男のロマン、それはロボット —<Infinite Dendrogram>—   作:クーボー

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感想をやるのだ。
遠慮するでない。他の作品にも好きなだけ書くのだ。拙作にも書いてください。
もらったらめっちゃ書けるので。


第11話 在りし日の夢を、在り得べからざる瞳を通して

 ——眼前で、一人の子供が泣いている。

 喚かず、騒がず、只々ひたすら泣いている。

 

 周囲の大人に支えられ、屈強なボディーガードに囲まれながら、少年は自分の前に転がる少年を見た。

 その少年は、泣く少年を憎悪を込めた目で睨みつけている。ボディーガードに乱暴に抑えられながら、何かを叫び、喚いている。

 

 

 ……あぁ、そうか。

 これは、俺の記憶だ。

 

「……」

 

「……アルマ」

 

 そして俺の隣には、<Infinite Dendrogram>での相棒であるアルマがいた。

 灰色の世界を、額縁に収められた記憶という枠を通して、俺たちは現実を見ていた。

 

「……これは、マスター?」

 

「ああ、そうだよ。……確か、八歳くらいの頃だったかな」

 

 そういえばアルマには、リアルでの俺のことをあまり教えていなかった。

 

 それを話すのもいいかもしれないなと、ボディーガードに連れられてその場を去る少年()の後を追いながら、口を開いた。

 

 /

 

 

 俺は日本でも有数の資産家にして実業家の一族、真木財閥の生まれだ。

 それも、数多の分家や傍流の一族の中で、唯一の直系にして真木を名乗ることを許された、真木一族宗家の長男である。

 

 当然莫大な資産を持ち、その一族にはそれに応じた多大な責任と、能力を求められる。

 俺はまったく問題なかったが……日本での最高学府に通っても、一族の間では落ちこぼれ扱いされるくらいには、基準が非常に高かった。

 

 そしてそのため、俺たちは小学校から通う場所が選定される。

 俺が通っていたのは、海外の有名な中学への道を開いている、所謂資金と知力を持ち合わせるエリートクラスだけが入学することを許される名門私立の小学校だった。

 

「そこに通えるのは、すごい?」

 

「ん……まあ、すごいんじゃないか。あそこ出るだけでエリートコース確実らしいし」

 

 でも入学時のテストが簡単すぎて苦労した覚えがなかったりする。クラスメイトは相応に苦労したらしいが、当時の俺は首を傾げたものだった。

 ……まあ、それが先の出来事につながったとも言えるのだけれど。

 

 話を続けると、真木が飛び抜けているとはいえ他にも日本の実業家たちの子供たちもたくさんいた。巫楽は……当時から皇族に捧ぐための神楽の練習をしていたから、学校で会ったことはなかったんだが。

 そして俺は、虚弱なので休みがちだったけど、できる限り頑張って通った。行き帰りはリムジン(他の子供もそんな感じだった)で送り迎えして、複数のボディーガードが常に付いていたけれど、なんとか通えていたのだ。

 

 けれどそこで、問題が出来てしまった。

 そう、友達ができなかったのだ。

 

「友達?」

 

「いや……俺はそもそも休みがちだったし、それに周りの家なんか比べ物にならない格だったから、向こうから近寄ってこなくてさ」

 

 本来そういうのはコネを作るべきなんだろうが、俺が学校に行くたびに色々やらかしていたのが悪かった。

 

 絵を描けば並大抵の画家以上の練度で描けるし、勉強では一度聞くだけで覚えられた。教科書ペラペラめくればテストで100点は余裕(もちろんキチンと予習復習したけれども)で、先生から指されても一度として間違えたことはない。体育はそもそも参加できなかったが。

 自慢ではないが、周りからすれば家柄が自分たちより上のくせにめちゃくちゃ頭も良く、そして良く学校をサボるという「いけすかないやつ」だったのだ。

 

 俺の方もそれを正面から受け止めて……なんかこう、「僕にかしずけ愚民ども」を地で行く態度だったから、友達なんてできるはずがない。

 言い訳させてもらうと、それに相応しい成績と絶対に他者に遅れを取らないための努力もしていたから、漫画とかでよく見るような「プライドだけ高い貴族」ではない。「プライドも実力もめっちゃ高い貴族」だ。

