Sleeping Legend ~もしSAOにユウキがいたら~ 作:ジンクルタニ
タイトル通り1話丸々穴の中です。
穴の底は氷の上に薄く雪が積もっているだけの空間で何も無かった。周りを見渡してみるが横穴なども無く、垂直に切り立った壁がただただ聳え立っている。左上に見えるリズの体力も回復しきっているので、恐らく無事に転移できたのだろう。そんな風に状況把握をしているとユウキが口を開いた。
「ありがとう、キリト」
「ユウキを付き合わせることになったのは俺のせいだし気にしないでくれ。それよりこっちこそ、リズベットの事を助けてくれてありがとな」
「ボクが守るよって言っておいて危険な目には遭わせちゃったけどね」
バツが悪そうな顔でこめかみを掻いているユウキを見て、2人が飛ばされる前に何があったのか気になった。
「そういえば、どうしてリズを引き留められなかったんだ?」
「あの時は何が起きてもいい様に剣を抜いて待機してたんだけど、両手が塞がってたせいでリズが飛び出した時に咄嗟に手を伸ばせなくって。まずいって思って剣を片っぽ捨てて手を掴んだ頃には突風攻撃に巻き込まれちゃっ…あ!剣を回収しないと。ごめん、ちょっとあっち向いてて」
アイテムを落としたり無くしたりしてしまっても所有権が残っていれば、つまりは5分までなら全アイテムの実体化コマンドによって回収できる。ただし文字通り現在所有している全アイテムがその場にドロップするため、女の子の見てはいけないものが見えてしまわない様に後ろを向く。
ドサァっと背後で物がばら撒かれる音を聞きつつ取り敢えず脱出手段を探そうとした時、足元に何かが転がってきてコツンと音をたてて止まった。ユウキがいる方を見ないようにしつつ拾い上げる。それはどうにかサチを生き返らせようとして獲得した蘇生アイテム、〈環魂の聖結晶〉だった。あれは確かクラインに投げ渡した筈だったのだが、どうしてユウキが持っているのだろうか。
「なぁユウキ、これって…」
「どうしたの?ってあぁ…えっと…クラインさんとボス戦の攻略会議で会った時に『どーせキリトの奴は意地でも受けとらねぇからよぅ、いつも一緒に居るユウキちゃんがあいつの為に使ってやってくれ』って言われて、そのまま貰ったんだ。元はと言えばキリトがゲットした物だし、キリトが持っとく?」
「いや、ユウキが持っててくれ」
「ん。じゃあボクが持ってるね。それで、ボクどこまで話してたっけ?」
少々露骨な話題転換だったが、自棄になっていた時の事を思い出して少し沈んだ気持ちになっていたからありがたかった。
「剣を刺して突風攻撃に巻き込まれたところまでだったかな」
「そうだったそうだった。でね、剣の刺さりが甘かったみたいで抜けちゃって…」
そこからはおおよそ見た通り。2人纏めて穴の上に飛ばされたため、剣を捨ててリズベットを穴の外に放り投げたらしい。
話を聞きながら脱出方法がないか探るべく壁を触ってみるが、凍ってツルツルとしており特別な道具が無い限り登るのは厳しそうだ。どうせクリスタル無効化空間だろうとは思いつつもポーチから転移結晶を取り出して掲げてみる。
「転移、アルゲード…まあそうだよな」
予想通り結晶は何の反応も示さない。フレンド欄も見てみるが、ここがダンジョン扱いとなっている為メッセージは送れないようだ。一通り確認してみてわかったのは、リズが助けを呼んできてくれるまで穴からは出られなさそうだということだろうか。
「あ、もうこっち向いていいよ」
許可が出たので向き直る。ユウキの腰にはいつものように愛剣が2本とも差されていたので無事回収できた様だ。
「どうやって脱出するかアイデア募集」
「登ったりはできなさそうなんだよね?うーん、ロープを垂らしてもらっても途中で切れちゃいそうだしなぁ。リズに回廊結晶を落としてもらうくらいしか思いつかないかも」
「高すぎて勿体無い…けど、出られない方が問題だしな。ま、リズ頼みになりそうだしこう暗くなっちゃ今日はここで野宿か」
頭にあるのは夜になると電源が落ちたかの様に寝ってしまうユウキの症状。一時期よりも良くなってきている様だったが、今でも何日かに1回は起きている。
「りょーかい。じゃあ、今日はボクが夕飯を作るね。キリトはお湯おねがい」
「了解」
ユウキが組み立て式の机や野外用の調理キットを取り出している間にコンロ代わりになる大型のランタンを設置して上に鍋を置く。その辺の雪を中にごそっと突っ込めば後は勝手にお湯が沸くので、待ってる間ユウキの手で肉や野菜が切られていくのをぼーっと眺めていた。
「そんなに見つめられても、できるのは速くならないよ?」
こちらの視線に気づいたユウキが、食いしん坊な子供を諭すように笑う。
「いや、ただ楽しそうに料理するなって思ってな」
「そう?…確かに、段々と美味しいものが作れるようになるのは嬉しいかな」
お湯に具材や調味料が次々と投入されていく。蓋を閉めてダブルクリックを押すと料理完成までのタイマーがピコンと表示された。
