男のロマン、それはロボット —<Infinite Dendrogram>— 作:クーボー
□【
「ぬぅっ、さすがに強いな……!」
「そっちこそ」
水中で、ヤヨイの方に視線が行っているから、ステータスがあまり高くないとはいえ、いいところで躱される。やっぱり超級職二つ持ちってのが大きいか……でもそれに甘えるようじゃ、ボクもまだまだだな、っと……!
「あーもうホント面倒、ボクやっぱ遠距離弱すぎ……!」
ボクは近距離で人がいれば強い。でも遠距離はダメだ、何もできない。水中だとAGIもあんまり機能しないからね……ヤヨイのオールマイティーさがたまに羨ましくなる。
特にこのテリトリー内は相手のホームグラウンドだ。今はどうにか防いでるけど、これわりと詰んでません? けれどまあ、全力で抵抗させてもらおうか。
「あー、あっちはもう下準備終わってるかなー?」
そんな風に切り札を匂わせる。今回の戦闘で<エンブリオ>を披露してるの、ボクとヤヨイだけだからな。ほかにどんな手札があるのか不明な以上、早急に残った戦闘員とともに止めに行きたいはず。
だから——ほら。
早く試せよ、必殺スキル。ヤヨイの仮説が当たってるかどうか、ボクを賭けて確かめてやろう!
ちらりと【救命のブローチ】を見せながら、ボクは軽く笑みを浮かべた。
「ならば仕方ない……悪いが切り札を切らせてもらう!」
そら来た。扱いやすくて助かるね。
——さて、ここで彼の<エンブリオ>のモチーフたる「鮭の大助」について話しておこう。
鮭の大助とは、日本の民俗学レベルで伝えられてきた妖怪の一種だ。大抵の神話や伝説、寓話については叩き込まれているボクですらわからなかったから、これは多分
でも今の時代、便利なものはあるものだ。インターネットでモチーフについて調べ……そして過去の決闘の動画を見て、ヤヨイが立てた結論——それは。
「——《
彼の背中に、水で形成された魚……否、巨大な鮭が出現する。それはこちらを、ギョロリと見る。
——鮭の大助は、特定の日に川を登る、川の王たる妖怪の一種である。しかもただ登るだけではなく……その際に雄叫びを上げて登っていく。
その雄叫びを聴いたものは……死に至る。
『キョエエエェェェェェェェェェェェェ!!!』
その絶叫は、彼が展開した《遊泳観念》内に大きく響き渡り……ボクのステータスに【即死】が表示された瞬間、【救命のブローチ】が砕け散る。そしてその瞬間に、ボクは外部からの干渉で海に叩き落とされた。
それはボクの脱落を示すものであり……。
(んー……
同時に、彼のスキルの本来の形を暴き出すものだった。
/
捨て駒ご苦労。
『ご苦労』
さて、カグラの側に忍ばせたアルマによれば……ふんふん、なるほどなるほど。よし、これなら問題ないな。これで叫び声が放たれた時点でエリア内の全即死とかだったらどうしようもなかったけど、さすがにそこまではリソースが足りなかったか。
「うっし、いくぞアルマ!!」
/
『ここでサーモン氏の必殺スキルにより、カグラ氏離脱ゥー! 圧倒的なステータスを持ったカグラ氏の退場で、形成はサーモン氏に傾くかーっ!?』
『いや、そうでもないみたいだね。ここでヤヨイ氏が復帰だ。でも、まだサーモン氏の必殺スキル効果時間内だけど……』
その通り、まだサーモン氏の必殺スキルたる背後の水鮭は消えてない。あの必殺スキルは、背後の魚が消えない限り、何らかのデメリットはあれど連射可能だ。それは俺が今まで見てきた決闘の動画から理解している。
そう思いながら……俺は彼のテリトリー内に突っ込んだ。
「諦めたのか!」
「そうでもねーよ!!」
軽く言い合って、アルマに《天属性付与》を行いエアガンにする。あまり近付かないようにして距離を取り、それでいて《遊泳観念》から脱出しようとしない俺を見てサーモン氏は訝しんだものの……それを面倒くさがったのか、背後の鮭に命令を下した。
「もう一度、か……! あまり使いたくはないが……小助!!」
先ほどの大鮭が消え、今度はそれより少し小さな水の鮭が現れる。鮭の大助の伝承は妻の小助が出てくることもあるので、今度はそれを呼んだんだろう。まだ必殺スキルが使えるのは、小助の分も残ってたからか?
……まあ今は別にいいか。さあ、検証のお時間だぜ……アルマ!!
『ん』
「叫べ! そして死ね!!」
『キィエエエェェェェェェェェェェェェェ!!』
小さくなっても先ほどと劣らぬ音量の叫びが、俺の全身を包む。ほんの少しの冷や汗とともに絶叫が一瞬のうちに過ぎ去って……。
……俺は、即死しなかった。
刹那の静寂のうちに、背後の鮭が消える。そして残されたのは、愕然とするサーモン氏と、わずかな安堵と大きな喜びに包まれた、俺だけだった。
「なっ」
「いよっし検証成功!! アレだな、やっぱり聴くことが条件だったか!」
俺は耳に入れていたものを……いつかのように、《天属性付与》で振動を遮断することで音を一切封じ込めるように細工した、耳栓型のアルマを抜き取る。
まずそもそも、空間内の法則を塗り替えるテリトリーで、なおかつ水操作の能力が付属し、その上で二回のテリトリー内の全域即死なんてスキルを発現するなど、あまりにリソースが足りない。だからあまり理不尽な即死ではないと考え、そして、モチーフから推測するに音に関連するものだと推測できる。
もしも音が発生した段階で即死するなら、カグラが伝えた猶予時間……高いAGIで絶叫の始めと即死した瞬間を確認しても、差はなかったろう。しかしカグラが即死したのは、あの音が耳に入った瞬間。正確に言えば耳に入ってそれを認識した瞬間だ。
だから俺は、元々立てていた対策が有効であると仮定して挑んだ。
なお直前まで普通に会話できたのは、アルマが広がって穴を開けていたからである。
「き、規格外すぎる……!」
「自分の<エンブリオ>の弱点くらい把握しとけよー? まあ水中で音速で迫る即死攻撃なんざ、避けられる奴はそんなにいねぇだろうがなァ!」
というか、俺が相手じゃなければものすごく強い。さっきのカグラが実演してみせたように、水中だとあまりAGIは発揮できないからな。<超級>でもない限り必殺だろう。というか<超級>でもハマれば即死するかもしれん……閣下とか。
「良い(練習)相手だったよ。じゃあな」
さすがに俺も、言わなくていいことを言わない程度には、空気は読める。愕然とするサーモン氏の顎をアッパーで殴り飛ばし、吹き飛んだ先に肉薄して……圧縮したアルマを突き刺した。
「そら、お返しだ! 《
突き刺したアルマの体積が膨張し……それはサーモン氏の身体を内側から破壊し、一撃でHPを全損させ、【救命のブローチ】を破壊した。
よっしゃ、完全勝利ィ!!