男のロマン、それはロボット —<Infinite Dendrogram>—   作:クーボー

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第16話 最悪の気分

 かつて、レジェンダリアに一体の菌糸類がいた。

 

 のちに【凶性頸厄 カルマトラクト】と呼ばれることになるその菌糸類は、他の生物に取り憑くことでその能力を高める代わりに、その生物を己の支配下に置く能力を有していた。

 

 ただ己の生存と、生存のための力に対する強大な渇望。

 その想いのままに他の生物を支配した。

 

 力を与え、その対価を徴収するように支配する。

 

 あるいは理不尽にも思えるそれは、しかしレジェンダリアで弱小とされたモンスターには、うってつけと思われるような魅力的なものだった。

 なにせ菌糸類はただ己の生存だけを求めている。ゆえに、その胞子を吸い込むことで強化された上で支配された者たちを外部から動かす者がいれば、純粋な強化剤としても活用できたからだ。

 

 そして菌糸類は力を蓄えた。

 支配下の生物を増やし、それに力を分け与える。そうして彼らが殺した生物のリソースが、一部菌糸類に流れていき……それによってさらに強化されていく。

 

 その循環の果て……彼らは呆気なく、【妖精女王】に殲滅された。

 当たり前だ。レジェンダリアにおいては世界最強とされる、彼らとはスケールが違う強さを持つアムニールを味方に付けた【妖精女王】に、たかだか菌糸類の力を借りて自らを強化したところで、敵うはずがなかったのだ。

 

 しかしそこで、菌糸類にとっては幸運……他の者たちにとっては不運そのものと言える出来事が起こる。

 

 レジェンダリアにおける自然魔力災害、アクシデントサークルによって発動した転移魔法によって、彼は飛ばされたのだ。

 

 遠く、遠く、遠く。

 本来、絶対に辿り着けなかったはずの、遠く離れた場所——

 

 

 ——【盲鯨空母 ネグラフ・シーヴェ】が住処とする海底に。

 

 

 それはまさに天文学的確率。

 彼が菌糸類という小ささと、高い生存能力を有していたことから、水圧によってギリギリ押し潰される前にネグラフ・シーヴェの体内に入り込むことができたことを含めても、それは非常に……それこそデンドロが始まって以来の、今後起きることもないと断言できるほどの幸運。

 

 

 そしてさらに幸運だったのが、ネグラフ・シーヴェが配下生産と支配、そして強力なフェロモンによって自身より劣るリソースのモンスターを支配できるという、菌糸類に似た能力を有していたことだ。

 

 ネグラフ・シーヴェの体内に入り込んだ菌糸類は、それに根を張って住処とした。そしてそれらで生み出され、従えられたモンスターにも根を伸ばし、強化する代わりにそのリソースを延々と吸収した。

 

 そしてその果てに、ネグラフ・シーヴェの意識をも支配することにも成功し、似た能力の掛け合わせで<UBM>をも支配するに至り、そのリソースを吸収した。

 

 

 そして彼は至ったのだ。

<UBM>としての頂き……神話級へと。

 

 

 そこまで至った菌糸類……カルマトラクトは、すでに今までのようなリソースの吸収ではどうにもならないと気付く。

 それは彼がレベル限界に至った証だ。ネグラフ・シーヴェを含めた配下の<UBM>から、その成長性をも吸収することで、100までは行かずとも90近くにまでレベルを上昇させていた。

 

 それでも彼は満足しない。かつて見た最強、アムニールと【妖精女王】からすれば、自分たちは塵芥程度だと理解していたからだ。

 だからこそ、彼は、次の力を求めた。

 

 

 己が生き残るために。

 

 全てを己の養分として、誰にも怯えずに生き残るために。

 

 

【凶性頸厄 カルマトラクト】は——どんな手段も、選ばない。

 

 

 /

 

 

 □グランバロア洋上 【鉄人王(キング・オブ・アイアン)】ヤヨイ・ベルダーウッド

 

