英雄伝説『外伝』 刻の軌跡   作:雨の村雲

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新年、明けましておめでとうございます。やっぱり投稿はいつもどおりでした。


本文に入る前に少々補足を。原作でもあった最強クラスの猟兵が放つ”黒い闘気”。結局それ以上の説明もなく、なぜ”黒”に限定したのかと少々疑問に思っていました。

初見の碧の軌跡で、トラウマを与えてくれた方その2であるシグムントさんは赤い闘気。なぜシグムントさんは黒い闘気ではないのかと。

そして原作で実際に黒い闘気を放っていたのは、解放戦線のヴァルカン、西風の三人。悉く、”黒”の気に当てられていそうな面々ばかりです。

そして”黒”は文字通り黒幕を表す言葉でもあるので、某騎神が絡んでいるのではないか(直接干渉する以外にも、手駒にする、あるいは”候補者”選びの目印にするなど)と仮説を立て、その仮説に趣味を織り交ぜた考察を元にして序盤をかいてみました。


4-05 轟く咆哮

――猟兵達の間で語り継がれる伝承がある。ひとたび戦場に現れれば、その全てを黒く焼き尽くす“黒い鳥”の伝説。

 

――理想の世界を追い求めよう。その願いを、戦士は踏みにじった。

 

――争いのない世界を作ろう。その戦士は常に戦乱を引き起こした。

 

――誰もが安心できる世の中にしよう。その志は、たった一人の戦士によって容易く砕かれた。

 

その戦士を倒すことも、止めることも出来ず、民達は息を潜めて耐え忍ぶしかなかった。常に従えていた黒い鳥から、”黒”と呼ばれるようになった戦士は、破壊と殺戮の快楽に酔いしれ、蹂躙した者の魂を食らいつくし、悪鬼となった後、やがてその姿を消したという。

 

何者かに討たれた、あるいはその所業を見咎めた空の女神が直接煉獄に送り込んだ、あるいは深い眠りについた――各地に伝わる言い伝えでも、黒が姿を消した理由ははっきりとしない。分かっているのは、黒は顕れるなり暴風のように暴れ回り、そして忽然と姿を消したと言うことだけ。

 

そしてその戦士は、”黒い闘気”を放っていたという。最強クラスの猟兵達が放つ闘気もまた”黒”。ただの偶然かも知れない――しかし猟兵達の中では、その伝承にあやかり“黒”を神聖視する者もいた。

 

故に、”黒”の名を与えられた猟兵は特別なのだ。伝承に伝わる”黒い鳥”のように、”単騎で戦況を覆しかねない”存在として。

 

導力革命以降、戦闘に近代兵器が用いられてからは”個人の武力”はさほど重視されなくなった。それに伴って、猟兵達の間でも”黒”の名を持つ者は減っている。

 

――しかし零ではない。ダーゼフの目の前にいるこの男も、二つ名に”黒”を持つ猟兵――

 

「くっ……!」

 

「―――」

 

二本の刀による斬撃を全て弾き、捌かれたダーゼフは無理に攻勢には出ず、仕切り直しとばかりに距離を取ろうとする。だが彼が後ろに下がると同時、その動きを読んでいたかのように仮面の剣士は大きく踏み込んだ。そして瞬時に繰り出される複数の斬撃。不安定な体勢ながらもそれらを二刀で捌きながら、ダーゼフは表情をしかめた。

 

「動きの先読みに並外れた剣技……! 全く感服するばかりですね、黒夜叉!」

 

「――それは光栄だ、二空のインゲード。……こちらは少々、期待はずれであったがな」

 

ネモ――黒夜叉の二つ名を持つ剣士は、醒めた瞳でダーゼフを見やる。その視線と発言から挑発と受け取れるが――彼は動じず、むしろ申し訳なさそうに苦笑を浮かべて、

 

「遊撃士は三年前に引退していまして。鈍っているのはご容赦を……!」

 

――挑発ではないのだろうな。仮面の奥の瞳には、こちらを侮蔑する意図など皆無であり、ただ純粋にダーゼフの衰えを残念に思っているのが窺えた。意外にも根は真っ直ぐな男なのかも知れない。

 

「――っ!」

 

ネモが繰り出す数度目の斬撃を捌くと、彼は剣を引き戻しその切っ先をダーゼフに向けてくる。明らかな刺突の構え――その狙いは胸部、こちらの急所――

 

