Sleeping Legend ~もしSAOにユウキがいたら~ 作:ジンクルタニ
今回は結構原作ベースなので、ユウキが出てこないところは流し読みでどうぞ。
虚空に自ら身を投げ出した黒猫団のリーダー、ケイタが最後に発した言葉。
「ビーターのお前が、俺達に関わる資格なんて無かったんだ!」
その言葉が頭の中をこだまする。そして、モンスターに囲まれたダッカー、ササマル、テツオの3人が悲鳴をあげながら体をポリゴン片へと変えていく。最後にサチが右手をこちらに伸ばしながら痛いほどの信頼を瞳に浮かべ、口を動かして何かを呟くとその体をポリゴン片に変える…
そこでハッと目を覚ました。ここ最近眠ると必ずこの夢を見る。
これは大体半年前のこと。ギルドホームを買いにケイタが上の層へと転移した後、残った5人で家具代を稼ごうとなった。そして入ったのがいつもの狩場よりも1つ上の層の迷宮区。マージンは十分とっていたので狩りは順調だったのだが、そこはトラップが多く攻略組にも多数の犠牲が出た場所。
昔、ユウキと隅々まで探索した筈のダンジョンで見たことの無い隠し扉を発見し、その扉を開けると中には宝箱が。俺の静止の言葉も届かずダッカーが開けるとアラームが鳴りだした。それと同時に扉が閉まり、モンスターが大量にポップする。いわゆるアラームトラップというものだった。
さらに運の悪いことにそこはトラップの中でも最悪の部類に入るクリスタル無効空間。今まで隠していた上位ソードスキルを使ってモンスターを倒していくが、アラームを止めることが出来ずに更に大量のモンスターをポップさせてしまう。
モンスターの波に飲まれ、1人また1人と死んでいく黒猫団のメンバー。トラップ部屋を出たとき、俺の体力は半分を少し切っただけだった。
その後いつもの宿屋で鍵を持ってメンバーを待っていたケイタに事情を話すと彼は一言俺を罵った後、外周へと走っていきその身を虚空に投げ出したのだった。
俺にはその結末を回避することが出来た筈だった。たった一言、自分のレベルを言うだけで。パワーレベリングを行うだけでなく情報を分け与えることで。そもそも関わらないことで。
きっと気持ち良かっただけなのだろう。自分より弱いプレイヤーに頼りにされ、守っているという状況が。そんな俺の自己満足に、黒猫団は殺されたのだ。
プレイヤーを蘇生することが出来る。それを知ったのは約2週間前のこと。クリスマスのイブの24時に背教者ニコラスというモンスターが現れ、プレイヤーを蘇生できるアイテムをドロップする。という情報を各層のNPCがこぞって口にし始めたのだ。
この情報を知り、今日まで狩場を巡って笑い者になりながらも狂ったようにレベルを上げた。死んだ者の意識は保留エリアに移動させられ、最終的にゲームがどうなるかを待っている。そんな頼りない仮説にすがり付いて。
そうであればサチを蘇生し、最後の言葉を聞き出せる。それがどんな罵倒でも受け止めなければいけない。そして、今度は「君は死なない」ではなく「君は俺が守る」と言うのだ。
だって、そのために強くなったのだから。
そしていつものように夜に狩場で籠っていると近くにプレイヤーが現れた。
戦闘を開始したらしく雄叫びが聞こえてくる。
「ぜやぁ!おりゃ!このぉ!まだまだ!」
その声を聞いて俺は咄嗟に回れ右して駆け出そうとしたのだがその肩を誰かに捕まれる。
「おいおいそれはあんまりなんじゃねぇか、キリトよ」
「…ほっといてくれ」
振り向くと悪趣味なバンダナを着けたクラインが6~7人の仲間と一緒に立っていた。
「ちょっと話をしようぜ、キリト。お前らは先にやっててくれ。良いか、円陣を崩さずにサポートを意識するんだぞ。危なくなったら遠慮なく呼べ」
うす、おう、と返事が聞こえ、足音が段々と遠ざかっていった。
するとクラインは日本刀を外して地面に置くとどかっと俺の前に座り込んだ。
「ユウキちゃんはどうするつもりなんだよ。お前ェが消えてからずっとあんな感じでレベリングしてんだぞ。オレは正直痛々しくて見てらんねぇよ」
「関係無いだろ」
