Sleeping Legend ~もしSAOにユウキがいたら~ 作:ジンクルタニ
地の文が多くなってます。
「結局…甘えっぱなしになっちゃったな」
門を潜り圏内に入った事を知らせる音楽が流れてきてきたため、索敵スキルを解除する。
宿の方向に歩いていくと村で一番大きな建物の前にお爺ちゃんのNPCが立っていた。
「旅の冒険者様方、よくぞ戻られ…たの」
…こっちを見たとたんに一瞬言葉を詰まらせて顔がひきつったように見えたのはきっと気のせいだろう。
「お連れの方は大丈夫かね?今からベッドの用意をするからこちらにお入りなさい」
「…ありがとうございます」
こんなイベントあったか?いや、その前にこっちの様子を見て反応を変えた…?
ただのNPCにそんな事出来無いと思うけど…プレイヤーが倒れたり気絶した状態で来る事も予想してプログラムを組んでいたのか?
そんな事を考えているとベッドと机、椅子が一つずつ置いてある小さな客室に着いたのでとりあえずユウキをベッドに寝かせる。
「あなたはこちらへ」
案内をしてくれたお爺さんに呼ばれて応接室らしき場所に通され、低めのテーブルを挟んで置いてあるソファーに座る。
「この度は森の主を倒していただき本当に感謝する。おかげで森での狩りも少しは安全になるというもの」
「あの…実は俺の仲間が受けた依頼なので実は何が何だかわからないんです」
すると爺さんがユウキが村で何をしたのか話してくれた。
まとめるとユウキが胚珠を持ってある女性の家の前で剣を欲しいと言っていた。しかし今は譲る相手がいるために爺さんが昔使っていた剣を報酬にと渡そうとしたが、女性の家に有る剣じゃないとダメだとユウキが言った。
ならばとアニールブレードを胚珠を持ってきたという事で先に渡し、森のボスを討伐するように依頼した。結果、俺の受けたクエストの報酬をユウキに渡してしまった為、この剣を変わりに受け取って欲しい。約束した報酬じゃないが許して欲しい。ということだった。
ユウキが俺のクエストの報酬を受け取ったから俺の報酬が変わった?そんな事を想定してクエストを作ったなんてことあり得るのか…?とりあえず剣を見せてもらうことにする。
「報酬の剣を見せてもらっても良いですか?」
「もちろんだ、これだよ」
鞘に入った状態の剣を両手で受けとる。アニールブレードよりも軽い印象を受ける。
「抜いてみても?」
「もちろん構わんとも」
抜かれた剣はランプの光を反射してキラリと光る。細剣よりも少し太い位か。刀身の長さはアニールブレードと変わらない様に見える。
「ありがとうございます」
そう言って剣をストレージにしまう。
「この後は?」
「ユウキ…俺の仲間の様子を見てることにします。起きたときに知らない場所で一人は流石に怖いと思うので」
「そうか、ゆっくりしていってくれ」
「ありがとうございました」
ただのNPCにしては色々な言葉に反応している気がしたが、考えても仕方がないと割り切りユウキの居る客室に戻ることにした。椅子に座ってユウキの様子をうかがってみる。ユウキはまだ寝ていて、悪夢でも見ているのか少しうなされていた。
「姉ちゃん…」
ユウキがそう呟いたのを聞いて、昔妹…直葉が病気になったときに必死で看病していた事を思い出した。
両親が居ないときに直葉が高い熱を出してしまい、母さんに電話で教えてもらいながら飲み物を作って持っていったり、頭に冷えたタオルを掛けてやったりした。ようやく寝付いた直葉の様子を見ていると、寝言でお兄ちゃん…と呟いたのだ。その時、こんな俺でも直葉の兄なんだと強く実感した。
その様子がユウキと重なったらしい。妹の事を思い出した途端に現実世界に置いてきた色々な事が頭をよぎる。何年か…もしくは一生会えないかもしれない家族が恋しくなり、涙が溢れてきた。
ある時期から避けるようになっていた妹にこのゲームから帰ったらしっかり向き合おう。そして小さい頃の関係を取り戻そう。そう心に誓い、しばらく俺は椅子に座ったまま静かに泣き続けていた。
ボクはここに来る前の夢を見ていた。家族全員がHIVキャリアで、病気と戦う毎日だった。
場面は1年前、パパが亡くなってから1ヶ月が過ぎた頃だった。ベッドに寝たきりの状態になっていたママに倉橋医師が話をしに来た。
「提案が有ります、木綿季さんか藍子さんをメディキュボイドの被験者にしてみてはいかがでしょうか?」
「先生、メディキュボイドとはなんですか?」
「医療用のフルダイブマシンで、ヴァーチャル…つまり電子の世界に五感の全てを接続する機械です」
「そのような物が…何で木綿季と藍子が被験者に成ったほうが良いんでしょうか?」
「メディキュボイドの被験者に成ればクリーンルームに入る事ができるのです。クリーンルームには細菌などが存在していないので日和見感染をする可能性がとても低くなります」