「――散華」

 

ネモが放つ刺突技に対し、ダーゼフは妙に間延びした感覚の中、迫り来る古風な剣を見やり、刀をふわりと”側面にあてがった”。

 

「――っ」

 

それだけで、ネモの刺突技は軌跡が逸れダーゼフの脇下を通り過ぎる。流石にその動きは予想外だったのか、瞬きにも満たない僅かな時間、ネモは硬直し。

 

「――私を突き殺したいのならば、機を伺うか、”天槍”の龍牙槍を超える突きを繰り出してきなさい」

 

――大陸最高峰の槍使いである”天槍”とコンビを組んでいたのは伊達ではない。彼のおかげで生中な突きなど通じないと自負している。――彼の本気の突きに比べれば、急所狙いの突きなど、最悪なタイミングで放たれない限り対処しやすい。

 

「はぁっ!」

 

お返しとばかりに二刀目による斬撃を繰り出すダーゼフ。その狙いは剣を握る彼の腕。得物を持てなくさせることによって彼を無力化しようとして――

 

「だが甘い」

 

その一刀は、彼の持つ小ぶりな盾によって受け止められる。そのまま盾を押しやってダーゼフの刀を弾き、ネモは後ろに飛び退いて距離を取り、離れた位置から剣を振り上げた。

 

「――裂空」

 

ダーゼフから距離を取ったまま剣を振り下ろし、その軌跡に沿って衝撃波が放たれる。高位の武人に至れば、自身の得物から衝撃波を放ち、間合いの外から攻撃することは容易いという。

 

「この程度」

 

かつて”天槍”も放った技の一つであり、この技も対処法を心得ていた。自身に向かってくる衝撃波に対し、ダーゼフは二刀を振るい迎撃する。目の前で十字を描くように振るった斬撃は、衝撃波をあっさりと打ち破り霧散させた。

 

「――だから甘いと言っている。本丸狙い、通すと思ってか」

 

「っ! その構えは……!?」

 

しかし迎撃は悪手だったかも知れなかった。霧散させた衝撃波の向こう側で、ネモは腰を落とし、剣を自身よりも後ろにやる構えを見せている。――差異はあれど、その構えに既視感を覚えた。

 

かつてクロスベルの”剣聖”が振るった東方剣術の一つ、八葉一刀流、二の型疾風の構えに。思わずダーゼフは目の前で二刀を交差させ、防御の姿勢を取り――

 

「――二重の嵐」

 

「っ!! なんという重さ……!!」

 

――暴風と化したネモが駆け出し、瞬く間に通り過ぎていった。すれ違いざまに振るわれた一刀を防いだダーゼフは、そのあまりの威力と重さに顔をしかめる。

 

高速移動からすれ違いざまに斬りつける動きは、二の型疾風と同じ。しかしそちらが軽くとも素早く鋭い“疾風”なのだとしたら、こちらは触れる物全てを吹き飛ばす“嵐”そのものだ。剣撃の重さがまるで違っている。

 

「え――きゃっ!?」

 

「なに…………っ!!?」

 

「くそっ……っ!」

 

「っ!? ――しまった!」

 

さらに後方から聞こえる“仲間達の悲鳴”。エルガとナギサの方を頼むと言伝した、アニーにレオン、そしてエルガを抱えていたトヴァルが吹き飛ばされる。

 

現在ナギサは、魔女の腕の中にいる。彼女を救い出すと言うことは、ロゼリアと一戦交えるということ――甘いと言っていたのはこれのことか。自分達がいる限り、魔女に手は出せない――そう言わんばかりに、彼はロゼリアを守ったのである。

 

「流石は私の騎士ですわ」

 

「…………」

 

嵐と化した彼は仲間達の間を駆け抜けながら襲いかかり、戦況を眺めているロゼリアの前で、剣を構えた状態で停止する。言われた言葉をガン無視して振るのは、”二撃目の嵐”――!

