英雄伝説『外伝』 刻の軌跡   作:雨の村雲

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2-03 吠える獅子

 

「おうおう、ガキ共。オメェ等一体何をしてんだぁ?」

 

「……って、そこの白いのは遊撃士の……。一体何のようでここに来てんだぁ?」

 

帝都の地下水道にある広い空間で、二十名を超えるヤクザ達からガンを付けられ、アニーは思わず喉を鳴らした。ちらりと隣にいるエルガに視線を送ると、一瞬具合が悪そうに見えた彼はすでに元通りになっている。

 

「どうしようか、アニーさん」

 

「私が聞きたいよ……」

 

はぁっとため息をつくアニーだが、このままヤクザ達の問いかけを無視するのも不味いだろう。彼らは今まで戦闘訓練――ヤクザ同士の取っ組み合いのケンカ――に興じており、頭に血が上っている。

 

「何のようで来たんだっていってんだろうが!!」

 

一人が持っていた鉄パイプを思いっきり石床にたたきつけ、盛大な音を響かせる。石造りの地下道ではその音が反響して鳴り響いた。

 

「……別にたいした用じゃないわ。そんなことよりもあなた達、ここで何やっているの? ケンカ?」

 

「俺等が何してようが勝手だろうが。んなことよりなぁ、これは見世物じゃねぇんだよ!」

 

ふぅ、と小さく息を吐き出したアニーは努めて冷静な声音で彼らに語りかける。その姿は、昨日見たメイド姿の彼女を連想させた。だが相手は、彼女の澄ました態度が気に入らなかったのか、より激しく鉄パイプを叩き付ける。

 

「っ……!!」

 

より激しいかんしゃくを起こした男の行動に、思わず引き下がってしまったアニー。気は進まないものの、ヤクザ相手に弱気を見せるのは不味いと、エルガが前に出る。

 

「それは悪かった。俺達は遊撃士なんだが、実はこの辺りで魔獣の唸り声が聞こえたという報告を聞いて調査していたんだ……まだ魔獣はいなくなってないからな、あんた達も気をつけろよ」

 

「はっ、それはご苦労なことで! しかしおめぇみたいなガキみたいな奴も遊撃士とはなぁ、世も末だぜ」

 

「それは申し訳ないな、うん。……じゃあ、あんた達も気をつけろよ」

 

相手にするだけ無駄だとばかりに肩をすくめて男の侮蔑を受け流し、エルガはアニーに目配せしてその場を立ち去ろうとする。彼女は目を丸くしてエルガを見ていたが、踵を返した彼の後を慌てて追いかけていった。――だがその途中、先程まで話していたヤクザ風の男から声をかけられる。

 

「おう、待てよガキ」

 

「……なんだよ」

 

「ここは広くて近くて便利な場所でなぁ? こんなに便利な場所、そうはねぇんだよ。……遊撃士だがなんだか知らねぇが、ここを知られたまま帰すわけにはいかねぇなぁ」

 

二人とも、嫌な予感を覚えながら後ろを振り向くと、そこには二十六名ものヤクザ達が、凶悪な得物を手にこちらに押し寄せて来る。――まるで合図のように、鬨が上がる。

 

「やっちまえぇっ!!!」

 

『おぉぉぉぉぉっ!!』

 

こちらに向かってくる大勢のヤクザ達を前に、アニーとエルガは視線を交わし、はぁっと彼女は息を吐き出した。エルガの表情を見て、覚悟を決めたのだ。

 

「その顔はやるって感じね……わかったわ。エルガ君の実力は昨日見せて貰ったし……存分に頼りにさせて貰うわね」

 

「こっちも。宜しく先輩」

 

細剣を、短槍を手に取った二人は、その切っ先を迫り来る彼らに向けた。逃走してもよかったのだが、ここでよく鍛錬をしている様子の彼らに地の利はだろう。ならば、ここで迎え撃つほかない。

 

