男のロマン、それはロボット —<Infinite Dendrogram>—   作:クーボー

131 / 144
第18話 回想的オーバーヒート

 □??? ???

 

 空を飛びたい。

 

 そう思ったのは、いつ頃からか。

 

 ある種それは、解放されたいという願いから、ほんの少し溢れでたものだったのかもしれない。

 大きな大きな水槽に、ヒビが入って中の液体が漏れ出たような……そんな小さなものだったのかもしれない。

 

 

 

 /

 

 

 俺はとうてい空には立てない。

 

 そう理解したのはいつだったか。

 

 世の中には天才が数多くいる。

 生まれからして俺などとは比べ物にならない、世界経済を左右するほどの力を持つ一族に生まれた、神から愛されたとしか思えない存在。そしてありとあらゆる分野で万能の才能を発揮した、鳥の名を持つ男。

 

 それらに比べれば、俺は矮小な存在だ。

 それなのに、俺を縛る枷はどこまでも俺を捕らえてくる。

 

 何故俺のような凡人が、このように縛られなきゃならない。

 支配者を望むのなら彼らのような化け物を縛れよ。俺を縛っても、俺は何もできないのだ。

 

 家柄、家業、そんなものからの解放を俺は願った。

 時間が欲しかった。自由に過ごせる時間が。

 

 そんな時、俺はとあるゲームを知った。

 

 

<Infinite Dendrogram>は新世界とあなただけの可能性オンリーワンを提供いたします——

<Infinite Dendrogram> bietet eine neue Welt und einzigartige Möglichkeiten——

 

 

 これが本当ならば、俺は。

 

 もしかしたら、解放されるのかもしれないと、そう感じた。

 

 

 それは間違いでも——正解でもあった。

 

 

 /

 

 

 □グランバロア洋上 【空賊王(キング・オブ・スカイパイレーツ)】グランヴィル・ガスターニュ

 

 結局、こっちの世界でも、俺は天才と呼ばれる連中には勝てなかった。

 

 奴らはこの世界でも、第七形態という、選ばれた存在へと至る。

 

 

 俺は至れなかった。それだけの話だ。

 

 

「でもなァッ——!」

 

 それでも俺は、この世界が好きだ。

 抑圧された全てから、一時的にでも解放してくれるこの世界を、俺は生涯愛し続けるだろう——!

 

 そして!!

 

 向けられた期待に腐っちまうほど、俺は俺を捨ててねえ!!

 

 まだ俺はここにいるのだと……なけなしのプライドを、全力で叫べ!!

 

 あんな化け物に見下されて、最初から最後まで終わりだなんてまっぴらごめんなんだよッ——!!

 

 

「——必殺スキル」

 

 俺の【ユピテル】——いや、全ての<エンブリオ>が持つ<エンブリオ>の集大成。

 

 

「《我が白翼は空に遠く(ユピテル)》——」

 

 

 そうさ。

 

 全部、全部解き放ってやるよ——俺もお前らも、何も、かもッ!!

 

 

「——重力からの解放(エーアステ・ストゥーフェ)

 

 

 瞬間、俺を含めて、グスタ・ベスタが——空に向けて(・・・・・)吹っ飛んだ。

 

「GUGYAAAAAAAAAAAAAA——!?」

 

「ハハッ、良い声出すじゃねえか! さァ! 一緒にどこまでも吹っ飛んでこうぜェ!!」

 

 始まりは俺たちを縛るものからの解放!!

 

『グランヴィル——!?』

 

「今すぐ離れなアルマトゥーラ。巻き込まれて変なことなりたくなかったらな!!

 ——始まりの解放は、重力から始まるんだよォ!!」

 

 俺の必殺スキル、《我が白翼は空に遠く(ユピテル)》は、俺と俺が選んだ対象を解放する。

 その始まりが重力だ。俺がスキルを切らない限り、時間経過で俺たちは全てから解放されていくぞ!!

 

「気持ちいいじゃねえの——肩に乗っかってるもん全部下ろして、刹那主義的に散ってやろうかァ!!」

 

 次は、レベルからの解放。

 

 俺のレベルが……【空賊王】だけじゃない、全てのジョブのレベルがどんどんどんどん下がっていく。

 

 そしてその分の、レベルを変換した膨大なリソースが、俺とグスタ・ベスタの全身を蒼い光で包み込んでいく。

 

「綺麗だろ」

 

 そして、これは終わりなんだ。

 

 

 ——全てから解放されることを、俺は望んでいた。

 

 最初は重力からの解放。

 

 次にレベルという、この世界で積み上げてきたものからの、力という重荷からの解放。

 

 ならば最後は、これしかないだろ。

 

 

 この世界からの、解放——!

 

 

「魂がどこに行くなんて知らない」

 

「俺は現実に戻っちまうが、お前はどこに行くんだろうな」

 

「——まあ、どうでもいいことか」

 

 

 読み違えたな、ヤヨイ・ベルダーウッド。

 俺の必殺スキルは、天を制するものじゃない。天から逃げるためのものだ。

 

 万物を見下ろす空、それへの反逆。

 

 万物を這い蹲らせる重力、それへの反逆。

 

 俺は空に羽ばたきたいんじゃない。全てに逆らってみたかったんだ。

 

 リアルでは、こんなことは絶対できない。俺が持つものを手放せば、それは苦しみしかないからだ。俺が守る人間をも苦しめることは、俺は決して望まない。

 だから俺は、俺の全てを賭して死ぬ。この世界から消えていく。

 

 

 ……読み違えたな、グランヴィル・ガスターニュ。

 俺の必殺スキルは、強いものを倒すためのものじゃない。

 

 全てを巻き込んで散っていく——全てを解き放って死んでいく、それが俺の必殺スキル。

 

「……あいつらは、俺を待っていてくれるかね」

 

 性懲りもなくまた戻ってくる俺のことを。

 ……彼らは、受け入れてくれるだろうか。

 

 その責任すら放り出して、俺は死ぬ。

 

「……ハハ」

 

 我ながら、刹那主義拗らせすぎだっつうの。

 

 

「GOOD-BY WORLD」

 

 また会う日まで、ご機嫌よう。

 

 

【致死ダメージ】

【パーティ全滅】

【蘇生可能時間経過】

【デスペナルティ:ログイン制限24h】




グレイと戦っていた時は、必殺スキルは漠然と「性能強化だろうなー」と思っていました。
しかし、色々と考えていくうちに、グランヴィルの過去が生え、そして先に考えていたユピテルを鑑みて、こんなスキルが浮かぶのではないだろうか、と考えてこうなりました。

自分の全てを使って自爆……ある種のロマンですね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。