 

「終わりだ!」

 

「きゃぁぁ!!?」

 

「ぐぅっ……!!?」

 

ネモはその場で回転斬りを放ち、その回転によって放たれた剣圧が三人をまとめて吹き飛ばした。石床の上を転がっていくアニーとトヴァル、そして床に叩き付けられたエルガ。受け身も取れずに叩き付けられた衝撃によって、気絶していた彼は意識を取り戻す。

 

「っ………っぅ……俺は……」

 

意識を取り戻したものの、まだ起き上がれず、頭を持ち上げるので精一杯であった。そうして彼の目に入り込んだのは、防御の構えを取っていたレオンの姿。

 

「っ……おぉぉぉっ!!」

 

「ほう……」

 

――二重の嵐の一撃目は喰らった物の、二撃目の回転斬りに関しては直前で防御姿勢を取ったことが功を制したのか、彼のみ吹き飛ばされず、素早く反撃に転じていた。ネモ目掛けて繰り出した拳は、感心した様子の彼の掌で受け止められる。

 

「意外にやるじゃないかおっさん」

 

「くそっ………」

 

――メキメキ、とレオンの拳から嫌な音が聞こえてくる。掌で受け止められ、そのまま握りつぶさんばかりに圧力をかけてきたのだ。――猟兵ほどではないが、それでも日々鍛えているレオンの拳を、へし折るのではなく、握りつぶそうとしているのだ。一体どれほどの握力を持っているというのか。

 

たまらず空いている方の腕でネモの腕に殴りかかり、拘束から逃れる。――右手から伝わってくる痛みに表情を歪め、蹴りを叩き込もうとするも、彼はひらりと体を捌いてかわして見せた。

 

「だがあんたなら分かってるはずだ。彼我の実力差に」

 

「そんなことはわかってる! それでもなぁ……!」

 

そのまま連続で蹴りを叩き込もうとするが、ネモは防御せずに最小限の体捌きのみで全てを躱して見せる。この状態では、締めの拳打も通じないだろう。――だが、それでも。連続蹴りからの正拳突きを繰り出そうとして。

 

「女の子一人助ける程度、やってやれなくてどうする!!」

 

「――――」

 

――絶対に助け出す。その意思と決意を込めた叫びと一打は、ネモを僅かに鈍らせ――仮面に隠されていない口元に歪みが生まれた。しかしそれもつかの間、レオンの一打を盾で捌き、逆手に持ち替えた長剣の柄を彼の鳩尾に突き込んだ。

 

「がっ……づぅ……!!」

 

急所に叩き込まれ、嘔吐いたレオンの巨体に蹴りを入れて転倒させようとするネモ。醒めた瞳で倒れていくレオンを眺め――しかし彼は、一歩後退するだけで持ちこたえて見せた。さらに先程と変わらない、むしろ早くなった拳を突き出してくる。

 

「っ!」

 

「うおぉぉぉぉっ!!」

 

痛みなど感じていない、と言わんばかりの攻勢に目を見開くネモ。いくら何でも、人体急所である鳩尾に痛打を叩き込まれて、怯まずに攻めてこられる奴がいるだろうか。――思い当たる節はある。ネモ自身幾度か体験した現象。

 

強い思いと覚悟、そして意思によって体の痛みを無視して動かす――精神が肉体を凌駕した状態であれば可能だろう。今の自分では”至れなくなった“極地に、目の前の男は到達していた。

 

「―――――」

 

――その覚悟に思うところがあるのか、舌打ち混じりに何かを呟いた後、レオンが突き出してきた拳を躱し、横手から仕掛けてきた二刀と斬り結ぶ。

 

「ダーゼフ・インゲード――」

 

「これ以上はやらせません!!」

 

視線だけをそちらに向けながら、二刀による連続斬りを的確に防ぎ、捌き、立ち位置を変えていく。レオンとダーゼフ二人からの挟撃を受ける立ち位置から、ダーゼフの背後にレオンがいる形へと。――常に一対一の形を取ろうとしているのだ。

 

「ダーゼフのおやっさん!」

 

「こちらは気にせず!」

 

レオンが援護に入ろうとしても、その位置からでは割って入るのは難しい――そんな場所に立たされるよう誘導されているのには気づいていたが、しかしここは敢えて彼の狙いに乗ってやる。――レオンが僅かな時間とは言え、一人でネモの相手をしてくれていたのだ。それを無駄にはしない。彼からの合図を待ち続け――

 

「――ダーゼフさん!!」

 

――聞こえてきた女性の叫びに、斬り結んでいたダーゼフは迷いなく後退する。その動きは先読みの技術によって分かってはいたものの、背後から新たな気配を感じたネモは振り向きざまに真横へ一閃を放つ。

