5-01 折れた刃~1~
――少年の話をしよう。他者を守り、助け、救った少年(英雄)の物語を――
「――――ふむ……」
「……どうでしょうか、シュミット博士。なにかわかりましたか?」
破壊された導力銃のユニットを観察している、白衣の老人にクレアはそっと声をかけた。集中しているのか、声をかけてもすぐに返答はせず、老人はしばし瞳を閉じる。
――およそ50年前、大陸に導力革命を起こした技術者であるエプスタイン博士。その三人の弟子の一人――つまり三高弟の一人――であり、現在ルーレ市にあるルーレ工科大学の学長を務めるG・シュミットは、手に持っていたユニットをテーブルに置き、不機嫌そうな表情で呟いた。
「――まだ仮説の段階だが、それでもあの黒船が起こした”導力停止現象”に当たりはついた」
「本当ですか?」
あぁ、と頷くシュミット博士に、クレアはそっと息を吐き出す。――あの戦闘で、空賊団の船が発生させた導力波によって、正規軍、およびTMPの導力器が全て停止した現象の解明は急務であった。
ただでさえ光学迷彩にステルス機能、さらにバリアを張る機能まで有していることが判明したのだ。その上で、この導力停止現象――これをどうにかしなければ、手も足も出ないのが現状である。
第一機甲師団も、僅か一隻、十数名の少人数によって戦車二台が大破、一台が中破され、負傷者は多数という被害を被ったのである。しかもそれだけの被害を受けながら、奇跡的に死者は”零”という有様。
――彼ら空賊団の来歴もすでに判明している。元は”北の猟兵”の構成員であり、さらに”北の黒鬼”ゾルダ・ヴァリウスや”黒夜叉”ネモ。そのほかにも二つ名(ネームド)持ちの団員が数多く占め――はっきり言って、”死人が出ない方がおかしい”レベルの戦力だったのだ。
死者が零というのは幸運なのだが――だからこそ彼らの誇りは傷つく。明らかに手を抜かれたのだと分かってしまったがために。機甲師団も自信の誇り――メンツとも言う――にかけて、絶対に賊を討ち果たすとばかりに空賊団の足取りを追っているのはそれが原因だ。
クレアは”お世話になった人物”に掛け合い、その人物を経由してルーレ市の学長に協力を要請したのである。当初博士は興味なさ気な様子を見せていたものの、あの黒船の機能について説明したところ「興味が湧いた」と調査、解析を請け負ってくれたのだ。
「おそらくあの船は、特殊な”導力波パルス”を放ったのだろう」
「導力波パルス……」
「あぁ。導力エネルギーを使用する際に発生するエネルギーの流れ……それが導力波。その導力波が正常に発生している状態であれば、エネルギーは流れ、導力を使用することが可能になる。……だがその導力波が途切れれば……つまりエネルギーの流れが分断されれば、当然導力器の使用は出来なくなる。その導力波を途切れさせるのが導力波パルスだ」
シュミット博士は、あの船が起こした現象を解説し、しかしその表情は未だ不機嫌そうなままであった。まだ腑に落ちない部分があるのか、その表情は険しいままである。
「理論としては単純。導力機構が作られ始めた、比較的初期の頃から確認されていた現象だ。だがこれを人為的に発生させ、ましてや“放射する”レベルには至っていない」
――その言葉を聞き、クレアもなぜ博士が不機嫌そうな表情をしているのか察しがつく。それと同時に、この現象の対策案も。――その対策案も予想通りなら、困難なものになるだろうが。
「……導力波パルスを発生させる機器事態に、秘密があるわけですね」
「その通りだ。パルスを発生させる機器もまた”導力器”。パルスを発生させた場合、その導力器が真っ先に被害を被る。黒船が発生させたというのならば、黒船に乗る空賊共も同様だろう」
シュミット博士はそう言うものの、導力波パルスを放ったあの船は、その後普通に飛行し、さらに空賊団の団員達もライフルを使用していた。あの状況下で、彼らだけが導力器を使えていたのだ。それが意味するのは――
「……空賊団の船と彼らの武装には、パルスを無効化する処置が施されているということですね。でしたらその処置は――」
「不可能だ。データが足りん」
施すことは出来ないか尋ねようとしたのだが、その頼みを予想していたのか、クレアの提案を皆まで聞かずに遮り、ばっさりと切り捨てるシュミット博士。データが足りない――それはつまり――
