Sleeping Legend ~もしSAOにユウキがいたら~ 作:ジンクルタニ
圏内事件終わります。
ユウキにフレンド欄からヨルコの追跡をしてもらう。
転移して目的の階に着いたら真っ直ぐ目的のエリアに向かう…のではなく門を出てすぐに曲がる。
「キリト、そっちじゃないよ!」
「いや、こっちで良いんだ。とにかく付いてきてくれ」
いぶかしみながらもついてくるユウキ。全力で走って30秒もしない内に見えてきたのは、柵に囲まれた草原とその側にたてられた横に長い建物。
「…牧場?」
「ああ、そこの厩舎に用が有るんだ」
益々怪訝な顔になるユウキだがこれは説明するよりも実際に見た方が速い。
厩舎に入ると中にはお爺さんが1人で馬の世話をしていた。
「馬を1頭貸してくれ。2人乗りだ」
話しながら入り口に備え付けられた箱に手を置き、レンタル代のコルを支払う。
「そうじゃなあ…こいつを連れて行くと良い」
コルが支払われたのを確認し、鞍と手綱を持ってお爺さんが外に出る。口笛を鳴らすと1頭の大きな黒馬が走ってきた。お爺さんが馬の腹を数回叩くと鞍と手綱が勝手に装着される。
「ボク、馬に乗ったこと無いんだけど…」
「鞍にしがみついててくれれば大丈夫…だと思う。馬に乗ってる間は余裕がないからナビは頼んだ」
「う、うん」
先に馬に乗り、ユウキに手を差し出して引っ張り上げて前に座らせる。
「対毒ポーション持ってるか?とにかく今のうちに飲んどけ」
対毒ポーションを取り出し飲んでおく。ユウキも飲み終わったのを確認し、ユウキの両脇から手綱を握り、馬の腹をかかとで軽く蹴り発進させた。
「うわぁ、結構揺れるね。でも、これなら走った方が速くない?」
「SAOの馬はこんなもんじゃないぜ。よし、スピード上げるぞ!」
「わわっ」
馬の腹を先程よりも強く蹴ると馬が走り始める。前に乗ったのが実はβテストの時。その時よりも上層に居るせいかスピードが段違いに速く、今にも制御を失いそうなのだが言わない方が良いだろう。
夜になり薄暗い森に突っ込む。ユウキがマップを見ながらナビをしてくれるのを聞き、木々の間を駆け抜け倒木を飛び越えていく。
途中何度も落ちかけながらもほぼ直線に走ること4分。目的の場所に着いた。そこは森の中にある小さな丘で中心にはねじくれた枯れ木。揺れる視界の中よく見てみるとその木の下でシュミットと思われるフルプレートアーマーに身を包んだ男が倒れており、首に肉切り包丁を当てられていた。
あんな趣味の悪い武器を使っているのはただ1人。レッドギルド、ラフィンコフィンのリーダーであるPoH。
「だめーーー!!」
「お、おい!大声だしたらっ」
PoHが警戒して飛び退くのを尻目に慌てて手綱を引っ張るがすでに遅い。馬が完全にパニックへと陥り制御を失った。急に止まったと思ったら後ろ足で立ち上がり俺達を振り落とす。
ユウキは俺の前に乗っていたわけで、後ろに振り落とされるということは…
「ふぐっ」
「ご、ごめん!」
ユウキがお腹の上に落下してきた。すぐさま立ち上がり一言謝るが、その目はラフコフのメンバーから離していない。飛び退いたPoHの横に立つ男は2人。俺も立ち上がり索敵スキルを発動するが、ラフコフの1人に剣を突きつけられているヨルコとカインズ以外に他のプレイヤーは居ないようだ。
「ギリギリ間に合ったの…かな」
近くで止まっていた馬の尻を叩いてレンタルを解除する。解放された馬は厩舎の方に走っていった。
「よう、PoH。久しぶりだな。まだその趣味悪い格好してるのか」
「…貴様に言われたくねぇな」
俺とユウキなら負けることはないと思うのだが奴らを拘束する手段がない。このまま引いてくれれば良いのだが…。
「俺達を相手にするか?10分もすれば援軍が駆けつけるぞ。俺たちだけでも十分だとは思うけどな」
暫しの静寂。それを破ったのは小さな舌打ちだった。PoHが巨大な肉切り包丁を下ろして振り替える。
「行くぞ」
取り巻きの2人もそれぞれが持っていた武器を下ろし、薄暗い森の中へと消えていった。
PoH達が完全に索敵スキルに引っ掛からなくなったので構えていた武器をしまう。俺が武器をしまったのを確認してユウキも武器をしまった。