 

その一閃は、人の形をした何かを真っ二つにして――飛び散った液体を全身に浴び、彼は僅かに呆然とした声を漏らした。

 

「――これは、水……?」

 

全身に水を浴びた彼は、困惑した様子を見せながら彼らの方を見やる。ダーゼフとレオンの後方に、レイピアを地面に突き立てて支えにしながらも、アーツを発動させていた色白の女性遊撃士の姿がいて。

 

「――ブルーミラージュ」

 

水の人形によってネモの注意を引くことで前衛が距離を取る隙を作り、さらに次なる一手への布石にする。アニーの隣にいるトヴァルが、やたらと気合いを入れて駆動完了させたアーツを解き放つ。

 

「行くぜ……これならぶった斬れねぇだろ!! ラグナブラスト!!」

 

――以前ネモと交戦したときは、“アーツを斬る”技能を持つ彼には無力化されたも当然であった。トヴァルも武人ではないが、戦うことも出来ずに無力化されたことに思うところがあったのだろう。

 

解き放ったのは上位の風属性アーツ。そして風属性の中には、”雷を放つ”タイプのアーツも混じっていた。突きつけたスタンロッドの先端に雷が集まり、そしてネモに向かって一気に直進する。

 

「――――」

 

いつもであればアーツを斬ろうとするネモだが、今の自分の状態に気づき仮面の下で舌打ちを放つ。アニーのブルーミラージュによって、自身の体は”濡れている”。この状態で雷に僅かでも触れれば――自身に迫り来る雷に対し、ネモはまっすぐに見据えながら――

 

――彼の前方に、巨大な“鏡”が顕れた――

 

 

 

 

「はあぁぁぁぁっ!!」

 

「うおぉぉぉぉっ!!」

 

叫びと共にサラとゾルダは互いに斬り結ぶ。斬り結んだ衝撃で互いの剣が弾かれた瞬間、サラは左手の導力銃をゾルダ目掛けて発砲する。着弾と同時に雷を放つ特殊弾は、ゾルダの剣によってあっさりとはじき飛ばされ、お返しとばかりに彼のライフルが火を噴いた。

 

放たれた弾種を確認する暇もなく、サラは体を捻って躱し直進する。長剣に仕込んだ翡翠石は、彼女の闘気と意思に反応するかのように光を放ち、その刀身に雷を纏わせていた。

 

「貴方を止めるわ、おじさん!!」

 

「やれる物ならやってみろ!」

 

長剣の一撃は、ゾルダのライフルによって受け止められた。ライフル越しに伝わってくる彼の力と体の震えに、サラは痛ましそうに表情を歪める。

 

威勢の良い言葉とは裏腹に、斬り結ぶ力は安定せず、強弱の狭間で揺れ動いていた。わき上がってくる衝動を必死で押さえようと、その瞳は絶え間なく揺れ動いている。――魔女が彼にかけた”呪い”に、必死に抗っているのが伝わって来て。

 

「……ゾルダおじさん……!!」

 

「――今は戦闘中だ、余計なこと考えてんじゃねぇ!!」

 

「それは……でも!!」

 

余計なことを考えているのは――しているのは貴方の方だ。そう言いかけて、しかし口をつぐむ。それを口にしても、ゾルダは――教官は頑として首を縦に振らないだろう。一拍の間を置いて、何かに耐えるかのように震えていた長剣が、サラに向かって飛んでくる。

 

「っ!」

 

「今の俺とお前は互いに敵同士! 敵と会敵したとき、何をするべきかは教えたはずだ!!」

 

後退したサラを追撃するためにライフルの銃口を向け、引き金を引くゾルダ。放たれた弾丸を強化ブレードで弾くサラは、くっと表情を歪めて――

 

「そうね……でも、今のあたしは遊撃士なのよ……!」

 

――例え向こうが猟兵としてのやり方を貫こうとしても。今のあたしは、あたしなりのやり方を貫くまで――だから。

 

「貴方を殺さない……貴方も、助けてみせる!」

 

――雷神功。自身の闘気を高め、身体能力を引き揚げる戦技。手にした得物の翡翠石が反応し、闘気と混じって雷が迸っているように見える。久しく見せた全力の教え子に、ゾルダは口元に笑みを浮かべ、そして雄叫びを上げて対抗する。