 まずいな、懸念が当たっちまった。

 

『マスター、わたし、わたしっ!!』

 

「落ち着けアルマ。まだ俺は大丈夫だ」

 

 そりゃ行動は縛られてるが、それも今はまだ問題ない。むしろボーナスタイムとも言える。

 どうやら根が張られた時点で仲間だと認識されるのか、ウォータージェットもベクトル操作も俺に対しては向かってこない。さらに言えば今俺は【ブラック・デンドロン】の中、その操作方法を奴が知らない以上、俺はしばらく動かされないだろう。

 

「……ま、それもあのクソキノコの根が頭に伸びるまでだけどな」

 

 今も肺から全身に根を伸ばしてやがる……こりゃ奴を殺してもデスペナ確定か? 

 

(発症条件も場所からして呼吸だろ。そんな広範囲だとリソースが足りないからおそらくメルクとラトラナジュは無事なはず……あいつらが死んだら詰むからな、むしろ俺が発症してよかった)

 

(確率じゃないことは確か。神話級<UBM>は、そんな不確かな能力で至れるようなラインじゃない)

 

(そもそも外にいない俺が最初に発症した理由はなんだ? 一番奴に近いグレイが発症してない理由は?)

 

(あいつらと俺で違う条件……運動量。あとは肉体スペック。グレイの肉体に、わりとホムンクルスを大事にするメルクが侵食への対抗策を講じてないとは思えない)

 

(ならカグラとグランヴィル。やっぱり運動量か……?)

 

「……まあそれなりにはまとまったか。《喚起》、ホムンクルス」

 

 はいそこに入ってるアイテムボックス壊して……いい子いい子、はいじゃあアルマ、出たペンを使って俺が出した結論を読み取って書いてくれー。

 

『……マスター、ごめんなさい。私が油断しなければ……』

 

「問題ねえよ、どうせ俺らの中で誰かが実験台にならなきゃいけなかったし。そりゃもちろんなかった方が良かったのは間違いないが、情報が手に入った時点で俺たちの勝ちは決まってる」

 

 書けたな、よしこれ持って創造主のところにお戻り。小さいしAGI特化だからベクトル操作も大丈夫だろ、そら行け。

 

 ……さて、と。

 

「アルマ、そろそろ根が俺の脳に行きそうだ。あいつらが死んでないからデスペナにはならないだろうが……多分俺は勝利条件の邪魔にして()になる」

 

 もちろん色々鑑みて推測してもしかしたら、って可能性だけど。

 可能性があるなら、俺は俺だって使ってみせるさ。

 

 たとえそれが、使い捨ての道具だとしても。

 

「だからアルマには頼まなきゃいけないことがある」

 

「多分お前が今平行してやってるグスベス封じ……あれに加えてかなりキツい仕事だ」

 

「けど——」

 

『やれる』

 

 ……ま、そうだよな。

 

 アルマは俺の<エンブリオ>なのだから。

 俺がやれると思った仕事で、お前にできないことはないのだから。

 

「さてさてさーて、クソキノコ」

 

 今から俺は、お前の傀儡になるだろう。

 

 人生初めての経験で……なんともクソッタレな気分だが、まあ、今はどうでもいい。

 

 

「……感情の乖離なんざ、慣れたもんだからな」

 

 ……ああ、クソ。今は、この身体に……<マスター>であることを感謝しなきゃならない。

 

 そうじゃなきゃ俺は、何もできずに終わってた。

 

 俺の身体が、俺じゃない誰かによって動かされる感覚。

 

 ——最ッ高に、最悪の気分だ。




ヤヨイ君によって速攻でネタバレされたカルマトラクト君、哀れなり……。(ハイエンドに頭回す時間与えた向こうが悪い)

カルマトラクトなんてプロットにはなかったんですが、今となっては追加して良かったなと思ってます(小並感
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