「……データがあれば、パルスの無効化処置を施すことは可能ということでしょうか」
「あぁ、一晩もあれば可能だろう」
――大した自信である。だからこそ三高弟の一人なのだろうが。しかし、とそれまでテーブルの上に広げられた、導力波パルスによって損傷したユニットを見ていた博士はようやくクレアの方へ視線を合わせて、
「だがそのデータをどうやって取る? 黒船も、空賊共も、あれ以降姿をくらましているというのに」
「…………」
その指摘に、クレアは答えることが出来なかった。正規軍は当然として、情報局もその足取りを辿っているが、未だ痕跡すら見つからない状況。――押し黙ってしまった彼女を一瞥し、フンと鼻を鳴らしたシュミット博士は、再び視線をテーブルの上に戻し、顎に手をやって独りごちる。
(……導力波パルスに光学迷彩、ステルス機能、障壁展開機能……どれも試作段階にすら行っていない機能だ。……やはり制作元は例の”結社”……いや、”黒の工房”とやらか……それともあの阿呆共(EXE)か……)
現段階における技術を大きく超えた機能を有する黒船の存在に、シュミットは気に入らんとばかりに鼻を鳴らす。現時点で、そのようなものを建造できる技術力を持つ組織と言えば――
――真相は、彼ら空賊団のみが知る。
~~~~~
「――そうですか。わかりました、ありがとうございます」
ガチャンと遊撃士協会に備え付けられている通信機の受話器を戻し、ダーゼフは深くため息をつく。地下道で空賊団によってナギサが攫われてから、すでに二日が経過していた。
この二日間遊撃士協会、TMP、正規軍共にレヴァナント空賊団の行方を追ってはいるものの、あの船の持つステルス機能によりその姿を捉えられずにいた。
あれから二日もたち、さらに飛行艇を用いていると言うことから、帝都周辺どころか帝国内に潜伏しているかどうかも怪しくなっており、状況は絶望的になっていた。
数少ない朗報と言えば、帝国各地の正規軍および第二から第六までの機甲師団までもが空賊団の捜索に協力するという話しになったことぐらいだろう。どうも正規軍は己の威信にかけ、何があってもあの空賊団を捉えたいらしい。
――あるいは、彼らの持つ”黒船”が欲しいのか。前者であることを願いながら、彼らの申し出を受けることにしたのである。
「ダーゼフさん……」
「おや、アニー君。どうかしましたか?」
通信を終えたダーゼフが協会の受付に戻ると、そこには心配と不安を浮かべたアニマ・ロサウェルが視線を俯かせながら待っていた。――彼女が持つトレーにある、全く手を付けられていない昼食を一目見て、ダーゼフも僅かに瞳を伏せる。
「――それで、エルガの様子は?」
「……まだ、ダメみたいです。あれ以降、部屋から出てもいないみたいで……」
――あれ以降、エルガは自室に閉じこもったまま、全く姿を見せずにいた。この二日間、ろくに食事にも手を付けておらず、部屋の片隅で無気力そうな様子を見せるだけである。
目の前でナギサが攫われたのがよほど堪えた――あるいは、彼の奥底にしまい込んだままであった、“誰にも見せたくない醜い部分”を見られた影響か――そして、それによって守ろうとした存在に“拒絶”されたことが原因か。
ともあれ今のエルガの鬱ぎ込みようはダーゼフも心配するところではある――が、今の彼には他に優先せねばならないことがある。
(……私一人では立ち直らせることが出来ないか……何と情け無い……)
――わかってはいる。本当は自分がエルガを立ち直らせねばならないことは。だが今のエルガにかける言葉はなく、また言葉をかけるのは自分ではない。そのことに不甲斐なさを感じ、苛立ちを覚えていると、アニーがトレーの上にある昼食に目を向けていることに気がついた。
「でもまさか……エルガ君にそんな過去があっただなんて……」
あの場で彼の“獣”を目撃していた者達には、すでにエルガの過去について話はしてあった。本人のいないところで、本人が最も掘り返したくない過去について話すのは躊躇いがあったが、しかし話さなければ話は進まない。
山間の集落で生まれたこと、その集落が土砂崩れによって壊滅したこと。奇跡的に一人生き残った彼は野生動物――おそらく狼か、その類い――に助けられ、彼らに育てられたこと。
