男のロマン、それはロボット —<Infinite Dendrogram>— 作:クーボー
正弥が冒頭で患った病気にならず、初っ端からデンドロを始め、そしてENDが上がれば病気にかかりづらくなるのを知らずに<エンブリオ>が羽化した場合、こうなってました。
なお原作キャラのキャンディさんを拝借しておりますので、そういうのが苦手な方はブラウザバッグ!
そこは、大きな森だった。
青々と茂る深い木々、とある国の管轄下にある、貴重な資源と言える場所。
——そしてその拓けた中心部で、二人の<マスター>が対峙していた。正確に言えば、一方には少女が付き従っている。
「ああ、まったく……忌々しい、キャラがモロ被りネ……!」
一人の、少女のような格好をした<マスター>——ゴスロリの上可愛らしい声をしているが生物学的には男である彼は、そう言って憎々しげに眼前に佇む<マスター>を睨みつけた。
彼の背後には大きなメスフラスコ……の内部にシャーレなどが取り付けられた、今現在何かを製造・拡散していると思わしき何かが設置されている。
「忌々しいなんて、心外だな。
友達にはいるけれど、とボソリと呟いて、男は傍の少女の頭を優しく撫でた。それに対して、ギリギリと歯ぎしりするキャンディは、地団駄を踏むように地面を蹴った。
彼こそはキャンディ・カーネイジ——<超級>の中でもトップクラスの危険性を持つ<マスター>である。
「うるさいのネ、ヤヨイ。せっかく良い気分だったのに、それをぶち壊しネ!」
「知らないよ。俺が向かった場所に君がいただけじゃないか。まさか狩りの場所が被るなんて、災難だよ」
やれやれ、と男——ヤヨイ・ベルダーウッドはかぶりを振る。そんな態度も癪に触ったようで、キャンディと呼ばれた少年の目がさらに細く、鋭くなった。
「君、アレだろ。もしかして、だけど、周辺の村ごと森を消滅させるつもり? そんなことしたらダメだよ、もう一国を滅ぼした君には言っても仕方ないけれど」
「そっちこそ似たようなモノだゾ! むしろGODよりもタチが悪いネ!」
「どうでも良いけど、GODとか言うのやめなよ。恥ずかしいから」
あくまで空気を読まず煽るヤヨイに、キャンディの頬が引き攣る。自身をGODと評し、破綻者的振る舞いを行うキャンディにしては珍しい反応である。
「ますたー、煽りすぎ」
「あはは、いやごめんね、カヨ。あまりにも面白かったものだから」
外道沁みて、清々しく笑う。目隠しをした黒髪の少女は、陰鬱そうにため息を吐いた。それでもぴったりとくっ付いている辺り、二人の信頼度は相当なものなのだろう。それが伺える光景に、舌打ちでもしそうな表情のキャンディが、ひどく似合わなかった。
「まあ、それは良いとして。このまま戦うつもり、キャンディ? 俺と君は相性が良くない。互いに天敵なんだから」
「言ってればいいゾ——不敬罪で、さっさと死ネ!」
背後のメスフラスコが——キャンディの<エンブリオ>である【悪性神威 レシェフ】が、震える。
【レシェフ】の能力特性は、悪質な細菌の製造と爆発的拡散。キャンディという<超級>の持つ、最大規模の広域殲滅の根底を成すもの。
現在放出している細菌は、森や生命体を殲滅するためのもの。範囲が広いために単体種族に対する効力は(<超級>にしては)低い。だがその悪質さは折り紙つきだ。
しかし、木々を食い尽くすはずの細菌は、今何も効力を発揮していない。それが眼前の相手の仕業であることは、状況を見れば簡単に理解できることだった。
そしてキャンディがその気になった以上、【レシェフ】は、おそらくはまた新たな細菌を拡散させたのだろうが……。
「だから効かないって言ってるだろ——カヨ」
「ん」
少女が、小さな手を前方に向ける。途端、手のひらに大きな穴が開いた。
「《
「ッ」
何か、少女の腕から見えないものが放出される。それは確かに、指向性を持って拡散された細菌を——全て、駆逐した。
だがキャンディの細菌もただでは終わらず、放出されたそれを食い殺し、結果としてお互いの放出したナニカは全て消えてしまった。
そして同じように、本来なら森やモンスターをも消し去っているはずのメスフラスコから放出される細菌も、この拓けた場所以外には拡散されないようにナニカの壁が形成されている。
それこそは細菌。【レシェフ】と同じ、だが『細菌及びウィルスの殲滅』という命令だけを与えられて放出された、【レシェフ】に比べれば大雑把にすぎるもの。
「君が退いてくれれば、俺も追撃はしない。俺がいないところで、好きやると良い。
