Sleeping Legend ~もしSAOにユウキがいたら~ 作:ジンクルタニ
原作とちょっと違うのですが後書きで解説したいと思うのでさらっと読んでください。
シュミットをアスナが無事に呼び出せたようなので青竜連合の本部に向かう。
「ユウキ、今回のPKってどうやったとおもう?」
黙っているとさっきの事を思い出して落ち着かないので質問を投げ掛けたところ、意外な答えが帰って来た。
「うーん、どうやってっていうのはわからないけど1つだけ違和感…?が有るかな」
「どの辺りにだ?」
「昨日カインズさんが死んじゃった時に何かが違った気がするんだよね。具体的にどこが違うかはわからないけど…。そういうキリトはどうなの?」
ユウキに言われて昨日の事を思い返してみるがよくわからない。取り敢えず考えていた案を出す。
「大まかに3通りだな。1つ目は正当なデュエルによるもの。2つ目は既知の手段のかけあわせによるシステム上の抜け道。3つ目は圏内の効果を無効化する未知のアイテムやスキルによるもの。…だけど3つ目は無いだろうな」
そこまで言うとユウキが首を傾げた。
「確かに3つ目だと犯人を捕まえるしか無くなっちゃうし違う方がいいけど…。どうしてそう言いきれるの?」
この理由については茅場明彦に憧れただけに確信が持てる。
「フェアじゃないからだな。認めるのはちょっと業腹だけど、SAOのルールは基本的にフェアネスを貫いてる。圏内殺人なんてこのゲームが認める筈が無いんだ」
「うーん、言われてみれば確かにそうかも?」
ユウキも確信とまでは行かないが言ってる事はわかったらしい。
どんな検証をしなければいけないか話し合っていると、青竜連合の本部に着いた。
正門に居た人に部屋まで案内してもらうと、中ではアスナがシュミットに事件の概要を丁度話し終わったところだった。
「それでは行きましょうか。私達が護衛します」
「あ、あぁ」
明らかに体の強張っているシュミットを連れてヨルコの宿に向かう。幸いシュミットが襲われることもなく、無事に宿屋に入ることが出来た。
ヨルコが泊まっている部屋の中に入ると、そこには服を何枚も着こみ小さくなって椅子に座っているヨルコが居た。
話し合いが出来るように机を挟んだ反対側に椅子にシュミットを座らせ、自分は入り口の横の壁際に立ち、万が一誰かが入ってきたときに対応出来るようにしておく。
座ってからもそわそわとして落ち着かないシュミットが話を切り出した。
「グリムロックの武器でカインズが殺されたってのは本当なのか?」
ヨルコは小さく頷いて答える。
「本当よ」
感情を抑えきれないといった様子でシュミットが勢いよく立ち上がる。
「何で今さらカインズが殺されるんだ。あいつが…あいつが指輪を奪ったのか…?グリセルダを殺したのはあいつだったのか?はぁ…グリムロックは売却に反対した3人を全員殺す気なのか?俺やお前も狙われているのか?」
途中から声の勢いを無くし、そのまま座り込んでしまった。一方ヨルコの方もいかにも元気がないようで小さな声で話す。
「グリムロックさんに武器を作ってもらった別のメンバーの仕業かもしれないし、もしかしたらグリセルダさん本人の復讐なのかもしれない」
そこでシュミットが息を呑むのがわかった。
「だって圏内で人を殺すなんて事、幽霊でもない限り不可能だわ」
そこまで言うとヨルコはおもむろに立ち上がった。顔を両手で覆い、ポツポツと喋り始める。
「私、夕べ寝ないで考えた。結局のところ、グリセルダさんを殺したのはメンバー全員のせいでもあるのよ!あの指輪がドロップした時投票なんかしないでグリセルダさんの指示に従えば良かったんだわ!!」
かなり精神的に追い詰められているようで段々と声が大きくなっていき、最後には絶叫となっていた。
しかしそこまで言うととたんに力が抜けたかのようにフラフラと窓際へと後退っていく。力なく窓枠に腰掛けると再び話し始めた。
「…ただ1人、グリムロックさんだけは、グリセルダさんに任せると言っていた…。だから、あの人には私達全員に復讐してグリセルダさんの敵討ちをする権利が有るんだわ」
シュミットがわなわなと震えながら頭を抱える。
「冗談じゃない…冗談じゃないぞ。…今さら、半年も経ってから何を今さら!」
俯いたままのヨルコに再び椅子から立ち上がって言い寄る。
「お前はこんな訳のわからない方法で殺されて良いのか!」
その時だった。ヨルコの方から何かが刺さる音がし、何かが飛んで来たかのようにヨルコが少し仰け反る。
襲撃者を確認しようと後ろを向いたヨルコの背中には黒いスローイングダガー。ふらりと倒れていき、窓から落下していく。すぐさま駆け寄り手を伸ばすが届かない。窓枠から下を見る。地面にぶつかり、パシャッとささやかな音をたててポリゴン片へと変わったのが見えた。
あり得ない!あんな小さなスローイングダガーが一瞬で中層プレイヤーのHPを削り切れる筈がないし、システム的に保護されている宿屋に物を投げ込むなんて事出来る訳がない!
