男のロマン、それはロボット —<Infinite Dendrogram>— 作:クーボー
リアルでの所用を済ませて、狩りを続ける。
すでにレベル15を突破しており、このペースで行けばデンドロ内時間での今日が終わるまでには25に行くだろう。
……つってもまあ、もう夜なんだけどね。
「ちょっと見通しが甘かったかな?」
『というか、焦りすぎ』
アルマの声も、わずかに疲れたような、嗜めるようなイントネーションになっている。……そりゃ確かに、フルスロットルでこれだけの長時間戦い続けてれば疲労するか。
……ん、巫楽のやつのペースに慣れすぎてたかな。アルマのことを考えていなかった。
「ごめんな、アルマ。さすがに疲れたろう」
『……少し』
「……今日はここで終わりにして、一旦帰ろう」
大分アルマに無理させてしまった。アルマを人間体に戻し、背中に背負う。そのまま、森の出口に向かって歩き始める。
……もうログインできないというわけでもないのに、全力でやりすぎていた。何事も全力で、というのが俺のモットーではあるが、他人に……しかもこの世界での最高の相棒を潰してまで、やる必要はない。
……少しの間、レベリングは止めようか。アルマは<エンブリオ>だけど、一人の少女なのだ。俺がしっかりしなくてどうする。
そう考えた瞬間、かぷり、と耳が齧られた感触があった。痛覚設定はOFFにしているから大丈夫だけれど、生暖かい感覚が耳を覆う。
「……アルマ?」
「むぱっ。
……マスター、それは違う。私は<エンブリオ>、女であるとかそれ以前に、マスターの道具」
アルマが足でぽんぽんと叩いたので、彼女を下ろす。
アルマは俺の手に触れると、少しだけ寂しそうにこう言った。
「……私のことは気にしないでいい。<マスター>がやりたいようにすればいい。それを叶えるのが……私の、本懐」
「……アルマ」
ならばなぜ、そんな寂しそうな、孤独の中にあるような顔をする。
……なぜ、マスターではなく……<マスター>、なんて言ったんだ。
そんな思いと言葉が伝わっているはずなのに、アルマは何も言わない。
……そうだ、言わなければ。
俺が言わなければ、俺が言うべきなんだ。
「アル——」
「うあああああああっ、や、めっ、ぐぎゅっ——」
——悲鳴。絶叫と言い換えてもいい。
森の入り口から、そんな絶叫が聞こえてきた。
「っ!」
俺の思いはとりあえず後回しにして、アルマに目寄せしてローラーに変身してもらう。
足に装着されたそれによって、俺の肉体が強制的に森の方向へ引っ張られる。
「何が起こってる! わかるか!?」
『わからない! ただひとつ言えるのは——マスター、横に飛んで!』
跳ねる。
刹那、横を何か大きな影が通過する。……いや、違う。通過じゃない。
これは……
「アルマ! 俺の肉体を覆って全方位警戒! 移動は俺がやる! 破損準備しとけよ!」
『ん!』
アルマが全身を薄く覆うアーマーとなる。とりあえずこの状態なら、さっきのアレがぶつかってもギリギリ耐えられる程度の防御力は確保できる。
俺の足で森を進み、獣道を突き進む。
やがて夜の空——<オルトウテナ平原>の空が見えてきて、飛び上がって森からおどり出る。
受け身を取って転がりつつ、周囲を警戒——
——そこに、奴はいた。
「……なんだ、アレ」
全身が、悲鳴を上げている。
逃げろと。敵う相手ではない、戦える相手ではないと、本能がそれを告げていた。
ソレは、全身を青い装甲で覆っている。よく見ればソレは、かつて見たもの——<マジンギア>の装甲だ。
ソレは、人型をしていた。根本からしてそう造られていて、<マジンギア>の装甲は外付けされたものだ。それも、かなり乱暴な手段で。
ソレ、は——
「古代伝説級……<UBM>?」
いつか、Wikiで見たその項目。
一般のモンスターとは桁が違う強さを持つ、一種の災害。
一体現れれば、周辺に甚大な被害をもたらす怪物。
その銘は——
「【骸収機兵 クロマドーラ】……!」
ウィンドウに表示される、その名前。
それを視認し、そしてそれを感じ取ったのか向こうの頭部についているセンサーが光って——
「ッ《フェイタル・ディフェンダー》!」
一瞬の判断だ。俺の腕についていた小さな
——それでもなお、俺は奴の拳に吹き飛ばされた。
「ぐ、ぅ、ぉぉぉぉァァ!!」
それでも、意地でアルマは離さず——結果としてそのおかげで、俺は森の中に吹き飛ばされても生存していた。
しかしそれは、無傷とはいかなくて。
(い、しきが、——)
『マスター! マスター!?』
アルマの声を聞いて、……けれど俺の身体は動かない。
視界の端に点滅する【気絶】のアイコンをクソッタレな心境で眺めながら……俺の意識は、闇に落ちた。
——鋼の夢