 ……余計嫌な奴になったのは置いておく。

 

「その……皇族? の人とは?」

 

「残念ながら向こうが一学年上だった」

 

 そして目の前で、泣いていた少年()がボディーガードに守られながら大きな車に乗せられた。俺たちも中に乗り込んで、様子を見る。

 

 

 ……ん、そうだね。早く話すよ、だから急かさないで。

 ごほん。

 

 ……けれど、そんな俺にも、一人の友達ができたのだ。

 その子はあまり大きな会社ではなかったけれど、親と自分が頑張ってこの学園に入れたらしい。人の良い笑顔を浮かべて、自分と同規模、または少し大きいくらいの社長子息や令嬢たちと、とても仲良くやっていた。

 

 その子からすれば、俺に声をかけたのはただの気まぐれだったかもしれない。

 でも俺にとっては、それは小さいながらも確かな救いになったのだ。

 

「……もしかして、その子が?」

 

「そう。……俺を刺そうとした子が、その子だ」

 

 当時の俺は、虚弱で生まれたことに対する罪悪感というか、そういうものがあって、家族とあまり話をしなかった。愛されているとはわかっていたから、俺だって頑張って伝えようとしたけれど、口がうまく動かなかったんだ。

 

 ……伝えられたのなら、その悲劇を変えられたかもしれないのに。

 

 

 それは、なんてことのない当たり前の出来事だ。

 とあるそれなりの大きさの会社の事業が、とてつもなく大きな会社の事業とぶつかって……当たり前にように、潰れた。

 

 偶然その会社の子息が、その学園に通っていて。

 ……偶然潰した側の、大企業の子息も、その学園に通っていた。

 

「潰した側の……SNKグループの子供が俺で、潰された側の会社の子があの子だった。俺の一族は、身内に愛が深くとも、部外者には一切容赦しないから」

 

 その結果としてその子供が転校し、その原因がSNKグループとの衝突……いや、SNKグループに一方的に引き潰されたということも、大人を通じて子供に伝わった。

 

 元々居場所がなかった子供と、数多の友人を持っていた子供。

 後者が前者をいじめるのならば、他人は傍観しただろう。身分を勘定に入れなければの話だが。

 

 しかし、今回は偶然だったけれど、結果的に前者が後者を追い出した形になった。

 

 いじめは起こらなかったけど……その結果起こりうることなんて、誰にでも予想がつくだろう。

 

「俺は学校で排斥された。

 ……それでさ、思っちゃったんだよ。なんで俺は、自分がぶっ倒れることも考えてまでこんな学校に来てるんだろう、って」

 

 元々虚弱であるがゆえ、少々無理をしただけで俺は倒れてしまう。

 歩くことはできても、走ることなんてできやしない。学校の行き帰りは送り迎えがあるとはいえ、広い学園内を歩き回るのは俺にとっては非常に負担が大きいのだ。

 

 そもそもの話、俺の成績ならスイスのジュネーブにも行けたんだ。

 それを俺のわがままで日本の学校に通っているのに……なんでこんな嫌な思いをしなくちゃならないんだと、まだ子供だった俺はそう考えた。

 

「それでも俺は、一度のわがままは通そうと行ける時は頑張って行っていた」

 

 その時だった。

 俺の目の前に、あの子が現れたのだ。

 

 あの時の俺は、多分、嬉しくて仕方なかったんだと思う。

 なにせ音信不通だった友人だ。ボディーガードを待たせて、彼のところに駆け寄って……。

 

「そして、刺されそうになった」

 

 間一髪のところで少年の意図に気づいたボディーガードの一人が少年を蹴り飛ばして俺を守った。

 事態を飲み込めない俺に向かって、少年はこう叫んだのだ。

 

 “おまえのせいで父さんの会社が潰れた。おまえのせいだ、おまえなんか死んでしまえ”、と。

 

 

「……マスターのせいじゃない」

 

「ああ、そうだ。俺のせいじゃない」

 