そして――いつからか彼は厳しい自然環境に適応していき獣と化し、“鬼子”やら“三つ足の獣”やらと噂が出てくるようになるまで育ち――その頃だ、難民の護衛を請け負ったダーゼフと、彼の師匠が出会ったのは。
――そして、彼が人を守り、救いたいと願うような出会いと別れがあった。
エルガも獣だった頃のことは朧気にしか覚えていないようで、いくつか推測が混じっているが、それでも概ねこの通りのはずだ。話を聞き終えたレオンやトヴァルは無言で、アニーは沈痛な表情で俯いていた。
唯一あの場にいながらも気絶していて彼の”獣”を見ていなかったサラは、最初は戸惑いを見せていたが、獣の下りになると納得したように頷いていた。曰く、
『何か重いものを持っていることは気づいていたわ。それに……”野生の勘”だからこそ、あのとき狙撃に気づけたのね』
狙撃に気づいた、というのは以前あったレオンの狙撃未遂のことだろう。あのとき彼がサラよりも先に気づけたのは、獣特有の、半ば未来予知に近い“野生の勘”があったからに他ならならかった。
「……大丈夫でしょうか、エルガ君……」
「大丈夫ではないでしょう……ですがこのまま潰れるというのであれば、所詮はそれまで」
「……っ」
俯き心配そうな声を出しながらも、どうして良いかわからないと首を振るアニーに、ダーゼフはろくに励ますこともせず、ただ肩をすくめて業務に戻ろうとする。そんな彼の態度に、アニーは瞳を鋭くさせてダーゼフを見やった。
「そんな言い方……!」
「――実は私は、彼が遊撃士になることも、槍を握ることも、快く思ってはいませんでした」
「……え?」
唐突に告げられるダーゼフの告白。彼は事務作業に戻りながら視線をアニーに向けることもせず、ただ淡々と口を開いていった。
「エルガが辿ってきた軌跡は、僅か十にも満たない子供には過酷だったことでしょう。もう彼は一生分の苦労と苦痛を味わってきた……。だからこそ、彼には武術を教えたくはなかったのです」
「それはなぜ……」
「武を学べば、望む望まざるにかかわらず、常に戦いの兆しがついて回ります。……アニー君にも、覚えがあるはずです」
「………」
ちらりと視線を向けられ、彼女は何も言えずに押し黙る。先輩遊撃士達から剣やアーツを教わって数年。ダーゼフの言うとおり、戦いに関わることが遙かに大きくなった。そういう仕事だから、といえばその通りなのだが――それでも、戦う術を持っているということは、決して無関係ではないと思う。
「だから私は、彼に武術を教えるのは反対でした。一生分の苦労を味わった彼に、これ以上の苦を味合わせたくはない……それが、私自身のエゴだとしても」
――ですが、とダーゼフは言葉を続ける。たぐり寄せた書類にペンを走らせながら、彼は自身の思いを口にしていった。
「彼は私に……私とジルにあることを言ったんです。それを聞いて、私は言葉を飲み込みました」
「……エルガ君は、なんて言ったんですか?」
「…………」
アニーの問いかけにダーゼフは答えない。黙々と事務仕事を行っているだけだ。彼の様子からそのことについて話す気はないのだろう。そう悟った彼女は目を伏せ、その場を後にしようとして――
「――ジルは、今のエルガになんて言葉をかけるのでしょうね」
「え?」
「気になっただけです。エルガの師であり、私の親友である彼は……一体どのようなことを今のエルガに告げるのでしょうね」
エルガの師匠である“天槍”ジルヴィア・ローグ――彼の言葉を気にかけ、問いかけてくるダーゼフに彼女は首を傾げた。彼にあったこともない自分に聞いても意味は――
「……―――」
――意味は、ある。あることに気がついた。
アニーはジルヴィアに会ったこともない。しかし彼がエルガに告げた言葉を、たった一つだけだが知っていた。
「――ダーゼフさん、ごめんなさい! ちょっと行ってきます!」
「えぇ、いってらっしゃい」
持っていたトレーを置いて、彼女は協会から出て行った。顔を上げ、その後ろ姿を少しばかり晴れやかな表情で見送ったダーゼフは、さてと、と一息ついて――
「――失礼しマース!」
「はい、どうしました?」
彼女と入れ替わるように新たな人が入ってくる。フードを深くかぶり、顔を隠した身の丈ほどの杖を持つ人物。一瞬どこかで見たような、という既視感を覚えるも、それを振り払ってダーゼフは声をかける。
「ここは遊撃士協会ですが……なにかご依頼でしょうか?」
