Sleeping Legend ~もしSAOにユウキがいたら~ 作:ジンクルタニ
キャラ崩壊してないか…?と書きながら不安に思っているのですが、温かい目で読み進めていただけると嬉しいです。
一旦離れようと体を動かすが、ユウキの服を掴む力が強くなったのでやめる。体を支えているだけだった腕をしっかりと抱き締めるように背中に回すと、ユウキがその口を開いた。
ポツポツと話されるユウキの過去をひとつひとつ受け止めていく。話はメディキュボイドに入る直前まで進んだ。
「姉ちゃんと約束したんだ。ログアウトしたらSAOでの冒険の話をするって」
「そっか…早く帰らないとだな」
こんなに小さな少女に振りかかった不運のなんと大きいことか。それを知っても何もできない自分に不甲斐なさを感じる。
「帰りたいよ…。でもね"ボクはもう長くないかもしれないんだ"」
話の流れから薄々勘づいてはいたが、それでも頭をガツンと殴られたような衝撃が走る。
焦っているのは分かっていたし、何かを悩んでいるのは分かっていた。けれども俺は、ユウキの事を真には理解していなかったようだ。
何も言葉にならない代わりに、抱き締める腕に力がこもる。
「最近、急に意識が無くなるんだ」
心当たりはある。アスナと食事に行ったときがそうだろう、もしかすると昨日の夜も意識が無くなっていたのかもしれない。
「夜になるとね、何をしててもいきなり3時間以上経ってるんだ。アラームをずっとかけてみたり起きるためにお裁縫をしてみたりしたけどダメでね。毎晩怖いんだ。明日の朝、ボクは生きているんだろうか。…意識を失ったまま、二度と目が覚めないんじゃないかって」
毎晩死の恐怖に晒される。それはどれだけの負担を彼女にかけていたのだろうか。
「死んじゃうのはもちろん怖いけど…それは、ずっと前から覚悟してたから。それよりも本当に怖いのはボクが病気で死んだと分かったら、キリトがどうなっちゃうか。攻略が間に合わなかったんだって分かったら、きっとキリトは無茶しちゃうでしょ?」
確かに、間に合わなかったせいと知れば無茶な攻略を続けることになったかもしれない。きっとそれは、黒猫団が壊滅したときよりも酷いのだろう。
「キリトが自分を追い詰めないように、距離を置こうって思ってたんだけど…。でももっと一緒に冒険がしたい。もっと一緒にいたい。でもそれはキリトにとって良くないことで…。そうやって考えながら別れる理由を探してる間にね、1人になるのが怖くなってくるんだ」
ユウキの体が震えている。ここまで思い詰めていたんだと思うと、後一歩踏み込む勇気がなかった自分が情けない。
「何もわからないまま1人フィールドを進まなきゃいけないのが怖い。戦ってる途中に何が起きても助けてくれる人が居ないのが怖い。話しかけても誰もいないのが怖い。何もできないまま、自分の生きた意味すら残せずに消えていくのが…怖い。」
吐き出された弱音は俺の心にも響いた。だってそれは俺が1層攻略後、ビーターを名乗ると決めたときに感じたものと殆ど一緒だったから。
「それでもね、ボクの為にキリトが心を傷つけるのだけは許せなかったんだ。何より、キリトがいなかったらボクの命は最初の日に終わっていたはずだから」
服を掴んでいた手が1度だけぎゅっと握られ、離れていく。軽く体を押され、抱き締めていた腕がほどける。
「そんなふうに思っていたんだけど、ふとした時キリトが傷ついてくれたら良いなって思ったんだ。傷ついて忘れないでいてくれたら、それは生きた意味が残ったって事でしょ?今だって心のどこかで泣き叫べばキリトが助けてくれる。ずっと一緒にいてくれるって思ってる。キリトが思ってるよりもボクってずっと最低なんだ。だからね、キリト。これ以上一緒に居たくないって言うなら今だよ?」
2~3度顔をぬぐった後にあげられた顔には、いつもの笑顔が張り付いていた。
きっとそれはユウキの作ってきた自分を守るためのもの。相手に心配されないように、踏み込まれないようにと作り上げてきた最後の一線。
過去は話してもらった。言うなれば今はその線に片足だけ入り込んでいる状態。足を引くか両足を踏み入れるのかが俺に託されたのなら、その答えは足を踏み入れる時点で決まっている。