 ……だけど、子供心ながらに、友人だと思っていた相手の憎悪を込めた視線は、俺の精神を確かにえぐった。

 

 涙がはらはらと溢れでて、家に着くまで茫然自失だ。家で父さんと母さんに抱きしめられてようやく現実を認識して、……泣いた。ただひたすらに泣いて、鳴いて……そして落ち着いた頃に、二人に頼み込んだのだ。

 

 自分をジュネーブに行かせてください、と。海外の学校に逃げさせてください、逃げるのを許してくださいって。

 

「すぐに受理されて、俺は学校の連中に挨拶もせずにジュネーブに飛んだ。海外での生活は慣れてなかったし、短期間で何度もダウンしたけれど、なんとか学校で生活して友人も作ることができた。

 だけど、その時の想いと誓いは、俺の中に確かに刻まれてる」

 

「……誓い?」

 

 俺はアルマの頭を撫でて、言う。

 

「“逃避するのはこれで最後。これからは、どんなことからも絶対に逃げない”。それが誓いだ」

 

 だからこそ——そうだ。

 

 俺は今、【気絶】している状態。あの野郎——【骸収機兵 クロマドーラ】にぶん殴られて、HP全損一歩寸前で止まっている。

 それを可能にできたのは、アルマがいたからだ。アルマのおかげで、俺は一蹴されずに済んでいる。

 

 ならば俺は、立ち向かうだけ。

 

同調者(マスター)生命危機感知】

【同調者生存意思感知】

【<エンブリオ>TYPE:メイデン【装甲乙女 アルマトゥーラ】の蓄積経験値──グリーン】

【■■■実行可能】

【■■■起動準備中】

【停止する場合はあと20秒以内に停止操作を行ってください】

【停止しますか? Y/N】

 

「……これ」

 

 アルマはわずかに戸惑っている様子だった。俺も初めて見るウィンドウで、あまり良いものには思えない。

 だが、一つだけわかることがある。

 

 それは、これが実行されれば——俺たちは、確実に次の段階に進めるだろう、ということ。

 

「どうする? アルマ。カウント、止めるか?」

 

 今も刻々と、カウントは刻まれている。猶予はあと15秒程度。

 

「俺は逃げないよ。アルマが繋いでくれたこの命で、あいつに勝つ」

 

 アルマがいなければどうにもならない。

 けれどアルマがいるならば——俺は、何にだって勝ちに行ける! 

 

 それを感じ取ったのか、アルマはほんの少しだけ、柔らかに微笑んだ。

 それは思わず、見惚れてしまうような笑みで——

 

「愚問。私は<マスター>の……違う、マスターだけの道具。マスターが願うのならばどんなことも叶えるのみ。

 それこそが私の本懐。私だけが叶えられる、私だけの根底目的(オリジン)だから——!」

 

「——ああ。一緒に叶えよう。進むんだ」

 

 宣言を終えると同時。

 カウントが、0となった。

 

【カウント終了】

【■■■による緊急進化プロセス実行の意思を認めます】

【現状蓄積経験より採りうる千三百五十六パターンより現状最適解を算出】

【対象<エンブリオ>:【装甲乙女 アルマトゥーラ】に対して■■■による緊急進化を実行します】

【進化に耐えられる程度の負担耐性と、本体のパーソナリティとの調和を確認。次回進化延長措置はありません】

 

 刹那、アルマが光の粒子となる。

 俺の周囲を舞う白雪は、俺を覆うように収束して——

 

【■■■──完了しました】

 

「さあ、行こうぜ相棒。あの鉄屑野郎を、一発ぶっ飛ばしてやろう!」

 

 ウィンドウの文字列が流れるように生まれ、消えていく。

 ——収束した粒子が、確かなカタチを成した。

 

【──FormⅡ 【Cracking To The Metal】】




かくして役者は揃う。
鋼の暴君、鉄の王子に鎧の姫君。

——互いの本懐を果たすため、鋼の暴君に王子と姫は魂をかけて挑み行く。
機会は一度、これ限り。なれば負けられる戦いなどではなく、これは負けれらぬ戦いである。
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