Sleeping Legend ~もしSAOにユウキがいたら~ 作:ジンクルタニ
攻略会議
SAOの正式サービスが始まって1ヶ月が過ぎ、2000人ものプレイヤーが死んだ。
それでも俺達はまだ1層のボス部屋にさえたどり着けていなかった。
そんな中、とあるパーティーが迷宮区でボス部屋のある階へと続く階段を見つけたことが公表された。第1回攻略会議が明日開催される。
「うわぁ…綺麗」
ホームに戻る途中、迷宮区に光る流れ星を最初に見つけたのはユウキだった。それは1人のプレイヤーが放つソードスキルの輝き。速すぎて剣先が見えない程の剣技の冴え。しかしその戦術はとても拙い物だった。
コボルドの振り回すポールアックスを鼻先3センチで3回避けてもう一度リニアーを放つ。確かに3回避ければコボルドは大きく体勢を崩すので反撃の機会が生まれるが、少しでも距離を間違えたら直撃してしまう。
しかもコボルドは最初のリニアーで瀕死だったはずでもう一度軽く突っつけば倒せるはずだった。
そのフェンサーが壁にもたれ掛かかって座る。フードを深く被っていて顔が見えず、ユウキもどんな人なのか気になっている様だ。
「ねぇキリト」
「ちょっと声をかけてみるか」
「うん!」
近付いて行くと向こうはこちらを一瞥し、再び顔を伏せた。話し掛ける言葉が見つからず
「最後の一撃はオーバーキル過ぎるよ」
最初にその一言は何なんだとかいきなり現れてアドバイスとか何様だよと思ったが言葉を取り消すことは出来ない。
ユウキが慌ててフォローしようとしたが反応は思ってもいない物だった。
「オーバーキルだと何がいけないの?」
こちらを向いてから発されたその言葉で、俺は目の前のフェンサーが女性だということに初めて気が付いた。
「ソードスキルを放つときは集中力が要るだろ?そんな戦い方してたら消耗が大き過ぎる」
「そう、助言ありがとう」
フェンサーはそう言って立ち上がり、壁に沿って歩きだそうとした。
「待って!」
ユウキが呼び止めた。
「何まだなにか有るの?」
「もうすぐ日が暮れて危なくなるよ。一緒に町に戻らない?」
「町には戻らないから」
「戻らないって…回復アイテムの補充だったり食事もしないといけないだろ。こんなところじゃ寝ることも出来ないし」
「アイテムは攻撃を受けなければ必要ないしこの体に栄養は必要ないじゃない。それに寝る場所ならほら」
そうやって指で示したのは迷宮区に有る安全エリアだった。いくら安全エリアだと言ってもモンスターのうなり声や足音で寝られるような環境では無い。
「そんな事言わないで一緒に帰ろう?大分疲れてるように見えるよ」
「話がそれだけならもう行くわ」
そう言って立ち上がり剣を抜いて歩きだしたフェンサーは、三歩と歩かないうちに倒れてしまった。
「キリト…どうする?」
「外まで運ぶしか無いよな…」
「キリト寝袋なんか出してどうするのさ?」
「ユウキ、この人をこの中に入れてくれ」
「入れてどうするの?」
「引きずって運ぶ」
「ねぇキリト、もしかしてボクが気絶したときってさ」
「…知りたくなかっただろ」
「…うん」
迷宮区の外に出ると少し歩いた先に芝生の地面が有ったのでそこに寝かせる。
「寝袋から出しといてくれ」
「そうした方が良いね…」
それからフェンサーが起きたのは1時間程たってからだった。
「目を覚ましたよ!」
「…ここは?」
「俺達で外まで運ばせて貰った」
「余計なことを…」
そう言って迷宮区の方に歩きだしたフェンサーを呼び止めて
「君もゲームのクリアに向けて戦ってるんだろ?それなら明日に行われる1層の攻略会議には参加した方が良いんじゃないか?」
「…そういうのは早く言って」
その後最寄りの町まで一緒に行き、会議の時間と場所を告げて別れた。
攻略会議が行われる半円形の野外劇場に行くとそこには既に30人くらいの人が集まっていた。
「うわぁ人がいっぱいいるよ」
「そうか?思ったより少ないと思うけど」
このままではレイドの上限である48人には届いていないし、実際にβテストのときにはこの2倍以上は人がいたはずだ。
「多いよ、だってボス戦って一番危険なんでしょ?これだけの人が集まるなんて、ボク思っても無かったなぁ。これだけの人が皆のために戦うってやっぱりスゴいよ」
「そっか…そういう見方もあるんだな。でもなユウキ、ここにはそんな高尚な理由で来た訳じゃない奴も多いと思うぞ」
「じゃあどんな理由で集まったの?」
「恐怖さ」
「恐怖…?」
「俺みたいなゲーマーは死ぬのも怖いけど誰かが知らないところでゲームをクリアすることの方が怖いんだよ」
「ボクにはよくわかんないや」
「わからないほうが良いぞ…多分」
半円状になっている観客席の後ろの方に並んで座ると青い髪のイケメンな片手剣士が舞台に飛び乗った。