「関係ならあんだろうが。ユウキちゃんが黒猫団に入ることを薦めたんだろ。それでキリトが傷ついたのはボクのせいだって自分を責めてたんだぜ。お前ェが一言何か言ってやればそれだけで救われるんじゃねぇのか」
「あいつにかける言葉なんて無いさ。お前も無理して演技なんかしなくて良いぜ。あいつに頼まれたんだろ、ニコラスを倒す協力を取り付けることを」
「な、何を…」
「知ってるんだぜ、アルゴから俺がクリスマスイベの情報を買ったっていう情報ををお前らが買ったってことを」
「確かに俺は昔死んだダチがいてそいつの為にクリイベを攻略したいと思ってるさ。けどなぁ、ユウキちゃんは純粋にお前のことを心配してんだよ」
「そんな訳ないだろ。だって俺はもうパーティーのメンバーでも何でもない赤の他人だ。それにお前も見ただろ、あいつの連れが死ぬ所を」
クラインが数秒絶句する。その間に立ち上がって狩場を離れる準備をする。
「話は終わりだ」
後ろを向いて歩きだした俺にクラインの声が届いた。
「見損なったぞ、キリト!そんな事で命を落としてもお前ェには蘇生アイテムは使わねぇかんな!」
クリスマスイブの23時30分頃、俺はイベントが起こるエリアより1つ前のエリアに着いた。サチを蘇生させる為の戦いで死ぬなら、それは俺に唯一許された死に方なのではないか。もし生きてボスを倒せれば蘇生アイテムは現実のものになるだろう。
そんな事を考えながら最後の10メートルを歩きだそうとすると背後で複数のプレイヤーが転移する音が聞こえてきた。思わず飛び退き、剣に手をかける。現れた集団はおよそ10人。先頭に立つのは、クラインだった。
赤の鎧で統一された男の集団から1人の黒ずくめのプレイヤーが前に出てきた。
「久しぶりだね、キリト」
「…つけてたのか」
「クラインさんの所に頼んで追跡をね」
「なぜ俺なんだ」
「ボクはキリトが1人でボスに挑んで死んじゃわないか心配だったから…。ねぇキリト、ソロ攻略は止めようよ。今ならクラインさんのギルド風林火山のメンバーもいるから絶対勝てるよ」
「俺だってお前を死なせたくねぇんだ。蘇生アイテムはドロップした奴の物で恨みっこ無し。それで良いじゃねえか」
「それじゃあ、意味無いんだよ…俺1人でやんなきゃ…」
全員切るか?そんな思考が頭をよぎる。右手を震わせて剣を抜くか抜かないかのギリギリのせめぎあいを続けている俺を、クラインとユウキは悲しそうな目で見ていた。
第3の侵入者が現れたのはまさにこの瞬間だった。しかも30人は居るだろう。
「お前らもつけられたみたいだな」
「青竜連合かよ。あいつらレアアイテムのためならオレンジにもなるのも辞さねぇらしい」
「キリト 、行って!ここはボクが食い止めるから!クラインさんも行ってください!お願いします!」
「1人で残せるかってんだよ。行けっ、キリト!此所はオレらが食い止める!良いか、ユウキちゃんの前で死んだら絶対に許さねぇぞ!」
「…」
俺は礼の言葉を一言も言わずに、クライン達とユウキに背を向けて最後の転移を行った。
上空に有ったソリから飛び降り、雪を蹴散らして着地したそのモンスターは背丈がオレの3倍、人の形をしているが腕が異常に長く、前屈みになっているのもあって地面に擦りそうだ。せり出した額の下で赤い瞳が輝き、ネジくれた灰色のあごひげを腹部まで伸ばしている。
そんな怪物が赤と白の衣装に身を包み、右手に斧、左手に頭陀袋ぶら下げているのがなんともグロテスクだった。
そんなボスの意匠はもうどうでも良かった。イベントの口上を述べるのかニコラスが口髭を動かそうとする。
「うるせぇよ」
そう呟いて剣を抜き、一気に駆け出した。
キリトについて捕捉をすると、ユウキが嘘をつけないと言っていた事もあって、原作よりかなり拗らせてます。
サチに君は死なないと言ったのはユウキと狩場に行かなかった日で、それから狩りが遅くに行われるようになったのはサチを安心させて寝付かせてから来ていたからです。
本文中に書きたかったのですが、文章力が足りずに後書きでの報告となってしまいました。