 

「うおぉぉぉぉぉっ!!」

 

――生意気言いやがって――

 

迸る黒き闘気。その身にかけられた呪いに抗っているため、迸る闘気は従来の時よりも少なく、しかしそれでなおサラが全力で放つ闘気に劣らない物であった。両者は互いに武器を構え、そして同時にかけ出して――

 

「来い、紫電のバレスタイン!」

 

「行くわよ、北の黒鬼!」

 

互いの得物をぶつけ合い、鍔迫り合いに持ち込む両者。単純な力比べとなればゾルダの方が有利であった。それはサラ自身よく理解しており、真っ正面から対抗するのではなく、力を加える方向をずらし、ゾルダの強化ブレードと銃剣突きライフルを受け流す。

 

「……!!」

 

得物を受け流され体勢を崩されたゾルダ。だが彼は崩された体勢を敢えて立て直さず、左手のライフルをサラの腹部に突きつけた。追撃を仕掛けようとしたサラも、その動きに気づき、発砲される前に砲身を弾いて弾道を無理矢理変えさせた。

 

「はあぁぁぁぁっ!!」

 

そして雷を纏った強化ブレードをゾルダに向かって振り下ろす。――しかし突如風が吹き荒れ、背後から何者かに”引っ張られるような感覚”を味わい、それが原因で剣撃を外してしまう。

 

「何が……!? 吸引弾!?」

 

後ろから引っ張られる感覚に耐えながら確認すると、彼女の後方で重力場が発生していた。これに吸い寄せられたことが原因で風が吹き荒れたのか。おそらく正体は、先程ゾルダが放った弾丸――特殊弾だったのだろう。

 

「っ……!!」

 

元々ゾルダが率いる『対機甲四番隊』は機甲系――“歩兵による”戦車や飛空挺との戦闘も視野に入れた、北の猟兵内でもさらに特殊な連隊であった。だからこそ特殊弾もライフルも、機甲系との戦闘を前提にした改造が施されている。

 

吸引弾の他にも雷撃弾、徹甲弾、火炎弾、そのほかにもいくつかあったはずだ。もはや原形を留めていない魔改造だが、サラも人のことは言えない。重力場に耐えながらゾルダに魔改造を施した銃を向けて――

 

「ノーザン……!!」

 

「くっ……!」

 

黒い闘気を纏った強化ブレードによる連続斬りがサラを襲う。一撃一撃が凄まじいほどに重く、下手に受ければ一瞬で体勢を崩しかねない。かといって背後にある重力場の影響で回避も出来ず、導力銃を手放しブレードを両手で握りしめながら、防御に専念するしかなかった。

 

やがて重力場も消え、とどめの一撃を受け流したサラであったが、それでも地面を引きずりながら数アージュも後退させられた。そしてゾルダは、左のライフルを――銃口に、導力エネルギーを溜め込んだそれを突きつける。その戦技に覚えがあった。

 

「っ! オメガ――」

 

闘気を滾らせ、ゾルダと同様強化ブレードに纏わせるサラ。翡翠石がより一層輝きを放ち、その刀身を紫電で覆い尽くした。雷を纏ったブレードを振り上げて――

 

「バスタァー!!」

 

「――エクレールッ!!」

 

ライフルから放たれた導力エネルギーによる砲撃と、剣を振り下ろして放った紫電の一撃が真っ向からぶつかり合う。両者の一撃は互いに拮抗し合い、そして――砲撃は、紫電の一撃を消し飛ばした。

 

 

 

 

「がっ……っつぅ……!」

 

――なんだ、今の……! 全身に走った電撃によるダメージにより、膝をついたレオン。表情を歪ませながら背後を見やると、ダーゼフやアニー、トヴァルまでもが雷撃を受けたのか、苦悶の表情を浮かべている。

 

「今の……まさか……!!」

 

特にトヴァルの表情には驚愕も浮かんでいる。信じられない物を見た、と言わんばかりの表情で顔を持ち上げ、雷撃を放った――否、トヴァルが放った雷撃を“反射”したネモへと視線を向けて。

 

「アーツを反射するアーツ……!? 駆動も無しに……!?」

 

「まぁ、少々仕掛けがあってな」

 

盾を前方に構えていた彼は腕を下ろして口を開いた。自身の左腕に装備した盾を――その裏側に仕込んだ“改造戦術オーブメント”を一瞥して、

 

