。対空射撃によってあっさりと撃ち抜かれる。現にゾルダは再度舌打ちをして、

 

「ちったぁ頭冷やせ馬鹿野郎!!」

 

”的”になった彼に特殊弾を容赦なく撃ち込んでいく。撃たれれば雷による電撃が彼の身を襲うだろう――それを“読んでいた”とばかりに、彼は空中で槍を回転し始めた。

 

「――龍爪乱舞!」

 

――飛び上がった自分に対し、”彼女”ならばそうするだろうと立てた予測は見事的中した。龍爪乱舞――槍の回転によって相手の攻撃を弾く、“攻防一体の技”。ライフルから放たれた特殊弾をはじき飛ばし、落下しながら彼は短槍を薙ぎ払う。

 

「――っ!!」

 

”回転と捻り”、そして自然落下――それらを生かして放ったその一撃は、長剣とライフルを交差させて受け止めたゾルダの体勢を崩す。二つの得物を弾かれたゾルダは、顰めっ面に驚きを浮かべていた。

 

「あんたは後だ!!」

 

それを眺めながら、なぎ払った槍を引き戻し、エルガは槍の切っ先をロゼリアへと向けた。

 

「フフッ……」

 

「―――――」

 

微笑を絶やさない魔女の瞳が怪しく煌めき――魅入られたかのように彼は固まった。全身に寒気が走り、途方もない嫌な予感が駆け巡る。――時間にして、瞬きよりも短い時間だっただろう、だがエルガには長く感じ――

 

「――敵を前によそ見か、阿呆」

 

「っ! しまっ――」

 

「オォォォォォォッ!!」

 

――その僅かな硬直は、戦いにおいては致命的とも言えた。おまけに焦りからか、判断ミスをしてしまったとその時に気がつく。僅かな時間で体勢を立て直したゾルダは、叫びと共に長剣とライフルを振りかぶる。さらには彼の体から発せられる”気”が増大していた。

 

「ぐぅ……!?」

 

ぎりぎりの所で槍を引き戻し、長剣と銃剣の同時攻撃を防いだ。しかしその威力には耐えきれず、まるで導力車と衝突したかのような衝撃を味わいながら彼は吹き飛ばされ、地面を転がっていく。

 

――猟兵達の間で使われる技術に、戦場の叫び(ウォークライ)という物がある。自らの気を爆発的に高め、身体能力を一時的に高める技術。肉体に負担がかかるものの、いざというときの切り札として修得する者が多い。話には聞いていたが、あの叫びがそれなのだろう。

 

「つぅ……くそっ……!」

 

「エルガ!!」

 

地面を転がっていた彼はすぐさま立ち上がろうとするが、上手く体を起こすことさえ出来なかった。その前に喰らっていた雷撃も相まって、相当なダメージを受けていたことを自覚する。ナギサの叫びに答える余裕すらない――だがその叫びが、彼を奮い立たせた。

 

「俺は……まだ……っ!」

 

「――いや、これで終わりだ小僧」

 

短槍を支えにして立ち上がり、戦意を露わにするエルガ。そんな彼に無音で近づいたゾルダは、左のライフルを突きつける。その銃口には、導力エネルギーが球体状に蓄積されていた。

 

「……ぁ………」

 

「――ノーザン・バスター」

 

長剣を肩に担ぎ、ライフルの銃口に蓄積させた導力エネルギーを解き放つため、引き金を引く。解き放たれたエネルギーは砲撃となり、エルガの体を容赦なく飲み込んだ。

 

 

 

「……エルガ?」

 

砲撃に飲み込まれ、派手に吹き飛ばされた短槍使いの体がナギサの近くまで転がってきた。振るえる体と声をどうにか押さえながら、彼女は恐る恐るエルガの体に触れ――傷の深さに目を見開いた。

 

「え、エルガ!? しっかりしてエルガ!!?」

 

半ば悲鳴に近い声を上げながら彼の体をゆする物の、反応はなかった。その事実にますます目を見開かせながら傷を治癒するために巫術を使おうとして。

 

