Sleeping Legend ~もしSAOにユウキがいたら~ 作:ジンクルタニ
フィールドで最後の連携を確認して街に戻るとフードを深く被った人が脇道のベンチに腰かけているのを見つけた。
「ねぇキリト、あの人ってアスナかな?」
「そうみたいだな、声をかけてみるか」
側まで行って声を掛ける
「隣座っても良いかな?」
黙っているので勝手に座るとアスナが間を開けて座り直す。ユウキが間に座り、アスナが何をしていたのか覗いて見る。彼女は1コルで買える黒パンをかじっていた。
「それ、うまいよな」
そう言いながら黒パンを取り出す。
「毎日食べてるけど全然飽きないよね!」
「あなた達本気で言ってるの?」
「もちろんこのままじゃないよ~。これに一工夫するとスッゴく美味しいんだよ」
そう言ってストレージから小型の瓶を出す。
「おねーさんも使ってみなよ」
ユウキが瓶を差し出すとアスナがおそるおそる瓶に触れ、ひかりだした指をパンにつける。するとパンの上に出て来たのは
「…クリーム?」
俺とユウキもクリームをパンに塗ってをかじる。ユウキが満面の笑みを浮かべた。
「やっぱり旨いな、これ」
「美味しいよね!」
アスナもそれを見て一口かじった。フェンサーさんはクリームパンがよっぽどお気に召したらしくそのままガツガツと食べ、3秒後には手からパンが消えていた。
「1個前の街で受けられる逆襲の雌牛っていうクエストがあってそれの報酬なんだ。やるんだったらコツを教えるけど」
「いい、私は美味しいものを食べるためにここまで来た訳じゃないから」
「じゃあ何の為に…」
「私が、私でいるため。最初の街でゆっくり腐っていく位なら最後の瞬間まで自分のままでいたい」
彼女は両手を強く握りしめて
「モンスターに負けて死んだとしてもこのゲームに、この世界には負けたくない」
「死んじゃ駄目だよ。向こうで待ってる人だって居るんでしょ」
「…気を付けるわ、クリームありがとう」
そう言ってアスナが立ち上がり、明日に備えて早く寝ることにした。
翌朝1層のボス攻略隊が出発し、迷宮区に向かう道の途中でふと連携について確認していなかった事を思い出す。
「なぁ、スイッチについてなんだけど…」
「スイッチって何?」
「何か聞いたことあるな…これ」
「ねぇもしかしてずっと1人で攻略してたの?」
「ええ」
ため息をつきたくなる衝動を抑える。
「復習がてら教えてやってくれ」
若干不安になりながら生き生きとアスナに教えているユウキを眺めていた。
迷宮区に入ってからもディアベルの指揮の下、危なげ無くボス部屋の前までたどり着いた。
「俺から言う事はただ1つだ。勝とうぜ!」
ディアベルの宣言に全員で小さく雄叫びあげる。
ボス部屋の扉がゆっくりと開き、手前から明かりが灯り始める。
レイドメンバーが全員入りきったところで奥の玉座からボスの巨体が飛び上がり、30メートル程手前で着地し、咆哮する。同時に三匹のセンチネルがポップし、ボスの姿が明かりに照らされてはっきりと見えるようになった。3メートルはある巨体で赤く太っており、涎を垂らしながらその犬のような顔でこちらを睨みつけている。
「総員、突撃!」
ディアベルの掛け声で戦いの火蓋が切って落とされた。
センチネルの振り下ろすポールアックスをソードスキルで跳ね上げる。
「スイッチ!」
「ぜやぁぁぁ!」
俺の掛け声に合わせてユウキが飛び込んできてホリゾンタルを喉にある鎧の隙間に当てる。その一撃でセンチネルは体をポリゴンに変えた。
「まずは一匹!」
「グッジョブ!ソードスキルが大分上達したな。次の奴行くぞ!」
センチネルを足止めしていたアスナと入れ替わり、再びそのポールアックスを跳ね上げる。
「スイッチ!」
今度はアスナが飛び込み、リニアーを放つとセンチネルの体力が一気に削れてレッドゾーンに入る。硬直が溶けた瞬間に今度はソードスキルではなくもう一度つついて止めを指した。
「二匹目ね」
「グッジョブ!」
その後もポップするセンチネルを倒しているとボスの体力がレッドゾーンに突入した。
「皆下がれ、俺が出る!」
ボスの動きが止まったところでディアベルが前に出た。
何故だ?ここは皆で囲むのがセオリーじゃないのか?