遊撃士二人と二十名を超えるヤクザ、両者が真っ向からぶつかり合う。

 

 ~~~~~

 

「………」

 

ゴゴゴゴッと鈍い音を響かせながら、隠し扉が閉じていく。後ろを振り返り扉が壁と同化したのを確認した後、地下水道へと入ってきた大柄な男は首をコキコキならしながらある方向を見やる。

 

「いそがねぇとな……ったく、世話のかかる奴らだ」

 

目指すは地下水道にある墓所――奥にある広い空間。そこに今、ブレイツロックの組員が戦闘訓練を行っているはずだ。ふぅっとため息混じりに呟いて、男は駆け出した。

 

 

 

槍の石突きが男の鳩尾を捕らえ、怯ませたその隙に追撃の一撃を叩き込む。合わせて二連撃の強打をもろに食らった男は地面を大きく転がっていく。これで三人目だ。

 

「これで計六人! まだやる!?」

 

「………」

 

エルガの短槍と、アニーのレイピアがヤクザ達に突きつけられる。エルガは叫び彼らに問いかけるが、隣にいるアニーはもう勘弁して、と言いたげな表情で周りを見渡していた。

 

しかしそんな表情をしていながらも、レイピアの腕前は相当な物だ。三人ほど相手にしていたにもかかわらず、瞬く間に昏倒させてしまったのだから。

 

「く、くそなんだこいつら!?」

 

「うろたえんじゃねぇ! 数を生かして囲め!!」

 

一方、仲間を一気に六人失ったヤクザ達の間では、僅かに動揺が走る。しかしそれをかき消すかのように、最初絡んできた男が檄を飛ばし僅かな動揺を吹き飛ばす。

 

男の指示に従うよう、残った二十人が二人を囲むように円陣を組んでいく。一方のアニーとエルガは、互いに背中合わせとなって死角をカバーし合うが、互いに不味い状況に陥りつつあることは自覚していた。相手は先程まで数を生かさず、無差別に一人一人襲いかかってきていたので何とかなったが、このまま全方位から襲われればひとたまりもない。

 

「………」

 

ゆっくりと自分たちに向かって来る相手を見ながら短槍の構えを変えていく。腰を落として重心を低く保ち、右手は石突き近くを、左手は穂先の近くを持つ――明らかな突撃体勢を取った。

 

――この技に、良い思い出はないが――

 

「エルガ君?」

 

「合図したら俺の後ろを付いてきて下さい。囲まれても、強引に突破します」

 

包囲されれば危険だが、その包囲網から抜け出せれば勝機はある。アニーは僅かな逡巡を見せたものの、彼女はこくりと頷いた。

 

「3……」

 

唐突なカウントダウン。――それが彼が言う合図だとを悟ったアニーは、レイピアを握る手に力を込める。

 

「2……」

 

タイミングを伺っていたヤクザ達、特に例のリーダー格の男も、二人の動きに何か勘づいたのか、眉根を寄せてこちらを見据えている。そして――

 

「1――」

 

「オメェ等、やっちまえ!!」

 

エルガのカウントが0になる前に男からの号令がかかり、ヤクザ達が一気に押し寄せてくる。こちらから仕掛けようとしていた矢先の出来事に二人は顔をしかめた。出鼻をくじかれ動けず仕舞いと成り、押し寄せるヤクザの波に飲み込まれようとして。

 

『オオオオオオォォォォォォォッ!!』

 

――通路の奥から突如として鳴り響く唸り声に、押し寄せていたヤクザ達も動きを止めた。何事だとばかりに通路の奥を見やり、そこからスルッと壁を”すり抜けながら表れた”青白く光る巨大な骸骨に、一同は沈黙する。

 

高さ五アージュはあろうかという巨体が、文字通り壁をすり抜けて表れたのだ。その巨体では通路の大きさには収まらなかったのだろうが、問題はそこではない。

 

「……今、すり抜けて……」

 

誰かのぼやきに、一同は沈黙する。どうやら見間違いではなかったらしいと、エルガは目を見開いて青白い骸骨を凝視した。

 

