Sleeping Legend ~もしSAOにユウキがいたら~ 作:ジンクルタニ
デザートまで食べて一息ついたので気になっていたことを尋ねる。
「その髪どうしたんだ?」
長髪にまだ馴れていないのか髪の毛の先をいじりながらユウキが答える。
「ああ、これ?昔は髪長かったんだってアスナに話したらじゃあ伸ばしてみたら?って言われてね」
「せっかくどんな髪型にでもできるのよ?色々試さないと損じゃない」
「髪が長かったら戦闘の邪魔には…まぁアスナをみてれば大丈夫か」
余計なことを言うなと向けられた視線に慌てて言葉を取り下げる。
「キリトくんも伸ばしてみたら?顔も中性的だし結構似合ったりして」
「あ、それボクも見てみたいかも!」
「いや、伸ばさないからな」
詰め寄ってきたユウキの肩を押して座り直させる。
「色はどうして変えたんだ?」
「ええっと、それは…」
ユウキが言いにくそうにしていると、アスナが変わりに答えた。
「女の子の2つ名が黒の騎士なんて可哀想じゃない。髪の色を変えたら全身真っ黒にはならないし、2つ名も変わるかなって」
黒の騎士ってちょっとカッコいいと思っていたのだが、確かに女の子につける物では無いかもしれない。それに、ユウキの反応を見るにあんまり嬉しくない2つ名だったのだろう。俺がつけたわけでは無いとはいえ、黒ずくめだったのは俺のせいな部分が大きいので反省する。
「これからなんて呼ばれるんだろうな?紫の騎士ってゴロ悪いし」
「…別に2つ名なんて恥ずかしいだけじゃない。呼ばれないのが一番よ」
「それもそうだな…って、ん?」
腕に軽い衝撃が来たのでそちらをみると、ユウキがもたれ掛かって寝息をたてていた。
「おーい、大丈夫か?」
肩を軽く揺するが少し身じろぎしただけで目を覚まさなかった。
「いろんなところに連れ回し過ぎちゃったかな」
「うーん、一回寝ちゃうとなかなか起きないからな…。今日は解散でも良いか?」
「それは構わないけど、ユウキはどうするの?」
「おぶって帰るよ。何でかはわからないけど俺が触ってもハラスメントコードが出ないらしいし。接触回数とかが関係してるんじゃないかってみてるけど」
「ふーん、そうなの」
会計を済ませて店を出る。転移門前広場まで行く途中で、アスナが一向に起きる気配の無いユウキを心配するように尋ねた。
「最近ちゃんと寝てる?私が言うのもなんだけど2日前線を離れたからって攻略のペース上げすぎじゃない?」
「いや、最近はペース落としてるくらいだし…。おかしいと思うか?」
眠りに落ちるのが急すぎる。省略した部分はアスナも感じていた様だ。
「私みたいに倒れた感じじゃなかったからそういう体質?ってこともあると思うけど」
「50層突破した辺りから時々こう急に寝るようになってさ。だから元々の体質では無い筈なんだけど」
心当たりはある。
丁度50層を越えたタイミングでユウキが見つけた二刀流。実際に試そうとなり両手に剣を持って敵に向かっていった彼女だったが、5分もしないうちに剣を投げ出していた。
真似してわかった事だが、右手と左手で左右バラバラに攻撃するのはかなり難しい。どちらかに意識が行きすぎるともう片方が全く機能しなくなるし、両手で攻撃するのに意識しすぎると踏み込みやからだ運びが適当な弱々しい攻撃しか出せなくなる。
ここのところ近くに誰もいない時は二刀流を積極的に使用しているため、精神的な疲労が溜まっているのだとは思う。
その分休憩は多めにとっているし敵が1体ずつしか出ないような場所を選んでレベル上げをするといった対策をとっていたのだが、その程度では足りなかったのだろうか。
そこでアスナの呟きが思考を遮った。
「まるで眠らされてるみたいね」
「眠らされるってそんな事ゲームマスターだったとしてもできないよ。せいぜい…」