とにかく襲撃者を捕まえなければ。窓の外を見渡すと屋根の上に人影が見えた。隣の家までは5m。窓から飛び出そうとした時、背中を誰かに掴まれた。
「離せ!犯人を捕まえられるのは今しか無いだろ!」
「キリト!」
振り向くとそこには涙目になっているユウキが居た。
「無茶しないって約束したじゃん!キリトでもあのダガーが刺さったら死んじゃうかもしれないんだよ!無茶…しないでよ…」
ユウキの手は力なく震えていて、両膝をつき、すがりつくように背中を掴んでいる。その手を振り払うことなんて俺には出来なかった。
その間に襲撃者は転移で逃げていってしまったようだ。
部屋に残されたシュミットのフルプレートメイルが鳴らす、カチャカチャという音しか部屋には無かった。
背中を掴んでいた手をゆっくりとほどいてしゃがみ、俯いているユウキの頭に手を乗せる。
「止めてくれてありがとな、ユウキ。もうあんな無茶はしないから。許して…くれるか?」
ゆっくりと手を動かすと、その下でユウキの頭が小さく頷いたのがわかった。
手を離して立ち上がると、シュミットが不意に呟いた。
「…違う」
「違うって…何が?」
質問したアスナの方も向かず、椅子の上に縮こまって答える。
「違うんだ。あれは…グリムロックじゃない。グリムロックはもっと背が高かった。それに、それに…」
続けられた言葉は俺たちに大きな衝撃を与えた。
「あのローブはグリセルダの物だ。彼女が、俺たち全員に復讐しに来たんだ!」
そこまで言うとタガが外れたかのように笑いだした。
「ははは…幽霊だったら圏内でPKすることなんて余裕だよな。ははははは…」
弾かれたように上体を仰け反らせているシュミットに、抑えた声を投げ掛ける。
「幽霊なんかじゃない。2件の圏内殺人には何かシステム的なロジックがあるはずだ…絶対に…」
しかし、笑いが収まったシュミットは幽霊に怯えきっており、ただただ頭を抱え込んでいた。
「とにかく…俺を青竜連合の本部まで送ってくれ…」
シュミットを臆病だと笑うことが出来る者は誰1人としていなかった。
シュミットを送り届ける途中、グリムロックの背格好や特徴、お気に入りで殆ど毎日かよっていたという酒場を教えてもらった。
酒場の前の家に入り張り込みをしているが、それっぽい特徴の男は見つからない。
すっかり日も落ちきり、お腹が空いてきた。何か買ってこようかと提案しようとした時、俺とアスナの間に座っていたユウキが先に口を開いた。
「ボク、実はご飯用意してきたんだけど…食べる?」
ユウキって料理スキル取ってたか?そんな疑問をよそに、ユウキが取り出したのは3つの黒パンだった。
「…何で黒パン?」
首を傾げる俺とアスナに黒パンを渡すと、ユウキが更に何かを取り出した。
「じゃーん!クリーム!せっかく3人が揃ったし、また一緒に食べたいって思ってたんだぁ」
1層での事を思い出したのか、アスナの顔が少し赤くなっているのだが構わずに話し続ける。
「はいアスナ。使って使って」
「あ、ありがとう。ユウキ」
アスナがクリームを使ってユウキに返す。
「はい、キリト」
「よくまだ持ってたな…」
差し出されたクリームを使いユウキに返すと 、ユウキがワクワクしながらクリームを使い始めた。
黒パンに少しクリームを塗ったその時、クリームを入れた小さな壺がパシャというささやかな音と共にポリゴン片となって消えていった。
「あーーーー!」
壺を持っていた手を見つめたまま、ユウキが絶叫がする。
「ユウキ、その、良かったら俺のと交換するか?」
「クリームはまだ有るから大丈夫」
なぜ絶叫を上げたのかがわからず再び首をかしげていると、顔を上げたユウキの顔は喜びに溢れていた。
「ボク、圏内事件のトリックがわかっちゃったかも」
ここまで読んでくださりありがとうございます。
今回の話ではアスナさんが弁当を持ってきてくれて居ないのですが、これはキリトくんに対する好感度が原作よりも低い事。そのために女子力を原作よりも磨いておらず、料理スキルがそこまで高くなかった事に原因があります。
クリームの壺が壊れるシーンなのですが、アニメではアスナがクリームを使用した後壺が消滅していました。そのシーンを都合よく解釈し、中身が無くなったときに壺が消滅するという事で書かせて貰いました。
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