男のロマン、それはロボット —<Infinite Dendrogram>— 作:クーボー
□【
幽霊は、嫌いだ。
理屈とか、そういうのじゃなくて……心の底から、苦手に思う。
自室の中で、ベッドの上を転がりながら、言い訳沁みて考える。
外国のホラーならばどうとでもなる。アレは、結局のところ人間がどうにかすれば打ち倒せる脅威に過ぎないから。ゾンビも、怪人も、殺せるのならば殺すだろう。
でも、ああ——日本のホラーだけは、駄目なんだ。
日本のホラーは、人間がどうにもできない不可侵の領域から踏み入ってくる。祟りだとか、呪いだとか、死霊だとか……人にはどうにもできない、粘着質で、おどろおどろしい悪意。
同じ理由でホラーゲームも苦手だ。突発的な恐怖ならどうにもできるけど、じわじわと歩み寄ってくるようなホラーゲームは、途中で放り出してしまう。
——だから、自分の特典武具から、何故かそれそのものな霊魂が飛び出した時には、正直言ってとても驚いたし……アジャストの意味不明さを恨みもした。
でも、それは、その霊魂は……あの猿王が遺した意思に他ならない。拒否感や恐怖を抱えながらも、完璧に拒絶することができないのも、そのためだ。
「これでヤヨイみたいに恐怖を楽しめる性格だったらなぁ……」
ヤヨイ、というか正弥、ホラー映画とかゲームやる時めちゃくちゃ楽しそうにしてたし。基本的に正弥って自分が一切関わらないところで進行する物語が大好きなんだけど、その中でもホラーものは『自分でもどうにもならない』っていうスリルを楽しんでいるらしいのだ。
つまり、僕とは真逆なわけ。
「……まあ、今それを考えてもしゃあないか」
それよりも今は、あの霊魂をどうにかする方法を考えよう。
ヤヨイとかが色々とやってるみたいだけど、何も教えてくれないからわからないのだ。こういう時はきちんと表記してほしいよね、何ができるかってさ。
偵察にも距離が足りない(今は僕が怖がっているのを知って物陰に隠れているようだ。ごめんね)し、何より意思はあるようだけれど話せないっていう致命的な欠点がある。手も足もないから筆談もできないし……あれ、本当にどうすれば良いんだろう。特典武具への再収納もできないし、メリットがほとんどない割にデメリットばっかのクソスキルなのでは……?
それに思い立って戦慄していると、コンコンとドアがノックされる。
「カグラ、起きてる?」
「ん、起きてるよ。どうしたの?」
「や、あと少しであの霊魂どうにかできるからさ。カグラの近くにいる霊魂持って行きたいから、付いてきてくれない?」
あー……確かに僕がいないと霊魂移動できないから……。
「わかった。……猿王、悪いけれど、僕の後ろを付いてきてくれないかな」
通じたのかはわからない。耳もないし。
でも、それで通じたのだと思うしかないので、僕は部屋から出たのだった。
/
部屋の外に出ると、ヤヨイとラトラナジュがにこっと笑って僕の手を取る。いや、怖いんだけど。
そのまま僕を誘導するように、二人が先導する。……もれなく笑顔なのが怖いんだけど!
「あの、何か悪巧みしてない?」
「悪巧みはしてないさ。悪巧みは」
やだなー、めちゃくちゃ怖いなー!
「まあまあまあまあ、落ち着きなさいなカグラ君。ヤヨイ君がわりと胡散臭いのはいつものことでしょ?」
「……メルクに比べればマシだけど、うん、そうだね。ヤヨイ胡散臭いよね」
「言うに事欠いてまさか俺を胡散臭いなんて……俺の目を見てくれ、胡散臭いように見えるかい?」
「キラキラ輝いてる瞳と胡散臭さは両立するぜ?」
手を振りほどいてヤヨイをデコピンする。僕のカスSTRじゃほぼゼロダメージだろうけど、あいたっとわざとらしく仰け反るのがなんだかおかしかった。
……うん、わかってるさ。わざと道化みたいに振る舞ってるんだよね。ヤヨイらしくもない。
「ヤヨイ、ラトラナジュ。僕はもう大丈夫だよ。色々、ありがとね」
「……おー」
ふふふ、恥ずかしがっちゃって。ラトラナジュの方がこういう時は大人なのかな? そのラトラナジュもぷるぷる震えてるけども。
「……まあ、とりあえず俺たちがやろうとしてるの、説明するよ。そのままだと混乱するし」
「うん、お願い」
——ヤヨイ曰く、彼らは“容れ物”を造っていたらしい。
魂を入れて、身体となる……技量を活かすための道具となる、新しい肉体を。
三人の超級職と、それに見合った<エンブリオ>。それらの能力で作成した身体の部位を、メルクがホムンクルスとして一つにまとめる。
能力を付与した宝石を核に、<UBM>の能力を組み込み、金属の骨格を礎として血肉を生み出し肉付けする。
メルクの<エンブリオ>である【フランケンシュタイン】は、生み出した特注のホムンクルスをティアンと誤認させ、ジョブシステムの範囲内にするという特異な力がある。
それを適応すれば、レベルカンスト級の戦力とすることも可能。その上、いつか超級職へと至るかもしれない。
……そういえば採血用ホムンクルスが来たけど、もしかしてホムンクルスの素材にしたのかな?