「―――――」

 

「………ぁ……」

 

――近づいてきた大男の影が、二人を覆ったのだった。

 

 

 

「……これで依頼は達成だな」

 

気を失ったナギサを肩に担ぎ上げ、ゾルダはロゼリアとネモの元まで近づいてくる。鋭い目つきで魔女を見やると、ふふっと口元を隠しながら笑みを溢し、

 

「えぇ、ありがとうございます。……しかし精神力だけで、私の魔術にそこまで抵抗できるなんて……お見それ致しましたわ」

 

「そうか。じゃあさっさと解いて貰おうか、この”呪い”をよ」

 

「えぇ、約束通り魔術を解きますとも。……ですが今ではありませんわ。今解いたら……私、あなた方に殺されてしまいますもの」

 

――ち、と舌打ちを一つ付く。そんなつもりはないものの、“殺意はない”とは到底言えない心境であるのも事実である。何せ目の前の魔女の言葉に従わなければ、団員達の命はないと脅迫されているのだ。

 

通路を塞ぐ団員達――彼らは意思を持たぬ人形のような雰囲気を醸し出している彼らを見やった。今彼らの意思は、魔女がかけた魔術によって封じられ、魔女の命令に従う操り人形と化している。ゾルダもつい先程まで意思を封じられており、あのタイミングで意識を取り戻したのだ。――目の前の女が、意図的に術を弱めた可能性もあるが。

 

だが魔術の影響を完全に打ち破ったとは言えない。体のあちこちに重しを付けられたが如く、動きが鈍い。それはおそらくネモも同様だろう。団員達を人質に取られた今、団長として魔女の言葉に従うほかなかった。

 

「ふふっ……ようやく……ようやく”天眼”を」

 

ようやく狙っていた少女を手に入れたという悦びからか、魔女の機嫌はすこぶる良いらしい。ナギサを担ぎ上げたまま、かねてからの疑問を口にする。

 

「そんなにこの嬢ちゃんが持っている……超能力? が欲しいのか」

 

「超能力ではありません、天眼です、天眼。……”この世の理”を見極める瞳。全ての因果を見る千里眼……この瞳さえあれば、私は……!」

 

熱に浮かされたように、うわごとを口にするロゼリアを前にして、ネモは眉根を寄せて思案顔を浮かべ、ゾルダはさっぱり分からんとばかりにため息をついて肩をすくめた。

 

「……全ての因果を見る、とは……どういうことだ?」

 

もう話すことはない、とばかりにゾルダがそっぽを向いたため、代わりにネモが抱いた疑問を口にする。

 

「そうですわね……。一言で言えば、ありとあらゆる知識を得ることが出来ます……それこそ過去に起きたけれども、忘れ去られてしまった事件。個人が起こした、教本に載ることもない事件。真相を隠すために葬られた愚かな行為も。……とある貴族が没落した真相など……真の意味で、あらゆる情報が得られるのです」

 

「………」

 

とある貴族の下りで、隣のゾルダの視線が険しくなる。一方ネモは相変わらず――つまるところ仮面で表情がわからない状態で――ロゼリアを見やり、

 

「……そんな大層な眼を得て……貴様は一体何をするつもりだ?」

 

「……何をする、とは……?」

 

相変わらず感情を感じさせない口調で問いかけた言葉に、ロゼリアはぽかんとした表情で首を傾げた。初めて浮かべた魔女の間抜け顔――それを指摘する者はいなかった。

 

「なるほど、確かにその子が持つ異能は大した物だ。要はあらゆる情報を、真実を得ることが出来る瞳……俺達空賊にとっても有用そうだ。……だがその活用法は、言わば”手段”だろう。貴様はこれで”手段”を得た。ならば、天眼とやらを使って果たしたいと願う”目的”はなんだ?」

 

――天眼を得る。それが今回の、魔女からの依頼の本題だったのだろう。ナギサを捕らえたことで、その本題は果たしたと言うことになる。だがその天眼の効果を知れば知るほど、”通過点”に過ぎないと言うことをネモは感じ取っていた。