アスナにPKが去った事をメールで伝え、ついでに伝言を残しつつヨルコの方に向き直る。
「ヨルコさん、無事で良かった!あの時、ものすっごくビックリしたんだから」
「全部終わったら、きちんとお詫びに伺う予定だったんです。といっても、信じてもらえないでしょうけど」
ヨルコが申し訳なさそうに苦笑した。
シュミットを信用して良いのかわからなかったのでヨルコにシュミットが関わっていたかを聞くと、指輪の代金の半分で回廊結晶の出口をグリセルダが泊まっている部屋に設定していた事がわかった。
嘘はついていない様だし、睡眠PKが流行る前ならリーダーがPKされるとは考えていなかっただろう。手持ちの解毒ポーションをシュミットに渡して飲ませる。20秒もしないうちに麻痺もとれたようでシュミットが鎧をガシャガシャ言わせて立ち上がり、喋れるようになったとたんにこちらに質問を投げかけてきた。
「助けてくれたのには礼を言うが、どうしてわかったんだ?」
「わかったって訳じゃない。あり得るって思ったんだ。おかしいと思ったのは30分前…」
結婚のシステムを説明し、指輪事件について俺達が辿り着いた真相について話す。
話が終盤に差し掛かった頃、アスナからメールが届いた。
「メールを送って確認したんだけど…っとアスナからだ、ちょっと代わってくれ」
ユウキに説明を代わってもらいながら届いたメッセージを確認したところ、グリムロックを捕まえたと書いてある。
「嘘よ、グリムロックさんが…何で?それに、私たちを…始末しようと…」
返信を打ち終わるとユウキが指輪事件の犯人が誰なのかを言った所らしく、事件の当事者3人が目を丸していた。
その時、オンにしていた索敵スキルに2人のプレイヤーが引っ掛かった。
「詳しい事は、直接本人に聞こうか」
木々の間から長身の男性プレイヤーとアスナが現れた。
連行するときにアスナのカーソルがオレンジになっているかもしれないと思っていた俺は未だグリーンであるカーソルを見て安堵する。
はっきりと2人の人相が見えるところまで来た時、ヨルコ達が息を飲むのがわかった。どうやらグリムロックで間違い無さそうだ。
「なんでなの、グリムロック。なんでリーダーを…奥さんを殺してまで指輪をお金にする必要があったの」
涙ながらの絶叫に、しかしグリムロックはかすれた声でく、く、と笑う。
「…金?金だって?」
グリムロックがウィンドウを操作し始め、アスナ、ユウキ、俺の3人は咄嗟に剣の柄に手を伸ばした。
身構える俺たちの前で取り出されたのは、金貨の入った袋。落ちたときの音でかなりの金額が入っていると予想できる。
「これは、あの指輪を処分した金の半分だ。金貨1枚だって減っちゃいない」
「え…?」
困惑する俺たちを一通り見ると、グリムロックは乾いた声で言った。
「金のためではない。私は…私は、彼女をどうしても殺さなければいけなかった。彼女がまだ、私の妻である間に。…グリムロック、グリセルダ。頭の音が同じなのは偶然ではない。何故なら、彼女は現実世界でも私の妻だったからだ」
その独白はこの場に居る全員に大きなショックを与えた。ユウキとアスナが鋭く息をのみ、俺は小さく口を開けた。
「このデスゲームに囚われてから、可愛らしく従順であった彼女は変わってしまった。彼女のどこにそんな才能があったのだろうか。戦闘や状況の判断において彼女は私よりも遥かに優れていた。それだけではない。私の反対を押しきってギルドを設立し、メンバーを鍛え始めた。現実世界に居たときよりも生き生きとし、充実した様子で…。それを見て確信したのだ。私の愛したユウコは消えてしまったのだと」
不気味に笑う男のおぞましい独白はまだ続く。
「もし、現実世界で別れを切り出されるなんて事があったら、私はその屈辱に耐えきれない。それならば、合法的殺人が可能な今の間に永遠の思い出に閉じ込めたいと願った私を誰が責められるだろう…?」
あまりにも身勝手な理由に誰もが沈黙しているなか、1人ユウキが声を出した。
「屈辱…?自分を好きでいてくれて、これからだって一緒に生きていける…そんな人を…自分の言うことを聞いてくれなくなったから?そんな理由で殺しちゃうなんて…命を、何だと思ってるんだ!」