「うん、ここの遊撃士に、少し頼みたいことがあってね。……ある少女を、助けて欲しいんだ」
「ある少女を……?」
緊急性の高い依頼か、と思う反面、妙な違和感を覚えダーゼフは眉根を寄せる。
「とある空賊団に攫われ、今はアイゼンガルド連峰の中腹にある洞窟に閉じ込められてる”巫女”様をね」
「――あなたは一体……」
「そうそう、その子はナギサと呼ばれているよ?」
――巫女――その単語だけで、誰を指しているのかがはっきりとわかった。ようやく得ることが出来た情報だが、それをもたらした人物の胡散臭さから信憑性は低い。――しかしナギサが巫女と呼ばれることを知っている――このフード男の正体は一体。
自ずと視線が険しくなる中、男はチッチッチときざったらしく指を振って――
「申し訳ないが情報源については、企業秘密と言うことで……何、私はただの、”占い師”さ」
~~~~~
遊撃士協会を出て、アニーは近場のアパルメントへ向けてかけ出していた。帝都ヘイムダル支部所属の遊撃士は他の支部に比べ大所帯となっている。帝都の人口の多さ、その広大さからどうしても遊撃士の人数が求められてしまう。
そして人数が多ければ、当然住居の数も求められる。そこで協会側は帝都庁と掛け合い、アパルメント一つを丸ごと貸しだして貰い、半ば寮のような形で入居出来るような体勢を取っていた。
エルガの自室もそこに入居あった。慣れた様子で共用スペースを突っ切って階段を駆け上り――その途中聞き覚えのある声が響き渡った。
『いつまで引き籠もってんだこのアホォッ!!!』
「――っ! レオンさん!?」
怒声と共に、何かを激しく蹴り破る音が共用スペースに鳴り響く。驚き、固まったアニーはすぐに我に返り、急いで駆け上がるとそこには扉を蹴破ったレオンの後ろ姿が目に映る。カチコミをかけた部屋は――エルガの自室だ。
「ちょ、ちょっとレオンさ――」
「――まちぃや、アニーの嬢ちゃん」
「っ、グロードさん……」
慌てて止めに入ろうとした矢先に、角のすみで壁に寄り掛かっていた顔に傷のある男が呼びかけてくる。彼は気怠げに欠伸をしながら、目線をエルガの部屋に向けて呟く。
「今獅子ちゃん、えっらい機嫌悪くてなぁ-。下手に止めんほうがいいで」
「でも――」
「――今は止めた方がいいっすよ、アニマの姐さん」
食い下がるアニーに追い打ちをかけてきたのはマルコであった。彼も壁により掛かった状態で部屋の騒動を見守っていた。単純にレオンに従っているだけか、それとも彼らも今のエルガに思うところがあるのか。どちらにせよ部屋の中から聞こえてくる物騒な物音をスルーし、レオンが戻ってくるのを待っているようだった。
「っ……」
「……ま、別に誰も通すなとは言われてないしな」
制止を振り切って部屋に入ろうとするアニーを見送り、グロードは肩をすくめてそう独りごちる。マルコは微妙な表情を浮かべて彼女を見やっていたが、結局アニーを無理矢理止めようとはしなかった。
『――こんな所で引き籠もってねぇで、とっとと自分の責任果たしやがれ!!』
「――レオンさん、待って下さい!」
蹴破られた入口の向こう側では、エルガの胸ぐらを掴み上げ、拳を握りしめているレオンの姿があった。今にも拳を振るわれそうな――否、もうすでに振るわれたのか、エルガの頬に殴られた後があった。
「…………」
しかし殴られたであろうエルガは、昨日最後に見たときと同じく無表情のまま脱力していた。胸ぐらを掴まれ苦しいはずなのに、その様子を表にも出していない。
「……っ」
一片の光も宿していない痛々しいその瞳から思わず目を背けそうになる。けど、今は――
「……ロサウェルか。今は取り込み中だ、後にしろ」
「だったら、この手を下ろして下さい! 今の彼を殴っても、どうにもならないでしょう!?」
振り上げたままの腕を掴むものの、彼女の力ではレオンの腕を下ろさせることは出来なかった。それまで感情を失ったかのような無気力さを露わにさせるエルガを睨み付けていたレオンは、ようやくアニーに視線を向けて、
「――どうにもならない? そうじゃねぇだろ、強引にでもこの阿呆の目を覚まさせなきゃならねぇんだよ!」
「っ……」
掴み上げていたエルガを突き飛ばし、レオンはアニーに対し、低く響く声音で視線を向ける。――彼が見せたその“凄み”は、流石帝都の任侠組織、その四代目だと思わず納得させられるものであった。