「弾丸飛び交う近代の戦場を、剣一本だけで乗り越えられはしないからな。いくつかの小細工はあるさ」

 

――雷のアーツが放たれた瞬間、迎撃も回避も間に合わず、防御も出来ないと悟った彼は、切り札の一つを使ったのである。それが盾に仕込んだ改造オーブメント――従来のオーブメントとは異なり、攻撃アーツは一切使えず、登録された補助アーツのみしか使えないが、長時間の“ストック”が可能となっている。

 

本来アーツの発動は、駆動を終えると即座に発動するのが常であった。だが彼が施した改造により、アーツの駆動を追えた状態で発動の保留――ストックを可能としていた。これによって事前にアーツの駆動を終えておけば、任意のタイミングで発動が可能となってる。

 

彼が登録したアーツは二つ。物理障壁を展開する「アースガード」に、アーツを反射する「A-リフレックス」。前者は大軍相手に単騎で突撃せざるを得なかったときに。後者は敵のアーツ部隊に対してと、そして――ちらりと後ろを振り向いて魔女を見やり、そしてまた視線を戻した。

 

「とはいえ、使うつもりのなかった小細工を使わせた手腕は賞賛に値する。――後一手足りなかったがな」

 

「くそっ……!」

 

「まだ、です……!」

 

なおも諦めず立ち上がろうとするレオンとダーゼフを前に、ネモは仮面の下で瞳を見開き、そして残念そうな表情を浮かべて長剣を構える。

 

「――――裂空」

 

「ぐっ……!!」

 

「っ……!」

 

真横への一閃から放たれた衝撃波が二人へと直撃し、後方にいたアニーやトヴァル達の元へと吹き飛ばした。彼らの元へと転がされた二人はなおも立ち上がろうともがく物の、今の一撃で気力まで吹き飛ばされたが如く、力が入らなかった。

 

「……っ! サラさん、貴方まで……!」

 

辺りを見渡して視界に映り込んだワインレッドの髪色の女性が目に映り、くっと顔を歪めた。彼女も黒鬼相手に敗北したらしく、地面に倒れ、起き上がる気配もなかった。サラを倒した黒鬼は、苦悶の表情を浮かべながら左手で自らの右腕を押さえ、魔女とネモの方へ戻っていく。

 

彼女との戦いで傷を負ったのか、それとも魔女の呪いに抗っているのか――おそらく後者ではないだろうか。サラを見るに、気を失ってはいるものの命に関わる傷ではなさそうである。

 

「これで終わりですわね。よくやって下さいましたわ、お二人とも。――まぁ下した命令とは異なりますが……ふふ、その強情さに免じて、不問と致しますわ」

 

「………ちっ」

 

「………」

 

上機嫌そうに笑みを浮かべながら二人をねぎらう魔女に、片や露骨に舌打ちを、片や無視するゾルダとネモ。だがロゼリアはさして気にしていないのか、楽しそうな笑顔を浮かべながら、

 

「では、これで我々はお暇させて頂きますわ。ご機嫌よう――少女一人守れない、弱き遊撃士達」

 

「くそっ……!!」

 

「貴様ぁ……っ!!」

 

そのまま踵を返しこの場から離れようとする三人。そんな彼らを逃がすまいと悪態をつき、必死に立ち上がろうとするが、すでに限界に達している体では無理な話であった。

 

「っ………っ!!」

 

――ここまで言われておきながら、このまま彼らを行かすしかないのかと拳を握りしめるダーゼフ。じっと魔女達を睨み付ける視界の端で、誰かがゆったりと起き上がるのを捉えた。

 

「っ……! エルガ、君……?」

 

「エルガ……ッ!?」

 

アニーとダーゼフが、幽鬼のようふらつく彼に声をかける。先程まで倒れていたからこそ、多少は体を休めることが出来たのであろう。だが彼が負った傷を鑑みるに、戦うことはもう――

 

 

――ギロリと魔女達を睨むエルガの目つきを見て、ダーゼフは背筋が凍る――

 

 

「ダメだ、エルガ……”呑まれてはいけない”……!!」

 

先程よりも力を込めて立ち上がろうともがくダーゼフ。白髪をまとめていた髪紐がほどけたのか、長めの髪が広がってた。いつもと雰囲気が異なることに気づいたのか、レオンもトヴァルも困惑の表情をエルガに向けている。

