Sleeping Legend ~もしSAOにユウキがいたら~ 作:ジンクルタニ
55層北部のテーマは氷雪地帯。素材入手のフラグを立てるため、クエストが見つかったという村まで進んでいく。道中は特に何事もなく、十数分程で圏内に入った合図の音楽が流れ出した。一息つくと共に意識しないようにしていた寒さが込み上げてくる。
それはユウキも同じだったようでいそいそとウィンドウを操作してコートを羽織っていたのだが、リズベットはウィンドウを操作するそぶりも見せずその場で震え始めた。
見かねたユウキが声をかける。
「もしかしてリズ、防寒具持ってないの?」
「55層が氷雪地帯だなんて知らなかったのよ…」
一応コートの予備が無いかストレージを漁ってみるもののやはり1着しか無い。
「ユウキは予備持ってないか?」
「ボクも持って来て無いや。うーん、毛皮とか羽根さえあれば作れるんだけど、2人とも持ってないよね?」
2人して首を横に振る。
「毛皮とかって売ってるのかな…。良かったらボクの貸そうか?羽織るものくらいなら持ってきてるし」
「あたしは大丈夫だから、ほら、行きま…びえっくし‼︎」
明らかに大丈夫じゃなさそうなので自分のコートを実体化し投げ渡す。クエストを受けるのは長老の家らしいしそこまでならまぁなんとかなるだろう。這い寄ってくる冷たさを意識から追い出す。
「ありがと…あんたは大丈夫なの?」
「こういうのは意識の持ちようでどうにかなるんだよ。さて、長老の家はどれかなー」
少し何か言いたげであったが、結局コートの暖かさに抗えなかったのか渡したコートをしっかりと羽織ったのを見て村を歩き始める。
幸いにも長老の家はすぐに見つかった。周りよりも一回りだけ大きい家に入るとそこには白髭豊かなお爺さんが出迎えてくれた。頭の上にクエストを示すハテナマークが付いているのでこの人で間違い無いだろう。老人と向き合ってテーブルに着くとユウキが話を切り出した。
「すいません、お話を伺いたいんですけど…」
声をかけた瞬間ハテナマークがびっくりマークへと変わる。フラグがあまりにも早く立った事を訝しむ暇もなく老人が喋り始めた。
「おおっ!こんな老いぼれの話を聞きたいだなんてなんという物好き。しかし期待されたなら答えねばなるまいて。あれはわしが子供の時の話じゃ…」
「えっと、西の山にいるドラゴンについて聞きにきたんですけど…」
「この村は今でこそここまで大きくなったが当時はまだ家が5軒しか無くってな…」
「だめだ、聞こえてない…」
老人の話は長かった。少年期を超え青年期、熟年期と苦労話を話し続けられ全員グロッキーになっていると、そういえばといった様子でドラゴンについて話し始めた。事前に聞いていた話と違うところやフラグかないか気をつけて聞いていたのだが特に
ふらふらになりながら外に出ると外は日が沈みだしており、家々に降り積もった雪がオレンジ色に輝いていた。
「まさか、フラグ建てにこんなに時間がかかるとはなぁ」
「うぅ、2人ともごめんね?ボクの話しかけ方が良くなかったもかも」
「いや、あの感じだとどんな話しかけ方しても変わらなかったと思うぞ?」
「そうそう、そんなの気にしなくて良いわよ。それよりもどうする?明日出直す?」
「うーん、ドラゴンは夜行性だと言ってたしなぁ。それに山ってあれだろ?」
指差す先にあるのは白く険しい切り立った峰。とはいえアインクラッドの構造的に100メートルを超える高さにはならないし大した距離があるわけでも無い。登頂するのにそこまで苦労しないだろう。
「リズは仕事大丈夫?」
「今は急ぎの依頼も無いし行っちゃおうか」
「じゃあ決まりだな」
3人で顔を見合わせた後、夕陽に向かって並んで歩き出した。
竜のいる山は登ってみると大したことはなかった。傾斜はそれほどでもなかったし、道中出てくる敵で1番レベルの高い氷のスケルトン達はリズがガシャコンガシャコンとメイスで蹴散らしていく。数十分でたどり着いた山頂は地面からクリスタルの柱が何本も突き出し、星空を模した照明に照らされたそれらがキラキラと虹色に光る幻想的な光景が広がっていた。
「わぁ……!」
そう言って走り始めようとしたリズの襟元を引っ張って止める。
「ふぐ!…何すんのよ!」
ここから先はボスエリア。今まで出てきたモブとは異なりそもそもが複数パーティーで戦うことが前提であるし、いくらレベルに差があろうともこちらのHPバーを0にしてくるものだと覚悟していなければならない。この感覚は前線に出たことがないとわからないのかもしれないが、浮ついた気持ちのままで居ては欲しくなかった。
「転移結晶の準備をしといてくれ」
真剣な様子にあてられたようでリズはこくりと頷くと転移結晶をエプロンのポケットに入れた。
「ここからは危険だから俺が1人でやる。ドラゴンが出てきたらリズはユウキと一緒にそこらへんの水晶の影に隠れておいてくれ」
「なによ…私だってレベルはそこそこ高いんだから手伝うわよ」
だめだとつい反射で言ってしまいそうになった時、ユウキにちょいちょいと肩を叩かれる。振り返り目が合うと、ユウキはボクに任せてと言わんばかりに頷いた。
「手伝ってくれようとしたのはうれしいけど、ボクもリズには隠れていて欲しいな」
「ユウキまで…」