「その研究では何を試すんですか?」
「長時間のVR世界へのフルダイブが人体にどのような影響を与えるか、また五感を完全に遮断して人体に問題が出ないかを調べる物です」
「具体的にはどれくらいの期間なんでしょう?」
「少なくとも…1年です」
「そんなに…その間はずっと会えないんですか?」
「今ではスクリーン越しで会話をする位しか出来ません。しかし今開発されている家庭用VRマシン、通称ナーヴギアが製品化されればVR世界で会うことが出来るようになると思います。まだ病気に感染していない今しか無いんです。どうか考えてみてください」
ゲームの世界に入れると聞いたときは面白そうだと思った。
倉橋さんが居なくなった後に姉ちゃんが話を切り出す。
「ユウはどうしたい?」
「姉ちゃんが入ったほうが良いよ」
「ふふっ遠慮なんてしなくても良いのよ。あなたがわくわくしているのなんてお見通しなんだから」
「でも、この間も病気になったから…ボク心配だよ」
「良いのよ、だって私は『お姉ちゃん』なんだから」
入った方が寿命が延びることを知っていたのにこれ以上姉ちゃんにメディキュボイドに入ることを勧めることが出来なかった。
それから一ヶ月後にメディキュボイドに入る日がやって来た。
姉ちゃんに手を握って貰っていたからメディキュボイドに入る時は少しも怖くなかった。
段々と体の感覚が無くなって行き、再び再接続される。閉じた目を開けるとそこは何の音もしないただの広い空間のみ。
説明で聞いていたけど実際に体験するとそこは人との繋がりが一切感じられない孤独な場所。ホロウィンドウを表示し、回線を外と繋ぐ。
「姉ちゃん、見えてる?」
「ちゃんと見えてるよ」
カメラ越しの姉ちゃんが少し寂しそうな、安心した顔で微笑んでいた。
それから2ヶ月が過ぎてママも亡くなった。
聞いたのはもちろんメディキュボイドの中で、タブレット越しに見送ることしか出来なかった。いつお別れが来ても大丈夫な様に覚悟をしていたけど、やっぱり悲しくて回線が落ちた後に1人でずっと泣いていた。
ナーヴギアが開発されて姉ちゃんに会えるようになった。会えるようになったのは嬉しかったし、家族が二人だけになって不安だけど態度に出したら姉ちゃんに心配をかけると思って元気な自分を演じるようにした。不安も孤独も全部しまいこんで笑っているのはすっごく辛かったけど、思えるようになったことが1つ。
演技でも良いやって、それで笑顔でいられる時間が増えるんならそれで良いじゃないか…と。そう思えるようになってからは自分でも演技かわからなくなる位に自然と笑えるようになれた。
そんな中、一人の看護師さんがSAOのβテストに当選し、SAOの世界についてたくさん話をしてくれた。今いるこの空間とは全く違う世界にワクワクが止まらず、看護師さんがボクの為にもう1つソフトを手に入れてくれたときは凄く嬉しかった。そこまで思い出して、大事なことを1つ思い出した。
SAOにダイブする直前、同じヴァーチャルエリアで姉ちゃんが言っていた言葉。
「戻ってきたらどんな感じだったか聞かせてね」
看護師さんが死んじゃって悲しいけど姉ちゃんが待っててくれている。このゲームをクリアして自分の冒険をい~っぱい話そう。そう思ったら元気わいてくる気がした。
まだ、ボクは戦えるし笑っていられる。絶対に姉ちゃんの元に帰るんだ!
ユウキが目を覚ましたのは夜が開けた頃だった。
「ここは…」
「ホルンカの村だよ」
「ボクをどうやって運んだの?」
「…聞かないほうが良いぞ」
「えー、気になる」
「それよりも大丈夫か?目を覚まさなかったから心配したぞ」
「うん、ボクはもう大丈夫だよ」
「そういえば剣を報酬で貰ったんだけど…これ使うか?」
「良いの?」
背中の剣を叩いて
「俺にはこいつが有るからな。それにこれだと重いって思ったんだろ?」
「ありがとう!大切に使うね!」
ユウキはその時、初めて顔に笑みを浮かべていた。
ユウキが貰った剣がアニールブレードを越える性能だったのだが、クエストの発生条件がはっきりしなかったためにアルゴに説明するのが大変だったのはまた別の話。
ユウキの過去を書こう!それならキリトと同じタイミングで過去を思い出してもらえば…でもユウキアニールブレード使わなさそうだなぁと思って書いていたらこんなに長くなりました。
終わるまで何話必要になるんでしょうか…
ユウキの過去について補足をすると、HIVでいじめられた過去がありそのため少し体調が悪くなっており、自分の命が長くないことを察しています。メディキュボイドに入った当時はまだプログラムがあまり進んでいなかったため、体の感覚は鈍く食べ物などは味がいまいちでした。