 

あらゆる知識を、情報を得ることが出来る――ならば、そうやって知識を得た先で、一体魔女は何をするというのか。

 

「………私は……私は――」

 

魔女は答えない。最初は誤魔化すつもりかと思ったが、ロゼリアが放つ雰囲気は異なっている。唖然とした表情で、なぜか震えている右手を見て――否、正確には見ているのは右手ではない。むしろ、“何も見ていなかった”というのが正しいか。

 

「――何を求めて、天眼を……」

 

「……まさか貴様……――っ! ゾルダ!」

 

ぽつりと呟いたロゼリアの言葉に、ネモはとある考えが脳裏を過ぎり――だがそれを口にする前に、墓所に近づいてくる複数の気配に気づいた。団長であるゾルダに目配せすると、彼も忌々しそうな表情を浮かべながら頷いている。

 

「ち……とっととずらかるぞ。おい女狐! あいつらを――」

 

「――………」

 

「くそ、なんでここで呆けやがる!」

 

ネモに言われた言葉がそれほど衝撃的だったのか、無表情のまま固まった魔女に舌打ちをして、仕方ないとばかりに担いでいたナギサを彼女に押しつけた。そして再び得物を手にした。

 

「――出来れば今の俺を、”あの子”には見られたくねぇっつうのに……!」

 

「……」

 

――妙に急いでいるというか、余裕がない様子だったのはそれが理由か。以前遊撃士と会敵したことを報告し、彼が浮かべた動揺を思い返してネモはそっと息を吐き出す。

 

「俺一人でも良いぞ。何とかしてみせるが」

 

「アホ抜かせ。いつもならともかく、呪いのせいで動きが鈍ってるんだろ。それに相手は――」

 

ネモを諭すように言いかけた直後、墓所に通じる通路の入口で待機していた団員が、ライフルを持ち上げ――発砲するよりも前に吹き飛ばされた。石床をごろごろと転がってくる彼らにかわり、通路から見知った一団が現れた。

 

 

「――帝国遊撃士協会です。武器を捨てて投降しなさい」

 

 

白い物が混じり始めた黒髪をオールバックにし、二振りの刀を手にした男を先頭に、見覚えのある面々が姿を見せる。以前戦った“紫電”のサラ・バレスタインや“零駆動”のトヴァル・ランドナー。

 

そして異常事態だった”緋色の空”を無事に終わらせた”水閃”のアニマ・ロサウェルにブレイツロックの元若頭、”獅子”のレオン・オーガストまでこの場に集まっていた。集結した帝都遊撃士達――特に先頭の並々ならぬ気を発している二刀流の男を見て焦りが生まれる。

 

「……ダーゼフ・インゲード……”二空”がなぜここに……」

 

「二空……二空のインゲードか……?」

 

男の正体を知り、ネモはダーゼフへと視線を向ける。その二つ名は知っている。ゼムリア大陸全体にその名を轟かせる二刀流のA級遊撃士。遊撃士協会において、表向きその存在が秘匿されている”Sクラス”に相当する実力の一人だ。彼の呟きを耳にしたのか、ダーゼフは床に倒れているエルガから視線を動かし、

 

「その名はすでに捨てた名ですよ、“黒夜叉”。……小さな子供一人救えなかった私には、重すぎる名です」

 

「……ダーゼフさん……」

 

(……D∴G教団の件か……)

 

――その言葉に込められた後悔の念に気づいたのか、アニーは心配げに見やり、トヴァルは最悪とも言えたあの一件を思い返していた。その隣では、サラは懐かしさと落胆を滲ませた複雑な表情を浮かべながら、ネモの隣に立つゾルダを見やっていた。

 

「………久しぶりね、”おじさん”」

 

「……あぁ。出来れば、こんな再会はしたくはなかったがな……」

 

「……知り合いか、バレスタイン?」

 

懐かしさと落胆――声から滲み出る彼女の思いを悟り、ゾルダは僅かに息を呑んだ後どこか諦めたような声で頷いている。まるで身内に見られたくないところを見られた――そう言わんばかりの反応に、眉根を寄せたレオンはサラへと問いかける。

