Sleeping Legend ~もしSAOにユウキがいたら~ 作:ジンクルタニ
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レアモンスターなだけにさっきまで相手にしていた葉付きより少し強くなったが苦戦する程ではない。消化液をかわし、二回切りつける。横薙ぎに鞭の攻撃が来た、力を込めて剣で上に弾き
「スイッチ!」
「やあぁぁぁぁ」
ユウキがホリゾンタルを発動させ、青い光に包まれた剣が弱点に吸い込まれていく。バァンという音と共に青いポリゴンの破片が飛び散る。
ユウキがアイテムを拾ったのを見届け、ふとコペルの方を見ると後一本ソードスキルを打ち込めば倒せるところまで削っている。
戦闘の邪魔にならないように少し離れて待っているとコペルが聞こえるかどうかの声で
「・・・・ごめん」
と言った。
コペルは何を謝ってるんだ?そう思っているとコペルの剣が薄青くひかりだす。
その光を見てようやく気が付いた
「やめろコペル!そんなことしたら・・・」
薄青い光はバーチカルという単発「垂直」技なのだ。つまりコペルの攻撃は・・・
コペルの剣が上から頭の実に吸い込まれ、パァンと実が弾ける。その一撃で花付きは体をポリゴンに変え、辺りには刺激臭が漂う。
そしてコペルは木々の間に入って行き、策敵のスキルを使っても見つけられなくなった。今さらだがコペルの狙いに気づく。コペルは俺達をモンスターに殺させてアイテムを奪う気なのだ。
しかし、俺は不思議と怒りを感じなかった。これはもう只のゲームではない、他人を蹴落としてでも自分を強化しなければ生き残れない「デスゲーム」となったことを実感していたからだろう。
「ユウキ、まだいけるか?」
「まだ大丈夫」
危険な状況だとわかっているだろうが剣を握っている手は力強い。ユウキに背中を向け、暗闇をじっと見つめる。策敵のマップは真っ赤に染まっている。守らなければいけない相手が後ろにいるから怖がってなんかいられない。。
せめて、ユウキは守ってみせる。そう心に決めた。
木々の間にネペントの群れが見えるようになった。。半分程のネペントはこっちではなくコぺルが居た方に向かっている。
「何でこっちに来てんだよ!」
少し離れた場所からコペルの声が聞こえて来た。
俺はスキルを取る時に策敵を選んだが、実はもう1つ二人の生存率を高めるスキルがある。それは隠蔽スキルといって自分や触れている仲間を敵の視覚で感じられなくするものである。
コペルはこのスキルを見たときにPKを思い付いたのだろう。茂みから出てくるまで気が付かなかったのはきっとこのスキルのせいだ。ユウキがニュービーだと知って驚いていたのもユウキの初心者とは思えない戦闘を見ていたからだろう。
しかし、このスキルにも欠点がある。まず1つ目に、潜伏場所を見つめられ続けると隠蔽がとけてしまうこと。2つ目に視覚で敵を捉えるモンスターにしか効果がない事だ。
コペルはきっと初めて使ったのだろう。実はネペントには目が無く、熱でプレイヤーを認識している設定だったのだ。
β時代の知識に思いを巡らせていると、ふとこの状況を切り抜けるアイデアが浮かんで来た。ストレージから水筒を3本出す。始まりの町で購入していた物だ。
「ユウキ、ちょっと我慢してくれ!」
「ちょっと、え、まっ、きゃっ」
後ろから水筒の水を一気にユウキにかける。
「ユウキ、この剣だと部が悪い、ホルンカまで戻って剣を受け取って来てくれないか?」
「それじゃあキリトは…」
「時間が無いんだ。速く!」
もうネペントの群れは目の前に来ている。
「絶対に死なないでよ」
「大丈夫さ」
ユウキはホルンカの方へ走り始めた。
ユウキがネペントに狙われずに森に入って行ったのを見届け、目の前のネペントに切りかかる。2人で死んでしまう最悪な可能性は断たれたがユウキが戻ってくる前にはもう決着がついているだろう。
「大丈夫って言ったけどなぁ」
既に剣の耐久値は残り僅か。耐久値が切れたら敵の群れに武器無しで放り込まれるという最悪な事態になってしまう。しかも攻撃しただけで耐久値は減るから全て一撃で倒さなければ俺が死ぬ。
「やってやるさ」
この状況において俺は楽しんでいた。雑念を捨てて集中中していくと徐々に音が遠ざかり、剣と一体化していく。ここにあるのは剣と敵だけ。消化液が来る。横に飛んで避ける。敵が硬直する。ホリゾンタルで倒す。鞭が横から来る。しゃがんで避け、クールタイムでホリゾンタルが使えないので今度は単発斜め切りのソードスキル、スラントで倒す。
その作業を何度も繰り返すうちに、避けきれずに掠めた鞭や消化液がじわじわと体力を削る。しかしその時は体力ゲージが安全圏の緑色から注意域の黄色に変わった事さえ気付かずに剣を振り続けた。
一方ユウキはショートカットするために道の無い、木の生い茂っているなかを何度も躓きながら一生懸命に走っていた。
その時
「あっ、キリトの体力ゲージが」
左上にあるキリトの体力ゲージが減り始めているのに気づく。
このままだとキリトが危ない!ボクの為にキリトが死ぬのは嫌だ…でも戻ってもキリトよりぼろぼろの剣じゃ足を引っ張るだけだろうし…。もっと速く!