「よし、これで後は待つだけだね」
ユウキがテキパキと調理道具をしまい、俺の隣に腰をかける。
「お疲れ」
「大したことはしてないよ。それより問題です。ボクは何を作ってたでしょーか?」
そう言われてさっきの調理風景を思い出す。テーブルの上にはなんかの肉と芋や人参、玉ねぎにキノコが並んでいたはず。このラインナップだとシチューが思い浮かんだが、牛乳を入れている様子はなかった。
つまり答えは…
「きのこカレー…だろ?」
自信たっぷりな答えに対し、ユウキの両腕が頭の上に挙げられそのまま丸を作る…かと見せかけて勢いよく動き顔の前でバッテンを作っていた。
「ぶっぶー。正解はシチューでした!」
「え…でも牛乳とか使って無かったよな?」
「それはねぇ…じゃーん!」
そう言って取り出されたのは白くて四角い塊。目の前に突き出されたそれをタップしてウィンドウを呼び出す。表示されたアイテム名は〈Stew roux〉シチュー…ろー…るー…ルー
「これ、シチューのルーか?」
「正解!」
「へー、こんなの売ってたのか」
「それ、店売りじゃないよ?」
「ん?ユウキが作ったのか?」
「ううん。それ、アスナが作ってくれたんだ」
脳裏に浮かんだ攻略の鬼と料理がいまいち結びつかない。ただユウキが女の子っぽい服装をするようになったのもアスナがきっかけだったし、家庭的な一面があってもおかしくはない…か?
なんて失礼な事を考えていると、さらなる爆弾発言が。
「なんか料理スキルが800超えてないと上手く作れないらしいけど…ってどうしたの?」
アホじゃないのか!?
という発言はかろうじて飲み込む事に成功したものの、衝撃は顔から出てしまったようだ。
「な、なんでもないよ。それよりもほら、もうすぐできそうだぞ」
「あ、ほんとだ!…ふぅ、危ない危ない」
なんとか話を逸らす事には成功したが、改めて考えるとシチューだけだとちょっと物足りない。米かパンが欲しいなぁ…と考えていると、まるで俺の思考を読んだかのように差し出されるパン。耐久値を見るに今日の朝に買っていたようだ。いったいいつのまに…
「キリトの分よそうからお皿ちょうだい」
「おう、ありがとう」
「よし、揃ったね。いただきます」
「いただきます」
聞きたい事はあるがまずはスプーンで掬って一口。
こ…これは…
最初に口いっぱいに広がるミルクの甘みの後、よく煮込まれた具材たちがほろほろと溶けて混ざり合い見事な調和を果たしている。少し濃いめな味付けなため、パンとの相性は絶妙に違いない。早速パンをちぎり、シチューに浸してまた一口。
「うまぁい」
気がつけばそんな感想が口から飛び出していた。
「良かった〜、準備してた甲斐があったよ」
どうやら食べずにリアクションを伺っていたようで、ニシシッと笑いユウキもシチューに手をつける。
「おいしぃ〜」
一瞬で蕩けた表情になるユウキに自分で作ったのにと一瞬思ったが、そういえばルーを作ったのはアスナである。つまりこの料理はアインクラッドの中で5本の指に入る美少女2人の手料理といっても過言では無いのでは…?
そんな益体もない考えをしていると何故だかクラインが血涙を流している様子が浮かんできたので、さっきから気になっていた事を聞き出す。
「そういえば昨日から準備してたみたいだけど、こんなハプニングでも予想してたのか…?」
「流石にそんな事ないよ。ただ、キリトが新しい剣を買うって言ってたから」
「それとこれとどんな関係が?」
「ほら、キリトってなんでもすぐ試したがるでしょ?だから剣を買ったら早速フィールドに出て新技を練習しに行くと思うわけ」
確かに、と思いつつもまだ夕飯の準備が繋がらない。
「で、フィールドで他の人に見られたくないからマップの端っこだったり街から遠いところで練習する事になって」
ふむ。
「成功してもどんどん難易度を上げるから引くに引けなくなって」
ふ…む…
「もう少し、もう少しだけって帰るの嫌がるんじゃないかなって思ったから、じゃあ野営の準備しておこうって」
そんな事はないぞ、と反論できれば良かったのだが、何よりも自分でその絵面が想像できてしてしまったために口をモニョモニョさせるだけで終わる。
「まさか穴に落ちて出られなくなるとは思わなかったけどね」
「…そうだな」
「あ、おかわり有るけどいる?」
「いる!」
そうして談笑しながらご飯を食べた後、リズベットの救援を見逃さないように交互に寝る事を決め1日が終わった。
評価が!現在4件!後1件で色がつく…!!
どなたか清き1票を……!
という事で、後1評価で色がつくところまで来ました。今まで評価してくださった方々にお礼を!
アスナさんの評価は攻略会議でしか殆ど顔を合わせないかつソロプレイ前提でスキル枠がカツカツなキリト君の感想です。決してアスナさんを貶める意図はございませんのであしからず。
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