「俺が一緒に行きたいんだ」
それは、1層を攻略した後にユウキにかけられた言葉。2人で一緒にアインクラッドを攻略する切っ掛けになった言葉。絶対についていくという決意が痛いほど伝わってきた、俺にとって特別な言葉。
ユウキは気づかないかもしれないが、返事はこれしかないと思った。
「同情なら良いんだよ?」
ユウキの顔は未だに笑顔が張り付いていて、そんなふうに笑っている彼女をそのままにしたくなくて。
「俺は、ユウキが好きだ」
ポロっとこぼれ落ちた言葉。しかし、吐き出してみたらユウキに対する感情はこれ以外にあり得ないと思えた。
「一緒に飯を食べ歩いているとき、美味しそうに食べている顔が好きだ。新しいフィールドや階層に来たとき、冒険するのが楽しみってな感じでわくわくしているところが好きだ。「…まって」ボス線で他の人を守ろうと必死になっている姿が好きだ。戦場では頼もしい「…まって!」」
俺の告白はユウキの大声で中断させられる。その顔は今にも泣き出しそうな程に歪んでいた。
「ボクの話を聞いてたの?ボク、傷ついて欲しいって言ったんだよ?」
「そうやって他人を傷つけるのが許せない所が好きだ」
「…っ!…泣きわめけば離れられないだろうなんて考えてたんだよ?」
「泣いていなくったって、いつでもユウキを支えたいって思ってる」
「ボクは…ボクは……ボクはもう、長くはないんだよ」
「時間が限られているからこそ、たくさんの思い出を作りたいし、作ってあげたいよ」
「ボクは…ぼ…くは……」
必死に反論を探そうとするユウキを再び抱き締める。
「俺の命だって、クリスマスの日に救われてる。だからこの命はユウキの物だ。別れの瞬間まで、君のために使わせてほしい。ずっと、一緒にいてほしい」
1度目を大きく開いた後、ユウキの顔が伏せられた。
そのまま抱き締めていると次第に胸元が濡れ、嗚咽が混じり始める。少女のしゃくりあげる声だけが響く洞窟の中、2人の両手は互いの背中にしっかりと回されていた。
「もう大丈夫、ありがとう」
ユウキ泣き止んだ頃には太陽が登り、洞窟の中は殆どが暗闇を取り戻していた。ゆっくりと抱擁を解き、正面で向き合う。
「気持ちは嬉しいし、キリトのことは好きだよ?でも、これが恋愛の好きなのかわからないから…。ごめんね?今すぐ答えは出せないけど…きっと間に合わせるから」
好きだと言った後、ずっと一緒に居て欲しいと告白じみた事をしていた事に遅れて気づく。メディキュボイドに入る前、学校で起きたことを考えると恋愛をしたこともないのだろう。返事を一生懸命に考えようとしてくれているが、せっかくユウキが悩みを吐き出せたというのに自分のせいで新しい悩みを増やしたくはない。
「俺が、必ず現実世界に連れて帰ってみせる。だから返事はこの鋼鉄の城を100階層まで駆け登った後に。それまでは攻略に集中してくれたら…って俺が言って良いセリフじゃないかな」
再びうつむいてしまったユウキは何かを、恐らくは100層まで行く事について考えているのだろう。
「ありがとう、キリト。多分ボクは攻略でいっぱいいっぱいになっちゃうと思うから。それよりも死んじゃうかもって弱気になるなんてボクらしくないよね。うん、100層まで一緒に行こう」
そう言って上げられた顔には先程までの弱々しい少女は消えていて、未来を切り開こうとする力強い光がそこにあった。
これにてようやくオリジナル展開を終わらせることが出来ました。これからのユウキはマザーズロザリオ後半の皆さんがよく知るユウキと心境が殆ど同じになるので安定?すると思います。
ちなみに剣に関しては心の温度で色々と解説していきたいと思っています。
アンケートに答えてくださった皆さん、ありがとうございました。次回は心の温度を書きたいと思うのですが、プロットが決まっていないのでどんなものが読んでみたいか再びアンケートをとりたいと思います。協力していただけると嬉しいです。
長い期間をかけてしまった2人の未来へでしたがいかがでしたか?感想をいただけると嬉しいです。
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