「俺らはな、カグラの相棒を造ろうとしてる」
計画の概要を説明した後、ヤヨイは、そう言ってわずかに微笑んだ。
「相棒?」
「そう。カグラはピーキーなバトルスタイルだろ? だから、堅実で、それでもカグラのパートナーを務められるくらいの力量を持ったやつが必要だと思ってたんだ」
だからこその猿王。
あの霊魂を入れて、動かすことができれば——僕の心強い味方になると。
「……確かに、そうかもね。いたら、とても心強いと思う」
「だろ?」
それに、だ。
もう一度、猿王とは会ってみたいと思っていた。
人間相手に鈍っていただけで、あの抜群の格闘センスと、人格は、衰えていたわけではない。
何度でも手合わせしてみたいと、そう思わせる力強さがあったのだ。
だから、もしも彼と、味方として会えるのならば。
ああ——死合ってみたい。
「……カグラ、殺気盛れすぎ」
「……わ、ごめん」
「ったく」
殺気、か。大きな戦いがあった後とはいえ、少し怠けてたかもしれないね。リアルに戻ったら鍛錬し直さないと。
そのまましばらく歩いて、時間を潰す。
少し時間がかかるらしいので、二人とだべりながらの散歩だ。それも案外楽しいもので、あっという間に1時間経ってしまった。
そろそろできてるかな、というところで、ヤヨイの先導の元メルクがいるというラボへと赴く。僕は行ったことないので、ちょっとだけワクワクしつつも廊下を歩き、【フランケンシュタイン】内部のラボに入ると……。
「あ、来たねー。こっちもちょっと前に完成してて、今は最終調整。もう少しだけ待っててね」
その言葉とともにホムンクルスに椅子に誘導され、促されるままに座る。
ラボの中心には、どくん、どくんと胎動する白い蛹のようなものが、人一人は入れそうなくらい大きなフラスコ内部に入っていた。端的に言って、ちょっと気持ち悪い。
「……よし。これで大丈夫」
キーボードと画面を引っ込めて、メルクがモノクルを外す。調整が終わったみたいだ。
「カグラ君、後ろの霊魂君に指示を出して、あの中に入ってもらえないかな?」
「……今更だけどさ、入れるの?」
「多分ね」
……ちょっと不安になったけど、うん。僕には信じるしかないな!
「アレに入って」
指示を出して、視線をずらす。見たくは、ないからね。
周囲の反応から察するに、霊魂があの蛹の中に入ったようで、肩をポンポンと叩かれる。どうやらすぐに始まるらしい。
——ピキリ、パチリと、蛹にヒビが入っていく。
それは同じように発生したヒビと、交わるような軌道を取り……内部の白い人影が、蛹の内部から表面に手を添えたことで完璧に崩壊した。
それはそのまま、フラスコが開いたことで外にべちゃりと排出される。
「……ん」
寝ぼけたような声を出したソレは、ゆっくりと顔を上げる。
その顔は、僕の面影を残した花のようなかんばせで……。
黒い髪と、トパーズのような黄色の瞳。キョロキョロと寝ぼけ眼で周囲を彷徨う視線は、自分の身体に止まると、驚いたように目を見開いた。
そして何より特徴的なのが……腰辺りに生えた、銀色の尻尾。アレは、猿の尻尾だろうか。
いやそれにしても……ブラッシングしたいな、なんか。
「……我は、蘇った、のか?」
声もハスキーボイスとしか言いようがなくて、可愛らしい少女のような声だ。後ろでメルクとヤヨイが成功だとばかりにハイタッチしてるのは努めて無視しつつ、僕もなんとか声を出した。
「……“ボク”って、言えないかな?」
「待ちなさい。今はそれじゃないでしょ」
「………ボク?」
「あなたも言わなくていいから! っていうかメルクもヤヨイも喜んでないで彼に服を着せてあげてーっ!」
……どうやら僕も、相当動揺していたみたいだ。
いやでも、しかし……うん。
(今のうちに僕ら好みのファッションセンスにするのもありか……?)
だってこんな美少年、そんな見れるものじゃないし。
利得的な意味でも……ヘソ出しルックとか着させてみたいなあ……!
「……邪な視線を感じる。蘇ったはいいものの、もしや選択を間違えただろうか」
詳しいスペックとかは次回。