——だけど、俺の近くで細菌をばらまくのならば、俺は全力を賭して止めよう。俺は病気が、大嫌いなんだ」
ヤヨイ・ベルダーウッド——またの名を【
同時に、彼に付き従う<エンブリオ>の名は、【
そんな二人を睨み、しかしわずかに高揚した気分で、キャンディは拳を握った。
ヤヨイとキャンディの因縁は、デンドロのサービスが始まった初期からのこと。
似たような<エンブリオ>を発現させ、協力し合えばさらに強くなるはずのジョブを取り、同族嫌悪し、キャンディが国を滅ぼした後も変わらず接し、そして最後には衝突する。
お互いに死んだことも数知れず、ヤヨイはキャンディの天敵であり、そしてキャンディはヤヨイの天敵でもある。
ほぼ同時期に<超級>に至り、お互いのことは知らずとも、それでも腐れ縁のように接した。国を滅ぼしてからは正面切って殺し合うことはなかったが、殺し合うのをやめたわけではない。
「……ふん。止めるわけがないネ。GODの邪魔をすれば、全て不敬罪。というか、キャラモロ被りとか絶対許せないのネ!」
「……そうか。なら殺す。俺を病気にするかもしれない全てを、俺は殲滅するのだから」
少し寂しげにしたヤヨイが、アイテムボックスからバイオリンを取り出し、構える。
そして優雅に曲を奏でて——傍の少女が、無表情で両手を広げる。
「——《
本来ならば、奥の手であるはずの必殺スキル。
それを初手から切った二人は、お互いに負けることを想定していないように、少女の手のひらに開いた穴から放出される細菌を無頓着に眺めた。
それこそは、既存全てのスキルの昇格・同時使用。
周辺被害をまったく考慮に入れず、ただ眼前の病原体を滅ぼすことだけに全てを捧げた、<マスター>の狂気の象徴。
対するキャンディも完全にブチ切れたようで、【レシェフ】が用いる全ての細菌を放出して、どうしても相入れない対極にして同族嫌悪を刺激される目の前の相手を滅ぼさんとする。
——もっとも悪質な広域殲滅型である、キャンディ・カーネイジ。
そして、もっとも性質の悪い広域制圧兼広域殲滅型である、ヤヨイ・ベルダーウッド。
互いに天敵であり、そしてお互いに疎ましく思っている<超級>。
人影なき森の中で、最悪の<超級激突>が、始まったのだった。
–—結局、二人は死ぬことはなかった。お互いの細菌が喰らい合った結果、お互いの肉体を滅ぼすことはできなかったからだ。
しかしそれで被害がゼロと言えばそうではなく。
拓けた場所から、半径500m圏内。
端的に言えば森林地帯のほぼ全てが、消滅していたと言えば……二人の激突の激しさが、理解できるのではないだろうか。
【
アルマのIFの姿。愛称はカヨ。TYPE:ワールド・ルール・フォートレス。
細菌・ウィルスを殲滅する細菌を放出する<エンブリオ>。大凡の細菌を殲滅でき、【レシェフ】が天敵であり【レシェフ】の天敵。
ステータス補正は全て捨てている完全なスキル特化型。代償として出力が低く、放出量はあまり多くない。大雑把な制御は可能。
必殺スキルはレシェフをも超える完全殲滅ウィルスを放出する。食したものに応じて強化される性質を持ち、事が終われば回収可能なため使うごとに強くなる。
・装備スキル
《
悪い細菌・ウィルスをぶち殺す。カヨが制御可能。
《
良い細菌・ウィルスをぶち殺す。制御可能。
《
この世の姿形ある物質を朽ちさせる。制御可能。
《
霊体とかを滅ぼす。魂は【菌将軍】とのコンボであれば滅ぼせる。制御可能。
《
今までの全てのスキルを強化し、融合したものを、代わりにカヨの制御を受け付けない状態にして大量に放出する。これと【レシェフ】がぶつかり合った結果森が消えた。
これは食ったもので学習してさらに強くなる性質を持つ。一部でも回収できればそれを使って培養できるため非常に凶悪。
ただしヤヨイも容赦なく食う。
【
細菌・ウィルス統率強化系超級職。【疫病王】と組んだ場合ヤバイことになる。
自分では細菌を生み出せず、周囲にある細菌を強化するのが正道なためぶっちゃけ弱い。……が、カヨの生み出す細菌の繁殖力強化ができ、カヨの大雑把な制御を補正し、細菌の力を強化し、そして必殺スキルの細菌の制御を可能とするため、非常に凶悪なジョブと化している。
バイオリンを引いたのは制御圏の拡大と繁殖力強化のトリガーとしたため。あとヤヨイの趣味で、『戦ってる最中に棒立ちなのはちょっと』というポリシーによるもの。
女装男子を引き寄せる男、それがヤヨイ。