そこまで言ってあり得ない話ではないことに気づく。眠らされるといってもシステムによる物ではなく、現実の体の話だ。現実の体を眠らされるとしたらどんな時だろうか。
「そんなに考え込まなくても大丈夫でしょ。ほら、ユウキだってこんなに気持ち良さそうに寝てるんだし」
考え込んでいたのがばれ、アスナがおぶられているユウキの頭を撫でながら明るく笑う。耳元から聞こえてくる寝息も規則正しく、苦しそうではない。
「そうだな」
顔を上げるといつの間にか転移門広場についていた。
「ユウキに今日は楽しかったって伝えといてね。じゃあ、次のボス戦で、かな?次も多分私が指揮を取るから。サボらないように」
「ああ、その時はお手柔らかに頼むよ」
宿まで戻り、ユウキをベッドに寝かしつける。窓から差す月光を浴びたその寝顔は髪型が変わったせいか物語に出てくるような、どこか現実離れした存在に思えてしまう。目を離したら夢のように消えてしまうかもしれない。そんな思いがふとよぎり、気がついたらユウキの手を握っていた。脈は無いものの温かく、緩く握り返してくるその手はユウキがしっかりと生きていることを伝えてくれる。
今までも何度か同じ事が起きてその翌日にはケロッとしていたので今日も大丈夫だろう。
「考えすぎ、だよな」
悪い方へ悪い方へと向かっていく思考を無理やり中断し、部屋から出る。
明日からもう少しユウキの体調に気を配ろうと誓い、その日は寝ることにした。
翌日、俺は強い後悔の念に駆られていた。その可能性にどうして気づかなかったのか。それが目に飛び込んだのは朝食をとろうとユウキを呼びに行った時だった。
『黒の剣士が寝ている美少女を宿にお持ち帰りしている所を目撃!!』
ユウキの部屋をノックしたら何故かアルゴが出てきた。まず、それはいい。だが、その突き出された右手に持っている紙が問題だ。
思わぬ事態に脳の処理が追い付かず硬直していると、アルゴがニヤニヤしながら肩を叩いてきた。
「とうとう嫌われものからお尋ね者になっちまったナ」
「……はぁぁぁぁ!?」
10分後、そこには爆笑しながら昨日の成り行きを説明しているアルゴがいた。
「感謝するんだぞ、キー坊。オレっちが気づいて止めなかったら今頃攻略組にこいつが流れてたんだからナ」
そう言って紙をピラピラさせているアルゴの言葉で最悪の事態にはなっていない事がわかり安心する。
「心臓に悪いからやめてくれ…」
どうやら昨日、アルゴの知り合いの情報屋が転移門広場で少女をおぶっている俺を見て追跡していたらしい。その情報が攻略組の情報を買っていたアルゴに流れ、流出するのを防いでくれたらしい。
「いやー、前からかわいいとは思っていたガ、服と髪型を変えるだけでユーちゃんがこんなに可愛くなるなんてナ。十中八九ユーちゃんの事だと思ってたけど、外見の話を聞いたときにちょっと不安になっちまったヨ」
「えへへ、その、ありがとう」
照れているユウキから特に体調が悪そうには感じなかった。仲良さげにしている2人を見ていると急にアルゴが振り向き、口許にニヤリと笑みを浮かべた。
「それよりキー坊。オレっちお腹すいちゃったナー。どっかの誰かさんの為に動いてたせいで朝飯もまだ食ってないんだよナー」
「…好きなだけお食べください」
結局そのまま朝食を取りに行くこととなり、朝食からフルコースを頼むアルゴを所持金の心配をしながら眺めることになったのだった。
ここまで更新を引っ張ってしまいすいませんでした。
色んな布石を起きつつ、どうやって回収しようか悩んでいたらこんなに時間が経ちました。げ、ゲームにうつつを抜かしていた訳じゃないよ?(行き詰まり過ぎてトレーナーになったりFPSでガスや爆撃ばらまいたりしてたなんて言えない)
こんな作者が書いているこの作品ですが、自分でもしっかりと終わりまで書ききりたいと思っているので長い目で見守って頂けると幸いです。
感想、評価、お気に入り登録などお待ちしております。