首から下はマントのようなローブに覆われ、足はなく、地面から少しだけ浮いた状態である。まるで幽霊やお化けのようであり、さらにその手に握るのは巨大な鎌。そのシルエットは、まるで伝承に伝わる”死神”のようであった。その死神が、再び唸り声を――咆哮を上げた。

 

『オオオオオオオオオオッ!!』

 

「う、うあぁぁぁっ!!?」

 

まるで地の底から響いてくるような響き。空気を振るわせてびりびりと伝わってくる圧力に、所々から悲鳴が上がった。

 

「馬鹿、逃げんな!!」

 

「兄貴、あぶねぇっ!!」

 

悲鳴を上げながら、数名ほどその場から逃げ出そうとする手下達に怒鳴り声を上げる男だが、そのせいで死神が鎌を振り上げたのを見逃してしまった。危険を知らせる叫びは、もう遅かった。

 

「あっ?」

 

『オオオオオッ!』

 

兄貴と呼ばれた男目掛けて鎌が振り下ろされた。一体どれほどの力で振るわれたというのか、石造りの床に亀裂を入れ、舞い上がった土埃が男と死神の姿を隠してしまった。だが、これだけの力で振り下ろされたのだ。――おそらく、兄貴と呼ばれた男は、もう。そのことを悟った手下達は、一気に恐慌状態へと陥った。

 

「あ、兄貴ィ!!?」

 

「ひ、ひぃぃぃぃっ!!?」

 

叫び、悲鳴を上げながら逃げ出していくヤクザ達。そんな中、エルガとアニーは、互いに得物を構え、その切っ先を乱入してきた魔獣に向けた。

 

「今の唸り声……多分こいつが、私達が探していた魔獣だわ!」

 

「目的の方からやってくるなんて……くそ」

 

「エルガ君、ここで奴を倒そう! そうじゃないと、彼らが危ない!」

 

周囲で逃げ出すヤクザ達に視線を向けながらアニーは叫ぶ。確かに今のヤクザ達に、この魔獣に対して冷静に対応できるとは思えない。このまま自分たちが何もせず、彼らが逃げるまでの時間を稼がなかったら、被害が大きくなってしまう。

 

――たとえ先程まで争っていた相手だとしても、民間人とは言いがたい職種の人達だとしても。このまま何もせずにいるのは嫌であった。

 

「――了解です。行きましょう、アニーさん!」

 

「えぇっ!」

 

お互いに武器を握りしめ、宙に浮く死神に向かって駆け出した。巨大な鎌を振るい石床や壁ごとヤクザ達を襲う相手に、エルガは突進突き――龍牙槍を繰り出し、突きから派生する薙ぎ払いの二撃目へと繋げた。

 

『オオオオオッ!!』

 

「……変な感覚だな……!」

 

槍から伝わってくる感触に、エルガは眉根を寄せてぼやく。近くから見ると、体が透けて死神の向こう側がうっすらと見えている。しかし手応えははっきりとあり、そのギャップに困惑した。

 

だが攻撃は通っている。――正直に言えば、見た目からしてお化けや幽霊のそれに近かったため、攻撃が通るか心配だったのだが、それは杞憂に終わったようだ。攻撃は通る以上、倒すことは出来るだろう。しかし、疑問がなくなったわけではない。

 

(こいつ、本当に”魔獣”なのか……!?)

 

知っている魔獣とは似ても似つかない特徴を持った死神に困惑するも、ぎろりとこちらを睨み付けてきた死神に、エルガは即座にかがみ込んで振るわれた大鎌を紙一重で回避する。

 

「エルガ君、援護するよ!」

 

エルガが槍を構えて突撃したのを見ていた彼女は、その間に戦術オーブメントを取り出し、アーツの駆動を行っていたのだ。それもすでに済み、アニーが手をかざすとの周囲に氷の塊が複数生まれ、死神に向かって連続で放たれる。

 

中級の水属性アーツだ。それら全てが死神に命中し――しかし、効いている様子はなかった。何ともないような様子で、アーツを命中させたアニーに視線を向けて――

 

「そっちには、行かせない、ぜっ!!」

 