全力で走っていると、スキルを見ていた時にとあるスキルがあったことを思い出す。急いでスキルの取得画面を開き
「疾走スキル…これでもっと速く走れるかも!」
取得ボタンをタップして、また道なき道を走り始めた。
残りのネペントも残り7体ほどになったとき、後ろの方からモンスターの爆散音とはまた違うカシャーンと硝子が割れる様な音がした。この音はβ時代に何度も聞いた事がある。
「コペル…、お疲れ様」
この音はプレイヤーの死亡時に流れる物だ。この瞬間、コペルというプレイヤーは現実世界でも亡くなってしまったのだろう。
その時、一瞬判断が遅れた。まずい、と思ったときにはもう遅く、消化液が身体を掠める。消化液を放った敵をスラントで倒したが、今までの集中力が
切れてしまった。
「…っ」
今まで避けられていた攻撃までもが掠り始める。2体をホリゾンタルで倒し、残り4体になった。
囲まれてない今なら…
「ってうわっ!」
後ろを向き逃げようとしたその瞬間、鞭が前から飛んできた。
コペルが相手していた奴がこっちに来たのだと気がついた時には遅く、反射的に剣でガードしてしまう。剣の峰と鞭がカァンと音をたててぶつかる。
剣の耐久値が一気に削られ、ピキッと音をたててひびが入る。そしてそのひびが剣全体に広がり…音をたてて消滅した。
剣の消失エフェクトが消えないうちに次の攻撃が来て、俺の身体に初めてのクリティカルヒットがはいった。
「うっ」
その衝撃で仰け反ってしまい、倒れて次の行動に移れなくなる。
「約束…守れなかったか」
次の一撃が放たれ自分の身体に当たる寸前、何かが飛び込んで来てその攻撃を弾いた。
驚いて飛び込んできた人を確認すると、そこにいたのは、逃がしたはずのユウキだった。
「間に合った。神様、間に合ったよ…」
「な、なんでこんなに速k…もがっ」
口にポーションを突っ込まれ、反射的に飲み干す。
「キリト、これっ!」
立ち上がると同時にユウキが攻撃してきたネペントを一体倒して腰に挿した剣を抜いて渡してくれる。
ユウキはメニュー画面を出したままにしていたようで、すぐに剣を取り出して戦いに備える。
モンスター達は急に現れたプレイヤーに戸惑っているようにみえた。
「ユウキ、ありがとな」
「大丈夫だよ、それより来るよ!」
今度はターゲットをユウキに変えて攻撃するようだ。
格好良くはないがβ時代の最初の頃に愛用していた剣の重みを感じる。久しぶりでもよく手に馴染む感覚、今ならネペントなど簡単に倒せる気がする。
「よし、もう一度勝負だ!」
10体いたネペントはユウキが来てくれたのとアニールブレードの攻撃力によってすぐに倒しきった。
「あ~もう疲れた、眠い、腹減った」
まだ圏外だが索敵に何も引っ掛からないので、疲労に負けてその場に横になる。戦っていた時は気づかなかったが、かなり精神的にきていたようだ。
「コペルさんは?」
その問いに対して首を横に振る事しか出来なかった。
その意味を悟ったユウキはうつむくとコペルがいた場所にボロボロの剣と盾が落ちているのを見つけた。
するとユウキがその近くにしゃがみこみ、何かを拾い上げた。
「これって…胚珠だ」
コペルは花つきを倒していたらしい。
「ユウキ、もらっておけよ」
「これ、ここに置いといて良いかな?このアイテムちょっと使おうと思えなくて」
「あぁ、ユウキがそうしたいなら良いんじゃないか?基本的にアイテムは拾った奴の物だからな」
きっとユウキはコペルにお供えの意味を籠めているのだろう。剣と盾を拾って大きな木の下に胚珠と一緒に置いた。
新しい胚珠を探そうと仮想世界なのに何故か重く感じる身体に鞭打って立ち上がると、ユウキが
「じゃあ戻ろっか」
「おい、一つ落ちてないぞ」
するとアニールブレードを指しながら
「僕にはこの剣は重いや」
「そうか…良い武器だと思うんだけどな~」
渋る俺の背中をホルンカの町がある方へ押しながら
「いいから早く帰って休も?」
「…ああ、わかったよ」
どうやら心配してくれていたらしい。
「疲れてるだろうし、帰りの戦闘は任せてね」
「俺も戦闘は大丈夫だよ。まぁとりあえず…」
戻るかと言いかけた時、赤黒く染まったカーソルがすごい速さでこっちにやって来るのを索敵スキルが捉えた。
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