 

「な、なんだ……!?」

 

「坊主……?」

 

 

 

――助けなきゃ――

 

仲間達も倒れ、ナギサが連れ去られてしまいそうな光景。この光景に既視感を抱くエルガは、遠のく意識の中で、とある光景が鮮明に浮かび上がった。

 

――守らなきゃ――

 

急ごしらえの難民キャンプが燃えさかり、下卑た笑みを浮かべながら暴力の快感に酔いしれるクズ共。抵抗虚しく殺されていく男性に、力なく組み伏せられていく女性。そして自分を守るために、自らの身を凶刃の元へと差し出した少女――

 

『―――て』

 

その少女が最後に何を言い残そうとしたのか、もうわからない。わかっていたのは、自分の世話をしてくれ、優しく微笑みかけてくれた少女は、もう二度と笑みを向けてくれることはないと言うこと。そして、”天槍”によって痛めつけられ眠らされた”ソレ”が、少女の死を契機にもう一度目覚めたと言うこと。

 

――“また”失うのは、もう……!――

 

誓い、信念、後悔、不安――様々な感情が混ざり合い高揚し、同時に意識を失いかけたのが原因で、これまで意図的に押さえ込んでいた”ソレ”が目を覚ます。

 

 

――難民達を殺し、少女を殺めたクズ共を、容赦なく狩り尽くした”三本足の獣”が――

 

 

『ガアアアアアァァァァァァァァッ!!!』

 

 

――闇に閉ざされた意識の中で、エルガははっきりと、”自分の口から放たれた獣の咆哮”

を耳にするのだった。

 

 

 

 

 

「ガアアアアアァァァァァァァァッ!!!」

 

短槍を片手に仰け反り、まるで獣のような咆哮を上げた彼に視線が殺到する。遊撃士達はもちろん、魔女達も困惑の表情をエルガに向けている。

 

「なんですの、アレは……?」

 

「さぁ。ウォークライ……ではないな、アレは。もっと原始的な、威嚇のような……」

 

眉根を寄せてエルガを凝視するロゼリアとゾルダ。彼らの視線の先で、咆哮を終えたエルガの体勢が大きく変わる。

 

重心を低く保ち、体が地面と水平になるほどの前傾姿勢。バランスを取るために槍を持たない左手を地面についた、異形の構え。歯をむき出しにして唸りつつ、正気を感じない瞳でこちらを見やってくる様は、獣に威嚇されている気分になる。一度獣を意識してしまうと、長い白髪が体にかかる様も、体毛のように見えなくもなかった。

 

――実際今の短槍使いは”獣”そのものなのだろう。そして目の前にいる“獣”に、ネモは思い当たる節があった。仮面の下で瞳を細め、彼は呟く。

 

「――……“三つ足の獣”……」

 

――それは西ゼムリア大陸南部の山間地帯。未だ導力革命の波が訪れていない、取り残された集落間で語られた噂話。

 

――山奥に入れば、巨大な”針”(槍)を持つ三本足の獣が顕れ、襲ってくると言う。

 

 





ーーエルガがクラフト「三つ足の獣」を修得しました。

一定ターンSTR、SPDがアップし、心眼が付与され、必殺率が上昇しますが、ターンごとにCPを消費し、道具及びアーツの使用が出来ません。

また一部のイベント戦では強制的に発動し、ターンごとのCP消費はありませんが、道具とアーツの使用は出来ないままなので注意が必要です。



と、そんなアナウンスが入りそうな終わりです。

ようやく主人公の覚醒回(というよりも章題通りの”暴走”回)です。ここまで地味に長かった……。二章終盤のナギサとの会話(占い)や、三章終盤の対ヤモリ戦で、エルガも何かあるなと感じた人は多いと思いますが、一番最初に伏線を張ったのは一章だったりします。”獣”に関する詳しい話はおそらく次話で語られるかと。



~~黒の史書~~

傭兵間で語られた黒い鳥伝説。本来は「背中に翼を持つ黒い騎士人形」だったのだが、やがて意図的に忘れ去られ、羽を持つという事が強調されて鳥にイメージが変わり、「黒い鳥」と呼ばれるようになった。

そしてその伝承を造り上げた黒い戦士は、黒い騎士人形の”初代起動者”である。

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