短槍が二度、三度と閃めき、死神の体を斬り裂いた。彼女の方にむきかけていた鎌が、再びエルガのほうへと向けられる。

 

「水はあまり効かない……!? でもそうなると……!」

 

エルガと死神の戦闘を見ながら、先程のアーツの効果が薄いことを感じ取ったアニーは歯がみして、自身の今のオーブメントにセットされた宝石――クォーツの編成を思い出していた。この宝石には導力というエネルギーが込められており、オーブメントにセットすることでこのエネルギーを引き出すことが出来る。

 

アニーが持っている戦術オーブメントでは、そのエネルギーを用いた魔法(アーツ)を使うことが出来るが、その種類もセットされたクォーツに依存するのだ。彼女自身、水属性のアーツが得意と言うこともあって、セットされているクォーツはそれに関連する物が多い。

 

「これしか……!」

 

属性の種類は七つあり、今セットしているクォーツの属性は、水と風、そして時の三つ。当然アーツも、その三つに限定されてしまう。さらに三つのうちの一つは、すでに効かないことがわかっている。ならば、あと使えるのは風と時のどちらか。

 

「…………」

 

アーツの駆動を開始する。放つ導力魔法は――

 

 

 

(――慌てるな)

 

死神と一対一で戦いながら、エルガは冷静に相手の動きを観察していた。巨体から振るわれる大鎌の挙動は至って単純。石壁を余裕で砕く力を持っているのだ、余計な小細工などせずに力任せに振るうのが良いのだろう。実際、その巨体故にリーチもあるため、近づくのは容易ではない。

 

(これぐらいなら、何とかなる。……それに――)

 

大鎌が振るわれる。それを範囲ぎりぎりで回避し、その瞬間に突撃、竜牙槍の二連撃を叩き込む。突進突きからのなぎ払いに、死神は怯み――

 

(――師匠の槍の方が、何倍も怖い!!)

 

――その隙を見逃さず、エルガは連続で突きを繰り出した。一息に数度繰り出した連続突きを受け、死神は大きく鎌を振りかぶった。だがすでに、鎌の間合いの”内側”にいる自分には、避けることは容易い。

 

――巨体ともなればリーチもパワーも大きい。だが一度懐に飛び込んでしまえば、それらも生かせなくなる。故に彼は振りかぶった死神を相手に、逆に槍を構えて――

 

「いっけぇっ!!」

 

槍の一突きを繰り出す寸前で、後方からアニーの叫び声とともに、黒色の剣が飛んでくる。一目見て時属性アーツだと気づき、その黒剣は死神の体を深々と貫いた。

 

『ォォォォォォォォォォッ!!』

 

「っ!?」

 

後ずさり、深々と突き刺さった黒剣に手を掛け、引き抜こうともがく死神は、今まで見てきた中で一番苦しそうであった。その様から、時属性アーツが弱点だと言うことは明白であり、しかしだからこそ驚きにエルガは固まるのだった。

 

(まて、時属性アーツって確か……)

 

「ど、どういうこと!?」

 

黒剣を放ったアニーでさえ、困惑を隠せない様子だった。まさかここまで効くとは――そう言わんばかりの反応だが、やがて導力が消えたのか死神に突き刺さった黒剣が消滅する。

 

「っ! エルガ君!」

 

「っ!?」

 

死神の異変に気づいたアニーの叫びが木霊するが、僅かに遅かった。黒剣により深い傷を負った死神は、大鎌を握る手に力を込めた――と思った途端、エルガの目の前に鎌の刃が迫っていた。

 

死神の間合いの内側にいたエルガだったが、奴がアーツの直撃を喰らい後ずさったことによって、再び間合いの中に入ってしまったのだ。自らに向かって来る刃に対し、彼に出来たのは槍を自身の前で構えて、直撃を何とか防ぐことだけだった。

 

「――――っ!!」

 

鎌の刃と槍がぶつかり合う。直撃は防げたものの、得物越しに伝わってくる馬鹿力にまでは耐えられず、エルガは後方へ吹き飛ばされた。

 

「ぐぅっ……!!」

 