髪を青く染めるには染料が必要でこれがなかなかドロップしない舞台の高さは腰くらいまで有るから武器や防具を着けたまま飛び乗るにはかなりの筋力値が必要なはずだ。
「はーいそれじゃあそろそろ始めさせてもらいまーす。今日は俺の呼び掛けに集まってくれてありがとう。俺はディアベル。職業は気持ち的に、ナイトやってます!」
SAOにジョブシステムなんてねえだろとヤジが飛び、会場が笑いに包まれた。一連のパフォーマンスであの男が場の空気を掴んだのが感じ取れた。
ディアベルが場を静めて話し始める。
「今日、俺達のパーティーがあの塔の最上階でボスの部屋を発見した。俺達はボスを倒し第2層に到達して、このデスゲームもいつかきっとクリア出来るってことを、始まりの街で待っている皆に伝えなくちゃぁならない!それが、今この場所にいる俺達の義務なんだ!そうだろう、皆!」
集まったプレイヤーが拍手や口笛でディアベルを讃える。
「なんだか頼りになりそうだね」
「きっとああいう奴が攻略組を纏めていくんだろうな」
「それじゃあ6人組のパーティーを組んでもらいます」
その一言で慌てて周りを見渡すが大体が既に決まっていたようだ。
「…出遅れた」
「皆知り合いだったみたいだししょうがないんじゃないかなぁ…でもあそこにほら、昨日のお姉さんが居るよ」
そう言われて広場を見渡してみると昨日のフェンサーが端っこに座っているのを見つけた。
ユウキが早速声をかける。
「お姉さんもパーティー決まってないの?」
「周りが皆お仲間同士みたいだったから遠慮しただけ」
「ソロプレイヤーか…」
「じゃあボク達と組もうよ」
フェンサーが頷いたのでユウキがパーティー申請を送る。
Asuna…アスナかな?
そんな事を考えていると
「パーティーはそろそろ組み終わったかな?」
「ちょー待ってんか!」
そこでトゲトゲした髪型の男が階段から舞台に飛び乗った。
「ワイはキバオウってもんや。ボスに挑む前に1つ言わせてもらいたいことがある。こんなかに今まで死んでいった2000人に詫び入れなあかん奴がおるはずや!」
「それは元βテスターのことで良いのかな?」
「そや!βあがりどもはこんクソゲーが始まったその日にビギナーを見捨てて消えよった。奴等はボロい狩場やクエストを独占してポンポン強なって後は知らんぷりや。そいつらに溜め込んだコルやアイテムを吐き出して土下座してもらわな、パーティーメンバーとして命を預けられんし預かれん!」
会場が一気にざわめきだす。
その言葉を聞いて始まりの街に置いてきたクラインのことを思い出した。
うつむいたのを感じたのかユウキが
「キリトがボクをここまで連れてきてくれたんだよ。あのトゲトゲ頭の言う事なんて気にする必要無いんじゃないかな」
「でも、俺はクラインを…」
「出来なかった事を悔やんでもしょうがないって。キリトは堂々としてれば良いんだよ。俺は違うぞ…ってね」
「そっか…ありがとな」
少しざわめきが小さくなった頃、1人のめちゃくちゃいかついスキンヘッドの黒人プレイヤーが挙手をした
「1つ発言良いか」
そう言って舞台に上がる。
「俺の名前はエギルだ。キバオウさん、あんたの言いたい事はつまり、テスターが面倒を見なかったためにビギナーが大勢死んだ。テスターはその責任を取って謝罪、賠償しろという事だな」
「せや」
びびっているのかキバオウの声に先ほどまでの覇気が無くなっている。
「キバオウさん、あんたも街の道具屋で無料のガイドブックを貰っただろ」
そうやって掲げて見せたのは俺が500コルで買った鼠印のガイドブックだった。
「これを配布していたのは元βテスター達だ。情報は誰でも得られたのに大勢が死んだ。今日はその事についての話し合いをするんだと思っていたんだがな」
「フンッ」
キバオウが客席に戻り、続いてエギルも元の場所に戻る。
「じゃあ会議を再開させてもらいます。先程、ガイドブックの最新版が配布された。これによるとボスの名前はイルファング・ザ・コボルドロード。武器は斧とバックラーを使い、体力が少なくなったら曲刀カテゴリノタルワールに持ち替え、取り巻きのルイン・コボルド・センチネルは最初に3体、それからは体力ゲージが減る毎に3体の、計12体が出てくるらしい。よってパーティーをアタッカー、タンク、モブ狩りの3つに分けたいと思う」
そうして俺達のパーティーは人数が少ないことによりE隊でセンチネル担当になった。
「最後に報酬についてだけど、コルは全員で自動均等割り、アイテムはドロップした人のものとする。異論はないかな?…それじゃあこれで会議を終わります。解散!」
アスナは一人でさっさとフィールドに行ってしまったので、広場を後にした俺たちは明日に備えて軽く連携の確認をすることにした。