ユウキを見ると服の裾をギュッと握りしめ、涙を湛えた目でグリムロックを睨み付けている。もしかすると、ユウキがこの世界で初めて見せたかもしれない激情。その怒りは、しかしグリムロックには届かなかったようだ。
「そんな理由?違うな、充分すぎる理由だ。君にもいつかわかるさ、探偵さん。愛情を手に入れ、それが失われようとしたときにね」
その瞬間、ユウキの表情に陰りが見えた。俺の右手が背中の剣に走りそうになり左手で咄嗟に押さえる。
「ボクは絶対に…そんな事にはならないから…」
先程の勢いを失い、途端に弱々しくなったユウキをアスナが背後から抱き締める。
「大丈夫、ユウキがそんな人じゃないってわかってるわ。それよりもグリムロックさん、間違っているのはあなたよ」
ユウキがそんな人じゃないのは俺にもわかる。だからこそ、ここで弱々しくなってしまった理由がわからない。困惑する俺を置いて状況は進んでいく。
「あなたがグリセルダさんに抱いてたのは愛情じゃない。ただの所有欲だわ。グリセルダさんが殺されるときまで決して外そうとしなかった指輪を、貴方はもう捨ててしまったのでしょう」
グリムロックが左手の手袋を脱ごうとしない以上そういうことなのだろう。
動かなくなったグリムロックに対し、ヨルコ達が処遇を任せてくれと言っていたので任せる。
3人が礼を告げつつグリムロックを確保して丘から立ち去っていくのを見送り続けた。
そうして丘に残されたのはオレとアスナ、そしてどことなく元気がなさそうなユウキだった。
暫くそうして立ち尽くしていたのだが、最初に沈黙を破ったのはアスナだった。
「…ねぇ、君は。もし仮に誰かと結婚した後に相手の人の隠れた一面に気がついたとき、君ならどう思う?」
ユウキの事を考えていたところに全く予想していない質問が飛んできた。自分なりに考えてみるも、出てきた答えは凄く浅いものだった。
「ラッキーだったって思うかな。だって結婚してるんだから今までの面は好きなわけだろ。だから、新しい面にも気がついてそこも好きになればに…2倍じゃないですか」
小学生のような理論だったが、アスナは一瞬眉を細めたあと首を傾け、小さく微笑んだ。
「ふうん、変なの」
「変なのってお前…」
微笑んでいた顔が急にムッとする。
「そのお前っていうのやめてくれない?普通にアスナって呼びなさいよ。代わりに私もキリトくんって呼ばせてもらうから」
「りょ、了解」
一気に捲し立てられ、俺は首を上下に振ることしかできなかった。
「また今度打ち上げでもしましょう。そうね、ユウキの買い物が終わった後にキリトくんに来てもらうのが良いかな」
そう言ってアスナが丘を降りていくので付いていこうとすると、ユウキが袖を掴んで止める。
何だと思って振り替えると、少し離れた丘の北側。木の根本にぽつんと立つ、薄い金色に輝く半ば透き通った1人の女性プレイヤーが見えた。
細身の身体を最低限の鎧で包み、細身の長剣と盾を装備した女性がこちらに微笑んでいる。髪は短く顔立ちは美しいが、その目には自分の剣でこのデスゲームを終わらせるという強い意志が秘められていた。
「あなたの意思は、俺達が引き継ぐよ。いつか必ず、このデスゲームをクリアしてみせる」
「うん、約束するよ。だから見守ってて欲しいな。…グリセルダさん」
「2人とも、行かないの?」
俺達が付いてきていない事に気が付いたアスナが戻って来た様だ。
一瞬アスナの方を見てから視線を戻すと、そこにはもうグリセルダさんの姿は無かった。ユウキと顔を合わせて、それから振り向く。
「今行くよ」
「明日から、また頑張らなきゃね」
そう言って笑うユウキの笑顔はいつもと同じように見えたのだが、何故か俺の胸に小さな刺を残すのだった。
更新が遅くなってすいません。
配分をミスってギリギリいつもの2倍いかないくらいの中途半端な字数を残してしまったお陰で展開を考えるのに時間がかかってしまった…。
字数が多く私のガバも多いかもしれないので気がついたら指摘していただけると嬉しいです。
圏内事件終わった解放感ちょっとヤバイですね…。展開を考えるのが難しかっただけに尚更…。
次回からオリジナル展開になると思います。
評価、感想、お気に入り登録、ここがわからないよーっていう質問等お待ちしています。