男のロマン、それはロボット —<Infinite Dendrogram>—   作:クーボー

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第15話 開戦!広がっていくカオス!!

 □グランバロア洋上 【鉄人王(キング・オブ・アイアン)】ヤヨイ・ベルダーウッド

 

『おいグランヴィル! おまえこっちに雷当てたら許さないからなっ!!』

 

「そっちこそ俺の直線状に入ってくんなよ! 間違ってぶち抜いても謝らねえからなァッ!!」

 

 随分と言いやがるぜ……! 

 

『マスター、グラカス、左上52度から水。指向性あり』

 

「おい待てグラカスって——っぶな!?」

 

『ただの便宜上の名前だそんなんで騒ぐな!』

 

 長いんだよおまえの名前! 伝達に支障が出なくなるくらい短くして何が悪い! 

 

『マスターも結構長い』

 

『身内から刺された、だと……!』

 

 愕然としながらも、複雑な軌道を描きつつ追ってくるウォータージェットを躱す。案の定グスタ・ベスタとベクトルドラフトの相性は最高なようで、ウミヘビみたいなグス……ええい長いグスベスで通す! 

 

 ともかくこのウォータージェットを口から吐き出して攻撃してくるんだが……ちょっと視覚的に気になってることがあってな! 

 

『グランヴィル! 充電は!』

 

「心配すんな、たんまりとある!」

 

『そうか、なら火力を頼むぞ! 俺は火力が高くねえからな!!』

 

「任せろ!」

 

 グランヴィルとその<エンブリオ>、【雲上制覇 ユピテル】なら、グスベスの口から(・・・)吐き出されるウォータージェットなんざポカしない限り当たる要素はない。

 今もウォータージェットを躱しながら放出した電撃で盛大にもてなしてるところだ。しばらくほっといても大丈夫だろう。

 

 だから今警戒すべきなのは、それ以外。

 

『てめえ、なんだそのいかにも“ここから吹き出しまーす! ”みたいな身体の突起は……!!』

 

 細長い身体の側面に、それぞれ十数カ所。明らかになんか吹き出しそうな突起が付いている。多分、というか十中八九あそこからも水が出る。

 今やってないのはそれが負担がかかるからなのか……それはいいんだけどもうちょっと隠すことを覚えやがれ! その雑さで助かってるから偉いことは言えないけど! 

 

 ……まあ今の俺の感傷なんざどうでもいいか。

 

『そらアルマ、俺らお得意の裏工作だ!』

 

 敵が本領を発揮する前に潰すなんて、戦略の常套手段なんでね……! 

 

 外部に設けた銃のように整形したアルマから分体化した上で硬化したアルマを、《天属性付与》を交えて撃ち出す。突起の数が多いので一度じゃカバーしきれないが、何度か繰り返せば簡単に突起に入り込める。

 

 と思ったが、いくつかが俺の制御を離れてどこぞに吹っ飛んだ。アルマがミスったわけじゃないのは感触からしてわかってる、と言うことは……。

 

『おいカグラ、ウォータージェットの時も思ったけどっ、引き離してくれるんじゃなかったのか!?』

 

「ごっめーんっ!! でもこいつらやっぱ変だって、明らかに目に生気がないのに他の奴の能力を想定に入れた動きしてくるし! あと僕だけじゃさすがに抑え切れないよーっ!」

 

『そこは一人で頑張ってくれー!』

 

「うわーんひどーい!!」

 

 とか言いつつベクトル操作をくるくる回りながら掻い潜るのはさすがとしか言いようがない……まあわかってたことだが、やっぱりこいつら司令官がいる。

 順当に行けばネグラフだろうが……なーんかそれだけじゃない気がするんだよなあ……。

 

 ……具体的にはほら、あのキノコですよ。

 

『嫌な予感がガンガンするぜ……そらっ、全部入った!』

 

 わりとベクトル操作で吹っ飛ばされたが、アルマの量は通常時でも結構多いので余裕はある。なので数に任せて色んな軌道で突起の中に突っ込ませた。

 

 それじゃあお披露目と行こうか。

 

 

 ——さてウミヘビ君、ここで問題です。

 君の体内の中に潜り込んだアルマ、まだ制御を切り離してないれっきとした分体なわけですが……そんな状態で体積が急に膨張したら、どうなってしまうでしょーか? 

 

『答えは今すぐ、参加料はおまえの命ッ!!』

 

「うわガラ悪」

 

 先にてめえの船に潜り込ませて破壊してやろうかあーん?? 

 

 そんなことを口には出さずに思いつつ、俺は宣言する。

 

『《我は原初の道具に通ず(アルマトゥーラ)》——どうなるか見物だな?』

 

 刹那、ぐん、と体内に潜り込んだアルマが膨れ上がる音がして。

 

 

『GUGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッッッ!!!??!?』

 

 

 ウミヘビ野郎の絶叫が響く。

 ——だがそれだけで終わるほど、伝説級<UBM>も弱くはない。

 

 具体的には目がぐにゅぐにゅ動いて炯々と輝いて、全身に空いた傷痕から、強引に水を噴き出した——! 