「……だとしても、他に方法があるんじゃないですか!? ただ力任せに彼を奮い立たせても、何の解決にもなりませんよ!」
「………」
その凄みに思わずたじろぐアニーだが、ぐっと拳を握りしめて真っ向から見つめ返し、そう反論する。彼女の言葉に、レオンは細めた瞳をさらに細め、眉根をより深く寄せた。思わず喉を鳴らし、前言撤回したくなるほどの威圧感に晒され――やがてレオンの方から視線を外してきた。
「……だったら他にいいやり方があるのか? こうしている間にも、ナギサの嬢ちゃんは危ねぇ目にあってる。消えた空賊団を探すためにも、今は少しでも人手が欲しい所だ。……なのにコイツは、部屋に閉じこもって後悔してやがる」
「…………」
「獣だが何だがしらねぇ。コイツがどんな思いを抱いてきたかなんてどうでも良いことだ。だがな、”そんなこと知られた程度”で腑抜けになるなんざ、俺はゆるさねぇ」
ちらりと、アニーはエルガを見やる。今の言葉は彼の耳にも届いたはず。――彼の指先が、僅かに動いた。
「………何も、知らないくせに……」
ポツリと、ようやくエルガの口から言葉が紡がれる。小さく呟かれたはずのその言葉は、やけに部屋に響き渡った。
「あぁ?」
「……俺が、”獣”に対して……”俺自身”に対して、どれだけ嫌悪しているか……知らないくせに」
「――知らねぇよ。知らねぇし興味もねぇ。そういう”不幸自慢”はどうでも良い」
「レオンさん……!」
エルガが抱えてきたであろう苦しみ、苦悩を、吐き捨てるかのように「どうでもいい」と切り捨てたレオンに対し、流石に咎めるかのような眼差しを向けたアニー。だが彼はその眼差しを見ようともせず、ただ床に座り込んだエルガだけを見据えて、
「過去は変わらねぇ。いくら自己嫌悪しても、お前が獣だった事は変わらねぇ。同時に、飛行艇がハイジャックされたとき、お前がナギサの嬢ちゃんを助けたことも変わらねぇんだよ」
「………」
おもむろにレオンの腕が、座り込んだ彼に伸びる。そうしてもう一度胸ぐらを掴み上げ、今度は彼の体をつり上げる。――止めさせようと思うものの、今の彼の言葉を耳にして、アニーは口と手を止めた。
「お前はあのとき、見ず知らずの嬢ちゃんを助けた。その理由もどうでも良い。けどな……一度助けたんだったら……最後の最後まで、助けた責任を果たしやがれ」
「…………」
助けた責任を果たせ――その言葉に、アニーは瞳を瞬かせる。あの言葉は結局、そう言うことなのだろうなと一人で納得して――だから続くエルガの言葉に対し、おそらくレオンと同じ感想を抱いたことだろう。レオンの言葉を受けた彼は、一瞬瞳に輝きが戻ったが、しかしその輝きもすぐに消え去った。
「……けどナギサは……俺みたいな”バケモノ”には、助けて欲しくないってさ……」
「……アァ?」
「だから……助けるなら、あんたが助けろよ」
「――――チッ」
――響いたのは盛大な舌打ち。そしてレオンが手加減無しで彼をぶん殴り、そのまま壁に叩き付ける音が連続して響き渡った。
「……っ!」
相当な痛みと衝撃だったのか、無気力状態なエルガも顔を思いっきりしかめている。そんな彼に、アニーは何も言わず――むしろ醒めた瞳で彼を見下ろしていた。
「……だからひねくれた態度とってんのか、このガキが。……勝手にしろ」
完全に呆れ果てた様子でレオンは言い捨て、不機嫌さを隠そうともせず荒々しい様子で部屋から出て行こうとする。蹴破られたドアに苛立ちをぶつけるかの如く、思いっきり踏みつけ――部屋から出て行く間際、最後に一度だけエルガの方を見やり、
「例の”緋色の空”の一件で、ナギサの嬢ちゃんに借りがある。それにサリスにも頼まれた……俺は何があっても、ナギサの嬢ちゃんを助け出す。お前はここで、指でもくわえて待っていろ。――だがそんときは……二度と、俺にツラ見せんじゃねぇ」
――失望したと言わんばかりに冷たく言い放ち、それを最後にレオンはその場を後にした。
前話で発生した導力停止現象は、導力波パルス(電磁パルスのようなものをイメージ)によるものです。それによって導力の流れが乱れて導力器が故障した、というものです。壊している分、ある意味本家よりも質が悪いかも知れません。
次話は比較的早く投稿できたら良いなと考えております。