男のロマン、それはロボット —<Infinite Dendrogram>—   作:クーボー

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第19話 暴走的オーバーレイズ

 □グランバロア洋上 【鉄人王(キング・オブ・アイアン)】ヤヨイ・ベルダーウッド

 

「俺としたことが、読み違えたか」

 

 なるほど、全てからの解放、ね。

 俺には理解できない心理だが、納得はしよう。責務は当たり前に重いから、逃げ出したいと思うのも無理はない。いや、そう思わない人間の方が異常なんだ。

 

 ……昔逃げた身で、何を言えるわけでもないけどね。

 

「にしても……今の傍観者みたいな状況は、好ましくないな」

 

 俺の全身をギッチリと包み込むアルマによって、俺じゃない意識に操られている身体を無理矢理押し留めている。

 これでSTR系のジョブに就いてたらどうなってたことか。俺が最初に発症して、自発的行動に関わらないEND特化でつくづく良かった。

 

「とはいえ、状況は以前芳しくない」

 

 グランヴィルの派手な自爆でグスベスは消えた……消えたはずだけど、まだベクトルドラフトとネグラフが残ってる。

 ベクトルドラフトはもう少しでカグラが倒せそうだけど、その危機を前にして神話級たるカルマトラクトと古代伝説級のネグラフが、何も手を打たないとは考えられない。

 

 ……グスベスは、なんかいきなり空にかっ飛んでグランヴィルに巻き込まれて臨終したのでどうにもできなかったとして。

 

「今俺にできること……それはなんだ?」

 

 敵の能力を探ることか? 

 

 それとも俺の状態をどうにかするか? 

 

 敵からターゲティングされない状況を活かして妨害を行うか? 

 

(最善案は三つ目……だが【ブラック・デンドロン】を抑えるのにアルマの大部分を使ってる。とすると……)

 

 ……仕方ないな。

 これしか出来ないから仕方ない。

 

「《マギハンド・アタッチメント》全解除」

 

 ラッダリト、スリットテンタクル、装備。

 

 今役に立たないものを出しているのは無駄。後のことも考えて……久しぶりの生身だけど、俺の意思では動かせない。

 

 なら俺以外の人間に、動かして貰えば良いだけのこと。

 

「アルマ、俺の思考を読み取って、その通りに俺の身体を動かしてくれ。俺が抵抗する場合は骨でも折って行動の制限を頼む」

 

『……マスター、ひどい』

 

「悪いな、だけどこのまま置物のままでいるのは嫌なんでね」

 

 お前だけが頼りなんだ、アルマ。

 頼む。

 

『……マスターは、ひどい人。そんなひどいことを、断れない頼み方でするのは、卑怯』

 

『けど、わかった。……私はマスターの至上の道具。主人の頼みなら、叶えられない道理なし』

 

『……でも、後できちんと埋め合わせして』

 

「OK」

 

 これは相当やらないと許してくれなさそうだな……今から考えておかないと。

 

「よし、やるか。【ブラック・デンドロン】、収納」

 

 俺を囲んでいた機械的なコックピットが消えて、俺の身体が空に投げ出される。

 必然、好機とばかりに身体が力を振り絞るが、それはアルマが許さない。

 

『マスターの身体は、マスターだけのもの。あなたが動かして良いものじゃ、ない……!』

 

 静かな怒りを滲ませたアルマが、俺の腕と脚を逆さに折り畳む。ボギ、と嫌な音が聞こえて、だらりと抵抗力を失った。

 

 ……さすがに嫌な感触だ。だけどこれで、準備は整った。

 

 俺の全身をアルマが包み込みながら、余剰分の質量で大剣を生成する。

 

「久しぶりの原点回帰だ……やってやろうぜ、アルマ!!」

 

「ん!!」

 

 瞬間、俺はラッダリトの加速で、一気に飛び出した——! 

 目指すはネグラフ・シーヴェ、カルマトラクトのお膝元!! さっさと解放してもらうためにも、全力で——!? 

 

 

 その瞬間(とき)、世界が爆ぜた。

 あるいはそう見紛うほどの咆哮が、超大なる鯨の口腔から放たれて。

 

「おいおいおい……マジかよ」

 

 これは、ヤバい。何がヤバいって、単純故に対策とかそんなもんが一切消える……! 

 

 俺のステータス画面、その横に表示された加算分のステータス(強制付与:ステータス強化)の桁が、一瞬で跳ね上がっていた。

 

 先ほどまでが、STR・END・AGI +100%だったのに対し……今はその10倍だ。

 

 ——HP・MP・SPを除いたステータスが、+1000%。

 

 神話級らしいインフレ極まりない数値を以て、今まで玩具に甘んじていた鯨どもが反旗を翻す——! 

 

 

 /

 

 

 □グランバロア洋上 【舞神(ザ・ダンス)】カグラ

 

 急に動きが変わった。

 停滞する視界の中で、奴の尻尾がこちらに向けて振るわれる。正面から行けば力負けすると直感して、空を踏んでさらに上へと飛ぶ。

 

「これは……どうだろ」

 

 倒せる、とは思う。まだ僕のステータスの方が上回っている。

 でもこれで終わりじゃない場合、本当に打つ手がなくなる。AGIが上がったことで奴の思考能力も上昇したから、ベクトル操作で徐々に僕の動きが阻害されている。

 

 ……さて、これ……本当にどうしよう。

 

 僕にはヤヨイのような汎用性はない。メルクのような制圧性もない。

 なら今僕は何ができるのだろうか。

 

「……しゃあないなあ」

 

 多分死ぬけど、出し渋って戦犯になるよりよっぽど良い。

 

 何より、僕は元々支援職。ここで始まりに戻るというのも乙だろう。

 

「——我が舞は神威とともに」

 

「我が生命、命の輝きを神籬に、あり得べからざる神を我が身に下そう」

 

 それは宣言。それは詠唱。

 

【舞神】というジョブの本質は舞踏。そして舞踏の本質とは、神に捧げる聖なる儀式。

 

 ——あぁ、慣れ親しんだものだ。その儀式を行うに値するのは、そう、この世界で僕しかいないのだから。

 

「——《神威招来》」

 

 刹那、僕のHPが燃える(・・・)。比喩ではなく、現存HPが凄まじい勢いで削られていく。

 だがしかし、それは僕にとってはデメリットにはなりはしない。

 

 そして、同時に使用していた舞踏系スキルの効果が跳ね上がる。

 しかしこれでは、この程度ではまだ決定打には届かない。

 

 ならばやれることは一つだけ。

 もっとだ。

 もっと捧げろ。

 

 僕の全てを、全てをかけて——! 

 

 HPが1になる。まさしく瀕死、石ころでも投げられれば死ぬだろう。

 

 だけど——こんなものではまだ足りない。

 

 最大HPを捧げろ。

 全て、全て——僕の命の輝きとともに、神を下ろす御業を、今ここにしろ示すために——! 

 

 

 さあ、僕のHPの全てを持っていけ。

 

 これはただの、神威を招ぶ儀式ではない。

 

「——《■■■■》」

 

 僕自身が、神の依代となる——神の化身(アヴァターラ)そのものだ。




奥義の効果は舞踏系スキルの強化。《ファイナル・オルケストラ》と似たような効果です。

今回、カグラが編み出した最終奥義の名前と効果は……まだ秘密で。
どうせなら“The Force Superior.Selects.Almighty”との戦いで披露したいのでユザパります。
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