ユウキは今まで浮かべていた微笑を引っ込め真剣な顔になる。
「リズ、ボス戦っていうのは一瞬の油断でHPが全損するようなそんなの世界なんだよ。それこそレベルが高いからって油断して死んでいった人たちをボクは何人も見てきた。だからここはボク達ボス攻略のプロに任せてくれないかな?」
こくりと頷いたリズを見てユウキがその顔を綻ばせる。
「それじゃあ行こっか」
ユウキの号令で再び山を進み始める。
山の中央まで来てもドラゴンはまだ湧いていないようだったが、代わりに直径10メートルはあるような巨大な穴が俺達を出迎えた。壁面は氷に覆われ、垂直にどこまでも続いている。そこら辺に落ちている結晶のかけらを蹴り入れてみたが底にあたった音は聞こえてこなかった。
「深いなこりゃ」
「キリト、気をつけてね」
「おう、そっちこそ」
そんなふうに声を掛け合っていると、突如猛禽のような甲高い咆哮が夜の静寂を切り裂いた。
「こっち!」
ユウキがリズの手を引いて近くにあった大きな水晶の影に入っていくのを見届けてからドラゴンに向き合う。
「えぇと、ドラゴンの攻撃パターンは左右の鉤爪と、氷ブレスと突風攻撃だって。…気をつけて!」
サムズアップで返事を返すと同時にボスのポップが始まった。ゴツゴツとしたポリゴンのブロックが大量に湧いたかと思うとそれらが徐々に削られていき、やがて氷のように白い鱗を持った1匹の白竜の姿をとった。
剣を抜き放ち構えると、それを合図にしたかのように竜の顎門が大きく開く。
「ブレスよ!避けて!」
心配そうな声が後ろから聞こえてきたので、安心させるためにもブレスに対して真っ向から立ち向かうことにした。
片手直剣ソードスキル<スピニングシールド>を発動。手を中心に剣が風車のように高速で回りだし、ソードスキルの光も相まって緑色のラウンドシールドがそこに出現したかのように見える。
剣とブレスが激突。衝撃から察するにそこまで威力は高くないようだ。一部散らしきれなかった分に体力を少しづつ削っていくが、視界の端に見えるHPバーは減ったそばから回復していき常にほぼ満タンの状態を保てている。
(ブレスの威力はバトルヒーリングでなんとかなる範囲。この様子なら連続で直撃でもしない限り問題は無さそうだな)
ブレスが終わるのを見計らって一気に跳躍。5メートル程の高さでホバリングしている竜の眼前にまで迫ると、硬直している隙にバーチカルスクエアを発動。切り下ろしの反動で高さを維持する。クルクルと周りながら拡散してく四角い光の奥から反撃とばかりに鉤爪が迫るが、今度はバーチカルスクエアの1発目を鉤爪に当てて横にパリィ。残りの3連撃を足に叩き込んでから地面に着地する。今の1連の攻撃で3割以上の体力を削れたのを見るに耐久力も大したことが無さそうだ。
突風攻撃とやらは未だに見ていないが、取り敢えずはあの穴に落ちないようにだけ意識していれば大丈夫だろう。
着地した所に飛んでくるブレスをダッシュで避け、再び飛び上がってからレイジスパイクで突っ込んでいく。単発のソードスキルを中心にドラゴンを怯ませ続けていると、そう時間もかからずに赤ゲージまで削ることができた。
発狂モードに入った為か怯みが解除されたので一度着地し相手の行動を伺っていると、マップ上の見方を示す光点の1つが動いた。
「まだ出ていっちゃダメ!」
ユウキの焦ったような声とドラゴンが翼を大きく広げるのはほぼ同時だった。見たことのないモーションから突風攻撃が来ると予想し、剣を近くにあった水晶に突き立てる。翼が体の前で打ち合わされ、吹き上げられた雪がまるで壁のように迫ってくる。後ろを確認するとユウキが片手で剣を水晶に突き刺し、もう片方の手で吹き飛ばされそうになっているリズを捕まえていた。その表情には余裕がなく、大丈夫かと声をかけようとしたその時だった。
2人分の体重を支えていた剣が水晶から抜け、2人は体を宙に躍らせる。吹き飛ばされた先は先ほど見つけたあの深い深い大穴。死ぬかもしれないと思った時には既に剣を抜き飛び出していた。
2人の体が穴へと消える直前に剣が投げ捨てられ、少し遅れてリズの体が穴の外へと弾き出される。
「転移しろ!」
リズの横を通り過ぎる時にそれだけ言い残し、ユウキの姿を確認しつつ穴の中へと飛び込んでいく。1秒もたたないうちに追いつき、ユウキの手を掴んで自分の方へと抱き寄せる。
「掴まれ!」
体に両腕が回されたのが分かった瞬間、ヴォーパルストライクを発動。剣に引っ張られるようにして壁に近づき、剣を壁に突き立てる。ガクンとした衝撃と共に落下の勢いは弱まったが、完全に止まるとまでは至らなかった。金属を引き裂くような音と共に、剣で壁を削りながら落下していく。上からでは見ることのできなかった穴の底が見えてきた頃だった。シャラランと音がなったかと思うとユウキの片腕が体から外され、再びのガクンとした衝撃に襲わる。どうやらユウキも剣を壁に突き立てたようで落下速度が大幅に落ちた。
2人で壁を削りながらゆっくりと降りていく。40メートルほどそうして落下することでようやく穴の底に足が着いた。
キリトとユウキの2人で落ちる展開を作るの難しかった…
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