「エルガ君、大丈夫!?」

 

後方の石壁に叩き付けられたエルガの耳に、アニーの悲痛な叫び声が木霊した。目の前に視線を送ると、鎌を振りかぶった死神が、もう一度大鎌を振りかぶってこちらに近づいてきていた。このままではまずい――しかし、壁に叩き付けられた影響か、体が動かない。

 

アニーがレイピア片手にこちらに向かってきているが、おそらく間に合わない。死神が大鎌を振りかぶるのがやけに遅く見える。こんな時にまで手放さなかった槍を握りしめ、何とか立ち上がって避けようとして――

 

 

「オラァッ!!」

 

 

唐突に表れた大男が叫び声とともに死神に拳を叩き込み、今度は逆に死神を吹き飛ばした。

 

「――はっ?」

 

「えっ?」

 

目の前の光景が信じられず、数秒固まったエルガは目を丸くしそれだけを呟いた。アニーも同様だったようで、こちらに駆け寄る途中で立ち止まり、目を丸くしていた。

 

アニーの方は、その大男に見覚えがあった。鋭い目つきに彫りの深い顔立ち。赤みかかった黒髪は短めであり、なによりも特徴的なのは、右頬に走る傷跡。三十代半ば頃であるが、大男から放たれる威圧感は相当な物であった。

 

「……なん……で……?」

 

すでに死神から距離をとっていたヤクザ達は、その大男に気づき、驚きの声を上げている。最も、彼らの場合は純粋な驚きからくるものではなく、困惑と畏怖が混じりあった様子であった。やがて誰かが、死神を吹き飛ばした大男を見ながら呟きを漏らす。

 

「なんで”大兄貴”がここに……!」

 

「……大兄貴……てことはやっぱり……!」

 

その呟きを聞き届けたアニーが、とある人物を思い出したのだ。数年前までのブレイツロックの“先代若頭”――“獅子”と呼ばれた男、レオン・オーガスト。

 

「………」

 

男は無言で指をポキポキ鳴らし、徒手空拳の構えをとった。吹き飛ばされた死神がゆっくりと体勢を立て直す中、レオンは死神を睨み付けつつ口を開く。

 

「……あの胡散臭い奴の言う通りか……オメェ等はそこでじっとしていろ」

 

「へ、へ?」

 

「――後でじっくり聞きたいことがある。……逃げるんじゃねぇぞ?」

 

一瞬だけ、レオンの視線がヤクザ達に向けられる。だがその一瞬のうちに放たれた威圧感は、ヤクザ達を青ざめさせ、震え上がらせた上に、直接向けられなかったアニーでさえ、思わず”獅子”の姿を幻視させられた。なるほど、確かに若頭と呼ばれただけはある。

 

「それとそこの白い女」

 

「は、はいっ!? 何でございましょうか!?」

 

白い女、というのはまず間違いなくアニーのことだろう。そもそもこの場に女性は彼女しかいない。呼ばれたアニーは思わず敬語で答えた。

 

「そこの白い坊主を連れて下がって……ほう?」

 

「………」

 

壁に叩き付けられた衝撃がやっとなくなってきたのか、立ち上がったエルガは槍を回しながらレオンの隣まで歩いて行く。

 

「けが人のガキは大人しく下がっていろ……て言っても、素直に応じる奴じゃなさそうだな」

 

「話が早くて助かります。……事情や背景はどうあれ、市民を助けるのが俺の役目。……ここでこいつを見逃したら、彼らだって危ない」

 

「――――」

 

ちらりとヤクザ達を一瞥した後、真っ直ぐに死神を見つめるエルガを横目に、レオンは口の端にそっと笑みを浮かべた。思わず、握りしめた拳に力が入る。

 

「足引っ張るんじゃねぇぞガキ!!」

 

「引っ張らないよおっさん!!」

 

「い、意気投合してるし……! あぁもうっ!!」

 

レオンとエルガがお互いに叫び合い、拳と槍を構えて死神に向かって駆け出していく。そんな彼らの後ろ姿を見ながらアニーはやけっぱちに首を振りつつも、レイピアを構えて彼らの後ろを追走する。

 