 

『うおうっ!?』

 

 少し驚いたが回避。グランヴィルも驚きつつ余裕で回避する。元々噴き出す場所じゃなかったから速度があまり高くなかった……だけど多分、なんらかのスキルで貫通力を高めてるのか、当たったらアルマでも両断されかねないと第六感が訴えている。

 

 だけどその様を見て、俺は確かに違和感を抱いた。

 

『……弱いっつうか、なんつうか……<UBM>らしくない』

 

 これで伝説級と戦うのは二回目だ。

 一回目はもちろん、風の秘石こと【天界空破 ラッダリト】。あの風の弾丸と風の防御の両立、そして純粋な高度は、思えば随分と手を焼かされたものだった。

 

 あの時はこもっとやカザミさん、そしてカザンヌさんの必殺スキルで強引にあんにゃろうの切り札を切らせた。俺だけで勝てる相手ではない。

 もちろん今は今でやりようはある……で、それで勝てるの? と言われたら勝てないと答えるしかないんだけども。

 

 あいつが条件特化型だってことを鑑みても、正直目の前の相手は弱い。

 その理由はひとつ。

 

<UBM>らしい我の強さがないのだ。

 

<UBM>とは、モンスター側の<マスター>と言っても過言ではない。そしてそれに比例するかのように濃い自我を有している。

 

 ラッダリトも、みみっちいしくだらない怒りではあったが、つまるところ怒りを抱ける心があるということだ。

 神話級の双王の片割れ、【山竜王 ドラグベルグ】もまた、好々爺とした一面と戦闘狂的な趣向を両立させていた。

 

 だからこそ、目の前の相手は<UBM>らしくない。

 

 能力は確かに相応だろう、だが技量と心が伴わなきゃそれは無意味だ。

 人間で言う心技体、そのうち二つが欠けているような状態で、何ができるというのだろうか。

 

 少なくとも、グスベス……【烈水闘蛇 グスタ・ベスタ】は、もっと強かったはずなんだ。

 それこそが、<UBM>の<UBM>たる所以なのだから。

 

 同じく、今カグラが相手をしている【方向纏貫 ベクトルドラフト】も、元から逸話級とはいえ明らかに弱くなっている、

 

 見てわかった。あのベクトル操作はマニュアルだ。それも強い力を持って抵抗されるとそれに能力を占めなきゃならない。

 今、メルクの隠蔽&回避特化型ホムンクルスで暴力的なステータスを獲得しているカグラの抵抗……感じた力の方向とは逆方向にAGIを込めて身体を捻るとか、そういうことをやっているからこそこっちに能力を回す余力がない。

 

 精々グスベスのウォータージェットの方向を少し変えるとか、抵抗も質量も少ないアルマの分体を吹っ飛ばすとか、それだけだ。それもごく一部だけで、さっきの強引な水噴射が曲がらなかったことからもそれは見て取れる。

 

 お粗末なんだ、全体的に行動が。

 

 

 で、その原因もまた、すでに見えている。

 

『……ネグラフだけじゃないな、明らかに別の力も混ざってる』

 

 あの菌糸類だ。あれが今この惨状を引き起こしている。

 もちろんネグラフが何の関係もないとは言わない。というか多分、あんにゃろうが戦犯だ。

 

 ネグラフ・シーヴェは古代伝説級だ。だというのに、見えている能力が小魚を爆速で生成する、くらいしかない。

 なら身体スペックにリソースが振られている……わけでもない。

 

 だって今、つまらなそうなグレイと他の【機械天使】に蹴り転がされて遊ばれてるし……。あぁ、状態異常とEND削減でタコ殴りに……。

 

『仮にもクロマドーラと同じなんだからそのくらいの意地は見せて欲しかったな……まあないならないで好都合だけど』

 

 で、話を戻すが、なら余ったリソースはどこに注ぎ込まれてるんだって話になる。

 

 それで俺たちは、すでに実例を見ている。

 ——ラトラナジュの持つ指輪の元になった【グルーピート】、あれの持つ能力はフェロモンだ。

 

 となればおおよその察しは付く。

 あの生み出されたばかりのはずの小魚が、一切躊躇することなくホムンクルスに突撃してることも鑑みれば確定だ。

 

 

 あいつの能力は強力なフェロモンだ。

 それで他の<UBM>を洗脳するように仲間に加えた。等級が下だからフェロモンが効いたんだろうか、まあそこら辺はよくわからんので捨て置く。

 

 

 最後にあのカルマトラクト、菌糸類。

 あれの能力は——多分、取り憑いたモンスターやらティアンやらの意識を剥奪する代わりにスペックの強化をもたらすものだ。だから契約、しかも強制なんだろう。

 

 正直思いついた時はクソみたいな組み合わせだと思った。

 だけどそれはそれとして、ちょっとまずいことがある。

 

 カルマトラクトもまた<UBM>。

 そんなれっきとした化け物の持つ、取り憑いたものを強化するスキルが、たったあれだけで終わるはずないってことだ——! 

 

 

 ——瞬間、ぞわりと、寒気立つ。

 

 嫌な予感とか、死の予感とか、そういうのが一気に冷や汗として流れ出る。

 

 そして——

 

 

「がふっ……!?」

 

 

『ま、……マスター!?』

 

 

 ……ああ、これはまずい。

 

 視界の端に映るステータスウィンドウ、それに表示された項目を見て、俺は。

 

【窒息】

 

【強制付与:ステータス強化】

 

【強制付与:状態異常強化】

 

【凶性対価:精神休眠】

 

 

 ——【凶性対価:傀儡】

 

 

 あくまで比喩のはずなのに——血の気が引いた音がした。




カルマトラクト。
——神話級<UBM>。


……まあ、うん。
次回、お楽しみに。

ちなみに、強制契約の条件は、どれだけ動いてるかに左右されます。
動いてると遅い。動いてないと早い。<マジンギア>乗ってるので、ヤヨイが一番早かったわけですね。

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