ふと視線をずらしてボスの姿を見ると猛烈な違和感に襲われる。βテストの時と何かが違う。何だ?何が違ってるんだ?
その答えはボスが剣を抜いた時にわかった。βテストで見たときと違い剣に反りが無い。あれはタルワールじゃない!野太刀!
ボスが体をたわめ、10層で俺を苦しめたあのスキルを放とうとする。
「全力で後ろに飛べー!」
ボスが高く飛び上がり、着地と同時に周囲を薙ぎ払う。刀全範囲ソードスキル、旋車だ。
ボスを囲んでいたタンク隊が全員吹き飛ばされスタン状態になってしまった。
誰もすぐには動けない中、狙われたのは正面にいたディアベルだった。
下から掬い上げる様に切る刀単発ソードスキル、浮舟をもろにくらったディアベルの体が宙に浮く。
「うわぁーーー!」
あまりディアベルの体力は減っていないが、このソードスキルにはコンボがある。
ボスが空中に打ち上げられたディアベルに向かってソードスキルを発動する。
ディアベルもそれを見て空中でソードスキルを発動させて迎撃しようとしていたが、体勢が上手く制御出来ずソードスキルが不発に終わってしまう。
そこに刀3連擊ソードスキル、浮舟が激しい音とエフェクトを散らしてヒットし、俺達の戦っている近くに飛ばされた。
最後のセンチネルが倒されたのを確認し、ディアベルに駆け寄る。
「何であんなことを…」
ポーチからポーションを出し、頭を抱きかかえて飲ませようとするが手を押さえられた。
「お前もβテスターならわかるだろ」
「ラストアタックボーナスのレアアイテム狙いか」
ディアベルの体が徐々に薄青く出し…
「頼む、キリトさん。ボスを倒…」
パァンという音と共にディアベルの体がポリゴンへと変わった。
舞い上がっていくポリゴン片を見つめながら彼と自分の違いについて思いを馳せる。俺は自分が生き残る為にクラインを見捨てたがディアベルは違った。あいつは皆を纏めて戦った。最後に皆を出し抜こうとしたとはいえ、俺には出来なかった事をあいつはやったんだ。
顔を上げるとリーダーがやられて浮き足立っている戦場が見える。
ディアベルの最後の言葉は撤退でも逃げろでもなくボスを倒せだった。
とにかく前線を立て直さないと。一番近い舞台のリーダーは…キバオウか。キバオウに近づき、声をかける。
「部隊長であるお前が動揺してたらパーティーメンバーが死ぬぞ。雑魚コボがまだ湧くかも、いやきっと湧く。そいつらをボスに近づけないようにしてくれ」
「じぶんはどうするんや」
「ボスを倒しに行くのさ」
そう言ってボスと正面から向かい合うと、ユウキとアスナが横に並んだ。
「ボクも戦うよ」
「私も」
「あぁ、頼んだ」
そう言ってボスに向かって駆け出す。
「手順はセンチネルと同じだ!」
「了解!」
「わかった」
ボスの振り下ろす刀を10層での記憶を必死に思いだしながら弾き返していく。
1人で前衛を続けるギリギリの状態。そんな綱渡りが長く続くわけもなく、崩壊するまで2分とかからなかった。
ランダムに軌道を上か下からに変えるフェイントのソードスキル、弦月。これを弾き返せずにくらってしまい、大きく吹き飛ばされる。さらに運の悪いことに弾き飛ばされた先にはアスナがおり、二人同時に倒れ込んでしまった。
ボスの刀が光を纏う。ただ見ていることしかできず剣が振り下ろされるのを待っていると、ボスとの間に駆け込んでくる1つの影が。
「ぜやぁぁぁぁ!」
火花が散り、ボスの体が大きく仰け反る。迫る野太刀を弾き返したのは他でもないユウキだった。
「ボクだってやればできるんだからね!」
「嬢ちゃん達が気合い見せてんだ!俺達がびびっててどうする!」
野太い声が聞こえて来たかと思うとエギルが部隊を引き連れてこっちに向かっているのが見えた。
「回復するまで俺達が支えるぜ。いつまでもあんたらにタンクやらせてたら俺らの面目が立たねぇってもんだ」
「頼んだ」
アクセス数が少し減っていてショックを受けている今日この頃。
来週、再来週は更新できないかもしれません。
ユウキとアスナのどっちが話しているかとかってわかりますか?