『オオオオオオォォォォォォッ!!』

 

近づいてくるエルガ達に気がついたのか、体勢を立て直した死神は咆哮を上げこちらを威嚇してくる。だがエルガもアニーも、その叫びに動じることはなく、レオンに至っては、

 

「ハアアァァァァァッ!!!」

 

と、まるで死神の咆哮を打ち消すかのように叫び声を上げる始末。その勢いを保ったまま接近してくる三人に、逆に死神が気圧されたかのように鎌を振り上げた。

 

『オオオオオオッ!!』

 

「遅い!!」

 

鎌を振り上げたと同時に、エルガは龍牙槍を放つ。突進突きはレオンを追い抜き、大鎌を振るおうとした死神を怯ませ、さらに隙まで造り上げて見せた。一人先行したエルガは振り返り、

 

「今だ!!」

 

「はあぁぁぁっ!!」

 

アニーの細剣が打ち据える。細剣の突きと切り払い、それらを組み合わせた高速の連続技を繰り出す剣技、”セブンスラッシャー”。一息に放たれた七つの斬撃と突きは全て死神の体を斬り裂いた。

 

「オラァッ!!」

 

アニーから僅かに遅れて、レオンも右ストレートによる正拳を叩き込んだ。“虎落とし”と名付けたその拳は、再び死神の体を吹き飛ばす。五アージュを超える巨体が、拳一発で吹っ飛んでいく様は不自然極まりない。

 

だが、現にレオンは拳一発で吹き飛ばしていた。一体どれほどの力が込められていたというのだろうか。

 

『オオオオオ………』

 

「さて……これで終わりだ」

 

心なしか弱々しく聞こえる死神の叫び。それを耳にしたレオンはゆっくりと吐息を吐き出しながら、拳を握りしめていく。――彼の体から、闘気が漏れ出していく。

 

「うおぉぉぉぉぉ…………っ!!」

 

溢れ出した闘気は彼の全身を包み込み、その状態のまま死神に向かって駆け出した。その姿を見送ったアニーの目にははっきりと”獅子”の姿が見えた。

 

「………」

 

当然、獅子などこの場所にいるはずがない。だが、確かに獅子を見たのだ。――闘気が高められたからこそ発生したこの現象を、彼女はこれまでに何度か見たことがある。『高められた気迫は、時に幻を生み出す』。

 

「あの人……」

 

エルガもその幻を目にしたのか、ぽつりと呟いた。――まだ名前も知らない男を見ながら、彼はその拳を目に焼き付ける。

 

「喰らえ――“獅子拳舞踏”!!」

 

闘気を纏った拳が、次々と死神の体を打ち据えていく。回避も防御も出来ず、ただただ殴られ続ける相手は徐々に後ろに下がっていき、やがて拳の間合いから離れた死神に向かって、レオンはトドメとばかりに強烈な一撃を叩き込んだ。

 

『オオオオオオォォォォォ――――――…………』

 

その一打は三度死神の体を吹き飛ばし、壁に叩き付け――やがて死神は、不思議な光を放ちながらその姿を消滅させたのだった。

 




クラフト紹介

アニマ・ロサウェル
・セブンスラッシャー
突きと切り払いの七連続コンビネーション
威力C 範囲M- CP25
 備考 地点指定、遅延、駆動解除


レオン・オーガスト
・虎落とし
力を込めた右ストレート
威力A 単体 CP20
 備考 駆動解除、ディレイが通常攻撃と同じ

Sクラフト
・獅子拳舞踏
闘気を込めた拳で殴り続け、最後に強烈な一撃を叩き込む獅子の拳
威力SSS 範囲L



初Sクラフトのお披露目が主人公ではなく今話初登場の新キャラという事実。エルガ君、がんばって。

そして作中で出て来た『高められた気迫は、時に幻を生み出す』という独自設定。これでSクラフト時の演出をだいたい説明できるはず。

……山猫号召喚? 装甲車召喚? シュトラール召喚? ちょっと何言っているか分からないです。
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