 

「えぇ、ゾルダ・ヴァリウス……元ノーザンブリア公国軍の大佐で、”北の猟兵”の連隊長……通称”北の黒鬼”。……そして私の養父の友人で……私に戦い方を教えてくれた”師匠”よ」

 

「えぇ!? サラのお師匠様!?」

 

「しかも“黒鬼”って……最強クラスの猟兵の一人じゃねぇか!」

 

サラがこの場で語ってくれた話に、驚きと焦りが生じた。身内の師匠という驚きと、数多く存在する猟兵達の間でも、特に最強格の一人ともなればその実力は生中なものではない。

 

「安心しな、今の俺は猟兵じゃねぇ。……北の猟兵とは縁を切った、ただの空賊団だ」

 

「……おじさん」

 

ライフルを肩に担いで気怠げに吐露した言葉に、サラは複雑な表情を浮かべた。――噂程度なら耳にしていた。一年前にゾルダが、それまで率いていた連隊ごと猟兵団を脱退したという話を。――彼も北の猟兵をまとめていたバレスタイン大佐の死に、思うところがあったのか。

 

「ま、ぬるい空賊稼業で腕は鈍りに鈍ってる。――お前達”わっぱ共”でも、俺に一矢報いるぐらいは出来るかも知れねぇな」

 

「……ほう……」

 

挑発するかのような物言いに、レオンの目はすぅっと細められていく。彼も、自身とゾルダとの間にある”力の差”を感じ取れないほど無知ではない。――しかしわっぱ扱いされた上に一矢報いる――一発だけしか入れられないというのは、中々に癪に障る言葉であった。

 

「――お二人とも、そこまでです」

 

そしてようやく我に返ったロゼリアは、場の状況を確認するように見渡した後、ため息混じりに二人を諫める。そして二人を諫めた人物を見た遊撃士達は、驚きと困惑を宿した瞳でロゼリアを見やるのだった。

 

「……あれは、コトナさん……? なんで……?」

 

「あの二人が側にいる以上、彼女は”黒”ね……まさか昨日の”茶番”すら、今回の仕込みだったとでも……?」

 

驚きを隠せないアニーと、困惑を見せながらも冷静に分析するサラ。一方のロゼリアは、自身に向かって言われた“コトナ”という名に、一瞬首を傾げかけ――あぁ、と内心で納得する。

 

「ご機嫌よう、勇敢な遊撃士達よ。招かれざる客ではありますが、私コトナ・ターシュネル改め、還魂の魔女、ロゼリア・リッチネルドが歓迎致しましょう」

 

余裕を見せるかのように優雅にお辞儀をして見せたロゼリアに、傍らで控えるゾルダは鼻を鳴らし、ネモはふぅっと呆れた様子でため息をつく。――お世辞にも仲が良いとは言えない雰囲気が、彼らから滲み出ていた。あからさまな二人を放置しながら、ロゼリアは所で、と首を傾げる。

 

「しかしどうしてこの場所に? あなた方にも”暗示”がかかっていたはず……」

 

「――なるほど、あの”依頼”は貴女の仕業でしたか」

 

遊撃士達に視線を向けながら、ロゼリアの手に光が集まり、身の丈ほどもある巨大な杖を出現させる。まるで魔法のような出来事に一同が目を丸くする中、ダーゼフは落ちついた声音で指摘した。

 

あの依頼――彼がエルガに回した、地下道の墓所で不審人物を見たという依頼。あの依頼書をアニーに見せたときに、彼女が言った一言が”全ての暗示”を解くきっかけとなったのだ。

 

 

『だってこの依頼書……”白紙ですよ”?』

 

 

――言われた当初は何を言っているんだと眉根を寄せた物の、アニーが依頼書と一緒に手渡してくれた”お守り”を手にした途端、かけられていた暗示が解け、依頼書が何も書かれていないただの紙切れだと正しい認識が出来たのである。

 

そして何者かに誘導されていたことに気づいたダーゼフは、その場に居合わせたアニーやサラ達を引き連れ、すぐさま地下道の墓所までやってきたのだ。――状況を見るに、少しだけ間に合わなかったようだが。

 

「どのような手段を用いたかは知りませんが、貴女がかけたであろう”暗示”は、すでに解かれています。……ナギサお嬢さんを解放なさい。直に、TMPもこの場にやってくることでしょう」

 

「…………」

 

暗示は解けている――その言葉に疑問を抱いたロゼリアは彼らを一瞥し、本当に暗示が解けていることに気づいてため息をついた。巫女が手がけたお守りはまだあったのかも知れない。――お守りを持っているはずのエルガに暗示がかかったのは、あの晩彼が持つお守りをすり替えたからだ。

 

しかし魔術が効かないだけではなく、“すでにかかっている暗示”も解かれてしまうとは、相当に強力な護符のようだ。魔術と巫術の相性の悪さに、ロゼリアは若干の腹立たしさを感じながらも、

 

「人質を容易く手放すはずがないでしょう? むしろ貴方方こそ引きなさい。――彼女を傷つけたくなければ」

 

「――嘘はつかない方が良いですよ、”悪しき魔女”よ。貴女はナギサお嬢さんを傷つけるつもりは毛頭ないはず。……”彼女の体そのもの”に用があるからこそ、傷つかないようにしている……違いますか?」

 

「っ………」

 

「……鋭いな」

 

ダーゼフの鋭い指摘にロゼリアは微かに息を呑み――一番近くにいたネモの呟きが、それが図星だと言うことを告げていた。よけいな呟きを漏らしたネモを睨み、誰にも聞き取られないほどの小声で忌々しそうに呟く。

 

「これだから……”理”に通じる武人は……っ」

 

――僅かな情報から容易く真実にたどり着く――物事の本質を見極める“理”の領域に到達しているであろう彼を呪うように呟いた後、微かに微笑みを浮かべ口調を普段の物に戻し、ネモとゾルダの二人に命じる。

 

 

『我が言葉に従いなさい。――あの者達を”殺しなさい”』

 

 

「――――」

 

「―――っ、ち……」

 

――いくつかの声が折り重なって届いたその言葉に、ゾルダとネモは徐々に意思と体の自由を奪われていく。“魔女の暗示”によって胸の内からわき上がってくる“殺人衝動”に必死に抗いながら、二人は得物を構えて、

 

「――“そういうわけだ”。こちらも必死で抗うが……死にたくなければ今すぐ逃げるか……死なないようにがんばれ」

 

「――そうか。お前達も操られて……」

 

微かに声を震わせながら、ネモが口にした言葉にレオンはハッとする。これまで空賊団が見せていたおかしな行動。それまで行ったことのない民間船へのハイジャック、わざわざ空砲にしたライフル、そして意欲のなさ――操られたことに対する、彼らなりの反抗の意思を理解して。

 

「――サラさん、黒鬼は任せます! 私は黒夜叉を何としても止めますので、他の皆さんはその隙にエルガとナギサお嬢さんの確保を! 最悪、魔女は逃がしても構いません!」

 

「行くぞサラ――どれだけ腕を上げたか見てやるぞ!」

 

「―――参る」

 

素早く指示を飛ばしたダーゼフの言葉と共に、”黒”の名を関した元猟兵達が襲いかかってきた。

 

 




ネモ
「グー〇ルとヤ〇ーが使えるようになったけど何に使うんだ?」

ロゼリア
「……………さぁ、何に使うんでしょう?」(マジ困惑顔)

これは痴呆になったおばあちゃん呼ばわりも無理はないです。あと何気にさらっと流されていますが、サラの指摘通り、アスノさんも地味に被害者だったりします。ただしハーレム云々に関しては………本音なんでしょうかね……。



今年の投稿は今話が最後になります。次回の投稿はいつも通り日曜か、もしくは少し早いか……どっちかはちょっとわかりません。それでは皆様、良いお年をお迎え下さい。
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